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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編
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第40話 護衛依頼

 起床し冒険者業をするためにそれ用の服装に着替えた二人は、私物を全部 《アイテムボックス》にしまい直すと、階下に降りて鍵を返した。

 すると、食事をとっていくかと聞かれたので、外に出て探すのも億劫おっくうだった二人は、料金を支払いここで食べていった。

 そんなことをしながらようやく宿を出ると、住民はすっかり起きだして、元気に各々活動していた。



「んじゃ、まずは許可証からだな」

「うん」



 二人はそうして、初めて町に入る時に通った門に向かって歩き出した。

 しばらくすると、大きな門が顔を出した。さらにそこに向かって近づいていき、門の外に出る。

 すると外側の門の近くの詰所から、それを目ざとく見つけたあの若い衛兵が竜郎たちに笑顔で挨拶をしてきた。



「お二人とも、おはようございます」

「「おはようございます」」



 それに快く二人で返事をすると、その仲の良さにさらに嬉しそうな顔をして、本題を切り出してきた。



「ここに来たということは、無事冒険者になれたんですね」

「はい、おかげさまで。本当は昨日には登録し終わっていたのですが、何かと忙しく動き回っていたせいで、今日になってしまいました」

「そうそう、けっして忘れていたわけじゃあないんですよ!」



 自分の言い訳に余計な文言を付け加えた愛衣を、横目でチラリと抗議の視線を向けると、「フォローしといたぜ!」とばかりにウインクが返ってきた。

 着の身着のままで来たのだから、初日は何かと入用だったのだろうと、別に気にもしていない衛兵は、早速とばかりに自分の仕事に入った。



「それでは、冒険者ギルドの登録証を見せていただけますか?」

「はい」「はーい」



 システムを起動して、冒険者ギルドの欄から登録証を選んで衛兵にも見えるようにする。

 それを見た衛兵は自分の懐に手を入れて、レーラが使っていたようなスマホサイズの銀の板を出すと、まずは愛衣の登録証にかざし、フラッシュのようなものがかれると、衛兵ははそれを手元に戻し表面を擦るようにしてスライドする。

 すると、銀色に薄く光る板が現れた。それを愛衣に渡して、竜郎も同様の手順で同じものを貰う。その板は貰った瞬間、粒子に変わって自分たちの中に入っていった。

 そうして冒険者ギルドの登録証を見てみれば、右下の空欄に銀色でオブスルと書かれた判子のような物が押されていた。

 それをもの珍しそうに二人が見ていると、衛兵の男が必要事項を補足してきた。



「それはひと月で消えてしまうので、もしそれ以上この町に滞在するのなら、その五日前以降、消える前に更新しに来てください。

 消えてからも町に滞在していますと、罰金または拘留される場合もあるのでお気を付けください」

「わかりました」「はーい」



 二人は返事こそしたものの、ひと月もここにはいないかもなと考えていた。あの森は物騒だし、SPを稼ぐだけならもっといい所があるかもしれない。何より異世界を、もっと探索してみたいという欲求も二人は持っているからだ。

 そうして二人は仮の入町許可証を返還し、その足で冒険者ギルドに向かっていった。


 冒険者ギルドの中に入ると、以前に来た時よりも屋内にいる冒険者の数が異様に少ないことに気付いた。

 みんな今は仕事中で外に出ているのかと首を傾げた二人の前に、よく知る人物が顔を出した。



「おうっ、タツロウとアイじゃねえか!」

「「ゼンドーさん!」」



 二人が揃って名前を呼んだ先には、やたらとガタイのいい男たちがなんだと見てくる中で、ゼンドーがにこやかに話しかけてきた。



「無事、冒険者になれたみてーだな」

「はいっ、おかげさまで」「うん、ばっちりだよ!」

「そうかそうか」



 二人の今の格好を見たゼンドーは一目で冒険者になったのだと悟り、自分のことのように喜んでくれた。



「それで、ゼンドーさんはどうしてここに?」

「あーそれはな───」



 と、渋い顔をして事情を説明しだした。

 それによると、現在塩湖までの道のりが危険区域認定されてしまっており、護衛なしでそこを塩職人だけで行くのは危険だとゼンドーたちは判断した。

 なのでその護衛を受けてもらうために、冒険者ギルドに来てみたのだという。

 しかし危険区域認定は長くても数十日ほどだと言われているので、冒険者たちはわざわざ危ない橋を渡りたくないと、町を出たり、休業してしまっている者がほとんどなのだという。

 そうなってしまうと、塩職人たちに護衛をしてくれる冒険者がいなくなってしまう。冒険者にとっては数十日は大したことではないのかもしれないが、塩職人たちにとっては大損だ。

 だからこそ、ここで皆でどうしようかと唸っていたのだそうだ。

 そこまでの話を二人が聞いていると、レーラがこちらにやってきていた。



「こんにちは、タツロウさん、アイさん」

「「こんにちは」」



 軽く挨拶を済ませると、レーラも困った表情を浮かべていた。



「危険区域認定を出しているのは我々ギルド側なのですが、まさかここまで骨のない冒険者ばかりだとは思ってもみませんでした。これが数十年前なら、我先にと依頼を受けに来たでしょうに……」

「……ああ、そうなんですね」

「数十年前?」



 竜郎と愛衣は同じことを疑問に思ったが、今言うことではないと、あえて口には出さなかった。

 それから二人は視線で合意を取って頷き合うと話を進めた。



「塩湖までの道のりって、私らがおじいちゃんに乗せてもらった辺りだよね」

「おう、そうだぜ」

「ならその依頼、俺たちが受けてもいいですか?」

「「「「え?」」」」



 そこにいた複数人のガタイのいい男たちが、何を言ってるんだと耳を疑っていた。

 しかしゼンドーとレーラは、それは有りではないかと思っていた。



「本当にいいのか? お前ら」

「うん、いいよ。おじいちゃんには世話になったし、依頼もうけられるし一石二鳥だよ」

「愛衣の言うとおりです。今度は、俺たちに手助けさせてください」

「お、おまえら……」



 ゼンドーは滂沱ぼうだの涙を流して、感動していた。しかし後ろの男たちには、竜郎たちがただの駆け出し冒険者の子供にしか見えず、背伸びして何かの恩を返そうとしているとしか思えなかった。



「ゼンドーさん、さすがにそりゃあ……」

「あ? なんだガズ!

 こいつらは、白水晶のデフルスタルを簡単に追っ払っちまう腕前だぞ!」

「「「「え?」」」」

「腕前については私も保証します。

 ですのでご本人たちがいいと言うのなら、受けてもらうのが得策かと」

「「「「……………………」」」」



 失礼な話だが、男たちはゼンドーだけの話なら耄碌もうろくしてしまったと思うところだった。

 しかし長年冒険者ギルドに勤めているレーラの言葉には、信じるだけの重みがあった。

 彼女はどんなに親しい相手でも仕事となれば私情は挟まない。

 冒険者の仕事は命に関わるものだからだ。それに何より──美人である。



「ま、まあ、レーラさんが言うなら確かだろう」

「そうだな」

「「そうだそうだ!」」

「……おい、なんでレーラの名前しか言わなかったんだぁてめぇら」

「それは……」

「てめぇら! そこへ直りやがれえ!」

「「「「ぎゃああああああああ」」」」



 なにやら騒がしいコントを繰り広げているゼンドーたちを余所に、竜郎たちとレーラは依頼の内容を詰めはじめていた。



「できれば危険区域認定が解除されるまで受けてもらいたいのですが、とりあえず今日受けてみて、それでいいと思えたら明日以降も引き受けるということにしていただけませんか?」

「そうですね。

 まだ塩湖までは行ったことがありませんし、一度やってみてから決めさせていただきます。

 それで愛衣もいいか?」

「おっけーだよ!」



 サムズアップして応える愛衣にレーラは頼もしさを感じつつ、早速今日の分の依頼書の作成をおこなった。

 そうして竜郎たちからみると虚空に向かって指をポチポチしていたレーラがやがて顔を上げると、前の依頼の時と同じ薄赤く光った板を二枚出現させ二人に差し出した。



「こちらが依頼書です。ご確認ください」

「はい」「はーい」



 二人は直ぐにそれを受け取ると光の粒子となってそれぞれに吸い込まれ、また例の画面が現れた。


 ----------------------------------------------------

  依頼主:ゼンドー・バウリン

 依頼内容:塩職人たちがレンテティウス塩湖までの道のりを往復する間護衛する

   報酬:200,000 シス


          許諾 / 拒否

 ----------------------------------------------------



「一日で二十万シスも貰えるの?」

「だよな。これが護衛任務の相場なんですか?」



 思っていた以上に報酬が高かったので、目を丸くしつつレーラに聞いてみた。すると、レーラは首を横に振った。



「普通はその半額以下なのですが、今はこんな状況なので危険手当のような物ですね。

 それに塩職人は儲かってますから大丈夫ですよ」

「そうだぜ! 金のことは気にすんな!」



 レーラの微笑みとゼンドーの快活な笑みが、値段の高さに尻込みしていた二人を後押しした。



「わかりました。受けようか、愛衣」

「うん!」



 そう言って、二人は同時に許諾を押したのだった。

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