第407話 生ける伝説
今回現れた魔物は、一言で言うのなら幽霊船だった。
竜郎達が先頭の部屋までやってくると、フロントガラス越しに海上を覆う黒い霧が見て取れた。
カルディナの探査魔法なら問題なくその霧の中まで見通してみせたが、どうやら半端な魔法なら弾く性質を持っているらしい。
ジャンヌが風魔法で霧を吹き飛ばせば、その中には巨大な──それこそ500メートルに届きそうなほどの大きさをしたボロ船が漂っていた。
破れたマストにはスカルに骨のバッテンマークらしき物。船上にはスケルトンが何百匹もうろついていた。
大きさは規格外だが、どう見ても幽霊船という形容がぴったりと当て嵌まっているだろう。
「わー……でっかいお船だことー……。むー可愛くなーい」
竜郎の横で愛衣はどうやらお気に召さなかった様子。けれど竜郎の方は打って変わって、目を輝かせニヤリと笑った。
「やったな愛衣。アレは是非、殺して魔卵にしよう」
「え? たつろーは、あんなボロ船が欲しいの?」
「あんなボロ船はいらないが、俺の《強化改造牧場》なら豪華客船も夢じゃないぞ」
現金なもので、そんな竜郎の台詞を聞いた途端、愛衣の瞳も輝きだした。
「何それ素敵! 絶対手に入れよっ──って言いたいところだけど、あのお船も魔物なの?
船上の魔物達が海賊船かなんかを奪ったとかじゃなく?」
「カルディナの探査魔法でちゃんと調べたから間違いない。どうやらゴーレムに近い魔物なんだと思う。船の中心内部にデカいコアがあるみたいだ」
「それを奪取できれば、たつろーが魔卵を作れるって事だね!」
「そう言う事だ」
そんな風にして二人が盛り上がっていると奈々、リア、アテナ達も完全武装状態でやや遅れてやってきた。
なので一番見やすい場所を譲りながら、今言っていた事も含めて説明していく。
「あの甲板にいるスケルトンたちは、あの幽霊船が生み出した魔物みたいですね」
「前に戦った巨大骸骨もスケルトンを生み出してたっけか。
よくよく考えてみれば、俺達は素材を集めなきゃ作れないのに、あいつらは魔力だけで作れるんだよな。なんかズルく思えてきた」
「そうは言っても、応用力では格段に兄さんやナナのスキルの方が上でしょうけどね。
魔物達は、一つのスキルで同じ魔物しか生み出せないわけですし」
「手っ取り早く手数を増やすなら、あっちの方が便利そうっすけどね」
「とはいえ、雑魚ばかり生み出せたところで邪魔なだけですの」
「それは言えてるね。ぶっちゃけあんなスケルトンズばっかりいらないし。可愛くないもん」
骨だけで可愛さをアピールするのも無理だろうし、あのスケルトンたちは愛衣のお眼鏡にかなう事はないだろう。
「それじゃあ、コアはあたしが持ってくるっす。《完全透過》を使えばちょちょいのちょいっす」
「コアの周囲には多少なりとも防衛機能があるとは思うが、一人で大丈夫か?」
「正直あの森に入ってからストレス溜まりっぱなしっすから、ちょっとくらい歯ごたえがあった方が燃えるっす」
アテナは大鎌を手に、早くいきたいとばかりに体を揺すっていた。それに奈々も追従する。
「なら、わたくしは甲板にいる骨どもを蹴散らしますの。それで聞きたいのですが、あの船の体はいりますの?」
「船の体か……。俺はコアさえ手に入ればぶっちゃけなくてもいいような気もするが、素材的にはどうなんだ? リア」
「うーん。見た目は木造のように見えますが、かなり特殊な物質で出来ているようです。
出来れば欲しい所ですが、それは素材的価値ですからね。
壊れてしまっていても問題ありません。なので粉々にならないのなら、ナナが好きなように甲板で暴れまわっても大丈夫ですよ」
「それを聞いて安心しましたの」
ニッコリと笑う《真体化》奈々の黒い笑みに、この子もあの森で相当ストレスを溜めこんでいたんだなと竜郎は察した。
──と。そんな事を話していると、船首の辺りから大砲が伸びてくるのを視界にとらえた。
それは全長500メートルの巨大船に相応しい大きさで、ジャンヌへとめがけて超巨大砲弾を撃ち込んできた。
しかもそれだけではなく、船体のあちこちからもその巨大砲よりも小ぶりながら、しっかりとした砲台がにょきにょきとハリネズミのように生えてきて、それら全てが斉射してきた。
「オンボロ木造船の見た目に反して凄い兵装だな。普通の奴なら穴だらけだぞ」
威力も高く射程範囲もかなり広いよう。並みの者なら穴だらけどころか、粉々に吹き飛ばされるだろう。
竜郎達のいる空駕籠も、あの威力の砲撃を食らえば被害は免れない。
だがジャンヌの装甲はその程度では破れない上に、その周囲に舞っているのは対空戦闘の申し子カルディナだ。
魔力で物質化した速く硬い砲弾よりも、さらに速いスピードで飛び回り、ジャンヌに届く前に全て翼の刃二つで切り裂いてしまう。
竜郎達もそれが解っていたからこそ、慌てることなく巨大幽霊船を眺めていられた。
「それじゃあ奈々たちが行動している間に、俺はあいつからSPを回収してくることにしよう。
愛衣も一緒に来るか?」
「もちろん!」
竜郎が右手を差し出すと、飛びつくように愛衣がその手を握った。
こうして話し合いも終わったところで、今度はこちらが打って出る番だ。
奈々とアテナが《真体化》状態で扉から飛び立っていく。
今回はカルディナ達のストレス発散も兼ねているので、竜郎と愛衣は魔物退治に関しては関わらないのでもう少し後でいい。
「リアは行かなくて良かったのか?」
そこで竜郎と愛衣と共に残っていたリアにそう問いかけた。
天照と月読は竜郎の傍にいることを優先したのでいいとして、彼女も森では十全に動き回れなかったので、ストレスが溜まっているのではないかと思っての事だ。
だがリアは軽く肩をすくめ、「私はそこまで戦闘狂じゃないですから」と言って幽霊船へと視線を向けた。
別に無理強いするつもりも無いので、竜郎はそういうものかと納得しながら愛衣と窓の外を見つめた。
対空射撃は今もなお飛び交っている中で、ジャンヌの背にしょわれた空駕籠を守るカルディナが迎撃する必要もないと判断した、自分たちに向かってくる弾を事もなげに弾き返す奈々とアテナ。
そのまま弾を弾いた反動で軌道を修正しながら落下していき、船の上で二人は分かれる。
「奈々姉、それじゃあ私は潜ってくるっす~」
「気を付けて行くですの~」
奈々は黒翼を羽ばたかせ音も無く優雅に甲板に着地し、アテナは手を振りながら落下の速度そのままに《完全透過》で船の内部に沈んでいった。
「まあまあ、数ばかり多い事。プチプチ潰していってあげてもいいんですけれど、今は爽快感を味わいたいんですの──一斉にかかってきなさいな」
近くにいたスケルトン達が数匹、奈々の蹴りをくらって粉になる。
するとようやく一斉に動きだし、何百と言う骸骨が奈々に群がってきたのだった。
一方アテナは一番船底に近い船内に降り立つと、壁をすり抜けながらコアまで一直線に向かっていく。
途中スケルトンが襲い掛かってきたが、槍状に刃を伸ばした大鎌の峰打ちで粉砕していく。
そしてちょうど中心部──コアのある大部屋までやってくると、そこには三メートルサイズで、腹が出ているメタボ体型の大型ゾンビが三体控えていた。
それぞれ手には大きな棘付棍棒を両手に一本ずつもっており、それを軽々と持ち上げアテナに襲い掛かってきた。
「ふはっ。こりゃ奈々姉には悪いっすけど、こっちが当たりだったようっすね。
骸骨なんかより楽しめそうっす!」
常人なら腰が抜けそうなほどの相手が三体も迫ってきていると言うのに、アテナは嬉しそうに口元を歪ませた。
「コアは傷つけちゃまずいっすから、それだけは気を付けて──後はぼっこぼっこにしてやるっす」
「「「ゴアアアアアアアアア!!」」」
その後、ゾンビとしては上位格であったはずの三体の魔物は、散々アテナのサンドバッグにされた挙句、見るも無残な姿で散っていった。
奈々とアテナが完全にたどり着いたのを確認した竜郎も、行動を開始していく。
愛衣をお姫様抱っこして月読に水の翼を広げて貰う。
そして空駕籠からダイブすると、無数の砲弾が迫ってきていた。
しかし──。
「よっと」
今は愛衣とくっついているので、物理系のステータスが跳ね上がっている。
その為反応速度も相応になっているので、竜郎自身が目で見て避けながら天照の杖に纏った魔法で弾き飛ばしていく。
これは面白いと何度か遊んだ後は、そろそろ《レベルイーター》を使いに行きたいのでカルディナに指示を出す。
「カルディナ! 砲台を全て撃ち抜けるか?」
「ピュィィィー♪」
楽勝だと言わんばかりにニヤリと笑うと、背中に装着していた魔砲機をモード3(分散型)へと変化させる。
相変わらず飛び回りながら砲弾を切り裂きつつ、四門の砲身を別々の方向に向けながら、探査魔法で正確に幽霊船の砲台の位置を調べていく。
そして四門の砲身の周囲にいくつもの魔弾を展開しながら、準備を整え──。
「ピィィィッーーーー!!」
一斉射撃。それに気が付いた巨大幽霊船も撃ち落とそうとジャンヌに向けていた砲弾を、そちらへと切り替え対空射撃。
数撃ちゃなんとやらで、カルディナの魔弾にいくつも砲弾が当たっていく。
けれど威力を弱めるどころか、軌道すら微動だに動かせずに無意味に終わる。
やがて全く同時にカルディナの魔弾が幽霊船の砲台に着弾し、盛大に爆音を上げながらその全てを破壊した。
「サンキュー! それじゃあ、行ってくる!」
「ありがとね~」
「ピィィーー」
手を振る竜郎と愛衣に翼をはためかせて応じるカルディナ。
それを横目に竜郎は全速力で幽霊船の横まで来ると、《レベルイーター》を発動した。
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レベル:131
スキル:《水上浮遊》《潜水走行》《船体増減築 Lv.17》
《中位骸骨魔物生成》《上位動屍魔物生成》
《堅牢体 Lv.7》《耐気魔霧 Lv.9》
《超巨大砲 Lv.8》《巨大砲群 Lv.10》
《外敵探査 Lv.7》
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(──ぶっ!? 何だコイツ!? 野生の魔物でここまでの奴なんて見た事ないぞ……。
しかもこの外見で海の中も潜れるのか。ますます欲しくなってきたな。
そして何より……SP美味すぎだろ! サンキュー幽霊船!)
……実はこの魔物。何千年も昔から世界中の海を渡り数多もの船を沈めてきた、船乗りなら知らぬ者はいない生ける伝説とまで呼ばれている魔物。
大きさもある程度自由に調整でき、いつどこで現れるかも定かではなく、突如現れ破壊をもたらし去って行く。もはや天災のような扱いすら受けていた。
しかし──その魔物も運のつき。海の中や竜郎達の行動範囲内にいなければ、そのまま伝説を生み続けていったであろうが、その命はさらに強大な力によって蹴散らされていく。
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レベル:131
スキル:《水上浮遊》《潜水走行》《船体増減築 Lv.0》
《中位骸骨魔物生成》《高位動屍魔物生成》
《堅牢体 Lv.0》《耐気魔霧 Lv.0》
《超巨大砲 Lv.0》《巨大砲群 Lv.0》
《外敵探査 Lv.0》
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(ごっつぁんです──なんてな。うーん、《レベルイーター+α》になってから、微妙に吸いやすくなっていたかもしれない。
劇的な変化があったわけじゃないが、これは地味に嬉しい効果だな)
ごくりと黒球を飲み込むと、竜郎は幽霊船から飛びのいて後退していく。
幽霊船は壊れた大砲を修復して早く逃げていく二人を攻撃しようと試みるが、スキルが発動せずに無為に終わる。
砲弾の対空斉射も止み、竜郎達がジャンヌの上から見学していると、やがて船が半分にへし折れ沈み始めた。
奈々が暴れまわったおかげで穴だらけになった甲板、マストを支える支柱は全て折られ、スケルトンも骨粉となって海に消えていく。
「アテナも終わったみたいだな」
竜郎がそう呟くとほぼ同時に、アテナが船の裂け目から飛び出してきた。
そこで奈々と二、三会話をしてから、片や自前の翼で、片や竜力路でジャンヌ達の元へと戻ってきた。
「んじゃあ、俺はアレの回収だな。ジャンヌ、アレに近づいてくれ」
ジャンヌにお願いして高度を下げて貰いながら、奈々たちが入ってきた空駕籠の入り口に立って手を翳す。
そして巨大幽霊船の残骸を《無限アイテムフィールド》に、余すことなく収納していった。
こうして生ける伝説は今後誰にも目撃される事は無く、ただの伝説としていつまでも船乗りたちの間で実しやかに語り継がれていくのであった。




