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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第十章 東奔西走編

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第406話 本の配達と出発

 まだ日が昇りきる前に、竜郎は愛衣と共に地下室までやってきていた。

 目指すのは過去。ヘルダムド国歴992年3/18。

 まだこの世界に来たばかりの竜郎と愛衣が、アムネリ大森林から町を目指してさまよっている最中の頃合いだ。

 竜郎は天照の杖を構えて、誰も認識できなくなる様に自分たちに呪魔法をかけてから転移した。



「おー。何だか、なつかしいねー」

「そうだな。一年とは言わないが、それに近いくらい来ていなかったからな」



 転移した先は竜郎達が初めてやって来た町、オブスルの中。

 さっとシステムを起動して時間を同期し、正確な現在時刻を確かめる。

 狙った通り3/18の昼頃に来れた事を確認し、愛衣と手を繋ぎながら目的地へと急いだ。



「ここだな」



 そうして辿り着いたのは、竜郎が『誰でもできる! 光と闇の混合魔法!! とっても簡単だよ♪』を買った魔法関連の書籍を販売している店だ。

 以前来た時同様に、そこそこの人が本を見ている中で竜郎は目的の人物を探していく。



「いないね。奥の部屋にいるのかな?」

「みたいだな。行ってみよう」



 探査魔法でそれらしき人物が店の奥の部屋にいるのを捕捉した。

 竜郎と愛衣は誰にも意識されていない事を確認しながら、そっとその部屋の扉の奥へと入っていった。



「あの人だ」



 この本を竜郎に売りつけ──もとい売った店主が、机に向かって書類を整理しているのが見て取れた。

 竜郎は呪と闇魔法を新たに展開しながら、彼へと歩み寄っていき話しかけた。



「ちょっといいですか?」

「うわっ!? なんだあん────ああ、きみたちか」

「ええ、あなたの友人ですよ」

「そうだ。きみたちは、おれのゆうじんだ」

「うわー。これ悪用されたらヤバい魔法だよね」

「……だろうな」



 まるで催眠術にでもかかったかのように、焦点の合わない虚ろな目で竜郎へと親しげに話しかける店主。

 その姿に掛けた張本人でもある竜郎や愛衣でさえ、若干その効果に引いていた。

 だが別に危害を加えるつもりはないので、さっさと要件を済ませていく。



「ここに一万シスもする本がある。売れない理由は他にもあるだろうが、これはずっとこの店で売れ残っている物だ」

「ああ、そうだ。そのほんは、うちのみせにずっとおいてある、うれのこりのほんだ」

「だが数日後に、俺と同じ顔をした少年にこの本を見せると買ってくれるだろう」

「それはありがたいな」

「ああ、でも売れ残っている本をそのままの値段で売ると買ってくれないかもしれない。

 だからここは思い切って五百シスまで値引きして売ってしまおう」

「………………でもそれじゃあ、おれはそんをする」

「その状態でも商魂たくましいおっさんだな……。解ってる。確かにそれじゃあ、あなたは損をしてしまう。

 だが俺はその少年にこの本を是非購入してほしいんだ。

 だから──ここに五百万シスある。その少年にこの本を五百シスで売るように行動してくれるのなら、これはあなたのものだ」



 竜郎は五百万シスを変換したコインを、本屋の店主の前にコトリと置いた。

 愛衣は五百万!? という顔をしているが、魔法をかけてしまった迷惑料も込みでのその値段なので、首を縦に振って問題ないと意思表示する。

 そんな中。半分寝たような状態にもかかわらず、店主は食い入るようにそのコインを見つめていた。



「どうだ? これで奥さんや子供に美味しいモノでも食べさせてやりたくはないか?」

「なにいっているんだ。うわきがばれて、よめさんはこどもをつれてじっかにかえったばかりだろ」

「──え゛」「浮気なんてサイテー」



 聞きたくもなかった新事実発覚に竜郎は顔を引き攣らせ、愛衣は頬を膨らませた。



「じゃ、じゃあ、これでプレゼントでも買って許して貰ったらどうだ?

 仕事ぶりが認められて臨時収入が手に入ったとか何とか言ってさ」

「えー……ぷれぜんとするならベッティちゃんに──」

「いいから許してもらいなさい!」

「…………はい」



 愛衣がぷんすかしながらそう言うと、店主は項垂れながら了承した。

 催眠状態に近いのに、クセの強いおっさんだなあと竜郎は半ばあきれながらも話を続ける。



「それじゃあ、友人の俺の頼みを聞いてくれるか?」

「ああ。おまえのたのみだ。やってみるよ……ってことで、このかねはもらっていいか?」

「………………ねぇ、たつろー。本当にこの人魔法にかかってる?」

「あ、ああ。そのはずだが……」



 貰っていいかと聞いておきながらも、しっかり五百万シスのコインを手の中に収め、もう俺のものだとばかりに主張してくる店主に、竜郎もそう疑いたくなる愛衣の気持ちが良く解る。

 だが解魔法で調べてみても、しっかりと術中に嵌っているという反応が返ってくる。

 なので大丈夫であろうとは思いながらも、しっかりと念押ししておくことにする。



「ちゃんと、俺が言った通りにしてくれるんだよな?」

「ああ。もちろんだ。そうすれば、このかねはおれのもの、なんだよな?」

「ああ。全額あなたのものだ。でもちゃんと奥さんに謝るんだぞ」

「………………………………わかってるよ?」

「なんで疑問形なのさ……このおっさん……。もういいから帰ろ。たつろー」

「そうだな……。それじゃあ、本当に頼んだぞ!」

「ああ、まかせておいてくれ。おれのゆうじんたち」



 竜郎達が完全に視界から消えると、店主はいつもの状態に戻る。

 けれど竜郎から頼まれたことだけは、何故か無性にやらなくてはいけないと感じるようになってきた。

 そして手にした大金の入ったコインを疑問に思うことなく、自分のシステムに入金した。



「何をやったら許してくれっかなあ……あいつ」



 どんなプレゼントを妻に渡せばいいか。そんな事を考えながら、再び書類仕事に戻っていった。




 竜郎と愛衣が密かに本を届けて帰ってくれば、夜明け空は晴天。絶好の飛行日和である。

 朝食を食べ終えた竜郎達は、さっそく外に出てジャンヌの背負う空駕籠へと乗り込んだ。

 天魔の国という事なので爺やも誘ってみたのだが、ジャンヌの上に乗ると言う行為が許容できないらしい。

 背に乗るくらいなら自力で飛んで併走するとまで言い出したので、今回もお留守番を任せることにした。

 付いてこれるのだとしても、それだったら普通に向こうについてから転移で連れてきた方が、こちらの精神衛生上都合がいい。

 一人だけ一度も中に入れずに、締め出すような形になってしまうのは竜郎が嫌だった。



「それじゃあ行ってくる。留守の間ここを頼むな!」

「ヒヒーーン!」

「お任せを」



 こちらに頭を下げる爺やを背にし、ジャンヌは大空へと飛び立った。


 東に飛び立つ竜郎はマップを呼び出し、飛んでいる方角が確かかどうか念のため確認しておく。

 進路に異常はないようなので、この空いた時間で追加されたスキルを確認していく事にする。


 まず取得しなければいけないのは、《レベルイーター+α》と《世界力魔物変換》の二つだ。

 安くしておくとは言ってくれてはいたが、いったいどれだけSPを払えばいいのかと見てみれば……。



「両方ともSP(1)でいいのか。大特価だな」

「そーなの?」

「ああ。吃驚するくらい厚遇してくれてるんだと思う」



 向こうにも思惑があっての事だと言うが、別にしなくても何とかなるところを多少のリスクを背負ってまで手を貸してくれているのだから、竜郎はありがたく思った。

 そのままSP(2)を消費して《レベルイーター+α》と《世界力魔物変換》を、等級神たちに言われた通りしっかりと取得しておく。


 となれば、残りのSPは竜郎の好きに使っても文句は言われないという事になる。

 今回竜郎が持っているSPは元の数値から先の消費を減らした分、レベルアップ分にケラじいから取った分を合わせて合計(468)になっていた。

 これだけあれば、面白いスキルの一つや二つ取得できるだろうと取得可能なスキル欄を覗いていく。



「え~と怪神が言っていた様に《獣族創造》《鳥族創造》《爬虫族創造》《植族創造》《蟲族創造》なんていうベーシックなものから、《天魔族創造》《鬼族創造》《水棲族創造》《魔生族創造》《妖精族創造》《死霊族創造》《無形族創造》《怪人族創造》《創物族創造》なんていうのまでより取り見取りだ」

「おうっ太っ腹~。持ってる土地は広いし、住まわせる土地に苦労はしないだろうからジャンジャン生み出せるね」

「ああ。それぞれ創造条件が違うだろうが、必要な素材さえ集められれば色々な種類の魔物を仲間に引き入れられるはずだ」



 ちなみに消費SPは──。

 《獣族創造》《鳥族創造》《植族創造》《蟲族創造》《水棲族創造》《無形族創造》はそれぞれ(30)。

 《爬虫族創造》《魔生族創造》《怪人族創造》《創物族創造》はそれぞれ(50)。

 《鬼族創造》《妖精族創造》《死霊族創造》が(80)。

 そして《天魔族創造》に至っては、最も消費量が高い(200)となっていた。

 もしこれらを全て取ろうとするのなら、(820)もSPが必要になってくる。



「結構お高いのね」

「まあ、魔物の創造は俺の本分じゃないからなあ。多分これでも大分値引きしてくれている方なんだと思う」

「そっかあ。それじゃあ、どれを取ってくの?」

「うーん……。とりあえず手持ちにいないのは優先して取っておきたいかな」



 そう言いながら竜郎はヘルプを使って、それぞれどんな魔物が作れるのかをしっかり確かめておく。



「それで言うと植物系魔物が作れる《植族創造》だとか、スライムとかが作れる《無形族創造》。

 魔法的な生物──主にアストラル系の魔物が作れる《魔生族創造》に、ゴブリンやら鬼系の魔物が作れる《鬼族創造》。

 妖精系の魔物が作れる《妖精族創造》に、奈々の死霊竜術みたいにゾンビ系だけでなく、幽霊系も作れる《死霊族創造》。

 人型の魔物が作れる《怪人族創造》や、ゴーレム系の魔物が作れる《創物族創造》……この辺りは全部欲しいかな」

「おー。確かにどれも親しみのない魔物ばっかだね。

 うーんと、それらを全部取った場合SPは…………(450)かな?」

「ああ、《天魔族創造》とかも気になるんだがな。

 それはジャンヌか奈々にでも頼めば、代替えがきくと思うし後回しだな。

 SP的にも足りないし」



 という事で《植族創造》、《無形族創造》、《魔生族創造》、《怪人族創造》、《創物族創造》、《鬼族創造》、《死霊族創造》、《妖精族創造》の計8つのスキルをさっそく取得した。

 さてまた溜まったら今度は魔法系スキルでも取ろうかなと、竜郎が再度取得できるスキルをシステムで確認していた所で、外で警戒してくれていたカルディナが大きな敵がいる事を知らせてきた。



「こんな海の真上で大きな敵? 面白そうだな」

「可愛い魔物だったらいいなあ」



 そんな事を言い合いながら、二人は先頭の見晴らしのいい部屋まで急ぐのであった。

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