第402話 神格の取得方法
目下やるべき事が定まってきた。
だが竜郎は、その為にもと再び疑問を口にする。
「また最後に森に入れと言うが、あの凶禍領域への対処策とかはないのか?
仲間だった魔物達も契約解除されたりとか、色々ヤバすぎると思うんだが」
竜郎と愛衣は平気だったことは証明できたので問題ないが、もし解決できるのならカルディナ達の為に聞いておきたいというのが心情だった。
なんせ相手はこの世界の調整を担ってきた神様であり、凶禍領域へと仕立て上げた張本人達でもあるのだ。
何か裏技的なものを知っていてもおかしくはない。
そんな竜郎の問いに対し最初に口を開いたのは──等級神だった。
「そうさのう。一番手っ取り早いのは《神格化》する事じゃろうな」
「え? その称号って、あの森で何か効果があったのか?」
「神格化するとシステムが大幅に強化されるのじゃ。じゃからあそこで掛かる負荷にも、かなり耐えられるはずじゃろう」
「マジか……」
魔神や武神もうんうんと頷いているので、それについては間違いなさそうである。
さらに詳しく聞いてみると、神格化した人物が持つシステムなら、最深部においても悪くて二割減ほどで、八割程度の力は発揮できるようになると言う。
もはやアムネリ大森林の奥地へ挑むのなら必須級の称号である。
──だが問題は、どうやったら得られるのかだ。
欲しいと思って得られるものなら、地上は神格者だらけになってしまうであろう。
そんな竜郎の疑問に答えたは魔神だった。
「うーん、タツロウ君が生み出した竜の子たちなら、そう難しくはないはずだよ。
既にピースは持っている状態だからね」
「それってもしかしなくても、神力を注いだ《陰陽玉》で体を造ればいけると思っていいのか?」
「その認識で間違ってはいないね」
それは竜郎も考えていた事ではあるが、神様から確定情報を得られたのは大きい。
それにピースは揃っているという事は、後はやり方次第でカルディナ達をさらに強化させることも可能だろう。
「だがそのやり方は試してみたが、上手くできずに爆ぜてしまうんだ。何か工程に問題があるのか?
それとも神力を使った場合は、何か特殊な方法が必要だったりするのか?」
「特殊な方法というか、まず単純に出力が足りてないね。あれでは神力を持つ存在の受け皿としては成立しない」
「出力?」
最大レベルの20の光と闇魔法の魔力を、さらに極に変換した最上級の力で作って失敗しているのだ。
それでどうやってこれ以上の出力を出せと言うのだろうか。
「その答えを君は既に持っているよ。軒並み魔法スキルのレベルが20になったら使わなくなったスキルがあるだろ?」
そこまで聞いた時に、竜郎の脳内である一つのスキルが思い浮かんだ。
「──もしかして《魔法域超越》?」
魔神が肯定するように首を縦に振る。
一日一回しか使えない上にレベル上限が20であり、それ以上は無いと思っていた竜郎は、まさに目から鱗が落ちる様な気分だった。
《魔法域超越》というスキルはレベル20のその先へと、さらに押し上げてくれるらしい。
「後は今なら大丈夫だけど、試している時の時点だと神力も足りなかっただろうね。
神格者の竜を生み出すのに、あの程度では話にならないよ。
だから次は神力をメインに据えるくらいの気持ちで、思いっきりやってみるといいよ。
ただ慣れていないと安定させ辛いから、練習しないと相当難しいとは思うけどね」
「解った。ちゃんと練習しておくよ」
頭のメモ帳にしっかり書き留めていると、今度は武神が口を開いた。
「アイの場合は、合計6体の気獣の纏を同時にやってみせれば神格化の称号が手に入るわ!
何やら武器に頼っているようだけど、それでもいいから早めにお願いね!
アイとちゃんとお話がしたいのよ!」
「神格化しないと話しにくいんですか?」
「一方的に話しかけるって感じになっちゃうのよ。それでも双方で会話は出来るけど、神格化すればアイからも話しかけてこれる様になるのよ! 素敵でしょ?」
「愛衣とのホットラインが繋がると言うのは、確かにすばらしい事だな。うんうん」
「流石解ってるわね!」
武神とサムズアップし合って解りあうなか、等級神と魔神は苦笑いだ。
けれどそんな事はお構いなしに竜郎は、最後の一人について聞くことにする。
「でだ。愛衣やカルディナ達はそれでいいとして、リアの方は神格者にすることはできないんだろうか?」
少し考え込む素振りをする等級神と魔神。そして胸を張って堂々と仁王立ちし、ニコニコしているだけの武神。
そんな中で最初に口を開いたのは等級神だった。
「あの娘は本来真面に使えないが故に、破格のスキルを手に入れた稀有な存在じゃった。
システムのランダム付与ではそうやって帳尻を合わせてしまう事があるのだが、お主がそれを消したことによって、本来得られる事はまずないスキルが使いたい放題になっておる」
「えーと……。なにか不味かったか?」
「いいや、別に。それで世界がどうこうなるわけでもなし。なんの問題も無いのじゃ」
「なら良かった」
神々に何らかの意図があってそうしていたわけではなく、本当にただ偶然にシステムが振っただけのようなので竜郎は安心した。
また戻せなどと言われても、そんな事を本人には言えないし、竜郎自身また窮屈な思いをリアにさせたくはないのだから。
「でじゃ。そんな状態でありながら更に努力を怠らず、鍛冶師と言う殻は既に破っておる。
創造師とは極めて神格に近いクラスとも言える故、あと一歩か二歩先に進む事が出来れば神格者の称号も得られるとは思う」
「なんだか含みのある言い方だな」
「うむ……。人間にとってのその一歩は、どれほどのものかは解らぬが、簡単ではないはずじゃ」
「でもこのまま進んでいけば、届かない位置にいるわけじゃないと?」
「まあそうじゃのう」
「なら大丈夫だろう。あの子なら」
竜郎はそう信じているし、何よりリア自身が乗り気で前のめりに突っ走っているのだから、一歩や二歩など自力で越えて見せるだろう。
こうして期せずしてカルディナ達の新しい体への更新のヒントを得て、更にアムネリ大森林への対策方法も聞くことが出来た。
そこで竜郎は、この際もっと何か色々と得る者が無いかダメもとで聞いてみることにした。
「なあ。今回の作戦に必要な、溜まった世界力を魔物化するスキルをくれるんだよな?」
「やるといっても、スキルポイントで取得できるよう設定するだけじゃぞ?」
「そうなのか? 神様でも直接授ける事は出来ないのか」
「儂と同格の技能神ならスキル授受に関する最上位権限で出来ない事も無いが、今は儂の仕事も一時的に押し付けてる状態じゃからのう。これ以上煩わす事は出来まいて。
まあ、それは必須スキル故に出来るだけ安くなる様には調整しておくから問題ないじゃろう。
アムネリ大森林でも多少は稼いでいたじゃろう?」
「ああ、今回の目的はSP稼ぎじゃなかったからガッツリではないが、魔王科の魔物からは全部貰えたから結構溜まったはずだ」
「うむ。ならば問題なかろう」
等級神は好々爺な顔でうんうんと頷いているが、竜郎はもうそれは貰える前提で話しかけているのだから、欲しいのはもっと先だ。
「それでなんだが、凶禍領域に連れていってもテイム契約が切れない方法とかスキルとかはないか?
今回いきなり切れて大変だったんだ」
「あそこはそういう魔物と人間との繋がりを不安定にさせるからのう。テイム契約と言う方法で、魔物を縛っているだけではまず無理であろう」
「だけでは──ってことは、何か他に方法が?」
「簡単だよ。テイムではなく創造した魔物を連れていけばいいんだよ。君の産んだ子達に魔物創造系のスキル持ちがいただろ?」
「ジャンヌと奈々のあれか……。そっちで創られた魔物は大丈夫なのか?」
「そうだよ。契約ではなく、生まれながらにしての従僕──眷属を創るスキルだからね。
どんなに凶禍領域の力を受けようとも、自分にとっての神に等しい存在を傷付ける事なんて絶対にしない」
ならばジャンヌが生み出した金軍鶏やペガサスなんかは、こちらの森に連れてきても大丈夫だったらしい。
もっと早くそれを知っていれば魔卵生成やテイムではなく、そちらでの戦力増強を図っていたのにと、竜郎は悔しい気持ちで一杯になる。
なので悔しさついでに、ずうずうしく要求してみることにした。
「俺にも何か、魔物創造系のスキルを取得できるようにして貰う事は出来ないか?
ほら、色々また行動するんだし、戦力が多い方が失敗が起きる可能性も低くなるだろ?」
「ただ単にお主が欲しいからと顔に書いてあるぞ?」
「なにっ。そんなバカな……」
竜郎は自分の顔をペタペタと触ってグニグニとほぐしていると、等級神は苦笑し魔神や武神は笑っていた。
「あっははは! いいじゃないの、それくらい!
能力的には問題なさそうだし、多少贔屓する事になっても構わないと思うわよ。
曲がりなりにも神格者なんだし、それくらいの恩寵を授けるのを渋っていたら神の名が廃るわ!」
「簡単に言ってくれるのう……。まあよい、技能神には後で言っておこう。
となれば、あとは怪神よ。お主はどう思う?」
等級神がまた新たな神の名を呼ぶと、竜郎の足元の空間が揺らぎ始める。
かと思えば、そこから子供のカバ……というよりミニカバとでも言うべき150センチほどの可愛らしい生物が竜郎をジッと見上げてきた。
そしてぼけーとした丸い目で数秒見つめられた後、そのミニカバはのんびりとした少女のような声を発した。
「いいんじゃな~い? 取得条件を満たしてんなら、システムから取得できるように調整しといてあげる~」
「えーと、あなたが怪神様ですか?」
「そだよ~。よろしくね~。
アタシとはそこまで近い間柄ではないけど、アタシのお気に入りだった子の最後の願いを叶えてくれたようだし、身内として気安く接してくれていいよ~」
「お気に入りだった子?」
「たっつんが《強化改造牧場》を受け取った子がいたでしょ~?
なかなか珍しい境遇だったし、少し目をかけていいスキルをあげてたんだよ~」
「たっつん……? まあ、それはいいとして……ヘンリッキの事だよな。
というか、普通にこの世界に生まれた存在にもランダム以外の方法でスキルを渡す事も出来るのか」
純粋な疑問からそう口にすると、等級神が解答を買って出てくれた。
「たまに偶発的に神々の目に留まる者はおるな。
そしてその者を気に入れば、少し優遇してやろうと自身の持つスキルを相手が受け入れる範囲内で渡す事はあるのじゃよ」
「アタシの司る魔物から人へと至った子だからね~。可愛く見えたんだよ~」
「ああ、そういうことか。それでえーと……」
「相変わらず可愛いわね! お腹を撫でてあげるわ!」
「きゃ~やめてよ~武神~」
小さな疑問が解決した竜郎は、次に自分にも関わってくる大きな質問を足元でゴロゴロと寝転がって、武神にお腹を撫でられキャイキャイ言っている怪神に声をかけた。
「それで俺は、何の魔物が創造できるスキルを取得できるようになったんだ?」
「えーと色々だよ~。基本的なとこで行くと~獣族~鳥族~蟲族~爬虫族~とかね~。
他にもあるけど、それは帰って確かめてよ~。説明するの疲れちゃうからさ~」
「あ、ああ。ありがとう、怪神」
「どういたしまして~。それと一緒に《世界力魔物変換》ってスキルをちゃちゃっと創っておいたから、ちゃんとそっちを最初にとってね~」
怪神は抵抗を止めて武神にお腹を撫でられるままゴロリと寝転がったまま、前足をプラプラと竜郎へと振ってきた。なので竜郎も手を振り返した。
その姿は確かに武神の言うとおり、なんとも可愛らしく癒された。
「儂もレベルイーターをバージョンアップしておくから、そっちもとっておくのじゃぞ」
「そっちもシステム経由なのか。《レベルイーター》と《世界力魔物変換》っていうのを最優先で、余ったら魔物創造系のスキルに手を出してもいいって感じでいいか」
「魔法系のスキルも便利だから、そっちも取っておいてもいいと思うよ」
「ああ、解ってる。またSP稼ぎで忙しくなりそうだな」
竜郎は帰ってもちゃんと《無限アイテムフィールド》に入っているかどうかどうか等級神たちに確認してから、念のため紙を取り出す。
そしてこれまでの流れを纏めていき、細かな質問をして補足説明も書き加えていく。
そうして今回の作戦の全貌を把握し終えた竜郎は、他に必要な大きな事項について等級神へと質問を投げかけるのであった。




