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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第401話 解決方法の纏め

「その変化と言うのはいったい?」

「二つの『そうであった』時間軸と『そうでなかった』時間軸がくっ付いてしまったのじゃ。

 それにより今現在あの時間軸は、お主達が我々の言った通りに過去改変をした先にある世界と。何もしないでただ他世界の崩壊が起こっただけの世界の二つの可能性が混ざり合った異常な時間軸になっておる。

 これらをたどって行く事が出来たおかげで、直ぐに儂らは世界力収束の原因を発見できたのじゃ。

 そしてここがお主達の未来が分岐する地点でもある。

 協力者と共に過去と未来を巡り、上手く救えた方の世界に繋る世界線へと乗れたのなら、おそらくお主達の世界が壊れなかった世界へとたどり着けるじゃろう。

 だが何もしなかったり、失敗したりした場合。何度転移しても救えなかった世界線に乗ってしまうが故に、壊れる世界へと飛んでしまう──というわけじゃ」

「……すまん。良く解らなかったんだが、ザックリ纏めるとだな。

 ちゃんとした手順を踏んで対処法に挑み成功すれば、俺達は元の世界での生活を取り戻せる──つまりハッピーエンドルートへと行ける。

 そして俺達が何もしなければ、どんなにあがいた所でいい方の世界線に乗れずにバッドエンドルートへと強制連行と。

 そんな感じの認識でいいか?」

「ああ。概ねそんな感じじゃ。そしてその対処法には世界力を調整できるスキルを持たせる必要がある。

 さらに転移魔法も使えなければいけないから、時空魔法を取得させる必要もあった」



 それだけ聞くと、愛衣とは反対の《魔神》でも何とかできそうでもある。それならば時空魔法など、あれほど苦労と時間を掛けずとも、あっという間に取得できただろう。

 また魔法の多様性を鑑みれば、世界力の調整もできないとは言い切れないだろうに。

 竜郎がその様な事を言うと、等級神は不服そうに鼻を鳴らした。

 それに魔神はおかしそうに笑いながら、竜郎へと話しかけてくる。



「確かに私が与えられる最大限のスキルである《魔神》を付けてはどうかという意見もあったよ。

 魔法スキルの中にも、確かに世界力に干渉するスキルもある事だしね。

 でもそれは副次的なスキルでしかないから、等級神が与えた《レベルイーター》ほど調整に融通が利かないんだ。

 さらに言えば魔神というスキルを与えてしまう事で、君たちの行く方向性をこちらが指し示す事になってしまう。

 私達の立場からすれば君たちがあの森へと帰って来ずに、平穏に過ぎ去ってくれれば余計な干渉もしないですむからね。

 だって君たちは帰還を選択したけれど、別の考えを持つ人間ならこの世界で生きていこうと選択するかもしれなかったんだから。

 まあ、過去は既に君たちが動いている気配が見て取れたから、そうであったらいいなくらいの理由だったんだけどね」



 つまり竜郎の場合は、今回の世界力の調整という対処法に向いており、魔法系のスキルも時間はかかるが全て手に入れられ、けれど他の道もきっちり選べる多様性もあるからこそ、《レベルイーター》を初期スキルとして与えられたわけだ。



「儂は全ての等級を司る神じゃぞ?

 有りえない事じゃが、もし他の神がお主に自分の御使いか何かを使って攻撃させようものなら、儂の権限でマイナス1兆レベルまで下げる事すらできるのじゃ。

 そうなれば風が吹いただけで、歩いた衝撃だけで竜種であろうと死ぬじゃろうて。

 どうじゃ。儂と繋がりを持てた方が嬉しかろう?」

「あーまあ、うん。そうだな……。もしそんな事があったのなら、その時は頼むよ……」

「うむうむ」



 どうやら魔神の方が優れていると言われている気がしてむくれていたようだが、竜郎が空気を呼んでそう言うと満足げに顎鬚を撫で始めた。



「ん? じゃあ、愛衣はなんで《武神》だったんだ?

 なんなら二人とも《レベルイーター》でも良かった気もするが」

「ああ、それはね。彼女は潜在的に運動が出来る様になりたいと思っていた様だからね。

 後はタツロウ君が魔法一辺倒になった時に支える事が出来る強力なスキルと言えば、その逆が候補に挙がるのは当然だろう。

 そして何より決め手になったのは──」



 そこまで言うと魔神の隣の空間が急に揺らぎ始めた。

 するとババンッ!と長い黒髪と切れ長の黒眼を持つ、白金の煌めきを放つ鎧を身に着けた超が付くほどの美女が出現した。

 そして迫力のある笑顔で竜郎を見つめると、大声でこういった。



「それは私がアイを気に入ったからよ!」

「声──でか……」



 生身の肉体であったのなら鼓膜が破れていたのではあるまいかと心配なるほどの大音声で叫ぶ彼女に、耳を塞ぎながら竜郎は抗議の視線を向けた。

 だがそんな彼女はどこ吹く風で、音量は少し下がったものの話し続ける。



「何よりあの純粋さは特にいいわ! そんなあの子が無邪気に笑った時の顔なんて最高ね!」

「それは解りますね! お目が高い!」

「でしょー! あなたもアイの伴侶だけあって、よく見ている様ね」

「そりゃもう毎日見ていても飽きませんから」

「その気持ちは良く解るわ! それに細かいところをあまり気にしない所とか、私と被る所も沢山あって他人とは思えないのよね。

 もう私の娘認定しているわ! だから早く《神格化》するように言っておいて頂戴ね!」



 ここまでくれば彼女が誰かは竜郎でも想像がつく。



「貴女は武神ですか?」

「ええそうよ!」



 武神と言う響きからゴリゴリのマッチョ系を想像していたのだが、見た目は華奢な美女ならぬ美女神だ。

 愛衣を可愛らしいと表現するのなら、この神は威圧感すら覚えるほど美しい顔をしているといえよう。

 普通の男なら目を合わせただけで虜になりそうなほどではあるのだが、竜郎は何も感じずただ顔の造詣が綺麗な人だな程度の感覚で改めて見つめ直した。



「というかアイの夫になるのなら、私の息子も同然よ!

 堅苦しい話し方なんてする必要は無いわ! 等級神たちと同じように話して頂戴!」

「はあ。ではそうさせてもらうよ。竜郎波佐見だ。よろしく武神」

「ええ、よろしくね! タツロウ!」



 黙っていれば恐そうな雰囲気すら漂わせそうな美女ながら、愛衣に似た無邪気な笑顔に竜郎も親近感が湧いてきた。

 そんな風にして挨拶が済んだ頃合いを見計らって、魔神が補足説明を付け足してきた。



「武神なら魔法系には滅法弱くなるが、その分魔法特化した相手と組むにはこれ以上はないだろう。

 満場一致で、アイ君には《武神》が贈られたって訳だね。

 ちなみにアイ君と違って現状に特に不満や希望を抱いていなかったから、君の方に《レベルイーター》が回ってきたという理由もあるんだよ」

「まあ、器用貧乏と言うか。なんでも完璧ではないけどそこそこ出来るから、愛衣みたいにこうなれたらいいとかは特に思った事はなかったからなあ」

「それにアイはそういう細かいスキルは好きじゃないと思うわ!

 やっぱり私のスキルをあげて正解ね!」



 それについては竜郎も同意見だったので、特に何も言わずに頷いておいた。

 愛衣はダイナミックで解りやすい方が喜ぶだろう。



「ところでさっきからポンポン神様が出てきているんだが、そっちでの時間の認識ってのはどうなっているんだ?

 俺達が過去に来たという事は、ここに来たのは今の時間の等級神たちか?」

「儂らはスキルを通してお主達の行動を何となく把握しておったからのう。

 今の我々はお主達が来てから約330日現在の儂らじゃ。

 だから今こうして話している儂は、この時間にいる儂ではなく、スキルを通して今この時間にいるお主に話しかけておるのじゃ。

 現にこの空間は儂が適当に作って精神体だけのお主を引っ張ってきただけの所じゃから、実際に我々が住まう空間と言うわけでもないからのう」

「ややこしいな……。つまり俺達と同じ時間感覚を共有していると思っていいんだな?」

「そう思って貰って構わん。だが、お主達の持っていないスキルを管轄している神は、そうではないから今回の作戦には入って来難い。

 じゃからサポートする神々は儂。魔神。武神。が主要メンバーじゃな。

 後はその配下たちも付いてくるから安心じゃろうて。

 他にも大分後半になってからの合流じゃったが、大物で言えば怪神なんかとも繋がりを持ったのは今回の作戦的にも楽になったか」

「怪神? そんな神に繋がるスキルなんてあったけか」

「魔物に関するスキルの一番上におるのが怪神じゃ。《強化改造牧場》とかいうスキルがあったじゃろうて」

「ああ、そっち系の神様か。確かにわりと最近手に入れた方のスキルだな」

「うむ。今回の世界力を魔物へと変換する所を、どうやって出来る様にしようかと頭を悩ませておったが、こやつがいれば簡単にそのスキルを与えられるから小さな問題は解決したのじゃ。

 本当なら儂らの管轄のスキルをいくつかの組み合わせて、最低でも六工程は踏まねば出来ない所じゃったわい」



 どうやら怪神と繋がりを持てたことで、いくつものスキルを起動したりなどの面倒な手順を踏まなくても、一つのスキルで世界力を魔物へと変換させる事が出来るらしい。

 工程が増えればミスする確率も上がるので、竜郎は《強化改造牧場》を授けてくれたヘンリッキに感謝の念を送っておいた。

 そんなことをしていると、魔神が話の流れを止めるように一度パンと手を鳴らして注目を集めた。



「さて、色々と話があっちこっちに飛んで解り難くなってきたことだし、ここいらで手順の確認と行こうか」

「ああ、頼む。色々新情報が多すぎて、俺もこんがらがってきた所だったし」

「奇遇ね! 私もよ! 何をすればいいのか忘れたわ!」

「いやいや、お主は説明する側じゃろう……」



 胸を張って解らないという武神に呆れ顔の等級神だったが、そんなものは華麗にスルーして魔神がこれから竜郎達がやる事を順序立てて説明し始めた。


 手順1。

 竜郎が肉体へ──つまりここからアムネリ大森林奥地へと戻った後は、まず過去へと渡るための協力者であるクリアエルフと会う。

 手順2。

 一つ目のポイントである過去へと行って、そこの世界力溜まりから魔物と適切な量まで減らした世界力へと分ける。

 その際、魔物はその場で殺し、世界力はその場に残しておくことが重要。



「少し前に等級神もそこが重要だと言っていたが、それは何故なんだ?」

「今タツロウ君たちがいる時間軸は、二つの可能性を持った世界がくっ付いてしまっている状態だと言ったよね?」



 イメージとしては二本並んだ糸があり、その中心くらいの場所を指でつまむようにして寄せて一部分だけくっつけたような状態。

 ただしそのくっ付いた場所のベースは、未来の竜郎達が対処法に臨んだ世界線に準拠している。

 大昔に飛んでやったであろうことが、この時代でも結果として残っているのが証拠だそうだ。

 だがくっ付いた場所は永遠に繋がっているわけではなく、時間が経てばどちらかの方向へと別れていく。


 その際に対処法に臨まなかった、または失敗した場合。竜郎達は自分たちの世界が崩壊した糸の上をたどって行く事になる。

 また等級神たちの示した対処法を全てやり遂げれば、自分たちの世界が崩壊しなかった方の糸の上へと進んで行く事ができる。



「じゃが、例えば最初のポイントで世界力を残さずに、魔物を処理しないで帰ってきてしまった場合。

 何もしなかった世界との違いが大きくなりすぎて、くっ付いた場所が思わぬ形となって剥がれてしまう恐れがある。

 じゃから儂らは世界力の爆発という事態を完全になくしてはならないと考えておる」

「じゃあ、ごく小規模の爆発だけは起して、爆発があったと言う事実はそのままにするということか?」

「そうじゃ。子供だましの様じゃが、それだけでも大分安定してくれるはずじゃ。

 もし剥がれでもしたら、今度はどんな形になるかも解らんし、対処が出来る様な世界ではなくなってしまう恐れすらある。

 じゃから必ず都合のいい調整をした世界力を残すという作業が大事なのだ。

 また魔物をそこで殺すのも、そこで消費されてしまったから少なくなったという事実を残すと言う意味を持っておる」

「えーと、つまり『ある』と『ない』を両方ぼかしたような結果を残していけって事だな」

「うむ。めんどうじゃが、なるべく刺激しない様にする必要があるからのう」



 竜郎の常識外の話なので詳しく理解するよりも、そういうものだと思っておくことにし、今は次の手順を聞いていく。


 手順3。

 大昔からやや現代よりの過去に行って、もう一人の協力者である竜と邂逅。

 未来へ行って手順2の時と同じように、そのポイントで起こっている世界力溜まりを解消する。



「後はこちらで最初の二回の行動でどう変わるのか世界力の流れを観察しながら、私たちが次のポイントを教えていくよ」

「ちなみにそのポイントは全部で何か所くらいあるんだ?」

「うーん。やりながら調整する感じだからハッキリとは解らないが、大体6から10箇所の間くらいだと思っておいてほしい」

「そうか。……それでその過去や未来めぐりを無事終えれば、俺達は晴れて元の世界へと帰れると」

「いや、最後の最後にまたアムネリ大森林に戻って、世界力の塊に《レベルイーター》を使って最終調整をして貰わないと」

「ああ、やっぱり……」



 言うなれば過去や未来でやることはここで集まる世界力を、竜郎でも調整可能なレベルまで弱体化させる作業であり、最終調整は必須との事。



「あのさ。その最終調整の事なんだが、小規模の爆発ってのはどのくらいのレベルなんだ?

 俺達の世界へは全く影響のないレベルまで下げるのか?」

「影響がないのでは困るのだ。お主達がこの世界に来て、さらにお主達の世界も無事で済むレベルまでといったところじゃ。

 …………ここまで言えば解るじゃろう?」

「あの最初にあった余波だけで済むレベルって事だよな?」

「その通りじゃ。やはりお主はその可能性について既に考えておったようじゃのう」

「まあな。完全に無くしてしまって俺達が来なかった世界へ転移して、そこで自分と同じ顔と人生や考えを持って生きてきた双子でも有りえない存在は流石に気持ちが悪い。

 だからもし俺達の世界を壊した原因にレベルという概念があるのなら、余波だけですむくらいまでで止めて、次波が来なかった状況を作りだせないかとは、森に行く前には既に考えてあったんだ。

 そうすれば俺達はこっちの世界に来るから、同じ場所に同じ人間がいると言う気味の悪い状況も無くなるだろう?

 さすがに都合がよすぎると思っていたから愛衣達には言わなかったが」

「でもその都合のいい方が最善の方法なんだから、解らないモノだよね」



 そう魔神がしみじみと言うのに対し、竜郎は大きく頷いたのであった。

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