第3話 巨大イモムシ襲来
「でかっ、イモムシでかっ」
「なんかこっちに向かってきてない!? きもいきもいっ」
唐突な会話の闖入者の方を見れば全長50センチは超え、色は緑に白と黒の点々、頭にはウネウネ動くT字型の真っ赤な触角。
そんな、おそらく地球上では拝めそうにない奇天烈生物に二人は恐々としているが、その間にも巨大イモムシはこちらを目指してもぞもぞやってきている。
「愛衣、一発かましてやれっ。レベル上がるかもしれないぞ!」
「いやっ、あんなの触りたくない!」
「だよなあ……よし逃げよう」
「さんせ──ひっ」
「「「「「ギィーギィーギィギィー」」」」」
振り返ればそこには五匹のイモムシさん。
愛衣は言葉を失って竜郎のジャージの裾をプルプルと握りしめた。
それに竜郎はどうしたものかと思案すると、下にある石が目に入る。
「愛衣っ、石だ! 今の愛衣なら投石だけで倒せるはずだ!」
「───! そっか、それならっ」
直接触らなくていいうえにレベルも上がるかもしれない。
そんな思いに駆られて愛衣はバッとしゃがむと、手のひらの三分の一ほどの石を掴んで思いきり投げた。
《スキル 投擲 Lv.1 を取得しました。》
ビュンッ
それは細腕の少女が投げたとは思えない、まさに必殺の一撃であった──のだが、その枕詞には「当たれば」がつく。
愛衣が投げた石はものすごい風切音と共に、イモムシの上空三メートルほどを通り抜けていったのだ。
というのも実は彼女、今でこそステータスの補正で常人以上の運動能力を得ているが、それまでの運動神経はむしろ悪かった。
中学はそれを直すためにと友人に誘われるままにハンドボール部に在籍していたが、ただの一度も本試合には出ることなく、三年間もの間ベンチウォーマーの座をほしいままにしてきたのだ。
そんな彼女の力任せの投擲が、スキル補正無しで当たる道理はない。
竜郎もこの結果を予期していたので、特に焦りもなかった。
「大・暴・投!」
「うるさあい! でも次は大丈夫っ、てりゃあ!」
《スキル 投擲 Lv.2 を取得しました。》
バンッ
今度は当たりこそしなかったが、最前のイモムシの真ん前に着弾し爆風で後ろに転がした。
「よっし、大丈夫そう。後ろの一匹は任せたよ!」
「ええっ、貧弱ステータスの俺に倒せっかな」
「大して速くもないし、キモイだけで弱そうだし、試しにあいつでスキルを試してみればいいじゃん。とりゃっ」
《スキル 投擲 Lv.3 を取得しました。》
バンッ
「おしいっ」
「確かに大丈夫そうだな。じゃあいっちょやってくるわ」
「はーい、いってら~」
だんだんと精度上がっている投石技術に感心しつつ、竜郎は自分に任された最初のイモムシに向かっていった。
まず初めに竜郎は自分のスキルの使い方をサクッとヘルプを使って調べた。
それによると、習得したスキルは使おうと意識すればヘルプの時と同じように解るらしい。
そこで竜郎は《レベルイーター》という未知のスキルを使おうと意識した。
すると、使い方を初めから知っていたかのように体が手順を追い始めた。
「はあー」
ため息を吐くように口を開くと、その中にしだいに黒い点が現れ、すぐにビー玉サイズまで膨れ上がった。
そしてそこでできた黒い球体を、イモムシに向かって「フッ」と吹き矢のように射出した。
速度としては歩いた方が若干速い程度だが、イモムシはその存在に気付きもしないで、呑気に竜郎に向かって真っすぐやってくる。なぜならそれは竜郎にしか見えないモノだからだ。
やがてイモムシは、自分から突っ込むように黒球に触れた。するとそれは沈み込むように体の中に吸い込まれていった。
その工程が終わると、イモムシの情報が竜郎の頭の中に入り込んできた。
あの球体が体の中に入り込むと、《レベルイーター》に必要な情報が解るようになるからだ。
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レベル:5
スキル:《体当たり Lv.2》《糸吐き Lv.3》《かみつく Lv.3》
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(ん? なんでスキルまで解るんだ? まあいいか)
ふとした疑問を一旦押しやり、イモムシのレベルに集中する。
「はあー」
また口を開けると、今度はイモムシから黒い煙のようなものが上がりだし、竜郎の口の中の方に流れこみ黒球になっていく。
それに眉を顰めつつも、黒い煙が消えて完全に黒球になった。
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レベル:1
スキル:《体当たり Lv.2》《糸吐き Lv.3》《かみつく Lv.3》
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そうして相手の状態をもう一度確認してから、それをゴクンと飲み込んだ。
すると胸の当たりがじんわりと温かくなり、相手のレベルが自分の糧になったのが感覚で理解できた。
限界いっぱいまでレベルを吸い込んだため、今イモムシはレベル1になっていた。
(あれ? うまくできたはずなのに俺のレベルが上がってないぞ?
変換効率が悪いのか、それとも必要経験値が高いのか、どちらかか?)
と、すぐにステータスを確認したところ、なにやら新たな疑問も出てきたが、ここまでは順調な運びできていた。
しかし。と竜郎は思った。
確かに相手はレベルが下がって弱体化しているはずである。
けれど倒したわけではないから今も絶賛「ギィーギィー」と竜郎にラブコールを送りながら、いつの間にか飛び出してきていた嘴の様な歯を、カチカチ鳴らして這い寄ってきている。
いくら1レベルといっても、それはこちらも同じこと。徒手空拳で立ち向かうにはなかなか勇気がいりそうだ。
さて、ここで問題です。
「あれ? どうやって倒すんだ?」