第397話 邂逅
--------------------------------
レベル:5,938,772,927,369,843,829,692
スキル:《-----------》
--------------------------------
(……………………一、十、百────…………レベル約59垓?
いやいやいや、そんなアホな──って、ちょとまて!?)
--------------------------------
レベル:5,938,776,371,346,266,122,371
スキル:《-----------》
--------------------------------
(良くみるとまだ増えていってるぞ! ふざけるな!!)
竜郎は急いで《レベルイーター》を使い、レベルを吸い取っていく。
しかし──。
--------------------------------
レベル:237,574,724,256,734,892,267,266
スキル:《-----------》
--------------------------------
焼け石に水。とはこのことで、吸ってもそれを上回る速度でレベルが跳ね上がっていく。
竜郎は慌てて奈々へと視線を送って《竜吸精》に入って貰う。
けれど、遂にその桁は垓を越えていく。
--------------------------------
レベル:1,241,978,945,834,922,551,867,356
スキル:《-----------》
--------------------------------
(垓より上の桁の数え方なんて知らねえよ! 何だよこれ……)
奈々も直ぐに過剰竜力になってしまい、その力をカルディナ達に受け渡して適当な魔法を使って消費していって貰うが、まるで効果が得られない。
竜郎もどうする事も出来ないのではないかというショックからなのか、それとも常識を凌駕する桁数を吸っているからなのか、胸はズキズキと痛み、吐き気や頭痛がし始めた。
だが死ぬほどの事ではないと感じたのもあって、出来るだけそれを表に出さない様に竜郎は必死で吸い続ける。
これさえ消えてくれれば、もしかしたら竜郎達の世界は何事も無かったかのように日常を取り戻せるかもしれないのだ。
諦められるはずもない。あの日常を愛衣と、そして家族や友人たちと過ごす日々を取り戻すのだと、必死で吸っていく。
だがそれを嘲笑うかの如く、数値は上昇を続けていった。その上最後には──。
--------------------------------
レベル:※計測不能
スキル:《-----------》
--------------------------------
計測不能。レベルイーター自体が計測を放棄した。だが放棄した所で、未だに数値が上昇しているであろうことは理解できた。
竜郎は焦る。なんとか方法はないのか。甘くみすぎていたのか。もっと準備をして来れば何とかできるか。などなど次々と頭の中を些末な案が飛び交うが、どれも無駄だと現実が付きつけてくる。
(そんなのってあるかよ……。
それじゃあ、俺達に諦めろとでも言うのか! この世界は!!
勝手に壊しておいて! 何もさせないって事かよ!! そんな理不尽を飲み込めとでも言うのか!! ふっざけるなあああああああああああ!!)
竜郎は怒りすら覚えながらただ我武者羅に《レベルイーター》を酷使した。
心の中で煮え立つ怒りで体の不調を誤魔化して、ただひたすらにレベルを吸収していく。
竜郎自身、何かヤバい気がしてきたが、アドレナリンが分泌されているのか、止めることも出来ずにやり続ける。
──そんな時だった。
『──よっ!』
念話にも似ているが、念話ではない。何より愛衣の可愛らしい声とは似ても似つかない汚い男の声だ。
『汚いってなんじゃ! 失礼な! と、そんな場合ではない。
おい、お主! 直ぐにそれを止めるのだ!』
(遂に幻聴が聞こえ始めたか……マジでヤバくなってきな。確かにこれ以上は止めておいた方がいいかもしれない)
竜郎の頭が急激に冷静になっていき、吸いだす力を徐々に弱めていく。
すると謎の声が我がほっとしたような雰囲気で、また話しかけてくる。
『幻聴などではない──が、止めるのならそれでいい。
はやく繋がりを断ち切るのだ。そうしなければ──ええいっ、この方法は間怠っこしいのう……。ならば──』
(そうしなければ何だよ……。何でもいいが最後まで言っていってく──)
無茶な事はしても自分が死ぬつもりはない。そんな事をしたら愛衣が悲しむ。
だから本当にヤバいと思った今、止めようとした。
しかし、その瞬間バチンッと頭の中にあるブレーカーでも落ちたかの様に、竜郎は意識を失い地面に倒れそうになった。
「たつろー!? 何やってるの! 倒れるくらいなら……って、たつろー?」
揺すっても起きる気配が無い。呼吸はしているようだが、非常に浅く顔色も青を通り越して土気色だ。
心臓に耳を当てて心音を聞いてみれば、その音も非常に弱弱しい。
「たつろーー!!」
「お父様!」
近くにいた奈々も慌てて生魔法を発動して体調がよくなる様に整えていく。
出力が弱いので、月読も直ぐに同調して癒していく。
少しでも強化した状態の方がいいだろうと、愛衣も手を握って涙目になる。
カルディナも解魔法で、リアは《万象解識眼》で原因を探っていく。
そしてそれを心配そうにジャンヌやアテナ、天照が見つめていくのであった。
竜郎が目を覚ますと、そこは森の中ではなく砂漠風景が広がる場所に座っていた。
だがそこが砂漠かと言われれば違うと言える。
地面に触れれば砂の様な外見でありながら硬く、立って地面を踏みしめても足が沈み込むことも無かった。
また頭上から降り注ぐ光源は太陽ではなかった。
キラキラとした星のような明かりがいくつも空に点在して大地を照らし、真昼のように明るく気温的には熱くも寒くも無い。
「なんだここは? 愛衣ー! どこだー!」
横で手を握っていてくれたはずの愛衣がいない。竜郎は思い切り叫んで周囲を見渡す。
けれど誰も何も反応は無く、杖すら持っていない事に気が付いた。
《無限アイテムフィールド》から代わりの杖を出して、とりあえず握って探査魔法をかけていった。
「ここには誰も何もないのか……? 一体全体何だってこんな所に……って、あれ?」
と。竜郎はこんな状況なのに危機感をそれほど抱いていないことに疑問を持った。
普段ならいきなり訳の解らない所に移動させられ、愛衣と引き離されているのだから、もっと慌ててもいいはずだ。
だがどこかこの場所は現実感というものが無く、まるで夢の中を一人で彷徨っているような、そんな不思議な感覚だった。
「まあ、それも無理は無かろう。ここはお主の精神体のみがいるのであって、体自身はまだあの森にいるのだからな」
「──っ誰だ!」
まるで隣に立っている人から聞こえた声のように近くから話しかけられ、竜郎は思わず左右を振り返るが何もいない。
竜郎は不思議そうに首を傾げた。すると目の前の空間が揺らぎ始め、そこから見上げるほど大きな白い蛇──のようなモノが現れた。
のようなモノ。というのは、普通の蛇とは違い頭には黒い一本角がピンと立っており、深紅の理知的な瞳、仙人のように垂れ下がった長い顎鬚。
そして何より背中からは光魔法で形作ったような美しい光翼から、プラチナ色の燐光が舞っていた。
とは言えザックリとした見た目は巨大な蛇。
だというのに竜郎は大口を開けて見上げるだけで、恐いとも危険だとも思えなかった。
それどころか身内のような気安さすら感じていた。
少しの間、竜郎とその蛇が見つめ合った後、白蛇が光り始めた。
それに目を細めていると、やがて大蛇は竜郎と同じくらいの大きさの人型へと形を変えていく。
光りが止んで姿が顕わになってみれば、そこには白髪白髭のザ・仙人像な老人が立っていた。
だが相変わらず深紅の瞳と黒い角は健在なので、普通の人間では無い事は確かだった。
「こうして話し合うほうが速いのでな。ちと乱暴じゃったが、ここへ来てもらった。
……しかし、やはりこうなってしまったか」
「……俺の事を知っているのか?」
「そうじゃな。それほど長い付き合いではないが、それなりに知っておる。
だが初対面でもあるからな、まずは挨拶といこうかのう。
初めましてじゃな、タツロウよ。儂は一応この世界で神の一人としてやっている、等級神じゃ」
「神……か。はじめまして、竜郎波佐見だ。それで、その等級神というは個体名なのか? ──ああいや、なのですか?」
あまりにも気安さを感じていた為、思わずため口を聞いてしまったが、本当に神であるなら失礼かもしれないと竜郎は言葉遣いを正そうとした。
だが「ふぉーふぉっふぉ」と白い顎鬚を撫でつけながら、当の本人は笑っていた。
「別に普段通りの言葉で構わんよ。儂にとってお主は孫のようなものであるからな。ちなみに等級神とは個体名でもあり、役職を示すものでもある」
「いつの間に俺は神とそんな関係に……。というか、親せきと言うのなら等級神ではなく魔神の方だと思うんだが」
「お主は魔法系統ばかりスキルを取っていったからの。
それもしょうがない事じゃが繋がりから言えば、初期スキルを与えた儂の方が上なのだぞ?
いちおう存在する位も奴より一つ上じゃしの! ふぉっふぉふぉ」
「位はまあどうでもいいが……初期スキルを与えたって事は、もしかして《レベルイーター》は等級神が?」
「その通りだ。じゃからこそ、あの時止めさせるように声を直ぐに届かせることもできたわけじゃしの」
「ああ、ということは、あの時に聞こえてきた声っていうのは」
「儂だ。お主、かなり危険だったのじゃぞ? もしあのまま続けておったら、システムが壊れ、そのインストール元でもある魂も崩壊しておった所じゃ。
見ているこっちが肝を冷やしたぞ……まったく」
「魂の崩壊って……。そうなると、人はどうなるんだ?」
大よその予想は出来たが、一応明確な答えを聞いておくことにした竜郎。
それに対して今まで好々爺な顔で竜郎を見ていた顔がキュッと引き締まり、真剣な表情で等級神はこう言った。
「魂の崩壊は死を現す。そして体も何も残さず無と化すじゃろう。そんな死に方は嫌じゃろ?」
「それは……いやだな」
「じゃろう。あれに手を出すのは危険な事なのじゃ。
じゃからな、タツロウ。悪い事は言わない。もう諦めるのじゃ」
「え……? ちょっと──」
突然の話題展開についていけず、竜郎が目を白黒させている間に等級神は勝手に話を進めていく。
「それで仲間たちと一緒にこの世界を楽しんだらいい。
まだ行っていない国も沢山あるじゃろう?
お主らなら苦労する事もないじゃろうし、儂ら神も出来る限りお主らの助けとなろう。
じゃからな。もう二度とあそこへ近づくのは止めよ。何も死ぬ可能性まであるリスクを負ってやらんでもよかろうて」
「ま、待ってくれ!
確かに危険だと言うのは解ったさ。だが、まだ一度失敗しただけじゃないか。
もっと考えれば、何か方法が有るかもしれないだろ?」
「ない。諦めろ。この世界全体の調整を担う神々の中でも二番目に位が高い儂が言っているのだ。
何も知らないお主が何を考え、何をしようと無駄な事に終わるだけじゃ」
「そんな……」
取り付く島もないほどに神と名乗る存在に否定され、竜郎はただただ困惑して固まってしまうのであった。




