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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第386話 愛衣 対 シュベ太。竜郎 対 清子さん。

 シュベ太は重い十本尾槍を、背中を向けて清子さんと相対している竜郎へと投げ放つ。



「おっと。ダメだよ、シュベ太。あんたの相手は私がするんだから。カモンカモン」



 しかし愛衣がそれをあっさりと蹴り砕き、天装の槍ユスティーナを構えて手招きした。



「──フシュュゥゥゥーーーー」



 シュベ太は本能的に強敵だと判断し、長く息を吐いて愛衣へと意識を集中させた。

 そして尻尾を千切って槍を新たに手に持つと、翅を羽ばたかせ《超高速飛翔》での突きをお見舞いしていた。



「はっ──やあ!」



 森に入る前とは比較にならない程、速く鋭く力強い突きを、愛衣はいとも容易くユスティーナで《受け流し》を発動。

 槍先と槍先を押し当てて、綺麗に横へと滑らせるように流して見せた。

 不意に横方向へ逸らされたせいで、シュベ太は勢いそのままに体が半回転。

 愛衣に背中を向けた瞬間ユスティーナのフォークの様な槍先を、パスタでも巻くかのように回転させ翅を絡め取とると、四枚全てを毟ってしまう。



「──ガッ!?」

「もういっ──ちょは無理だったか。ドーピングはズルいなあ、まったく」

「──フシュッ──フシュッ」



 愛衣の追撃の軸足へのローキックを、地面を転がるようにして逃げて躱した。

 凶禍領域の影響を受けていなかったら、反応できずに足を折られていただろう。

 その事実に肝を冷やしたシュベ太は、呼吸が荒くなっていく。

 無暗に近づくのは不味いと思ったのか、《高圧衝撃波》を連続で放ってきた。



「のわっ!? ちょこざいなー!」



 魔法系の攻撃故、愛衣の場合当たれば無事では済まない。

 気力を纏った槍や鞭で弾き飛ばしながら、軍荼利明王に自身の弓と《徒手万装》によって具現化した弓の計四つから矢を放ち、打ち抜こうとする。



「──シュゥーー」



 翅は四分の一ほど生えてきており、あと数分もすれば元通りだ。

 それまでは飛ぶことは出来ないが、足を使っての速さも今や並ではない。

 すんでで飛んでくる矢を躱し弾きやり過ごし、魔法系打撃スキル《魔力殴打》での形勢逆転を狙うために間合いを詰めていく。


 けれど愛衣が一歩進めば二歩下がり、後ろに下がれば一歩進むといった具合に、シュベ太が本能的に恐れ距離を取ってしまうので、お互いに詰め寄りたいのに詰め寄れない状況が続いていた。

 けれどそれは、とある闖入者によって破られた。



「「「ケケケケッ」」」

「ガガガアガッガガ!!」



 三体の悪魔が愛衣を無視してシュベ太に襲いかかった。

 邪魔するなとばかりに怒鳴りながら、シュベ太は槍で三体もろとも一振りで切り刻む。

 今のシュベ太にとって、このレベル60程度の悪魔など何匹集まろうと羽虫同然。歯牙にもかけるほどのものではない。

 けれど今はその三体の攻撃をくらってでも、シュベ太は愛衣から目を離すべきではなかった。



「ガッア"──」

「隙あり──って硬い!?」



 地面を抉りながら蹴り進み、ロケットの様に飛んできた愛衣の槍が首に浅く刺さった。

 愛衣としては完全に刺す勢いだったのだが、スキルで出来た黄金の鎧を貫通できずに槍先数センチで止まるとは思っても見なかった。

 あらゆるスキルも、しっかりと強化されているようだ。

 けれど衝撃はキッチリと通っているので、喉が潰れて呼吸が極めて困難な状態になってしまう。



「────ッ!!」



 だが自己再生とこの森の力を合わせれば、治るまで呼吸などしなくても死にはしない。

 愛衣へと両腕の鎧に《風刃》のブレードを纏った状態で、《魔力殴打》も合わせた対武術職用スキルを併用して、お返しとばかりに首に向かって手刀を降ろした。



「──あまい!」

「──!?」



 愛衣は槍を軍荼利明王に持たせて、自分は両手に左は黒、右は白の竜の頭部の気獣技を発動し、さらにグローブに三重の《徒手万装》を被せて手刀のブレードごと喰らいつく。



「はあああっ!」



 《徒手万装》のグローブを一枚、シュベ太の《魔力殴打》で破られた。

 が、それが何だと気合の声と共にブレードを竜の頭部を模した手で食い破り、腕に噛みつく。そのまま握力で鎧ごと両腕の手首を砕いた。



「──ッ!!?」

「りゃああああ!」



 シュベ太が痛みに悶えて意識が一瞬離れた瞬間に、愛衣は砕いた手首を握ったまま腕を万歳するかのように振り上げた。

 シュベ太は地面から足が離れる。

 そして愛衣は横に回転しながらシュベ太を振り回し、地面に叩き付けた。


 ドガーーン!と凄まじい音を立ててクレーターを作り上げると、そのままマウントポジションから軍荼利明王の八本の手も使った拳打の雨をマシンガンの様に降らせていく。

 ズガガガガガガガガと絶え間なく殴りつける音が鳴り響き、大抵の物はそこで心折れていたであろう。

 しかし、それでもシュベ太は諦めていなかった。


 頭に風刃のブレードを付け、頭突きの要領で愛衣へと攻撃する。

 だが当然、拳で砕かれ無為に終わる。けれどシュベ太の狙いは、それで少しでもこの拳打の雨が緩くなればそれでよかった。

 愛衣がブレードに一瞬気を取られた隙に、既に生えそろっている四枚羽を動かし、地面を滑るように仰向けで離脱。



「にょわっ──。あれでもダメなのね……。ほんとに手加減が難しいわ、こりゃ」



 愛衣が肩を回しながらシュベ太を見れば、黄金の全身鎧はボロボロで、ほぼ中の肉体が見えている状態。

 全身血まみれで、両腕は千切れかけて暫く使い物にならない。

 喉も追加攻撃によってまだ癒えておらず、ヒューヒューと変な音が呼吸をするたびに口からこぼれる。


 けれどシュベ太の目はギラギラと輝き、戦意を失ってはいなかった。

 周りに悪魔がうろついているが、もう気にしない。攻撃したいならすればいいと放置し、愛衣だけを見つめていた。



「早くしないともっと手加減できなくなっちゃうし、一気に決めるよ!」

「────!!」



 愛衣の周囲に纏った気力が膨れ上がり、形を成す。

 その姿はまさに全身凶器。全身には魔王種結晶を使った武術の風竜纏。

 右手に握った宝石剣に獅子纏。左手に握った投擲鞭に蛇纏。腰に下がっている軍荼利明王の弓部分には鳥纏。

 軍荼利明王には天装の扇、槍、ハンマー、斧を片手に持たせ、残りの半分の手には《徒手万装》で一時的に具現化した棍棒、鎌、盾、牙を持たせる。

 しかも軍荼利明王に持たせた全てに気獣技を発動させて、気獣がそれぞれの武器から顔を出してシュベ太を睨む。



「────!」

「──はっ」



 シュベ太は本能のままに空高く逃げ出す。

 愛衣の身から発せられるそのエネルギー量は、この傷ついた体ではあまりに酷だった。

 だが空からならまだチャンスはあるはずだと、そう考えたのだ。

 けれど気が付いた時には高速飛翔しているはずの自分の横を、いとも容易く併走していた。──そう、空中を走っているのだ。



「空だって私は戦えるんだよ?」

「──アガ」



 こんな時になってようやく喉が治るも、妙な声が零れて目を見開いた。

 空を走る絡繰りは、《空中飛び》に鎧による気力盾を混ぜて足場にすることで、回数制限をリセットしていつまでも空を飛び続けると言う力技。



「────ガアアア!!」



 直線軌道から体への負荷度外視で滅茶苦茶に折れ曲がったり、急降下、急上昇を織り交ぜてとにかく距離を離そうと努力する。

 体は既に六割がた癒えており、腕の感覚も少し戻ってきた。

 このまま逃げ回って回復していれば、好機を見いだせるだろうとの思いだろう。

 だが、その程度で愛衣から逃げられると思うのは浅はかだ。



「遅い──よっ!!」

「ガベッ────」



 いつの間にか目の前にいた愛衣に踵落としをくらわされ、首の骨をへし折りながら地面へと叩き落とされた。

 急いで立ち上がろうと翅を動かすが、飛ぶことが出来ない。

 何故かと背中を見れば、根元から綺麗に切り落とされていた。

 愛衣が踵落としとほぼ同時、獅子纏の刃で翅だけ切り取ったのだ。


 これでは、また少しの間飛ぶことが出来ない。

 そう理解した時、全身に寒気が走る。魔物ながらに、この化物相手にどうやって戦えばいいのかと。何をどうしても殺される運命しか頭には思い浮かばない。



「それじゃあ、まずは鎧をはぎ取ろう」



 愛衣がそう口にすると軍荼利明王が持つ武器から出ていた獣たちが、一斉に襲いかかってくる。

 黄金の鎧を砕き、削り、抉り、毟り、もぎ取っていく。

 その間に愛衣は蛇纏の鞭で外身はすり抜け、体中の骨に直接巻き付いて関節の可動を阻害し動きを封じる。

 獅子纏の刃で手足の腱だけを切断し、竜纏の手足で致命傷にならない程度に内臓だけを破壊していく。

 ……そうして残ったのは、瀕死で鎧も再生するたびに無くされ丸裸のシュベ太。



「ごめんね。でもそれだけやんないと、シュベ太を生け捕り何て出来なさそうだったんだよ。

 帰ったらちゃんと、たつろーが治してくれるから、今はそこで寝ててね」

「────ァ────ッ──」



 蛇纏の鞭が骨にギチギチと直接絡みつき、最早傷が癒えた所で動けそうにない。

 しかもそれが執拗に何重にも巻き付いて来て、最終的には毛糸玉のような形で捕獲された。



「さて、たつろーはどうなったかな」




 愛衣がシュベ太と戦っている頃。

 竜郎は近接戦に持ちこもうと、執拗に触ってこようとする清子さんを月読の属性体の左腕で押しのけ、天照の右腕で殴って距離を取ろうとする。



「離れろ!」

「キイィィィィイーー」



 本来であれば近距離戦でも天照と月読がさばいてくれるので、その間に竜郎が魔法を撃ちこんで終わりにすることが出来た。

 だが弱体化し反応速度も低下している二体だけでは追いつかずに、竜郎自身がセコム君に水魔法を与えて自動防御も使ってやっと拮抗させていた。

 これが清子さん優勢で竜郎自身の命が危ないとなったら、本気で相手の命を奪えばいい。

 けれどなまじ捌けてしまって、身体機能破壊系のスキルに対しても防げている現状だと、やはり殺さずに捕える方法を模索してしまう。

 なので清子さんのこの判断は、生き残るという上では正しいと言える。



「っていうか。こいつ戦ってみると、こんなに面倒な相手だったのかっ」



 さらに面倒なのは、凶禍領域の影響であっても、どちらが強いのかと言われれば竜郎なのだが、清子さんはとにかくに受ける、流す、躱すと言った生存能力が非常に高かった。



「これなら──」

「キィィィーー」



 竜郎が転移での攻撃魔法──今でいうと土の壁に棘がビッシリと付いた物体を上下左右に転移させ、《射魔法》で飛ばす。

 けれどこれは《伸縮自在》で、棘同士の合わさる僅かな隙間に入り込めるくらい小さくなって無傷。



「ならっ!」



 それを解魔法で察知した竜郎はここぞとばかりに距離を開き、その棘状の土壁に囲まれ閉じ込められている空間に火魔法を転移させて燃やしてみる。

 けれど《樹液重衣》という、樹液を一瞬で体から噴出させて体を覆い、何層も鱗の様に纏うスキル。特に火や雷や氷に耐性が強い防御性能をもつそれで、耐え抜きながら小さな小さな穴を開けて脱出し、元の大きさに戻って竜郎へと《雷撃収束砲》をお見舞いしようとする。



「りゃあああ!」



 それも探査済みの竜郎は事前に用意していた竜水晶のハンマーに、射魔法で加速させ打魔法で威力を底上げした攻撃を、出てきた瞬間を狙ってジャストミートでぶち当てる。

 けれど竜郎もここで初めて知ったのだが、清子さんはおよそ生物としての内部構造を持ち合わせていないようで、ハンマーが当たった瞬間スライムやゴムの様にグニャリとひしゃげ、グルンと打撃面を滑るように転がると何事もなかったのかのように《雷撃収束砲》を放ってきた。



「どんな体質してんだよっ!? ルフィかお前はっ!」



 月読の腕に広げた盾で防ぎつつ、思っていた以上に奇天烈生物だったことに驚愕しながら竜郎は叫んだ。

 その間にも距離を詰めようと迫って来る。竜郎もどうしたものかと頭を抱える。

 が、その頃になると何処からともなく悪魔が数匹やってきた。


 竜郎が探査で後方を確認してみれば、ジャンヌが二節を発動し、大量の悪魔で溢れかえっていた。

 奈々も二節を発動しているのか天使の姿になり、お付の天使を従えてばっさばっさと悪魔ごと遠慮なく魔物を滅ぼしにかかっている。

 どうやらここで産みだされた悪魔や天使は本物ではないせいなのか、この領域の恩恵も害もなく、そのままの力を発揮していた。


 アテナはあちこちに引いた竜力路をグルグル回りながら、鎌を振り回し幻術も使って翻弄しながら狩っていく。

 リアは虎型の機体から針山の様に生やした砲身から、手榴弾やレーザー攻撃、近付かれたらハンマーで殴ったり、かみつき、ひっかき処理していた。



(あの調子ならあっちはまだ大丈夫だな。俺もとっとと終わらせよう!)



 あぶれた数体の悪魔がこちらに目をつけ、竜郎には目もくれず清子さんに襲い掛かっていく。

 だが清子さんは度重なる竜郎からの転移攻撃への策として、ひと時も同じ場所に止まらないようにし始めたので、捕える事も出来ずにウロチョロするだけだった。



「何しに来たんだあいつら──っと」

「ゲッゲッゲ──」



 そう思ったのは竜郎だけではなかったようで、悪魔大将クラスが遠くから闇色の槍を大量に清子さんに向けて撃ち放っていく。

 なにげにその範囲内に竜郎も入っていたので、慌てず短距離転移で範囲外に出て難を逃れる。

 けれど清子さんにはその数本が当たり、微かな傷しか負わなかったが一瞬止まってしまう。



「ナイスアシスト!」



 竜郎は示し合わせたかのように止まった瞬間を逃さぬように、蛇の様な竜の下半身と鳥の上半身の境目辺りに、斬魔法を込めた闇で硬く鋭利に変質させた土の刃を、射魔法と風魔法で勢いをつけて全力投射。

 さらにそれを転移させて、避ける暇も与えず至近距離からぶち当てた。



「ギィィィィーー!?」

「まだだ!」



 上半身と下半身で二分割された瞬間に、竜郎は尻尾の方をミニブラックホールで吸い込み消し去る。

 上半身だけでも翼を広げ飛んで逃げようとするので、土魔法で作った巨大隕石を転移させて叩き落とす。



「ふっ──」

「キッィイ──」



 氷魔法を転移させて翼を凍らせながら、自分も清子さんの真上に転移。



「終わりだ!」



 小さくなって氷から抜け出そうとする前に、竜郎はキューブ状に張った竜障壁の中に押し込めた。

 破ろうとしてきたので、穴をあけられる前に闇魔法で強化された竜水晶でコーティングしていき、完全に封じ込めることに成功した。



「──ふぅ、捕まえた……」

「たっつろー! こっちも捕まえたよー! 早く安全な場所に行こー!」

「解ってる! ジャンヌ!」

「ヒヒーーン」



 名前を呼んだだけで何をしてほしいのか察したジャンヌは、あと数秒で切れそうな第一節の効果が終わる前に三節を発動。

 巨大な真っ白な太陽がジャンヌの頭上に生まれ、フレアをまき散らしながら地面に落下。

 視界が真っ白になると同時に、ここに集まってきていた大半の敵性魔物は蒸発して消え去った。

 だが弱体化しているせいか、負傷で済んでいるタフな奴もいた。

 そういう奴は、奈々が天使達に命じて処理させていく。



「飛ぶぞ──」



 天使たちは置いて行っても消えるだけなので、その間に竜郎の周囲に全員が集合したのを確認してから、シュベ太と清子さんを回収し、初層入口まで戻っていったのであった。

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