表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

385/634

第383話 中層を抜けて

 結果から言うと、攻撃を受けたのはシュベ太と清子さんだけだったが、そちらは負傷無し。

 竜郎達は攻撃すら受けていないので問題なかった。


 けれど例え大量に出てきたからとはいえ、シュベ太や清子さんでも対応できない速さを持つ魔物が現れ始めたことで、より一層緊張感が増していた。



「まさか躱せてないとは言っても、私の攻撃をギリ即死回避して来るとは思わなかったよ」

「あれは流石に驚いたな。というか中層で会うと結構ヤバい連中だったんだな」

「これでまだ中層なのですから、深層ではより一層危険が増しそうですの」

「こりゃあ、本腰入れてかなきゃ不味いっすね。

 シュベ太達もいくら効かなかったと言っても、攻撃を喰らってる時点でアウトっす。

 これからはあたしらも本格的に参戦した方がいいっかもっす」

「致命傷を負ってからでは遅いですしね。

 行進速度は下がりますが、ぬりかべ隊はもう出しておいた方がいいでしょう。

 あの子達なら毒や大概の攻撃を受けても平気でしょうし、コアさえ無事なら再生はいくらでも可能ですから」

「それがいいかもな。いざとなったら犠牲にするつもりで連れてきたんだし、シュベ公隊も出しておくか」



 ややモッサリとした陣形になるが、竜郎達の周りをぬり壁隊で四方を囲む。

 上空にはカルディナを中心に、シュベルグファンガス達を五体浮かべた。

 これで防御と攻撃の層が厚くなった分、安全性も増しただろう。

 カルディナ達と違って、テイムした魔物達は強化されているので条件はこの森の魔物と同じ。

 そうそう後れは取らないだろう──と思っていた。


 だが進めば進むほど違和感が強くなっていく。

 というのも……。



「なんだか俺達が連れてきた魔物より、ここの魔物達の方が強化率が高くないか?」

「あ、私もそれ思った。同じ魔物なのに向こうの方が強くなってきてる気がする」



 先のトガル襲撃から数時間経った頃。

 竜郎達自身はまったく損傷はないのだが、シュベ太や清子さんを始め、ぬりかべ隊やシュベ公隊までもが何度か負傷し、奈々や竜郎のお世話になる回数が増えてきていた。

 というのも同じトガルの襲撃がこれまでに四度ほどあったが、森の奥に行けば行くほどに動きや攻撃が速く鋭くなっていた。

 こちらの魔物達も力場によって強くなっていたので、そこまで苦戦はしないだろうと高を括っていた。

 けれど明らかに向こうの方が強くなっており、竜郎達の簡単なフォロー程度では傷が絶えなくなり、それなりに戦線に出張らなくては数体は既に殺されていたケースすらあった。


 それはトガルに限らず他の魔物にもいえる事で、試しに奥にいる方がレベルが高いだけかと《レベルイーター》で確かめてみても、大して違いは無いので凶禍領域の力での強化だけの差と言えるだろう。


 また今現在中層の半分をもうすぐ越えそうな辺りにいるのだが、今の時点でジャンヌは九割五分、カルディナ達は実力の八割程度の力しか出せなくなっており、リアにいたっては七割弱程度まで弱体化していた。

 その弱体化に慣れていないぎこちなさから、フォローが遅れたと言うのもあった。



「おそらく外から連れてきた魔物と、この森で生まれ育った魔物では相性と言うんでしょうか、そう言ったものから差が出てきているのだと思います」

「ってことは、もし同じシュベ太が二体いたとして、片や俺が育てた方で、もう片方はこの森で自然に育った方だとすると、後者の方が森の恩恵を受けやすく、この場所では強くなれるって事か──ますます厄介な」

「テイマーならもしかしてわりと楽にこの森を進めるかもって思ってたけど、甘くないみたいだね」



 あまりにも相手側に有利なフィールドに、不安と言うより嫌気がさしてくる。

 しかもまだようやく全体の半分といった所で、これからさらに竜郎サイドは不利に、森の住人サイドは有利になっていくのだからやってられない。



「とは言っても進むしかないんだがな」

「だねえ」

「ピィュー」

「魔物が数体来るらしいっすよ」

「全員戦闘準備!」



 今回現れたのは人の影に住まうゴースト系の魔物で、薄っぺらく黒い存在。

 気配を隠すのが上手く、高レベルの探査魔法でなければ気が付きにくい。

 気が付けなければ、いつの間にか影に擬態されて気を抜いた時に後から攻撃をしてくるという嫌な奴である。



「「「ギィーーー!!」」」



 共有化で竜郎から魔物の位置を知らされたシュベ公たちは、上から下へとその影幽霊に衝撃波を放っていく。

 向こうは完全にばれている事に一瞬だけ怯みはしたものの、だからどうしたと言わんばかりに全ての攻撃を回避──からの猛進。

 だが避けられたのは計算の内だ。



「──はっ、やっ、とお!」



 愛衣が竜郎から心象伝達で位置情報を共有し、避けた先を狙っていた愛衣の気力の弓矢が直撃。

 八体中三体が矢を受けて消滅。



「てやっですの!」

「こっちもっす!」

「ピィューー」「ヒヒーーン」



 自分たちは消費せずに、竜郎から受け取った魔力だけで魔法を発現させてそれぞれ威力は抑え目だが速く数の多い攻撃を放っていく。

 カルディナ達の攻撃なら、いくら弱体化していると言っても、この辺りの魔物なら加減した攻撃でも当たれば倒せる。



「ォォォォォ────」



 どんなに素早く動けても、数撃ちゃ当たる方式で弾幕を張られて一体を残し他は消滅。

 そこで残りの一体は黒い野球ボールサイズの球体を投げてきた。

 けれどこれも予想していたので、既にぬりかべ達が立ちふさがってガードした。


 それを見て流石に多勢に無勢だと後退を始めようとするが、見えない障壁に阻まれて進めない。

 慌てて逆方向に進路をきろうとするも、その間にシュベ太が槍を構え接近し、地面に縫い付けるように突き刺し最後の一体も仕留めた。



「清子さん、右だ!」

「キィィィィィーーー」



 今の戦闘音を聞きつけて漁夫の利を狙おうとやってきた十センチ程の雑草が集まって出来たような魔物が、豆粒の様な弾丸をマシンガンの如く撃ってきた。

 こちらも察知済みだったので、攻撃が出せる状態で待機させていた清子さんによる《雷放射》という広範囲に薄く広く雷を放射するスキルで焼き払う。

 そして《雷撃収束砲》という、雷のレーザーの様な物をクチバシから撃ち放って倒して見せた。



「今くらいサポートすれば、まだまだ大丈夫そうだな──って、また来たか。今度は右前方四十度、動物型だ」

「一回戦闘が始まるとワラワラ来るようにもなって来たよね」

「五感も鋭敏化して来てるのかもしれませんね。冷凍弾、行きます──」



 そう言いながらリアは機体から局所的に温度を一気に下げ凍りつかせる手榴弾を、敵のいる方角へと射出。

 基本的にここの魔物はアムネリ大森林の影響下にあるせいか自信過剰で、自分が強いと思っている節が見られる。

 なので攻撃も警戒して大きく躱すという事はあまりしない。

 まして気力や魔力的な反応も無い投擲物は、無警戒で突っ込んできてくれる。

 そして人ではなく兵器は威力が減退する事も無いので、リア工房産の手榴弾は意外と効果的だったりする。


 今回もろくに避けもせずに周囲が凍りつき、直撃したモノは凍死し周りも急な温度変化に体がとまる。



「ピィィィーーー」



 そこへ正確無比な魔弾が額を打ち抜き、あっという間に鎮圧した。



「それじゃあ、行くぞ」



 そうしてまた竜郎達は歩き始めた。




 それから黒渦が数件あったり移動速度が落ちたことや、極夜の日で常に暗かった日を挟んだ事もあって、初層よりも時間をかけて二日ほどで中層から深層の境目付近までやって来れた。

 現在時刻はヘルダムド国歴992年.3/13.闇属の日、朝6時44分。

 過去の竜郎と愛衣がやってくるXデーである、ヘルダムド国歴992年.3/18まで残り五日。

 その一日前くらいまでには最奥へと到達しておきたい。

 という事で、あと四日ほどで深部までの道のりを攻略しようと考えていた。



「最悪時間が無ければ過去転移で数日前のその場所に移動して再出発っていう手もあるから、別に無理をして強行軍に及ぶ必要もないんだけどな」

「だねえ。今でも凶禍領域の影響で戦力が低下してる状態だし」

「ピィィー……」



 中層を抜けられそうなあたりでの戦闘力減少の割合は──。

 竜郎と愛衣、平常状態。常に十割の力で戦える。

 ジャンヌ、爺やから貰ったティアラの効果込みでも七割ほどまで低下。

 その他カルディナ達、魔力体生物組は六割三分。

 リアにいたっては五割程まで低下していた。



「まあ、私の場合は完全に機体性能に頼ってますし、戦闘自体は問題ないんですけどね」

「戦うたびに自動操縦モードの動きが良くなっていくのは驚きですの」



 今回の森出撃に当たって、リアの機体には最新鋭の人工知能が搭載されており、自己判断による戦闘と、そのデータから最適な動作の学習をおこなうようになっていた。

 その為戦えば戦う程学習していき、仲間達との連携を考えた動きまで見せ始めていた。



「これなら完全無人型のロボット兵器も夢じゃないな」

「まだ操作を完全に手放すのは不安ですが、護衛ロボとか家事ロボとかも面白そうです」

「何それ我が家にも欲しい!」



 ──と。リアは十分戦力になっているので、本人の体調の怠さ以外は問題なかった。

 また魔物組は、およそ普段の五割増しで戦闘能力が強化されていた。

 スキルの威力も少し強化されている可能性が高く、本来ならありえない威力を叩きだす時もあった。



「現時点の総火力ではマイナスだが、その分手数が増えてるし、今の感じなら三日くらいでいけそうだな。

 ──っと、そろそろ深層につ……く…………ぞ?」

「何か線でも引かれてるみたいに、あからさまに植生が変わってるね……。

 しかもちょっと幻想的で綺麗かも……」

「本当ですの……」



 およそ森の中心部まで残り三分の一という付近から、まるでそこからは別の森だと錯覚せんばかりに、生えている木、植物、またそれらの本数や密集度合いも違っていた。


 ここまでは落葉樹林と呼ばれる植生に非常に近かった。

 多少珍しい形の物もあったが、地球にあっても納得できる程度の森だ。

 だが深層部からはバオバブの様なひっくり返して根から葉が出ている様な形態の木や、キノコのような傘状に枝葉を広げる木、ヤシのような木の三種が主立って生えていた。

 またその数も少なく、《真体化》したジャンヌでも木をなぎ倒さずに歩ける程度の密集度合いで、いささか森林と言うにはスカスカだった。


 地面から生えている植物は草と言うより棘の無いサボテンの様な多肉植物がポツポツと生えており、それらは光合成が必要ないのか色素が無く透明でガラスの様な印象を受けた。


 そしてなにより不思議で幻想的だったのは、地面や木や植物たちがキラキラと朝露に日の光を当てた時の様な小さな輝きを放っていた。



「けどそんな雰囲気をぶち壊す勢いで結構いますね」

「みたいだねー。私の危機感知も反応してるし」

「だが気が付いている奴もいるっぽいのに、こちらに来ようとはしていないな」



 リアの索敵レーダーにも、愛衣の危機感知にも、竜郎とカルディナの探査魔法でも深層入り口付近で待ち構えるようにして存在する魔物達の存在を捕捉していた。

 それは地面の中だったり、木の上だったり、あるいはその後ろにいたりと潜むものに加え、堂々とその身をさらして待ち構えているものもいる。

 種類は隠れている場所によって違い、明らかに深層へと入ってくる得物を狙っている様子で、向こうから来る気配はなかった。



「植生が違うことからも、あの場での恩恵が大きいのかもしれませんね」

「そして魔物達はそれが解ってるから、こっちに来ないって事っすか?

 小賢しい奴らっすね」

「たぶん入った瞬間と中に初めからいる状態とでは、強化率にも違いが出ているでしょうし、体も慣れていないでしょう。

 ですからそういった自分よりも弱い一瞬を狙った狩りが、奴らの常套手段なんだと思います」

「逆に言えば、同等の立場になったら倒せる自信が無い奴らとも言えるな」

「かと言ってわざわざ相手の土俵で戦うのも面倒だし、こっちから遠距離攻撃で数を減らしてから行こっか」

「今はまだできるだけ省エネなほうがいいですし、それがいいですの」

「んじゃあ、蹴散らしてやりましょうかね」



 今ここで場所を変えても、そこにいる魔物プラスここにいる魔物になる可能性が高い。

 深層に入る前から前途多難ではあるけれど、それでも歩みを留めるわけにはいかない竜郎達は、ややギアを上げて深層へと挑んでいくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ