第381話 情報収集
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レベル:21
スキル:《魔物生成 Num-95714.08》
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(やっぱり前に見たイモムー発生器と同じような感じだ。
以前はNum-36なんちゃらだったが、こっちは95714.08だから数字は違うな。
もしかして、これは魔物の種族別番号でも現しているのかもしれない)
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レベル:1
スキル:《魔物生成 Num-95714.08》
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得られた糧は微々たるものであったが、得体のしれない物なので出来るだけ弱体化させておいた。
「それじゃあ次はわたくしですの!」
《真体化》して直ぐに、初めの頃より随分と成長した《竜吸精》で一気にエネルギーを吸い取っていく。
数秒にも満たない時間で完全に枯らされた黒渦は、闇に溶けるようにして消えていった。
──が、その瞬間現れたのは、竜郎達の世界が崩壊する前兆で見られた空間の罅割れだった。
どうやら蛇の尻尾は黒渦ではなく、その空間の罅に挟まっているようで、未だに抜け出せずに暴れている。
「「「「「「「「「──!?」」」」」」」」」
一番前にいた竜郎と奈々は勿論、その後ろでそれを見学していた愛衣たち全員の表情が一瞬で凍りついた。
けれど黒渦を消したことが影響したのか、罅割れは次第に小さくなっていき、蛇の尻尾を引き千切って消え去った。
「シィ゛イ゛ーーーー」
蛇は尻尾が千切られた痛みに悶えていたが、竜郎達はそれどころじゃない。
「ここに何かしらある可能性が今ので高くなったな」
「だね。今の見て無関係なんて言われても信じられないもん」
世界崩壊についての原因究明への糸口が細くても掴めたような気がして、竜郎と愛衣の顔には無意識に笑みが浮かんでいた。
カルディナ達もそれを見て嬉しそうにする。
──そんな中、関係のない尾を切られた蛇は数が減った事により、りっすんの洗脳下に落とされ土の檻を壊すように命じられ竜郎達から離れていこうとする。
「お前だけは絶対に逃がさん」
「シーーーー」
「キュッキュッ!」
「お前もよけいな事するんじゃねえ──」
「「「「「「────ッ」」」」」」
この尻尾の千切れた蛇は重要な目撃蛇だ。テイムして情報を聞き出す必要がある。
だというのに勝手に操り連れ去ろうとするりっすんに、竜郎は本気で神の威圧をかました。
竜郎達とシュベ太、清子さん以外の、りっすんや蛇たちは一斉に動きを止めて硬直した。
それで竜郎の実力が雲の上の存在だと理解した魔物達は、全員がこちらの傘下へと下った。
「お前たちの知っている事を全部教えてくれ」
竜郎は一匹ずつから、あの黒渦が出てきたときの事を問いかけ情報を集めていく。
その結果解った事と言えば、まずこの窪地はりっすん達の巣だったもので、蛇たちを使って掘らせたものらしい。
そこで普段通り過ごしていると、つい一日前ほどに突然空間が罅割れた。
何かよく解らなかったが、その空間のある場所にいた蛇が巻き込まれ尻尾が抜けなくなってしまう。
どうしようかと皆で引っ張り出そうとしたが、全く抜けなかった。
そこで取りあえず放っておこうとなったらしい。
「そんな状況なのにほっといちゃうんだ」
「人間からしたら不気味でも、こいつらにとっては蛇一匹が捕まっただけで他に害は無かったから、気にするのを止めたんだそうだ」
けれどその時に逃げるべきだったと、りっすん達は後悔していた。
本当に何も起こる気配すらなかったので、お気に入りのこの場を離れる事も無く暫く無視して過ごしていると、突然今度は黒渦が罅割れを隠すように出てきた。
警戒心をあらわに見つめていると、ズザザザザザーーーーーーーっと、突如大量の蛇が吐き出された。
泡を食った様に大パニックになりながらも、自分たちが襲われそうになったのでその全てに洗脳をかけていく。
範囲内に一辺にかけられるスキルだったので、数十匹で一斉にかけたことで動きは止めることに成功した。
だがその内数体はとっとと見切りをつけて我先にといい蛇を見繕って逃げて行ってしまったのもあり、事態はさらに悪化。
逃げ遅れたりっすん達だけでなんとか抑えているものの、大量生産が治まった後も少しずつ蛇を増やされじり貧になっていく。
もはや離れるに離れられず、死を待つばかり……。
この時の事を思い浮かべていたりっすん達の頭には、先に逃げて行ったモノ達への恨み節が炸裂しており竜郎は頭が痛くなった。
「それで今に至ると。それで蛇たちの方の供述はどうなんですか?」
「それが洗脳されていたせいで断片的にしか記憶が無く、全体的にぼんやりしていて要領を得なかった。
ただ一番巻き込まれていた蛇だけは、洗脳が解けていたらしいな」
その蛇の記憶からは、突如尻尾を囚われた瞬間、尾先に激痛が走ったらしい。
そして体内を何かが這いずる様な感じがし始め、それが収まると黒渦が発生。
「おそらくその時に個体情報をスキャンしたんでしょうね。
黒渦は溜まったエネルギーの塊の様な物でしたし、一定量以上のエネルギーが同一空間に集中して多次元からやってきた場合に罅割れが起き、そのエネルギーを消費したから罅割れも消えた。
そう考えるとあちらの世界で起こった大規模な崩壊は、これとは比較にならない程のエネルギーが集中し起こった……のではないかと私は推察します」
「そしてそのエネルギーの出所が、この世界なのかもしれないな。
今ここで起きていたことは、その余波ではないかと思っている」
「それじゃあ、もしかして本丸のエネルギー源がこの森のどこかにあって、それがなんでかしんないけど、私たちの世界にバーンって直撃したのかな」
「推察にすぎませんが、そういう可能性もあるのではないかと思います。
少なくとも、この森を調べる事は無駄にはならないはずです」
「だな。このまま探索を再開しよう。カルディナは次からは魔物の気配と並行して、俺と一緒に今の黒渦の反応も探してくれ」
「ピィュー」
光明が見えてきた竜郎たちは、俄然やる気が出てきたようで、その表情は明るかった。
「そんなわけで俺達はもう行くが、こいつらはどうしたもんか」
「りっすんは欲しーな、欲しーなあ。あの時は余裕もなかったけど、今ならいーでしょ、ねえねえ」
愛衣がキラキラとした目で竜郎ににじり寄ってくる。
りっすん達も竜郎に連れていって欲しそうにこちらを見ている。
「……解った解った。別に俺の容量はまだ一パーセントも埋まって無いみたいだし、連れていくよ」
「これで可愛い子がまた増えたよ! やったね! 今度はパンダちゃんが欲しいです!」
「いや、知らんがな。その辺の熊でも連れてきて改造すればいけるだろうけど」
知らないと言いながらちゃんと考えてしまうあたり、竜郎らしいといえばらしい。
それからはりっすんと蛇たちをしまい、この場所をマップ機能と照らし合わせて覚えておく。
もし他に手掛かりが見つからなかったら、過去に転移して直に見る必要があるかもしれないからだ。
しかしとりあえずは一番怪しいと思っている深部を先に目指す事にし、竜郎達は再び探索を再開した。
その後、もう一か所だけ黒渦を発見したが、こちらは毬藻のような植物の魔物をボトボトとコンスタントに産み続けていたので、一通り観察し続けてから消滅させ、場所だけはまたメモを取っておいた。
そうして進んでいき、やがて夜明け前くらいになるといよいよ中層付近まで迫ってきた。
りっすんや毬藻に時間を取られて想定よりも遅くなったが、おおむね順調だ。
また一番古株の──リア曰く齢100歳くらいのりっすんでも、あのような事象を見たことがなく、毬藻の黒渦の周囲にいた魔物達や、適当に遭遇した魔物なども道中に何匹かテイムし情報を引き出しても見たことは無いようだ。
この事からこの森特有の事象ではなく、何らかの異変が既に起き始めていると考えて間違いなさそうだった。
「やっぱりこの森でビンゴっぽいな」
「この調子でバンバン謎を見つけて解決しちゃおー!」
「そう簡単に事が済むとは思えないが、何であろうと全力でどうにかしてやろう。
ところでリア、体調はまだ大丈夫か?」
「ええ、少しずつ怠さが増している様な気がしますが、戦闘に支障が出るレベルではありません。
移動も蜘蛛足ですから体力も使いませんし」
その代わりエネルギー供給は必要だが、ただの移動だけなら今のリアにとって大した消耗ではない。
とはいえ夕方から夜明けまで動きっぱなしだったので、疲労の色が見えてきていた。
この森のせいと言うだけではないだろう。
「どこか目印を見つけてから、転移で入り口に戻って休もうか?」
「いえ、そうすると移動が夜ばかりになってしまいますし」
「そうだけど、少し休もうよ。私も凶禍領域を意識しすぎて気疲れしちゃったし」
「少し仮眠を取ってから再出発し、それから夜になったら本休憩で朝出発。という風にすれば、明るいうちに動けるようになりますの。
だから言う事きくですの」
駄々っ子でも言い聞かせるように言う奈々にリアは苦笑した。
「ナナ……解りました。心配かけるのは本意ではないですし」
「なら良かった。俺も一旦座って情報を整理したいからな」
「それじゃあ、目印を探すっす──と言っても、どこもかしこも木とか草しか生えてないっすけど。
いっその事作っちゃうっすか?」
アテナの言う作るとは、魔法で解りやすい跡を付けてしまおうか。というものだろう。
スマホで写真をとっても、現状似た風景ばかりで何処の何処とは想像し難いが、確かに人為的に目印を作れば解りやすい。
しかし竜郎としてはそれでもいいが、手探り状態の現状で森の状況を変えるのは抵抗があった。
その話をすると、皆が納得の表情を浮かべて進みながら目印なりそうな物を探し始めた。
「ん? ねえ、アレって何かな?」
「なんだ?」
愛衣の視線の先へと探査の魔力を多めに送ってみると、確かに何かあることが解る。
具体的に言うのなら、まるで猿のような多少知恵の回る動物が何かを積み立てて作った巣の様である。
中に魔物の反応があるが気にもせずに肉眼でも見る為に皆で近づいていくと、その巣から三匹の一本角が生えた二足歩行する緑の豚──と表現するのが一番想像しやすいだろうか。そんな魔物が飛び出してきた。
「豚肉は好きだけど二足歩行して人間っぽいのは嫌だなあ」
「また食い気ですか……姉さん」
呆れた声を発するリアといい、殺気立つあちらと違いのほほんムードがこちらには漂っていた。
魔物でありながら手には斧を持っており、負けるなどとは微塵も思っていない様子で突進してきた。
「ビヒーーービッ──」
「────」
先頭にいた個体は無言でシュベ太に頭を掴まれ勢いを殺され、首をへし折られた。
「キィィィィーー」
「ビュビッ──」
その後ろにいた二体目は清子さんの蛇のような尻尾が体に纏わりつき、全身の骨を砕いて殺す。
最後の一匹は驚愕に顔色を染めながらも急いで背中を向けて逃げようとする。
「────ッ」
けれどシュベ太の尻尾槍を投げられて、頭が破裂し声すら上げずに体が二、三度ビクンビクンと飛び跳ねて首から血を噴出させ動きを止めたのであった。




