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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第380話 大量発生中

「ジャンヌおねーさまが羨ましいですの」



 《真体化》状態は燃費が悪いので、《成体化》状態で頭にキングカエル君を乗せている奈々が不意にそう口にした。


 奈々は爺やに貰ったティアラに思わぬ効果がある事が解り、殊更ことさら羨ましがっているようだ。

 それは勿論ティアラが──と言うのもあるのだが、一番は自分の為に自発的に動き、献身的に仕えてくれる臣下という存在に。



「あのレベルの創造となると、かなり良いアンデッドを用意する必要があるからな。

 ボス竜十体か魔王鳥十体、またはそのミックスとかなら出来るかもしれない。

 帰ったらやってみるか?」

「やってみるですの!」



 今までは別に爺や一人でいいかと奈々は思っていたようだが、こうして実益が出るとなると積極的になるのだから、なかなか現金な子である。

 そんな風に思いながら竜郎は奈々の頭……にはキングカエル君が乗っているので、側頭部を撫でてあげた。


 それから様子見もかねて少しスピードを落としはしたが、順調に進めていた。

 奥に行くほど雑魚とはいえ魔物の力も少しずつ強化されていったが、シュベ太や清子さんが水を得た魚のように生き生きとし、敵を刈り取ってくれているからだ。



「これなら最後までシュベ太と清子さんで行けるんじゃないか?」

「カルディナちゃん達が怠くなるだけ、シュベ太たちは元気になってるもんね」



 本気で二人ともこのままいけるとは思ってはいないが、それでもカルディナ達の弱体化率はまだ気怠い程度で問題というほどでもない。

 なので思ったよりは楽に行けるかもしれないと思ったのだ。

 かと言って油断をするつもりも無く、気を楽に余裕をもって森の奥を目指す。



「でもやっぱり最初来た時に森に入らなかったのは正解だったね」

「ああ、あの時は探査精度も低かったし、一匹ずつなら勝てただろうが、数が多いから、どこかで足を掬われて死んでいた可能性が高い。

 それに森の中の魔物分布図もずれていたらしいから、完全に相手側に地の利のある森の中で中層以上の奴に当たっていたかもしれないしな」



 最初の方からレベル相当の強さではなかった二人だが、それでもあの時の自分たち二人だけで食料を森から調達するのは危険行為だったと、成長した今潜ってみて改めて実感し、当時の自分たちの判断に拍手を送りたくなった。


 そんな雑談もこなしつつ、数時間も経てば辺りはすっかり暗くなり、夜の森の不気味さが如実に顔を出し始めていた。

 竜郎と愛衣は称号効果で暗闇に適応したので必要ないが、解魔法が使えるカルディナ以外の為に明かりを複数灯していた。

 そのせいか接敵頻度が上昇し、シュベ太と清子さん達も大忙しだった。

 けれど二体とも目をギラギラとさせて口元を笑みで歪め、戦闘狂のように猛威を振るっていた。



「結構な速さで抜けてきてるけど、まだ中層付近には付かない?」



 ざっくりと森林の中心地から竜郎達が最初に来た場所までを三分割して深層、中層、初層と呼称している。

 竜郎はマップを確認して現在位置の大よその場所を確認していく。



「このままの速度で行けば、朝になる前には中層に入れそうだ」

「障害物は避けながら行ってるっすけど、それでもこのスピードでそれだけっすか。

 むやみやたらに広い森っすね」

「一日で踏破するつもりで来たわけじゃないとはいえ、変わり映えの無い景色に飽きてきましたの」



 それは竜郎も愛衣も思っていた事なので苦笑いするしかない。

 高速道路を延々と走っていて眠くなると言うのはこう言う事なんだろうなと益体も無い事を考え進んでいると、やたらと魔物が密集しているポイントを発見した。

 竜郎は何だろうと、一緒に探査していたカルディナと目を見合わせた。



「ピィュー?」



 カルディナも首を傾げるばかりであるが、反応からして二種類の魔物がいるのは解る。

 さっそく《分霊:遠映近斬》で映像を確認する為、歩みを止めてシュベ太と清子さんに警戒していてもらう。



「何かあったの?」

「いや、魔物がわしゃっと密集している所が合ってな。一応何か確認──うげ」

「え? ウゲーがでたの!?」

「いや、そいつじゃないが見てみ」

「どれど──うげー」



 そこに映し出されたのは蛇蛇蛇蛇。窪地のようになっている所に千匹は届いていそうなほど大量の大蛇が絡み合っていた。

 いきなりの衝撃映像に竜郎も愛衣も映像から後ろに一歩引き、その反応を見たリアも恐る恐る覗き見て顔を引き攣らせていた。



「だがもう一種類いるはずだが……って、こいつは」

「あ! いつだったか森で見かけた、りっすんだよ! たつろー!」

「りっすん? そんな名前の魔物なんですか?」

「それは愛衣が適当に付けただけだから気にするな」

「あー……」



 それだけで察したリアは、何も言わずにスルーすることにしたようだ。

 そして今見た内容を纏めると、大量の蛇が窪地にたむろっており、その窪地の縁にはリスに似た魔物──通称りっすんが監視するかのように数十匹並んでいた。


 その光景は初めて見た時に思った共生関係と言うよりも、リスが家畜でも飼うかのように蛇を使役しているようにも見える。



「うーん……別にわざわざ進行方向をずらしてまでやっつけに行く必要もないし、無視して進んじゃう?」

「それもいいかもな。直で見ると鳥肌が立ちそうだし」



 愛衣と竜郎はスルーしようと考えていたが、リアから待ったをかける。



「いえ、行ってみましょう。少し気になります」

「うぇえっ!? リアちゃん蛇マニアだったの!?」

「誰が蛇マニアですかっ! そうじゃなくてですね……。カルディナさん、蛇ではなくリスの方をズームして貰えますか?」

「ピューー」



 《分霊:遠映近斬》に映った映像を切り替えていき、大量の蛇の方ではなくリスの方をアップで表示した。



「見てください。このリス達が、もしこの蛇を利用していたのだとしたら、なぜこんなにやつれているのでしょう?

 これだけ沢山使える駒があるんだから、餌には困らないでしょうに」

「ほんとだな。よく見ると元気が無いように見える……と言うより、疲れているように見えるな」

「ってことは、これは普通の状態じゃないかもしれないと言う事になりますの」

「確かに、そこで異常が起きているんなら、あたしらにとってのヒントが有るかもしれないっすね」

「んー……そう言う事ならしょうがないね。行ってみよっか」

「だな。何も解らない現状、少しでも情報が欲しい。

 ──シュベ太、清子さん。すまないが寄り道だ」



 シュベ太たちに指示を出して、今向かっている方向に対して左斜めの方角へ進路変更して貰う。

 そしてカルディナの《分霊:遠映近斬》での映像をチェックしながら、慎重にそちらへと近づいていった。



「あそこだな」

「うーん。一匹とか二匹とかなら爬虫類系は平気なんだけど、ここまで集まると……ねえ?」

「それについては同感ですが、やはりあのリスにとっては不測の事態が起きているようですよ」



 リアが月明かりで微かに見えるリス達を、自分で性能と見た目を改造した遠見オシャレ眼鏡で細かく観ると、何かが解ったらしい。



「あのリス……りっすん、ですが……」



 愛衣が「りっすんだよ!」とキラキラした目で見つめてきたので、リアは苦笑しながら言い直して続けていく。



「《蛇洗脳搾取》という対象を意のままに操作し、その蛇が倒した時の経験値を八割も奪う、外見とは打って変わったエグいスキルを持っていました。

 それで本題なのですが、本来あのりっすん一匹一匹には、一リス一蛇が理想であり、いざと言う時の予備をとっても精々五蛇くらいが無理のない洗脳範囲なんですよ」

「ではあの状況はどう見てもキャパオーバーですの。

 りっすんの数は三十いかない位なのに対し、蛇は千匹以上もいるんですから」



 その計算で行けば、ここには蛇が百五十匹もいれば、お腹一杯状態という事になる。

 そして状況から見て、ただ欲張って沢山蛇を連れてきたと言うわけでもなさそうだ。



「ちなみに《蛇洗脳搾取》ってスキルが切れたら、蛇たちはどんな行動を取るようになるんすかね?」

「そりゃあ、とりあえず目の前にいる手頃な餌を食うだろうな。

 あれだけいたら、近場で食い物を探すにも苦労するだろうし」

「しかも、りっすんは《蛇洗脳搾取》というスキル一つのみしか持たず、自分の身一つでこの森を生き抜くだけの力はありません。

 だから生きるためには、最低でも一匹は自分用の蛇を確保しなければいけないみたいです。

 でもこの場は全員で蛇たちに薄くスキルをかけて、自分たちに敵意を持たせない様にするので精一杯。だから逃げるにも逃げられない。

 あそこにいる、りっすんが二、三匹が外的要因でいなくなってもバランスが瓦解して全蛇が解放されて終わりでしょうから、他の個体を裏切って押し付ける事も出来ない。

 まさに詰んだ状態ですね」

「あー。だからご飯も食べられずに疲れ切った顔してるんだね。

 頑張って五匹味方に付けられたとしても、焼け石に水だろうし」

「ってことはだ。このまま放っていくと、りっすん達は力尽き果てるまでが寿命って事になるのか」



 別段助けるいわれも無いのでそれでもいいと言えばそれまでだが、何故こうなったのかは調べなければ来た意味が無い。

 竜郎はカルディナと一緒に探査魔法を蛇の密集地帯に向けて綿密にかけていく。



「この反応はどこかで……」

「ピィュー」

「イモムー発生器と言ってますの」

「ああ、あれか!」

「あれってなあに?」

「ほら、レベル1ダンジョンでイモムーがやたらと生み出される黒い渦みたいのがあっただろ?

 あんな感じのが窪地の中心地にあるんだが、なんかあの蛇のうちの一匹が掴まっている? ような感じだ。

 こう……渦の中に尻尾が挟まってるみたいな」



 竜郎は左手の指で輪っかを作って、蛇に見立てた右手人差し指を引っ掻けて暴れさせるような動作を取った。



「んで、その渦から同じ種類の蛇が排出されてるみたいだな。

 頻度はそんなに高くないようだが」

「それってさ、りっすん終わってない? 現時点でもダメなのに、ちょっとずつ増えてくなんてさ」

「まあ死期が早まる程度の違いだけでしょうけどね」



 身も蓋もない言い方が、実際にそうなのだから何とも言いようがない。



「とりあえず普通の事ではない様だし、直接見てみよう。まずは現場保存から──」



 竜郎は土魔法の檻でりっすん達を全匹捕獲。



「んで、蛇を減らしてっと」



 りっすん達は驚きのあまりスキルを解いてしまう。

 洗脳が解けて窪地から這い出ようとする蛇たちをレーザーの雨で、五十匹程度まで数が減る様に焼き殺す。

 周囲に他の魔物がいないか確認してから、窪地の様子を全員で見に行った。


 近づくと蛇が襲い掛かってくるが、そちらはシュベ太と清子さんに対処して貰い竜郎達は無視して窪地を光魔法で照らす。

 すると尾の先端二十センチほどを黒い渦に引き込まれ、抜け出す事も出来ずに暴れている蛇がいるのを肉眼でも確認した。



「あれは魔物を発生させる渦なんでしょうが、おそらく発生地点と被るようにあの蛇がいたことにより、混ざり合って変質し、あの種をエネルギーが尽きるまで産むようになったのだと考えられます」

「そんなことがあるのか。なんとも運の悪い……。とりあえず、あれは消してもいいものか?」

「いいと思います。それに付随して何かが起こるようにも思えませんし」

「それじゃあ、まずは《レベルイーター》を当ててみるかな。その後は奈々、頼む」

「はいですの」



 以前ダンジョンで同じような同種の個体を産み続ける渦は、奈々の《竜吸精》で始末したことがある。

 エネルギーがなくなれば消滅してくれるのだろう。

 その時の事を思い出しながら、竜郎は奈々と並んで黒い渦の前まで歩いていき、情報収集も兼ねて《レベルイーター》を当てていくのであった。

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