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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第379話 今の時刻は……

 竜郎の視界の前には見覚えのある森、後ろには川、その向こう側にはまた森。

 聞こえるのは川のせせらぎと、遠くから聞こえる鳥の声、風に揺れる葉や草の音。



「場所は間違いなさそうだな。けど今は…………夕方か? 

 俺達がこっちに初めて来た、七日前の朝方くらいに付くようにイメージしたんだが……」

「夕焼けが差してるし、間違いなく夕方だろうね。日にちはどうなのかな?」

「普通の時計ではその辺りは対応できませんし、私の目でも時間や日にちは解りませんし……どうしましょうか?」

「あ……。その辺の事をすっかり忘れていたな。

 時計は持っていても何年の何月何日かなんて、今この時に生きている人に聞かなきゃ解らないのか」

「ならいっその事、システムの時計機能を取得するのはどうですの?

 代用が効く機能ですから、SPもそれほど高くなかった気がしますの」

「あー。確かにシステムの機能なら、なんか世界の電波的なアレとか受信して、ちゃんとした時間を表示してくれそうっすからね」

「今後も似たような事をするかもしれないし、ちょっと調べてみるか」



 普通は時間跳躍などする事も無いので、時計を持ち歩けば済むことだ。

 だが竜郎達は少々特殊な状況なので、時間をその時代に合わせて表示してくれる物が必要だという事に気が付いた。


 竜郎はヘルプを起動し、本当に時間も合わせてくれる時計機能なのかどうか確かめてみる。

 するとそのままではシステムをインストールされた時から変わらない時間を表示し続けるが、+1に拡張すれば時差を合わせてくれる機能があるらしい。

 それを利用すれば、その時いる場所での正確な日時が解るとの事。


 ちなみに+2にすればお知らせアラーム機能がつき、予定の報告などを3つまでレベルアップの時のアナウンスのような感じで教えてくれるようになる。

 +3にすれば時間表示を複数だせるようになり、国ごとの現在時刻を時差別に表示でき、お知らせアラーム枠が6つに拡張。

 などなど、やはりこちらも拡張していく毎に便利になっていくようだ。



「消費SPは始めは(4)で、拡張は(2)ずつか。

 便利と言えば便利だが、取るほどの物でもないっていうのが普通の人の感覚だろうし、安くなっているんだろうな」

「取りあえず時差を合わせられる+1までは取っちゃおうよ。たった(6)でいいんでしょ?」

「アラーム機能も便利そうだし試しに+2まで取ってみるのもいいかもな。

 システムスキルはいくら取っても他のスキルの取得難易度には影響しないし」

「目覚ましとか忘れたくない用事の時は便利そうだしね」

「ああ。今は差し迫ってSP集めに困窮しているわけでもないし、+2まで拡張で消費SP(8)でいこう」



 SP(8)くらいなら、そこいらの魔物から直ぐに取る事も出来るというのもあり、普通の人なら3レベル弱の消費を悩むことなくおこなった。



「これでよしっと。んで、今のシステムでの時間は……? ああ、浦島太郎になった時も合わせずに進んでいたのか」



 そこに表示されていた時刻は、竜郎達が出発した──。

 ヘルダムド国歴1028年.14/1.闇 8時3分。

 ではなく、目標としていた竜郎と愛衣がこの世界に来る約七日前の──。

 ヘルダムド国歴 992年.3/11.解 8時3分。

 ですらなかった。


 そこにはダンジョンで時間軸がずれた36年間を無視して、そのまま時を刻み続けた場合の時刻が表示されていたのだ。



「こりゃあ拡張しなきゃ、普通の時計としても真面に使えなくなってたな」

「むー、それくらい自動で直してくれればいいのにー。ケチんぼだなあ」

「まあ一種の別世界でもある、ダンジョンで起こった事ですからね。

 システム的には当方あずかり知らぬところであり、責任は負いかねます。ってとこでしょうか。

 それで現在時刻はどうなっているんですか?」

「ちょっと待ってくれ──えーと……これか」



 竜郎は時刻同期という項目を指でタッチする。

 すると『しばらくお待ちください』という表示が2~3秒表示された後、現在時刻が表示された。



「現在時刻は、ヘルダムド国歴992年.3/10.呪属の日、18時31分……一日ずれたか。

 転移の時間を合わせるのはやっぱり難しいな。天照の補助が無いと、どれだけずれてたか見当もつかない」

「けどさ、そのくらいなら誤差の範囲じゃない?」

「ですね。今回の七日前というのも早すぎても遅すぎてもダメかもしれないからと、大した根拠も無く適当に決めただけですし」

「予定に変更は無しですの。でもこれから行くと夜中に森を進む事になりそうですが、どうするんですの?」

「あたしは今からでも全然いいっすけど」



 夜中だろうが解魔法での探査もあるし、光魔法での明かりもある。

 森深層ならともかく、今の竜郎達が暗いからと森の浅い所で後れを取るとは思えない。

 眠るのが必要なリアも起きて数時間も経っていないので、これから寝る事も難しいだろう。



「ならとりあえずここに転移ポイントを作って、直ぐに脱出できるように準備したら森へ進行しよう」

「転移で退却できるってのは安心できていいね」



 特に他の面々も異論はないようなので、竜郎は魔法で川辺の砂利をどかし地面をあらわにさせると、大きな四角い空間を地下に作り上げる。

 そしてその地中に生まれた四角い空間の周囲に月読の水晶を張り巡らせて、強度を補強していく。

 最後に上り下りできる階段を作り、施錠魔法で適当に鍵をかけた扉を嵌め、砂利を戻せば緊急脱出時に安全に転移できる場所が出来上がった。



「こんなもんでいいかな。初層の魔物でこれをこじ開けられる奴もいないだろう」

「精々イモムーとか犬っころみたいな奴だけだしね。

 あ──でもさ、たつろーが言ってたアイツが来たらどうかな?」

「あいつ? アイツってのは──アイツか」



 竜郎は『アイツ』の姿を思い出し、眉根を寄せた。

 その表情に奈々は何だろうと首を傾げた。



「どいつですの?」

「いや、俺達が最初にここに飛ばされてきて、一番近くの町まで向かっている最中に、かなり高位の竜が空を通り過ぎて行ったんだよ」

「りゅ──竜ですか!? こんな所に!? どどどどどうして!?」

「いや、知らない。リアの反応からして、本来はこの辺にいる様なもんじゃないのか?

 今思えば明らかに知性を感じたし、魔物ではなく人間の竜だと思うんだが」

「そりゃあ人間の竜なんて、この辺りにはいないはずですよ。それも高位のなんて……」

「ああ、でもまだあの頃はレベルも低かったし、実際よりも凄そうに見えただけで、ただの下級竜だったのかもしれないが」

「それならまあ迷い込んだとかなら──かなり珍しいですが……。

 でも下級竜程度なら竜水晶は壊せませんし、上級竜でもこの手抜きで作ったとはいえ、かなり硬いこれを壊す必要性も見出さないでしょうから大丈夫でしょう」

「それもそうだね。人間なら特に意味のない苦労なんかしないだろうし」



 あの美しい銀鱗の竜を思い出していた竜郎は、当時は見つめられただけで身動き一つ出来なかったが、今なら勝てるかもしれない──などと思いながらも、まあいいかと頭の隅に追いやった。

 恐らくリアの反応からしてただ偶然通りかかっただけであろうし、ここに来るのは約9日後くらいの事だ。それなら気にしてもしょうがないだろう。



「竜で思ったけど、空飛んで奥まで行っちゃダメなの? そっちの方が速そうだけど?」

「まず今回の何かを探すなら森の中だろうし、空からだと見過ごしてしまう可能性が高い。

 さらにいきなり最奥に突っ込んで調子が最悪最低状態になるよりも、地道に進んで少しずつ慣らしていった方が、まだ対応できるかもしれないだろ。

 どのくらい影響が出るのかも、もしかしたら俺や愛衣にも影響が出るかも、まだはっきりしたわけじゃないんだから」

「それもそっか。んじゃあ、地道に行きましょうかね」



 ということでその話題は流れ去り、さっそく夜へと向かってより一層薄暗さを増し始めている森へ踏み入る事にした。



「シュベ太。清子さん。それと、ぬりかべ一号──出てきてくれ」

「────」「キィィィー」「────」



 初層での露払いで消耗する訳にはいかない。万全の状態で進むためにも、初めはこの三体に任せることにした。

 ちなみに『ぬりかべ』は珊瑚の魔物を完全に壁の形にし、その名の通りの外見へと変貌をとげた魔物の事で、《形状変化》というスキルが付いている。

 なので細長くなって細い場所をすり抜けたり、平べったくなって広範囲を覆ったり──なんて事も出来るので、壁役としての汎用性は高い。

 一号と言っている事から解る様に複数体存在しており、竜郎の《強化改造牧場》内には六号までいる。



「わざわざ刺激しながら行く事もないだろし、なるべく静かに進もう」



 ぬりかべ一号が《形状変化》で体積そのままに円柱状の体になって、一番先頭を進む。

 その後ろにシュベ太と、《伸縮自在》を使って二メートルほどの大きさになった清子さんが続く。

 ジャンヌは竜郎と愛衣、リアを守るように《幼体化》状態で歩き始め、その横に奈々がつく。

 竜郎は愛衣と手を繋ぎ魔力回復速度を最大限引き伸ばしながら、消費ゼロ状態でカルディナと一緒に探査魔法を走らせる。

 リアは竜郎達のすぐ横で、蜘蛛足型の魔道具を使って動き、カルディナはその上を飛んでいる。

 アテナは鎌を手に持ち警戒しながら殿を務めた。


 歩き始めて数分で周囲を木に囲まれた状況になり、目立ちすぎない様に暗めのライトを光魔法で灯しながら進んでいく。

 すると何匹か魔物と戦闘になるが、ぬりかべに止められ、シュベ太や清子さんが難なく仕留めていく、



「このあたりなら、シュベ太たちだけでどうとでも出来そうだな」

「探査魔法とぬりかべ一号のフォローを受けながらだし、問題ないっしょ。

 それになんだか生き生きしてる気もするし、もう凶禍領域っていうのの影響を受けてるのかな?

 リアちゃんはどお?」

「私は特に今の所は不調は感じていませんね。恐らく目に見えて影響が出だすのは中層辺りからじゃないですかね」

「カルディナ達も問題ないか?」

「ピィューイ」「ヒヒーーン」「ないですの」「大丈夫っす」「「────」」



 まだ魔力体生物組やリアに問題は現れていない様だ。



「ならスピードを上げていくか。とっとと初層は越えてしまおう。

 ぬりかべ一号は一旦戻ってくれ。んでもって、シュベ太、清子さん。行進速度を上げていくぞ」



 ぬりかべは《強化改造牧場》によって孵化前に機動力を大幅に上げてはいたが、いかんせん元の素体となったサンゴ礁たちの速力が酷かった。

 前の素体のままでは幼稚園児とかけっこさせても勝てない程に。


 そんな有様だっただけに、いくら強化して早くなったと言っても小学生の中では足が速い方──くらいにまでにしかならなかった。

 なので危険な敵が出てくるまでは温存という体で、一時戻って貰う。


 シュベ太と清子さんだけになると、奥へと進む速さが一気に上がった。

 木々が鬱蒼と生える障害物だらけの道もなんのその。

 するする抜けて竜郎の指示方向から来る、またはいる敵をバンバンと倒し道を切り開いていく。

 竜郎達はその後ろを付いていくだけでいいので随分と楽が出来た。


 やはり見たことのある魔物も、そうでない魔物も余所よりも練度が高かった。

 けれどシュベ太達ほどではないのでドンドンと先へと進んでいき、深夜になるころには森全体の四分の一程までやって来れた。

 だがそれくらいになると、いよいよこの森の恐ろしさが牙を剥き始めてきた。



「ん……。なんだか体が少しだけ怠くなってきた気がします」

「──なに? 一旦ストップ!」



 先行するシュベ太と清子さんを止めて、周辺警戒に移って貰う。

 それから全員の体調チェックを始める。



「生魔法でも怠さは取れないか?」

「はい。やはり凶禍領域の影響が出てきたようです」



 今の所不調を感じたのはリアだけの様だが、よくよく調べてみるとジャンヌ以外の魔力体生物組もほんの少しだけ、言われなければ気が付かない微々たる程度であったが、身体能力の低下が見られ始めた。

 ちなみに竜郎と愛衣。そして魔物のシュベ太と清子さんは何ともない。



「俺と愛衣は適応したのだとして、ジャンヌは何で大丈夫なんだ?」

「おそらく爺やに貰ったティアラが緩和してくれているのだと思います。

 ジャンヌさんに最も相性のいい気に満ちていますし。

 ですが緩和しているだけで完全に抑制することはできないと思います」

「ヒヒーーン」



 リアのその分析結果にジャンヌは残念そうに鳴いた。



「だがカルディナ達よりは状態が緩和されるんだ。爺やは良い仕事をしてくれたな」

「帰ったらお礼を言わなきゃね」

「ヒヒン!」



 どうやらこの先、姉や妹達よりは竜郎達を守れそうだと、ジャンヌは心から爺やへと感謝の念を送ったのであった。

次回、第話は12月13日(水)更新です。

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