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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第373話 なぞの発展をしていく領地

「それにしても、とんでもない食材を作り上げてしまったなタツロウ。

 これではいくら値を付けていいか予想できんな」

「純天然物のララネストだといくらぐらいなんですか?」



 竜郎のその言葉に対しハウルがチラリとジネディーヌへ視線を向けると、軽く頷き口を開いた。



「今まで我が国で出回ったのは死骸や死ぬ寸前の弱った個体などで、何処かつつかれていたり腐る寸前──または部分的に腐っていたりと、状態の悪いものばかりでした。

 そこでいくと先ほど見せて頂いた完璧な状態で、生きのいいまま絞めて冷凍されたものとなると、1億5千万シスは最低でもいくでしょうね」

「わおっ。ララネストってそんなにするんだ」



 卸し価格でその値段なので、売値はもっと吊り上るだろう。

 そうなると実際に提供される料理は一体いくらになるのかと、週に一度のお楽しみ感覚でむさぼっている物の価値に愛衣は目を丸くした。


 その素直な反応に一同クスリと笑いながら、ジネディーヌが話を続けた。



「それで魔法使いにとって有益で、さらに飛び上がるほど美味しい食材の値段なんですが。

 一口食べると30分持つとして、では二口食べれば効果はあるのかどうかでも変わってくると思います」

「であろうな。どんなに食べても30分程度なのか。もっと食べれば効果はより長くなるのか。というのは、非常に重要な事項であろう。

 もう少し貰ってもよいか?」

「ええ、いいですよ。それは自分では確認できないので、むしろ教えて貰えるとありがたいですし」

「……先もタツロウ殿には効かないというような事を言っておりましたが、もしやその食材はタツロウ殿の魔力──または魔法などが関係した養殖方法なのでしょうかな?

 ああ、答えたくなければ答えなくて結構ですぞ」

「うーん。まあ、そのくらいなら答えましょう。確かにファードルハさんのおっしゃるとおりです。

 だから効かないし、気が付きもしなかったんでしょう」

「なるほど……教えて頂きありがとうございます、タツロウ殿」

「いえ、どういたしまして」



 この時ハウル達の頭の中で巡った考えは、だいたい以下のような感じである。


 魔神様の御使いとなれば、誰も知らない様な魔法をいくつも使えても不思議ではない。

 その中の未知のスキルで、魔神様のお力を間接的に込める様な育て方をしているのかもしれない。

 という事は、このララネストを食べる事で、間接的に魔神様のお力に触れることが出来るからこそ、魔法使いにのみ力が少しの間だけ増すのではないか。

 ほしい! なんとしてでも売ってほしい!


 ──と。


 そうなると目の前のララネストがエルフの三人には光って見えた。

 それは神の力が宿った特別な食材なのだと。そんなものを民間に渡らせてしまっていいのだろうかと思考がさらに巡っていく。

 自分たちで出来るだけ確保しておきたいと思ってしまっても、それは仕方がない事だろう。


 けれど竜郎の──もっといえば、神の力を王族とその周囲で独占しようなどと浅ましい考えを持っていると知られれば、得られるものも得られなくなってしまうかもしれない。


 そんな考えに数秒で行きついたカサピスティの首脳陣は、軽く目配せをしあい黙って二口目を頂くことにした。



「──くぅ。やはりこの強烈なうま味! たまらんな!!」

「ええ。まさに至上の食材といっても相応しいですね、陛下!」

「……ふぅ。それに陛下。この不思議な強化の力も持続時間が上がっている気がしますぞ」

「む、本当だな。もっと食べてもよいか?」

「ええ。実験に付き合って貰うわけですし、効果が上がらなくなるまで食べて貰って構いませんよ」

「なら、さっそく」



 竜郎が調理し、愛衣が一口サイズに剣術スキルを使って小さなナイフであっという間に切り刻む。

 その早業にヨーギとレスは恐れと敬意、そして羨望のまなざしを送る。

 皿に盛られていく切り身を一口ずつ味わいながら、持続時間が延長されていくのを感じてモリモリ食べていくハウル達。

 そんな奇妙な空間が少しの間続いた。


 結果。解った事は次の通り。

 個人によって微妙に差異はありそうだが、大よそ百グラム程度で七日ほど持続するようになる。

 強化率はだいたい一割ほどで、こちらはいくら食べても変わらない。

 ただ魔力の回復速度だけは、ほんの少しずつ百グラム程度食べきるまでは上昇する。



「これだけ美味しくて七日ほど効果が持続しそうなど、夢のような食材ではないか!

 ここここれは是非! 我が国に卸してほしい! 頼む、この通りだ!」

「うぇ!? いや、王様が頭を下げないで下さいよ!!」



 一国の王が地球ではそこら辺にいる高校生の少年に、必死の形相で頭を下げるなどありえないだろう。

 竜郎は慌てて顔を上げて貰った。



(これでララネスト2の存在を伝えたらどうなるんだろうか。

 もしあの味でより高い効果が得られたとして、それを知った日には……)



 ただのララネストでこの有様なのだ。竜郎はやはり暫く伏せておく事にしようと改めてここに決めた。



「もちろん売るのは構いません。でもほんと美味しく食べるだけで効果が出るんですから、いくらになるんでしょうね」

「もう私でも、この場で決めるのはちょっと……。帰ったら商人たちと話し合ってみます」

「お願いします。そうなると後は──」



 竜郎に一番美味しくないのはどれかと言われて面々が指したのは、満場一致でブロイララネスト。

 無理やり素早く成長させると、やはり味は格段に落ちる様だ。

 自然養殖ララネストは魔法職でない人にとっては二番目に美味しく、純天然物より少し劣る程度というのも、こちらで食べて解った事と変わりなかった。 


 取りあえずその場の話し合いでは、ブロイララネストは安く。天然物は1億5千万シスを基本に、自然養殖ララネストはそれよりも少し値段抑え目。

 純《強化改造牧場》産は、保留。という事で落ち着いた。


 さあ、これで終わったかなとハウル達の空気が弛緩した頃、竜郎はもう一つ話しておきたい事を思い出した。



「ああそうだ。これも作ってみたんですけど、結構おいしかったんで商品としてどうですかね」



 そう言って竜郎が出してきたのは、お皿に乗せられたお煎餅。

 そしてそこから香る臭いは、先ほど食べていたララネストの物であった。



「「「「「こ──これは!?」」」」」

「ララネストの殻をカリカリに乾燥させて粉末状にし、それを米粉に混ぜ込んで作ったお煎餅です。

 素材がいいだけに、一度食べだすと止まらなくなっちゃうんですよね」

「なんと──!? 殻は防具などの素材にするなどとは聞いたことがあったが、そんな食べ方が! 一つ頂こう!」

「ええ、どうぞ」



 お煎餅に群がるハウルたちに、愛衣もさりげなく手を伸ばして口に運んで幸せそうな顔をしていた。

 その顔に癒されながら、クッキーや煎餅はおろか、ポテチのような芋の薄揚げ菓子まで普通に売っているこの世界で、『えびせん』のような食べ方は浸透していないんだなと竜郎は意外に思った。


 この『えびせん』ならぬ『ララせん』は捨てるだけの殻で作った物で、その元となる粉末も体長二メートルもあるララネストなので一匹でも沢山手に入る。

 さらに煎餅以外の料理にも応用できるし、ご飯に振りかけるだけでも美味しい魔法のパウダーだ。

 これなら庶民にもララネストの味を届ける事が出来るかもしれないなと確信した。

 こんなに美味しいのだから、人生で一度くらいは他の人にも味わってほしいのだ。


 結局、竜郎にマージンが入る様な契約で『ララせん』の製造は別の所に委託するという形で、本来廃棄する部分から作れるという事もありララネストの宣伝にも使えそうだと喜んでいた。

 今のララネストの認知度は、知る人ぞ知る食材と言った余程のグルメな人間しか、あまり知られていない食材らしい。


 また米も珍しいもので、そこから作られる米粉で作るのは厳しいらしいので、小麦粉で作る事になった。

 竜郎からしたら小麦よりも米の方がたくさんあるので、こちらもいつか売りに出していいかもな。とも考えた。



(あとはブロイララネストを大量に生産して、そっちは早めに原価が下がるようにしてみようかな。

 その間にララネスト2の研究や、ララネスト3とか作れたら面白そうだ)



 そんなこんなで無事に商談も纏まり、後はこちらのGOサインを出せばいつでも動ける状態にしておくとジネディーヌが約束してくれた。

 全員で応接室ならぬ応接家から出ていく。

 その時ふとハウルは竜郎達の城のある方角へと視線を向けた。



「そういえば、他にも聞きたいことが色々ありすぎて聞きそびれていたが、あそこにある道の様な物はなんなのだ?」



 その道とはもちろん、竜郎が月読と一緒に力技で整地した場所に敷かれた竜水晶である。

 恐ろしく綺麗に真っすぐ伸びる水晶の道は、足で踏むには躊躇するほど美しかったので、何か他に用途でもあるのかもしれないと思ったようだ。



「ようなものではなく道ですよ、王様。ここを真っすぐいくと、僕らが住んでいる居住地に行けるようになっています」

「これが道……はぁ……。なんだか我が国内の領地であるというのに、まるで別世界だなここは」

「ははは……大げさですよ……」



 竜郎はフイッと目をそらして明後日の方角を向いた。

 実は全部が終わったらリアに鉄道を地球で観てもらい、この領地内を巡る電車を通す計画まで竜郎達の間だけで密かに上がっているのだ。

 こちらからしたら、それで両親を呼んだ時にでものんびり領地内観光などしゃれ込んでみるのも楽しいかな。など完全に趣味的な発想。

 けれどこの程度でこんな感想が出るとなると、それを見たらどんな反応をするのだろうかと冷や汗が出た。

 ただ、だからと言って自重する気はないのだが。


 何もしてないのに自国の一領地が謎の発展を遂げていっている様に疲れた顔をしながら、ハウル王たちは駕籠に乗って城へと帰って行った。



「ふう。これで後顧の憂いも断ったし、そろそろ俺達も本格的に慣らしに入るか」

「うん! ──ってあれ? たつろーは特に装備品変わって無いじゃん。何を慣らすの?」

「実は天照と月読と一緒に、新しい戦闘スタイルを考えてみたんだ。

 そっちを試してみようかなってな」

「いつのまに! 私に隠れてそんな面白い事を!」

「いや、別に隠れてやってたわけじゃないからな」



 とはいえ、慣らすにしても相応の実力を持った魔物を探さなくては直ぐに終わってしまう。

 出来ればあまり手加減しなくてもいい相手がいい。

 だがそうなると身内くらいしかいないが、本格的な魔法を向けるのは竜郎は気が乗らなかった。

 いくら気を付けてやっても、ちょっとしたミスで大怪我を負いかねないのに、自分の彼女や娘たちにはとてもじゃないが頼めない。



「そこで白羽の矢がたったのが君たちだ!

 ──ああ、でも勘違いしないでくれよ。別に傷つけてもいい奴らと思っているわけじゃあないからな!」

「クィイイイロロロロゥーーー」

「「「「「「ゴォオオーーー!!」」」」」」



 一匹の龍と六匹の人型ワニは、むしろ早く戦ってみたいと上機嫌。どうやら主の実力を直に感じ取れるのが嬉しいようだ。


 そう。今回頼んだ模擬戦の相手とは、いつも城を守ってくれている蒼太&ワニワニ隊の皆さんの事である。



「それじゃあ、よろしくね!」



 竜郎&愛衣With天照と月読 VS 蒼太&ワニワニ隊。

 四対七と数の上では不利だが、それでも負けはしない。

 けれど相手も何体も魔物を倒しスキルやレベルを上げてきた猛者もさ達だ。

 決して油断していいレベルの相手でもない──と、今回の慣らしには最適のメンバーだ。


 竜郎はグローブをしっかりと嵌め直し天照を手に握り、月読のコートのしわを伸ばす。


 愛衣は両手に体術用のグローブをはめる。

 そして右手に鞭、左手に宝石剣。腰には軍荼利明王、そこから出ている八本のロボットハンドには天装シリーズの槍のユスティーナ、扇の幻想花、ハンマーのカチカチ君、両刃斧のガブソンを右手側と左手側に二個ずつに分けて持たせ、後はその掌から気力の槍を突き出させた。

 さらに鎧からは黒い気力を噴出させて、いつでも盾が張れるように防御も万全。


 場所はカルディナ城から少し離れた砂浜。その間の警護はシュベ太と清子さん、そして爺やに任せた。


 周囲に壊して困る物は無い開けた砂浜で、お互いに向かい合う。



「いくぞ!」

「はいよー!」

「クュィロロロゥロロロゥーーー!」「「「「「「ゴォゴォオオオオ!!」」」」」」



 そうして気合の声がぶつかり合ったのであった。

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