第369話 領地に壁を
カルディナ城を出て約30分程経って、ようやく竜郎達は本日のメインイベントへと移行していく。
「まずは領への入り口の場所を決めようか」
「えーと、その入り口近くにララネストの倉庫と応接の為の施設を建設するんだよね。
ん~なら何処でもいいっちゃ、いいのかなあ」
二人でリアお手製の適当地図を広げながら、カルディナ城の城壁に背を預けて話し合いを始めた。
「あちらさんからしたら、王都に近い方が嬉しいんだろうな。
けど他の町まで行かなきゃいけなかった輸送ルートを大分ショートカットできるようになるんだから、そこはこちらの都合で考えてもいいだろう」
「こちらの都合? 基本たつろーの転移での移動だと考えれば、それこそどこでもいいと思うけど」
「けどそれは俺がいるとき限定だろ? 転移が使えない時の事を考えれば、カルディナ城から真っすぐ伸ばしたこの辺りがいいと思う」
竜郎が地図を指差した場所は、カルディナ城の背中側から一直線に最短距離を行った領地の境目だった。
最短距離といえども数百キロほどの距離はあるが、曲がることなく直線に進むだけなら愛衣の脚力をもってすればあっという間に入り口まで走っていける。
そしてそれなら忘れる事も無ければ迷う事も無いと、言われてみればいいことずくめだと愛衣は思った。
「解りやすくていいね! 賛成だよ、たつろー」
「んじゃあ、そういうことでいこうかね。せっかくなら整地もついでにやりながら行くから、道中は頼んだぞ」
「はいよー」
カルディナ城から真っすぐ領地の境界線まで行く道のりなら、途中まではクー太と出会った日に引いていたので、まずは整地作業が途切れている場所まで進んでいく。
出来るだけ坂も無く平らに進んでいけるように、土魔法で膨らんだ箇所は削り取り、窪んだ箇所は嵩増しし、山があれば山ごとずらして……と、竜郎ならではの力技で綺麗に竜水晶の道が出来上がっていく。
しかもそれを後ろ向きに愛衣に小脇に抱えられた状態で、時速数百キロの中でやっているのだから、この世界の常識と照らし合わせれば人間業ではない。
愛衣は新しい鞭が殊の外お気に召したようで、竜郎を抱えているので片手しか使えないにもかかわらずビュンビュン振り回して魔物を次々と弾き殺していた。
「とーっちゃく!」
「ふ~。思ったよりあっという間に出来たな。これなら魔物避けと雨の日も濡れずに行けるように巨大トンネルにしてもいいかもな」
「透明度を上げれば日光も普通に入って来れるし、ガラスのトンネルみたいなのが出来そうだね」
「そう言えばリアに日本の乗り物について話した時に、暇になったら鉄道を領地内に通すのも面白そうとか言ってたな。
トンネルを作るにしても、リアに相談した方がいいかもしれない」
「あー、いつだったか朝食の時にそんな話もしてたね」
見た目は無色透明で城から領地入口まで伸びる綺麗なトンネルを想像し、愛衣は是非とも見てみたいと思ったが、そう言う事なら仕方がないと一先ず諦めた。
そんな彼女の思いを察して、ちゃんとリアと相談したうえで、美しい水晶トンネルを作ってみせようと心のメモに書き留めておいた。
まあ、デザインはリア頼みになるのだが……。
「ってことで、その前にまずは壁作りだ。入り口は大きい方がいいんだろうな」
「小さくて入れないんじゃ困るし、でっかい荷物を運ぶ運搬業者が出入りするならその方がいいね」
大きいと言って思い浮かんだのは国境門の扉だったので、それを参考に設置場所の幅を決め、大よそで印をつけた。
それからマップ機能を立ち上げ、さらに自身の領土を示す証明書に記載されている地図と照らし合わせながら、解魔法で細かくラインを確認していく。
確認作業が終わると土魔法で領土の境界線を入れるように、かなり深い溝を造り上げる。
「やー!」
竜郎の魔法の気配を察知した魔物が何事かと寄ってきたので、愛衣は鞭を伸ばして貫き弾き潰して殺していく。
大丈夫そうだなとチラリと愛衣の方を見て確認した竜郎は、作った溝に沿うように月読と共にスキルを発動させながら大量の竜力を天照に注ぎ込んでいく。
「いくぞ! ──はああ!」
あまりにも大規模に渡る魔法なので意識せずに気合の言葉が漏れる。
すると竜水晶の壁が溝から生え出すように伸びて行く。
たまたまそれが見える範囲を歩いていた者達は、突然地面から生えてくるように伸びていく、宝石の様に美しい水晶の巨壁に何事かと腰を抜かし、阿呆のように口を開けてそれを眺める。
そんな中であっという間に竜郎の思い描いたままの壁が、自分たちの領域を囲い込む様に隙間なくそそり立った。
高さは万が一も考えて五百メートル。厚さは10メートル。
天頂部にはV字型に枝分かれするように反しが付いているので、たとえ上まで昇れたとしても、壁を越えるのは難しくなっている。
ちなみに雨など降ってきた時の水がV字の谷間の部分に溜まらないように、ゆるやかに壁の隅へと流れて海に落ちるように設計されているので安心だ。
また昇るにしても極闇の魔力で材質は氷よりもはるかに滑らかで真っすぐな壁面をしているので、手足をかけて登ったり、梯子か何かを立てかける事も出来ないようになっている。
もちろん硬度も極限まで底上げしているので、竜郎や愛衣であっても容易く壊せないほど頑丈だ。
薄青色の美しい水晶の壁面に、竜郎は満足げに見上げて笑みを浮かべた。
愛衣も近寄ってくる敵をなぎ倒しながらも、チラチラと壁を見ては目を輝かせていた。
「それじゃあ上に登ってみるか。愛衣、キリの良い所でこっちへ来てくれ」
「はーい。ちょっと待ってねー──と」
突然出来上がった壁に興奮気味にやってくる魔物達をあらかた殺し終ると、鞭の長さを元に戻して竜郎に抱きついた。
愛衣をしっかりと抱き上げた竜郎は月読に翼を出してもらい、天照に風を起してもらい空へと舞い上がって、V字に反り返った天頂部を越えて谷部分の壁上へと到着した。
目の前には反り返った壁があるが、この部分はそこそこ透明度が高くなる様に作ったので、高い場所からしっかりと辺りを見渡す事が出来た。
地上五百メートルの光景は中々に見晴らしが良い。
「今度は何するの?」
「今度はここに《竜水晶植花》で、領土側の外側の反しの面に竜水晶の植物を植える。
そうすればこの壁を何らかの手段で魔物が登ってきたとしても、植物に囚われて死に絶えるって寸法だ」
「領土側だけでいいの?」
「そっちは人間がテイムした飛行魔物で興味を持って触ろうとしただけで殺しちゃうからな。
領土内側なら不法侵入でトラップに嵌ったと言えば良いかもしれないが、外側までは流石にやりすぎかなと」
「あーそうだね。それに《竜水晶植花》で作った植物ってとっても綺麗だから、それだけで手に取ろうとしたり見たりしようとする人が出て、余計に被害が広がったりしても不味いもんね」
「そういうこった。それじゃあ、もうひと踏ん張りだ。やるぞ、月読!」
「────!」
コート内側の月読のコアがピカピカと輝くのを感じ取りながら、竜郎は自分の竜力を消費させて月読に《竜水晶植花》を片側の反しに生やしていった。
あっという間に見た目は綺麗な極悪トラップをつけ終わった後は、本格的に扉作りへと乗り出していく。
愛衣を抱えてゆっくりと領土側の方へと着陸した竜郎は、最初に扉を置く場所と決めた印のつけた辺りに近寄っていき、愛衣は魔物が来ないか鞭を構える。
「この辺りだな。よいしょっ────と」
竜水晶をどういう風にいじるのか月読にイメージを飛ばしながら、竜力を流していく。
月読はそのイメージに沿って、立派な扉になる様に壁面の竜水晶を操作して作り上げていく。
扉作りは壁を作る時に一気にやっても良かったのだが、丁寧にやりたかったので分割して作業をする。
そのおかげか観音開きではなく、壁の内側をくり抜くようにして作った、横へスライドして開けるタイプの大きな扉が出来上がった。
こうすればよけいに場所をとることも無いだろう。
装飾は自分にセンスが無いのは解っているので、こちらもリアが暇な時にでも相談するつもりで、申し訳程度にコの字型の取っ手を付けるだけに止め、ただのつるりとした簡素なものとなっている。
「お次は鍵を付けてっと」
物理キーをどうするかは今後考えるとしても、魔法キーは今ここで作ってしまう事にする。
とはいえ今回の魔法錠は極光、極闇、極火、極水、極風、極土、極樹、極雷、極氷、極生、極呪、極解と、それぞれ属性魔法を20レベルまで上げなければ生成すらできない特殊魔力を使った最難解魔法錠にするつもりなので、それだけでも十分ではあるだろう。
かなり強力な鍵となるのでその構成は竜郎一人だけでは到底不可能。
なのでほぼ全部の思考作業を天照の演算装置に丸投げして、最適な魔法を造り上げて貰う。
そうして出来たばかりの魔法錠の魔法を、今できたばかりの大きな扉にかければセキュリティは万全となった。
「よしっと。これなら例え俺と同じスペックの人間がいたとしても、魔力頭脳が無ければ解けないだろう」
「それはもう実質解魔法でのピッキングは不可能って事じゃん。
んでもって扉や壁を破るにしたって並みの上級竜が集まっても壊せないくらい頑丈だし、難攻不落の壁ができたね!」
「まあ、空から飛び越えることはできるだろうがな」
人間は入ってきたところで野生の魔物が勝手に阻んでくれるだろうが、空飛ぶ魔物までは囲っておけない。
けれど飛んで出て行けるような魔物は、どちらにしても完全に防ぐのは難しいので、そこは御愛嬌と言う物だ。
そこまで竜郎たちが気にする必要もないのだから。
そう開き直りながら今度は倉庫を門から入ってすぐ横へ、壁にくっつけるようにして巨大な竜水晶倉庫を作り上げた。
後でリアが魔道冷凍庫の設備を付けやすいように、設置場所など細々とした部分もちゃんと作られている。
後はその部位にリアが魔道具を付けてくれれば、巨大冷凍庫の出来上がりだ。
鍵は先とまったく同じ全極属性からの魔法錠の鍵をかけた。
「応接室って言ってもどうするか。こじんまりしてたらまずいか?」
「一応身分の高い人が来るかもしれないし、そこそこ体裁を整えた方がよくない?」
「それもそうか」
という事で適当に竜水晶で作った骨格に、極闇魔法で極限まで固くした土を覆い被せて、レンガ作りの様なオシャレな模様を付けて行く。
そうすれば、あっという間に見た感じレンガで出来たそこそこ豪華な大きな家が出来あがった。
下には広い玄関に、応接室やお客を寝泊りさせる客間まで完備。
カルディナ城から観たら貧相だが、地球にいた頃の竜郎達の感性から言ったら十分豪邸だ。
後は適当に家具を並べておけば、最低限王様が来たとしても通せるくらいの体裁は整えられるだろう。
「はい出来上がりっと。こっちにも空調設備くらいは後で付けて貰うかな」
「これがたった数秒で出来るんだもん、凄い時代になったもんだねえ」
「……時代は関係ないからな。魔法でもなきゃできないだ──いや、3Dプリンターがもっと発展すればあるいは……」
などとちょっとした小ボケを挟みながら、今度はこの倉庫とお客対応用の家の周囲に、非常に透明度の高い竜水晶の壁を張っていく。
このまま剥き出しだと、壁の外側はまだしも内側に入ったら無防備過ぎる。
なので薄くとも頑丈な透明な竜水晶を地面も含めて張り巡らせて覆っていき、四角く区切られた空間を作る事で空からも地面からも魔物の侵入を阻む。
そしてこちらにも扉を作るが、これまで透明にしてしまうとどこが扉なのかパッと見解らないので、一つだけ薄青色の物を設えた。
これで門とここで、領に入るには二つの扉を通らなくてはならないようになった。
魔法錠はまた全極属性を用いたモノではあるが、感覚的には順番を変えたとでも言えばいいのか、とにかく入り口とはまた違う型の物に変更する。
そうする事で運搬業者に表門とそれと同じ型の倉庫の鍵を渡しても、奥には入れない様にした。
王が用意した業者を信用してないわけではないが、鍵が奪われないとも限らないのでこういう措置を取らせてもらった。
「ふう。これで大体はやり終ったかな」
「だねー。お疲れ様」
愛衣に抱き寄せられ、竜郎はもたれ掛るようにして抱きついた。
竜力はごっそり減ったが、魔力の方は大分回復しているので動けないという事は無いのだが、精神的疲労が少しあったのか、やや眠気を感じていた。
竜郎は少しだけ甘えるように目を閉じて、愛衣に身を任せたのであった。
次回、第370話は11月29日(水)更新です。




