第364話 魔砲機
帰還石のカートリッジの挿入方法などを聞いたあとは、その他の細かい機能について聞いていく。
「一つ目は姉さんのガブソンを見て思いついたギミックで、刃の角度をほぼ360度可動できるようになっています。
やり方は魔力頭脳に命じるだけです」
「命じるだけでいいんすね──えいや」
「おー、刃が畳まれたね」
愛衣が物珍しそうに見つめる先には、L字に近い形をした鎌の刃が内側にスッと可動し棒状の鈍器のような形へと変化した。
今度は時計回りに反対方向へと動かせば、刃が外側に向いた鉈のような形状になる。
さらに刃を垂直に伸ばせば、槍のような薙刀のような剣のような、刃と柄がほぼ同じ長さの変わった武器にもなった。
「これならまず垂直で突き入れて、引くときにL字に戻せば簡単に首を落とせそうだな」
「他にも臨機応変に刃の向きを調整すれば、色々な戦い方ができると思いますの」
「それはいいっすね。色々試してみる事にするっす」
型に囚われない戦い方が出来そうだと、アテナもその仕様が非常に気に入った様子だった。
それに満足げな顔しながら、リアは分化の力を使って貰う事にした。
刃の向きはL字に戻し、言われた通り右手に持った鎌を分化すると、左手にももう一本鎌が出てきた。
けれど全く同じではなく、分化した武器には魔力頭脳の部分が丸々カットされた状態だった。
「分化した方は魔力頭脳が無いみたいだけど、機能的にはどう変わってくるのかな?」
「一応本体とリンクしているので、魔力頭脳の恩恵がゼロになるわけではありません。
ですが本体を100%とするならば、分化した二本目は80%程くらいの恩恵しか得られません。
さらに三本分化すれば本体とのリンクが薄くなり、分化した二本は60%。四本では40%と分けるほどに分化した鎌の演算能力は低下していきます。
そして分けるほどに魔力頭脳にも大きな負担がかかるので、その分消費も早くなるので帰還石は使うごとに直ぐに新しいカートリッジに変える事をお勧めします」
「了解っす。けど魔力頭脳の恩恵が得られなくても、あたしからすれば全力で振るっていいってだけで十分っすよ」
もっとやりようがあったのではないかと、悔やむような表情をリアがしていた。
けれどアテナからしたら今言った通りの気持ちなので、何も悔やむ必要は無いと満面の笑顔で鎌を握った。
「そう──ですね。ですがいつかはもっと最上の性能を引き出せるようになりたいです」
「その向上心は素晴らしいが、あまり無理はするなよ?」
「そこはわたくしが見張ってますから、大丈夫ですの!」
「そりゃあ心強いね!」
「ですの!」
「あはは……」
実際に奈々はこれ以上はリアの体にとって良くないと思うと、多少強引にでも作業の手を止めさせていた。
リアからしたらまだ大丈夫だと思っていた時もあるので不満に思う時もあるのだが、横になると直ぐに眠気に襲われる辺り、自分の体調は奈々に完全に理解され管理されているのだなと苦笑した。
分化を試した後は拡大と縮小もやってみる。
今までは分化しなければ大きさは変わらなかったし、それでは縮小しかできずに元の大きさ以上にはならなかった。
けれど今回は分化しなくても小さくできるし、元の大鎌をさらに巨大化して振り回す事も出来るようになった。
「結構デカくなるんすねー!」
「大鎌ってレベルを軽く超えているな」
アテナの手には持ち手と魔力頭脳部分だけはそのままで、後は巨大化して十メートルは有りそうな超大鎌が握られていた。
部屋の中では振り回すのは出来ないが、広い場所で魔物に囲まれている時などには大量に刈り取る事ができるだろう。
さらに小さくして刃の角度を調整すれば手の平サイズのナイフの様にもする事が出来た。
「大きくするのは気力で嵩増しすればいいけど、小さくは出来ないから私もそういうの欲しいなあ」
「それは現在の私の技術では難しいですね。
この鎌が大きさを変えられたのは、元の武器の性質を使ってやっとできるようになっただけですし」
「とはいっても縮小拡大するだけでいいのなら、安価な素材で作れたみたいですの。
けれど素材的におかーさまやわたくし達どころか、そこいらの中堅冒険者でも気力を思い切り注げば壊してしまうレベルの素材しか見つけられていないので、実用化に向けるとなると長い道のりになりそうですの」
「そうなんだ。それじゃあ、アテナちゃんの今の鎌の元になったのって実はけっこう稀少な物だったんだね」
「ですね。けれどそれを使うにしても、今のレベルの合金にするのには宝物庫でアテナさんが頂いた貴重な素材や竜瞳玉。私のスキルの《品質向上》などなど、あの手この手でこねくり回した末に出来た傑作ですから、何か新しい技術や素材を見つけない限り長い道のりどころか不可能な技術と言ってもいいですね」
「逆に言えばそんな技術が、さりげなくあたしの鎌に搭載されてるなんて鼻が高いっす!
とっても気に入ったっす。さんきゅーっす!!」
「わぷっ──ちょっとアテナさん」
アテナは感無量とぎゅ~~っとリアを抱きしめた。
リアでは彼女の力に抗う事も出来なければ悪意も一切ないので、アテナの気がすむまで抱きしめられ続けた。
アテナが冷めやらぬ感謝の気持ちを抱えながら、装備品を《アイテムボックス》にしまったのを見届けると、今度は年功序列順という事でカルディナの番となった。
「カルディナさんには、こちらを用意しました。
こちらは宝物庫でカルディナさんが貰った魔砲の杖をベースに改造してみました」
「ピィューー?」
どう見ても魔砲の杖の姿形をしていないそれに、カルディナは首を傾げた。
元の魔砲の杖は筒状の杖だった。
けれどここにあるのは杖ではなく、細長い台形を半分に切ったような、新幹線の先頭車両のような流線型をした物体だった。
これをいったいどうやって使うのだろうと製作に関わった二人以外は、頭の上にクエスチョンマークをいくつも散らせていた。
「ではまずは装着方法から。最初にこれを、ご自分の《アイテムボックス》にしまって下さい」
「ピィー」
特に異論はないのでカルディナは言われた通りに、自分の《アイテムボックス》へとその物体をしまった。
「次に《真体化》した状態で、それを流線形の部分を前にして、広い面の方を自分の背中側に来るように《アイテムボックス》から出してください」
「ピュィー」
《アイテムボックス》から取り出し先を明確にイメージしながら、《真体化》した背中に乗せる様な感じでその物体を出してみた。
すると吸盤のようにその物体の接地面が背中に吸い付き、体を大きく揺すっても外れることなくくっ付いた。
ピタッとするときの感触は少し気持ち悪かったものの、完全に吸い付いてしまうと違和感はほとんどなく、装着感は良好だったことにカルディナは目を丸くする。
「外す時はそのまま《アイテムボックス》に入れてしまえばいいですからね。
それでは次の段階ですが、起動する時は自身の構成魔力をほんの少し込めながら、カルディナさんの言葉で『起動』と念じてください」
(ピィィ────ピューイ!)
竜力ではなく自身の構成魔力を流し込みながらカルディナ語で起動と念じると、パリンと音を立てて物体の内部から魔力頭脳の起動音が微かにこだまする。
「帰還石の補充は先と同じ要領で『補給』と念じれば、スロットが足の届く範囲に出てきます」
(ピューィイ)
カルディナ語で補給と念じると、半台形の右側面部からレールが弧を描きながらカルディナの顔の前まで伸びてきた。
そこにあるカートリッジを取り除き、リアから受け取った帰還石が装填済みの予備の物を置き直すと、自動的にレールが引っ込み中へと収納された。
「これが起動と補給の流れです。
次に使用方法ですが、それは私の機体のように状況に応じて形状を変形させる事が出来る魔砲の杖──というより魔砲機とでも呼ぶべきものとなっています」
「魔砲機か。なかなか面白そうだな。それで具体的にはいくつの形状があるんだ?」
「4つですの。ですがおねーさまの希望があれば、増やす事も減らす事も出来ますの」
「4つもあるんだ。早くみたいなあ」
さっそくどんな形に変形するのかと愛衣が好奇心に目を輝かせていた。
「まずはモード1と念じてください」
(ピュィ)
カルディナが念じれば背中の魔砲機が動きだす。
半台形の下半分だけを残し、根元と中間部分に球体の関節が付いた長く太い大砲の様な砲身へと変化した。
二つの球体関節により、あらゆる方角に太い砲身の先を向けることを可能にしていた。
試しに竜水晶の壁を破壊しないレベルでの試射をしていいか竜郎に聞いてきたので、彼はすぐにOKをだした。
なのでカルディナは早速とばかりに、軽く壁に向けて魔弾を撃ち出した。
すると今までよりもずっと早く魔弾の構成、射出がなされ、魔力頭脳の素晴らしさを身を持ってカルディナは体験した。
「モード1は、とにかく一撃の火力重視です。
その魔砲は全モード中最も魔法力に補正が付きますので、大きな一撃を撃ちたい時にはお勧めです。
今までの素のカルディナさんでも出せなかった威力が出せると思いますよ」
「ピィーー」
それは楽しみね。とカルディナは嬉しそうに目を細めた。
「お次はモード2です」
(ピィィ)
モード2と念じると魔砲機が一度半台形に戻るや否や、今度は空に向かってピンと先へ行くほどに細くなる長い砲身が立つ。
根元の土台を見れば横一文字に溝があり、その砲身は横方向に180度可動出来る様になっていた。
また根元から少しいった先には上下に180度動かせる関節が着いており、折り曲げることでカルディナ顔側面部に狙撃銃のように設置する事が出来た。
「それはスナイプモードです。威力補正はほぼゼロになりますが、魔法制御と射程距離に大幅な補正がかかり、極めて精密に離れた場所への射撃を可能とします」
「射出する魔法を小さく細くするのにも長けていますの。
なので小さな的を最小限の規模で破壊したい時、手加減したい時などに重宝するはずですの」
「元から精密射撃はお手の物だったが、さらに補正がかかるのか。まさに鬼に金棒だな」
「ピィピィュー♪」
竜郎にも高評価な事にカルディナはますますご機嫌になっていった。
「それではモード3です」
(ピュー)
今度の形態は上面側面背面の四方向から、モード1とモード2の中間くらいの細さで、根元と中間部分に球体関節が付いた砲身が四門現れた。
その四つの細い砲身は、カルディナの意志で色んな方角へとバラバラに向ける事も出来る様で、ぐるぐると回して操作性を確かめていた。
「モード3は分散型で、一つの魔法を四分割して四方に飛ばす事も出来れば、別々の魔法を四方向へ撃ち出す事も出来ます。
魔法力と魔法制御力にそこそこ補正がかかるようになっていますので、程よい威力と精密さが期待できるかと思います」
「砲身一個だけとか三個だけ、とかで撃ち出す事も出来るんすか?」
「もちろんです。分散しない分、威力は上がると思います」
「雑魚が散り散りに展開している時なんかは、使いやすそうだね」
そうして最後にモード4。
こちらの形態は可動域はモード2の狙撃タイプと同じであるが、先端部分についているものはまるで違い、いうなれば──。
「ガトリング砲だな、まるで」
「はい。以前兄さんに聞いた色々な銃のタイプから、これを選択したので、間違いではないですね」
「ってことは、効果も?」
「はいですの! 直近で撃った魔法を、竜力や魔力を注ぐだけで高速で連続射撃できる優れものですの!
精密さにはやや欠けますが、威力は二番目に補正がかかるので手数で殲滅できますの」
「連弾の高速バージョンってとこっすね。いや~これを装備したカル姉が敵に回ったら正直手が付けられないっすね」
空中を縦横無尽に移動し、隠れても探査魔法と分霊で察知され、ばかすかと手の届かないところから高威力の魔法を撃ちこまれるなど悪夢でしかない。
空にいるカルディナは、愛衣ですら捉える事は至難の技なのだから。
こうして4つのモードを聞き終えたカルディナは終始嬉しそうにし、改めてリアに礼を言ってから魔砲機を自分の《アイテムボックス》へとしまったのであった。
次回、第365話は11月22日(水)更新です。




