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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第359話 魔王のお肉

「どうやらシュベ太には特殊な魔力を保有する器官が、体内に存在するようですね」



 ピクリとも動かなくなったシュベ太を竜郎と奈々が生魔法や呪魔法で出来るだけ癒してから《強化改造牧場》へと送り、今は拠点内でお昼を食べながらシュベ太の最後の行動についてリアが説明を始めた。



「最後の行動はそこに入れられた風魔力を使い、一時的に自身を風属性に大幅に寄せることで、風に関するスキルの大幅な強化。またその魔力で体全体を満たす事で、姉さんの《身体強化》に近い状態に至っていました」

「それは切り札にもってこいの便利な魔力っすね」

「そうですね──と言いたいところですが、特殊器官に入っている魔力は満たされている状態が、シュベ太にとって常態なんです。

 そこの魔力が減れば減るほど、消費し終わった後に大幅なリスクを背負う事になりますので、本当に使わざるをえない時以外は使用を禁じておくべきだと思います」

「大幅なリスク……なかなか穏やかじゃない言葉だね」



 まずシュベ太の中にある特殊な魔力を保有する器官は、ともすれば心臓や脳以上に重要な臓器だと言う。

 そこさえ残っていれば、最悪心臓を潰されても脳が破壊されても時間をかければ《自己再生》で自力で治せると言うほどに。

 けれどそれは完全にそこが特殊な魔力で満たされていた状態である事というのが条件である。

 そしてそれだけ重要な器官なだけに、その魔力を少しでも消費してしまうと、そこが完全に満ちるまで時間経過とともに回復するはずの本来持っている内在気力や魔力が回復しなくなる。

 そして消費すればするほど体は動かなくなっていき、完全に使いきってしまうと仮死状態に陥ってしまう。

 先ほどは竜郎達が見守っていたので問題なかったが、誰も手助けできない状態で倒れられたらただの餌にしかならない上に、混戦状態でそれをやられればお荷物になってしまう。

 だからこそ使用は控えるように竜郎から命令しておくべきだと、リアは強く言った。



「仮死状態って、かなりやばいな。それは完全にその器官が魔力で満たされるまでの間ずっとか?」

「ずっとです。普通の内在魔力よりも回復が遅いので、一度仮死状態に陥ればかなりの時間何もできなくなると考えておいてください。

 ただこちらが完全にフォローできる状態で、シュベ太の強力な一撃が欲しいって時なら選択肢としては有りだと思いますが」

「なるほどなるほど。仮死状態になったら、たつろーの牧場に帰しちゃえば安全だしね」



 そのような状況はどんな時かと言われれば答えに困るが、逆に言えばそうでもない限り使わない方がいいという事で満場一致した。



「特殊って言うくらいですし、元々持っている内在魔力とは違うのでしょうけれど、何が違うんですの? リア」

「そうですね。一番の違いは内在魔力は何の属性にもよってもいない純粋な魔力ですが、ここでいう特殊な魔力は最初から強力な風の魔力として存在しているので、無属性なら無理やり使えますが、それ以外の他属性系統のスキルでは使用できません。

 その代わり使用条件さえ合っていれば、普通の魔力を風魔力として生成するよりも一段上に強化されます」



 その話を聞いた竜郎と愛衣は、思わずお互いの顔を見合わせた。

 そうなったのはおそらく蛹の状態の時に、人工風山で風の植物や石を取り込んだからだろうと。

 それをリアに相談してみれば、蛹と言う進化の間に存在する特殊な状態でそれを行えば、確かに成長後に大きな変化をもたらす可能性は十分にあると言う。

 なのでもしかしたら、蛹の時に炎山に連れて行っていれば特殊な魔力は火属性になっていたかもしれないらしい。



「ならあの時に炎も一緒に取り込ませておけば、ダブルで出来たかもしれないってことっすか?」

「うーん……実際に観てみないと断言できませんが、結構な変革をもたらす様ですし、一属性が限界だと思いますよ。

 なのでもし風を取り込んでから火を取り込めば、火に上書きされるだけかと」

「なんだ。属性の山を全部見つけて、蛹を連れまわそうと思っていたんだが無理なら急ぐ必要もないか」



 だがシュベ魔卵を属性個数分量産して、それぞれの属性ごとのシュベ太をつくるのも面白そうだと、竜郎は密かに心のメモに書き加えた。

 そして話はシュベ太の事から魔王種についてに変わっていく。



「あの鳥の魔卵を作ってみたいと思っているんだが、どうおもう?

 あいつも1レベルスタートだから、魔王種候補として生まれてくるんだろうけど将来の魔王だろ?

 今のうちにシュベ太と一緒に鍛えまくれば、アムネリ大森林での戦闘補助くらいならこなせるようになると思っているんだが」

「凶禍領域だっけ? 確か人間として分類されない魔物なら強化されるんだから、弱体化するかもしれないカルディナちゃん達の補佐として連れて行くのはいいかもしれないね」

「それはいいかもしれませんの。なら先ほどの珊瑚もまだ海の中に沢山いますし、コアを取って量産して、いざと言う時の壁として牧場に入れておくのもいいかもしれませんの」



 《強化改造牧場》で強化した上で、凶禍領域での強化も合わせれば、あの硬さは十分に通用するかもしれない。

 それも準備の一つして考えることにして、まずは魔王鳥の魔卵を作ることにした。


 昼食を終えて外に出て来ると、出来るだけ綺麗な状態に死体を復元しよう首と胴体を並べておいた。



「そう言えばさあ。これってよく考えれば鶏肉だよね?」

「まあ牛でも豚でもないしなあ。食べてみるか?」

「さっき二人とも昼食食べたばかりですよね……」

「それはそれ。これはこれだよ。リアちゃん」



 呆れた顔をするリアを軽く受け流し魔王鳥へと宝石剣片手に近づくと、愛衣は胸肉ともも肉を採取した。

 竜郎が魔法で毛を一瞬で毟り取り、産毛を焼いて綺麗にしてから食べられるかどうか調べてみる。

 リアにも念のため観て貰ったが、食べる分には全く問題ないようだ。


 今回は先に言われていた通り昼食も食べたばかりなので、ただこの鳥が美味しいのか不味いのか解ればそれでいい。

 なので凝った料理を作る必要もないと簡単に塩、胡椒を振りかけて中までしっかり火を通すだけ。

 あっという間に出来た胸肉ともも肉の焼き肉を、マイ箸に刺して焼き鳥のようにすれば完成だ。



「「いただきます」」



 ガブリと一口食べてみる。簡単な味付けしかしてないが、素材の持つうま味が口中に広がっていく。



「んまいな──もぐもぐ」

「でも想像の範囲内ではあるねえ──もぐもぐ」



 今まで食べた鶏肉の中でもかなり美味しく、高級鶏肉と言われて売られていても納得出来るほど。とはいえ、ララネストや極上蜜程の圧倒的な美味しさではない。

 そんな感想を抱きながら二人はほぼ同時に肉を嚥下した。



《称号『魔王種を喰らう者』を取得しました。》



「あ?」「うん?」



 二口目を食べようとするより前に、新しい称号を得たことを告げられた。

 なので竜郎はカルディナに、愛衣はリアに一口食べてみるように勧めると、どちらも《魔王種を喰らう者》という称号を得た。

 これはいいとジャンヌ達も食べていく。天照と月読も属性体で食べたことでちゃんと覚える事が出来た。



 --------------------------------------

 称号名:魔王種を喰らう者

 レアリティ:17

 効果:魔王種を食することで、その個体に応じた魔王種結晶を得られる。

    注)以前食したものと同じ種類の魔物からは得られない。

 --------------------------------------



「魔王種結晶とは一体なんですの?」

「うーん……えいっ! 出来ました」



 奈々の疑問に皆が首を傾げている間にリアはとっくに解明していたらしく、やおら手の平を上にしたまま右腕を前へ突き出すと、その上に魔王種結晶とやらを出現させた。



「…………鳥の置物?」



 愛衣の言葉はズバリ的を射ており、エメラルドのような透き通った緑色をした、あの魔王鳥をそのまま三十センチサイズのミニチュアフィギュアにしたような物体が、リアの手の平の上に浮かんでいたのだ。

 それはどこか北海道の熊の置物を彷彿とさせた。



「そんなの何に使うんすか? 確かにきれいだとは思うっすけど……」

「これはですね──こうやって」



 アテナの意見に応えるように《アイテムボックス》から、何の変哲もない鉄の剣を取り出すと、鳥の置物をその剣にグッと押し当てた。

 すると剣の中にシュンっと吸い込まれたかと思えば、ただの鉄剣から風の魔力が立ち上る。

 刀身の表面が宝石の様に透き通った緑色に変化しながら、鍔の部分が鳥の両翼を模していき、柄の部分が鳥の足を二本束ねたような形へと変化した。

 そこへ宿る力を考えれば、それはもうただの鉄剣ではなく、魔剣と呼ぶにふさわしい武器へと一瞬にして昇華していた。



「魔王種結晶は装備品なんかに吸収させることで、食べた魔王種の主属性が付与された物品へと変化させる事が出来るみたいです」

「えーと……リア? それは何度でもできるものなんですの?

 そんなただの鉄剣に使うなんてもったいないのでは?」

「魔王種をもっと食べればこれも増やせますが、一種しか食べてない場合は一個しか出せませんね。けれどこうして──取り出す事は出来ます」

「おおっ。一瞬でただの剣に戻ったね。ふむふむ」



 リアが手の平を翳すとスッと鳥の置物が剣から飛び出すと、それは元の形へと戻っていた。

 それを見ていた愛衣は、ただの鉄剣であれだけ凄そうな物になるのだから、より性能のいい武器でやったらどうなるのかと宝石剣を取り出した。



「なら俺はこっちにやってみるかな。二つ出来るか試してみよう、天照」



 竜郎は天照を掴んで、自分の分と天照の分を同時に一つの武器に出来るかどうか試してみることにした。


 愛衣の方はさっそくやってみたようで、リアの時と同じような鳥の置物を宝石剣に押し当てた結果、刀身が一枚の鳥の羽のような形へと変化し、振ってみればまるで空気抵抗を感じさずに空を切る音すらしなくなっていた。

 けれど大きな風の魔力が詰まっているのはヒシヒシと他の皆にも伝わるほどであった。


 竜郎の方はライフル杖に自身と天照二人分の魔王種結晶を入れてみようとしたのだが、一個入れた時点で弾かれてしまった。

 けれど代わりに天照が自分のコアとなっている魔力頭脳に入れてみたら、すんなりと入っていった。

 杖の部分はエメラルドのような透明で緑の材質へと変化し、銃口に当たる部分は嘴。側面の中央部には小さな翼が生えてパタパタと魔力の動きに応じて動き、後へと延びる傘の様な部分は鳥の足を持ち手の棒で、指が傘骨といったような形へと変化していた。

 パッと上から見れば、エメラルドで出来た鳥のオブジェに見えるかもしれない。

 そしてコアの部分はといえば、こちらは鳥かごと、その中に小鳥と言った形になり、小鳥の部分は天照の属性体のように駕籠の範囲内なら自由に動けるようだった。


 愛衣は試しに鳥の羽のような形になった刀身に気力を纏い、斬撃を飛ばしてみた。

 不思議な力が働いているらしく、振りぬくスピードが明らかに上がり、斬撃の速度までも上昇していた。

 さらに愛衣が込めた気力量では有りえない程の威力で、庭先の砂浜を抉り取っていた。


 竜郎はそれに目を丸くしながらも、自分もやってみようとレーザーを軽く海に向けて放ってみた。

 すると一筋のレーザーを中心に、竜巻のような渦が自動的に追加された状態で射出する。

 本来レーザーだけでは何も起きない場所を風の渦でドリルのように削りながら、遠い海の向こうへと飛んで行った。

 ならば風魔法ならどうだと簡単な竜巻を起してみれば、ほぼ魔力消費ゼロで、自分が放とうとしていた以上の威力になって砂浜を巻き上げていた。



「実際に使ってみてどんな感じだったっすか?」

「魔法の場合。風魔法以外だと風の追加攻撃がでて、風魔法だと消費減に威力増って感じだな」

「私の方はとにかくスピードアップして、斬撃の鋭さ?みたいなのが強化されてる気がする」



 アテナが興奮気味に使ってみた感想を聞くと、感じたままに竜郎と愛衣がそれに答えた。それを観ていたリアも大きく頷ずく。



「この鳥の魔王種の主属性は風でしたから、風の力が付くようです。ただ気を付けてほしいのは、基本的には強化しかされませんが、それ全てに風の魔力が籠っていました。

 なので風系統の吸収、または耐性のある相手だとむしろ威力が減少するはずです」

「敵によっては使用を控えた方がいいという事ですの?

 けれど他の魔王種を食べて色んな結晶を得れば、敵に合わせて強化を選べそうで面白くなってきたですの」

「これはもう魔王種狩りの始まりだね」



 愛衣の言葉にカルディナ達も目をキランと光らせて竜郎をみた。

 その視線にゾクリとしながら、自身を──というよりその中にある存在を守るように抱きしめた。



「シュベ太は食べちゃダメだぞ!?」

「でも尻尾なら頼んだらくれそうですよね。完全に魔王種になったら頼んでみてはいかがでしょう?」

「あーまあ、それならいい……のか? 本人も尻尾を千切る時には痛そうにしてなかったしな」

「うんうん。それじゃあ、頑張って育てよーね。魔王種なんて野生じゃ見つかんないだろうし」



 あの魔王鳥のような存在がそこらじゅうにいたら、人類などとうに絶滅しているはずだ。

 なら余程特殊な状況でもない限り生まれないのだろう。

 そう考えれば、確実に育てていけば手に入るお肉があるのはありがたい。



「んー……。ですが意外と、魔王種候補なら探せばいるかもしれませんよ」

「そうなんすか?」

「ええ。まず魔王種へと至っている存在がいれば直ぐに皆気づくでしょうし、全人類を上げて決死の覚悟で討伐するでしょう。

 けれど魔王種へと至るにはまずレベルを300まで上げなくちゃいけません。

 それだけの経験値を野生の魔物が稼ぐのは至難の業です。

 最初の方は持ち前の才能でレベルを上げていくでしょうが、100レベルにもなれば、倒す相手も高レベルでないと1レベル上げるだけでも相当な労力を必要としますし、野生の魔物は基本的に食べる為や縄張りを守るために戦いますから、死に物狂いで戦闘に興じるものは少ないでしょう」

「となればどこかに誰にも見つからずに、自分が魔王に至れる存在だとも知らずにのほほんと野生を謳歌している魔物もいるかもしれないと」

「ええ。世界は広いですからね。探せばどこかには、ちゃんと存在しているはずだと思いますよ」



 それは竜郎の魔王100体コレクション計画にも繋がる素敵な情報だった。

 これはやりたいことがまた増えたぞと、竜郎達はこの面倒な状況を早く終わらせたいと、改めて思ったのであった。

次回、第360話は11月15日(水)更新です。


基本一話あたり4500字くらいを目安に書こうとしているのですが、最近それを超過する話が増えて執筆ペースが落ちていることに気がつきました(泣 

掲載ペースを乱したくはないので今後少し短かったり(3800~4000字くらい?)、不自然に話が途切れる回が有るかもしれませんがご了承ください。なるべくそうならない様に努力しますけどね!

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