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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第358話 魔王種候補生

 急いでカルディナ城へと帰還し、まだ工房に籠っていたリアに声をかけると、好奇心に目を輝かせながら広い空き部屋までやってきた。

 見物人はリアに加えてカルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナ、天照、月読とパーティメンバー勢揃いに加え、爺やも皆よりも若干後方の方で控えていた。



「それじゃあ、出すぞ」



 そう言って孵化寸前の蛹──といっても見た目は3メートルサイズの巨大な六角水晶なのだが、それを何も置かれていないだだっ広い空き部屋の中央に呼び出した。

 よく見てみれば水晶の内部では金と白金と薄緑の粒子が嵐の様に舞っており、中心部にある赤いコアの形がグニャグニャと止めどなく形を変化させているのが見て取れた。

 その様子をじっと眺めていると、水晶表面が発光し始め中が見えなくなる。

 眩しいくらいの光に目を細めていると、バキッという硬い水晶が割れる音が部屋に響いた。

 そしてミシミシときしむような音がしたかと思えば、ズボッと指まである金色のガントレット──に見える外殻を纏った右腕が飛び出してきた。

 そして空いた隙間から卵の殻を内側から破るように穴を広げていき、一体の魔物が光り輝く六角水晶からゆっくりと歩み出てきた。



「これは──」

「派手だねー」

「ピカピカですのー!」

「眩しいくらいですね」



 現れたのは首から下まで黄金の全身鎧に覆われた、ニメートルほどの人型の魔物。

 ただし人とは違い、頭部の前半分はプラチナのような金属で出来たお面が張り付いたような肌。

 その顔に唇は無く、綺麗に並んだ虎バサミの歯を細く鋭くしたような尖ったプラチナ色の歯が剥き出した状態で見えていた。

 細長く上に吊り上ったキツネ目をしており、緑色の複眼が眼球の様に嵌っている。

 額の辺りからは天井に向けて二本のそれぞれ形の違う、不規則にぐにゃぐにゃと曲がった赤黒い角が生え、一見して夜叉面をかぶっているようにすら見える。

 そして後頭部からは真っ白で長い長髪が垂れ下がっていた。


 さらに人と違う細かい部分はと言えば、両手の五本指は異様に長く、関節が二つ多い。

 そして鎧の指先からはヤスリで尖らせたような、細く長い金色の爪が飛び出している。

 また鎧のような外殻の足先から前三本、後ろ一本、ナイフのような金の爪が水晶の床に触れていた。

 最後にお尻からは先端が二股に分かれた槍の様な尻尾が伸びているが、グルグルとベルトの様に腰に巻きつけていた。


 そんなイモムーとは似ても似つかない魔物を観ていると、ふとアテナが首を傾げた。



「なんかどこかで感じたことのある様な圧を感じないっすか?」

「圧?」



 なんのこっちゃと思いながらも、いざ意識してみれば微かに威圧感の様な物が目の前でボーっと立っている魔物から感じられる。

 竜郎たちのレベルでは意識しないと感じ難いレベルの薄さではあるが、竜の威厳すら感じる厳かな威圧感ではなく、どちらかというと純粋に暴力的な威圧感。



「確かにどっかでこれに近いのを──あ、でっかい鳥だ!」

「でっかい鳥? ああ、魔王種の鳥か」



 愛衣に言われて竜郎もようやく答えに行き着き、スッキリした表情になったが、直ぐに驚きに変わる。



「──は? え? ちょっと待て」



 竜郎は急いでテイム契約ごしに、この魔物のスキル一覧を確認した。



 --------------------------------

《急速成長》《魔金外殻鎧》《魔筋繊維》《超尾生成》《陽光微回復》

《魔金糸吐き Lv.1》《隠密 Lv.1》《魔力殴打 Lv.1》

《超高速飛翔 Lv.1》《高圧衝撃波 Lv.1》《翼刃 Lv.1》

《ひっかく Lv.1》《爪襲撃・散 Lv.1》《突刺穿 Lv.1》

《風刃 Lv.1》《自己再生 Lv.1》《斬撃超強化 Lv.1》

《魔王の覇気 Lv.1》

 --------------------------------



「OH……。なんか魔王のスキルがついてるー!?」

「それじゃあ、この子は魔王種ってやつなの?」

「いえ、厳密には魔王種候補生とでも言った所でしょうか」



 魔王種とは、その種としての最上級の魔物であり、さらに300レベルを越えた時にさらなる進化をした存在。

 どうやら現時点では資格を有しているだけで、魔王種には至っていないのだそう。



「けれどコツコツとレベルを上げて300レベルになれば、あの鳥みたいに魔王種になれるという事ですの?」

「はい。そうですね」

「すでに魔王の内定が決まってる状態ってことか。

 まさかイモムーから魔王(予定)が出てくるとは思わなかったな。これはこれで嬉しい誤算だ。

 魔王鳥も魔卵を作って、他にももっと色んな魔物を合成させたりして色んな魔物を作って、魔王種だけで構成された100体の軍勢とか作ってみたいな」

「兄さんは本当に世界征服でもするつもりなんですか!?」

「そんな面倒な事するわけないだろう。ただ魔王種とか言うレア魔物をたくさん集めて眺めてたいと言う男心が解らんかね、妹よ」

「まったく解りませんよ!」

「リアちゃん、こうなったらもう無駄だよ。コレクターの目になってるもん」

「魔王をコレクションするって、もうその存在が魔王ですよ……」



 今は他にやる事があるので無茶はしないだろうが、全部終わった後に本当に実行しそうでリアはため息を吐く。

 魔王種一体で国が滅ぶ事だって有りえるのに、そんな存在が100体も国内に揃っていると知ったら、この国の王は卒倒する事だろう。

 これなら他国の人間を引き入れる様な人間の方が、まだマシだったかもしれませんよ! と、リアは王都にいるハウル王に届かぬ念を送った。



「それにしても、スキルもいくつか変化したり追加されたりしているな」



 ただの爪襲撃だったのが《爪襲撃・散》というものに変化していたり、《超尾生成》《風刃》や《斬撃超強化》などと言ったスキルは《魔王の覇気》同様付けた記憶すらなかった。

 だが弱くなっている事はないだろうと、竜郎はその実力を見てみたくなった。


 ちょうどいい敵はいないものかと皆でゾロゾロ砂浜までやって来ると、頃あい良く薄赤色のサンゴ礁の魔物がノシノシと三匹ほど木の枝の様な足で闊歩しているのが見えた。

 大きさは三メートル前後で、根元から上に向かって血管の様に無軌道に枝を伸ばしたような形のそれは、わりと頻繁に海から砂浜にやってくる。

 けれどこの魔物は倒すと白い砂になり、残るのはコアだけのゴーレムで、蒼太たちにとっては食えもしないくせに無駄に硬いので厄介者扱いされていた。

 実際に蒼太やワニワニ隊達は「またあいつ来たよ、どうする?」「お前行けよ」「いやいやお前が」「俺は昨日倒したしお前がやれよ」みたいなやり取りをしていた。

 そこで竜郎が今回加わった魔王種候補の実力を見たいからと言うと、あからさまにご機嫌な顔で快く譲ってくれた。


 黄金外殻鎧の鬼蟲人型シュベルグファンガス・魔王種候補──愛衣命名シュベ太は、ここまで無言で無表情のままノシノシと後ろをついてきたのだが、戦闘の指示を出した途端、凶悪な刃が並ぶ口を嬉しそうに歪め、興奮しているのか白目の部分が真っ赤に染まっていく。



「いっけーシュベ太ー!」

「将来の魔王の名前がシュベ太で本当にいいんだろうか……犬猫じゃないんだからさ」

「でもあっちもこっちも名前を付けて回ってるから、種族名とか特徴プラス太や子って法則付けないと、私は絶対に覚えてられないよ」

「ああ、一応考えあっての事だったのか」

「私だって考えてるのさ」



 にしてももっとやりようが有るのではとは思うが、得意げな顔で腰に手を当て胸を張る彼女の姿が可愛かったので、竜郎はまあいいかと彼女の腰を抱いて引き寄せるとシュベ太に視線を戻す。


 シュベ太は腰にベルトのように巻いていた尻尾をほどき右手に握ると、自分で根元から引き千切る。

 突然の奇行に目を丸くしていると、あっという間に尻尾は生え変わった。


 引き千切った尻尾はと言えば、人よりも長く関節が二つも多い指を巻きつけるようにして根元を握る。

 するとまるで槍の様にぴんと伸びて武器になる。左手にも同じように引き千切った尻尾の槍が収まり、生え変わった三本目の尻尾は腰に巻きなおした。



「《超尾生成》が何のためにあるのかと思ったが、まさか武器になるのか」

「いくらでも手に入るみたいですし、何本か素材として提供してほしいですね」

「すぐにそういう発想になるなんてリアらしいですの」

「あっ、動き出すみたいっすよ」



 背中の鎧のような外殻が上に開く車のドアの様に少し持ち上がると、中から折りたたまれた透明な翅が二対飛び出して来る。

 踏みしめる砂浜にグッと力を込めると、ロケットの様に薄赤珊瑚めがけて飛んで行った。



「──はやっ。1レベルのスピードじゃないだろアレ」

「ただの直線でスキルもいくつか併用してるからだろうけど、あの速さだとたつろーはキツイかもね」



 愛衣の言葉に頷いていると、さっそく手前の一体に二本の槍を同時に突き刺した。

 《突刺穿》という槍での貫通力を大幅に上げるスキルに、《超高速飛翔》などのスキルで底上げされた突進力も加えての一撃だったが、槍先が数センチ突き刺さった所でへし折れた。

 珊瑚がシュベ太を潰そうと三体同時に倒れこんでくる。

 翅を高速で動かし一瞬で離脱すると、シュベ太は折れた槍を捨てて新しいものに取り換える。

 倒れて起き上がろうとしている珊瑚の一体に向かって集中的に連続付きを放って表面を削りながら、他の二体も起き上がれない様に蹴り倒してバランスを崩させる。



「あれ結構硬いっすからねえ。苦労してるみたいっす」

「執拗に硬化系スキルばっか持って多重に発動してるからなあ。蒼太たちが嫌がるのも無理はない」



 うんうん。と蒼太やワニワニ隊も竜郎の気持ちに同調して頷きながら、必死に頑張るルーキーに生暖かい視線を送っていた。



「スキルレベルが上がってきている様ですの」

「サンドバックとしてみたら結構優秀なんだよな。あいつら」

「私がやるとワンパンで壊れるけどね!」



 段々と槍の刺さる深さが上がっていき、珊瑚の樹の枝の様に広がる邪魔な房をガンガン削り、へし折り始めた。

 けれど派手に音をたて続けたせいで、砂浜の底からワームが飛び出しシュベ太に大きな口を向けてきた。

 シュベ太は珊瑚破壊の手を止めて上空に逃げてダイレクト丸呑みを躱すと、両手に持った二本の槍を竹刀のように上段から打ち下ろすような動作を見せた。

 それを見た一同は尻尾槍を投げつけるのだろうと思っていたのだが、それを振った瞬間びょんと蛇腹剣のように外殻の節が外れながら伸びて行き、ワームの体を貫通した。

 そしてそれをロープのように巻きつけて、三体の珊瑚にも絡ませていけば、ワームは重りをつけられ地面に逃げられなくなり、珊瑚は暴れるワームのせいでバランスが取れずに上手く立ち上がれないという状況を作りだした。


 上空から上手くいったことを確認すると、まずは攻撃が効きやすいワームに突撃して行く。

 風刃というスキルで風の刃を両腕の側面部に構成すると、縦横無尽に皮膚を切り裂いていく。

 爪や翅にも風刃を纏い、細かく斬撃が散っていく《爪襲撃・散》や《翼刃》を強化し、さらに《斬撃超強化》の効果でいとも簡単にワームはズタズタに切り裂かれ、最後は空中から真下へ叩き付ける様な飛び蹴りで半分にちぎれ飛んで死んでいった。


 シュベ太は1から22レベルまで一気に上昇すると、新たに尻尾を千切って以前よりも強くなった槍を一本両手に持つ。

 そしてこの戦いで少しレベルの上がった《超高速飛翔》と《突刺穿》で、杭打ちするように珊瑚の一番太く硬い幹の部分に思い切り突き刺した。

 最初は数センチ槍先が埋まるだけだったのが、先端の二又に解れた槍先が完全に突き刺さった。あと少しでその奥にあるコアに到達する。

 そこで手の平に魔力を込めると、《高圧衝撃波》の籠った掌底を槍の柄先にぶち当てて、槍をさらに奥へと強引に突き刺した。


 すると槍も壊れたが体内に有ったコアも上手く破壊したようで、一体が白い砂となって粉々になった群青色のコアの残骸がボロボロと砂浜に落ちた。



「ワームを倒してレベルが上がったおかげで、二撃で破壊できるようになったみたいですね」

「みたいだな。しかし今は多少レベルが上がったし、《陽光微回復》とかが有るのだとしても、最初からあんなに全力でスキルを使い続けて、よくガス欠にならないな」

「魔王種への切符持ちは伊達じゃないって事かもね」



 実際にそれは愛衣の言う通りで、魔王種への切符を手にした存在の潜在能力値は他の魔物とは比べ物にならない。

 その上で竜郎からの強化を産まれる前に受けているのだから、気力や魔力も1レベルにして相当な量を保有していた。

 けれどさすがにそれでも限界は来たようで、二体目を倒し終った辺りで動きが明らかに鈍くなった。


 強力なスキル連発で多少回復スキルを持っていても持たなかったらしい。

 そして初めての戦闘で興奮しすぎたのか、ペース配分も滅茶苦茶だったのだろう。

 最後の一体にまごついている間に、また別の魔物が海から様子を伺い始めているのを竜郎とカルディナは察知した。



「十分実力は観れたし、これで終わりにしてもいいな」

「…………いえ、少し待ってください」

「リア? どうしたんですの?」



 どう見てもヘロヘロなのだから、助けてあげてもいいじゃないかという奈々の視線を軽く受け流し、リアは理由を口にした。



「いえ……。どうも最後に何かする様ですよ。魔力の動きが不自然になっています」

「え?」



 リアの言葉を聞いてすぐに竜郎は精霊眼でシュベ太を観る。

 すると枯渇しそうだったはずなのに、どこから捻出しているのか不明の風の魔力が体から噴き出し初めていた。

 すると後頭部から伸びていた真っ白い髪が緑色に変わっていく。

 ガバッと鋭い牙が規則正しく並んだ口を開けると、脚をグッと砂浜に押し込み足場を固めていく。

 尻尾槍を三本手に持ち、三つ編みするかのようにして絡ませ一本の槍へと変える。

 太くなった槍を両手で持つと翅をゆっくりと動かし始め、前へ行こうとする力を踏み込んだ足の力で一時抑えると、限界ギリギリのところで砂浜を蹴って《超高速飛翔》も推進力として使いながら最後の一体に突っ込んでいく。


 槍が刺さる瞬間に両手にため込んだ《高圧衝撃波》を放つと同時に、腕力も使ってそれを珊瑚のコアが埋まっている個所へと叩き込んだ。

 疲弊していたはずなのに今までで一番の威力が籠った一撃が、珊瑚の一番太い部分を破壊しコアを粉々に破壊した。

 同時に最後の珊瑚は白い砂と化して、砂浜の一部へとなり果てた。



「今の魔力は一体どこから捻出したんだ? ──っと、そんな場合じゃないな。ムー一号!」



 気になることはあるがそれよりも前に、完全に力尽きて倒れこんだシュベ太めがけてやってきた魔物の対処の方が先だ。

 竜郎の叫び声と共に地中から、事前に待機させていたワーム隊のうちの一体が飛び出し丸のみにすると、後に続こうとしていた者達も次々と飲み込んでいく。

 そうしてムー一号は音も立てずに、静かにまた地中へと潜っていったのであった。

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