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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第357話 川辺の魔物

 その日の夜になってもイモムーは蛹のままで、なかなか成体にならなかった。

 翌日。完全に雨の気配が遠のき、晴天のこの日。晴れやかな気分で朝食を食べて、竜郎と愛衣は外に出た。



「まだイモムーは蛹ちゃんのままなんだ」

「ああ。《急速成長》はちゃんとついているし、昨日にはなっていると思っていたんだが……」



 外に出ると蒼太やワニワニ隊に加わって、爺やが作戦をたてながら効率的に最小限の消耗で周辺の魔物を狩っている所が見えた。

 爺やは弓を使った遠距離系の攻撃が得意なようで、指示を飛ばしながら的確に、魔力を込めれば金の矢が無限に湧き出す矢筒から矢を抜き取ってレーザーの様に打ち放っていた。

 今までも蒼太&ワニーズのチームワークはあったのだが、どうしても蒼太の邪魔にならない様にワニ達が動くことに専念していた為、正直無駄な動きも多かった。

 けれど知恵あるケンタウロスである爺やがそこに加わり、蒼太たちの動きが目に見えてスッキリとしていたのだ。


 ちょうど戦闘が終わった頃合いを見計らって、竜郎は近寄って爺やに話しかけた。



「なあ爺や。城の管理もあるのに、こっちの戦闘指揮もってのは大変じゃないか?」

「いえいえ、竜郎様。毎回いるわけではありませんし、ちょうど暇をしていただけですのでお気になさらずに」



 任せている事の範囲が多いので無理をしているのではと思ったのだが、顔色や様子を見る限りでも余裕が伺えた。

 やはり人種よりもずっと頑丈で、疲れにくいのかもしれない。



「見てたけど、やっぱり弓矢が得意なんだね、爺やは」

「ええ、そうです愛衣様。生まれながらにして《弓術》や《聖矢》《風矢》など、弓関連のスキルが多うございましたから」



 他にも低レベルながら《光魔法》や《風魔法》が使えるらしく、それらでさらに矢の精度をあげたり威力を高めたりしているらしい。

 このままここで魔物を倒してレベルを上げ、必要なスキルを上げたり取得して行けば物理系遠距離攻撃のエキスパートになるのも夢ではないだろう。

 さらに珍しいスキルで言えば、《聖具創造》という高レアリティのものを所持しており、これによって今使っている弓を作ったりもできるらしい。

 けれどこれは見た目は金だが金ではなく、完全に聖属性に属していない存在が触れると腐食してしまうらしい。なので普通の人間は扱えない。

 けれど時間をかけて作るほどに高い聖属性を宿した道具を造りだせるので、ジャンヌの《天族創造》の素材などで今後重宝するかもしれない。


 それから簡単に城の小天使や小悪魔達の仕事ぶりや、細かな報告を聞いた後は食事中の蒼太たちにもお礼を言って爺やと別れた。

 リアの様子を見に行けばまだまだ忙しそうだったので、また竜郎と愛衣は修行に出かけた。


 だんだんと竜水晶の道が通る場所が増えていき、自分たちの行動範囲が広がっている事に満足感を得ながら、今は海へ伸びる平原を横切るようにして存在していた幅8メートルほどの広い川の横にシートを広げ、魚型の魔物からSPをいただいてから捌いたものを食して寛いでいた。



「うーん。これは40点かなぁ」

「不味くはないんだが、俺達のハードルが上がってるからな」



 新鮮な海鮮がいつでも捕れる上に、卵も毎日美味しいものが手に入るようになった。

 調味料だって高価なものを惜しげも無く買えるようになったので、食に対してだいぶ舌が肥えてしまった二人。

 食べ終えた骨をぽいっと遠くに投げれば、落ちた付近にいた魔物の数匹がバリバリと骨を食べ始める風景が目に見えた。



「うひゃー。ひゃっこいねー」

「足を食いつかれるなよー」

「解ってるー」



 川縁に近づき、裸足になって愛衣が冷たい川の中に両足を入れてじゃばじゃばと足を動かして遊び始めた。

 竜郎も注意をしながら靴などを脱いで隣に座ると、素足を川にゆっくりとつけた。

 水温はかなり冷たいが、称号効果によって直ぐに適応したので問題ない。

 動き回って火照った体を冷やし、互いに手を繋いでのんびりと広い大自然へと目を向けた。

 そのまま無言で肩を寄せ合い、キスをしたり足をからませたりしてじゃれ合って休憩を終えた。



「まだイモムーは寝坊助さん?」

「ああ、未だに蛹状態だな。もう一回変化があるはずなんだが、相当時間がかかってるな。

 《急速成長》が無ければ200から300年単位の蛹期間を要したかもしれないぞ」

「わお。とんでもない寝坊助だね」



 《強化改造牧場》内を覗いて確かめてみても、未だに六角水晶のままじっとしていた。

 最初期の頃より形態が変わり、期待値が大幅に上がっているので早くみたい。

 そんな主人たちの気持ちなどいざ知れず、未だ蛹から羽化する様子もないのでモニターを消した。



「シミュレーターを使えば成体も解るんだろうけど、ここまで来たら直接見たいしな。もう少し我慢しよう」

「ネタバレは嫌だしね」



 のんびりと川に足を付けてせせらぎに耳を傾けていると、竜郎の水中探査に大きな存在が引っかかった。

 動きからしてこちらを目指して川底を這うようにして、体をうねらせ泳いできている様子。



「反応からしてヌシクラスだな多分。そんでもって形から蛇のような魔物だと考えられる。それも特大の」

「映画に出てくるようなでっかいのって思っておけばいいんだね。そいつはどうする?」

「水中を移動できるみたいだし、蛇なら陸上も動けるかもしれない。そうなれば行動範囲も広いだろうし、この川周辺の管理を任せていいかもな」



 竜郎は愛衣に上がる様に指示して川から足を抜いてもらう。

 二人とも足を抜いてしまったら興味を無くして去って行くとも限らないので、竜郎だけはそのままの状態で川縁と水中に自分の魔力を浸透させていく。

 準備を着々と進めていると、愛衣の遠見の目に大きな影を捕えた。



「でかっ。ほんとに映画に出て来るような奴だよ」

「なー。あんなのアマゾンでもちょっと見られないサイズだろうよ」



 竜郎は解魔法で明確にサイズを知っているので、見なくても想像がつき軽く答える。

 全長は二十メートル以上。幅は一番太い所で二メートルはあるだろう。頭部も非常に大きく牙も長大。

 普通の人間が出くわしたら間違いなく死を覚悟するであろう。


 そんな化物は竜郎も気付いている事を察したのか、水底から体を起こし、もの凄い勢いで丸呑みにしようと迫ってきた。



「てや!」

「──シーーーー!!」



 巨大で灰色の蛇に対し、川縁の土を操作して巨大な拳を一瞬で作り上げ横顔を思い切り殴った。

 その衝撃により大きく左方向に傾いたが、ダメージは無いのか、その筋力で無理やり方向を戻して口を開ける。

 すると体内から紫色の野太い杭のようなモノが飛び出てきたので、塵も残さぬほどの火力のレーザーで焼き払う。

 精霊眼で観た限り毒魔法の色が見えたので、気化した成分すら危険かもしれないからだ。


 そのまま口内を焼いてしまうつもりでレーザーが杭を消し飛ばし伸びていったのだが、サッと身をかがめて避けられた。

 と思った時には、長い尾の先端が竜郎の真横まで迫ってきていた。



「──はやいっ」



 今の竜郎でギリギリ躱せるレベルの速さに冷や汗を流しながら転移して、川縁から距離を取って離れて観ていた愛衣の横にやってきた。

 その瞬間ドゴンと音を立てながら、川の側面を尻尾の一撃で大きくえぐった。



「筋力、耐久、速さどれも申し分ないな。さっき観た限りだと魔法系も低くないはずだ。是非うちの子にしたい」

「そんじゃあ、一気にやっちゃえー!」

「おう!」



 愛衣の声に押される様に地面を土魔法で操ると、闇魔法で硬化させながら川の水ごと球状にした土塊の中に大蛇を閉じ込めた。

 ガンガンと暴れるが、竜郎が本気で硬くなる様に闇魔法で変質させたのだ。そう簡単には壊せない。

 その間に土で出来た球体の天井部に拳ほどの穴をあけると、川の水を操ってその中にドンドン注入して水でいっぱいに満たしていく。

 完全に水で埋まった所で、今度は氷と光魔法の魔力をたっぷりと水の中に混ぜ込んでいき、十分満たされたところで中の水を凍りつかせた。すると暴れまわる音が止まった。



「さてどうなっているかな~っと」



 球状の土を取り払うと、中から球状の氷がゴロンと出てきた。

 それを魔法で川から出して地面に転がすと、大蛇が必死に出ようと力を込めているのか若干氷球が震えていた。

 だが竜郎は好き勝手に動けるようにする気はない。

 その状態のままで再び氷魔力を浸透させていくと、氷の球体を操作していき蛇の周りを氷で取り囲む様に、一本の棒のような形に変化させた。



「蛇の棍棒みたいだね」

「頑丈だからほんとに使えそうだ」



 冗談を言い合いながら、竜郎はさらに形を変えていく。

 蛇の巨体にまとわりつく氷を操り体を紐の様にくるくると結んでいき、団子が如き形状にしたところで、口周り以外の氷を水に戻して取っ払った。

 するとグルグルに体中を結ばれた蛇が真面に動くことも出来ずに、力を込めれば込めるほど自分の力で自分自身を締め上げ苦しそうにもがいていた。



「えげつないことするなあ」

「そうか? 蛇とか長い敵にはわりとよくある戦法だと思うけどな。

 ──さて、そこの蛇。俺の仲間になるか? なるのならほどいてやるが」



 テイム契約を発動させて、大出力レーザーを直ぐにでも発射できる状態で右手を頭に突き付けた。

 手の平に集まっている異常な魔力と熱量に、涙目になりながら二十メートル級の大蛇が竜郎の軍門に下った。

 性別はメスだったのでニョロ子という名前が愛衣から与えられた。



(ニョロ子て……)



 満足げな顔で頷く彼女に苦笑いしながら、滅茶苦茶に縛った体を解いて団子状態から脱却させた。

 それから今までの行動範囲と、ニョロ子に匹敵する、またはそれ以上に強い魔物を知っているか尋ねてみる。

 しかしこの辺り一帯は完全にニョロ子の無双状態だったらしく、お腹が空いた時に食べる食糧くらいにしか他の魔物を認識していなかった様である。



「ニョロ子の同種族の魔物は存在しているか?」

「シーーー」



 ニョロ子とつがいになれるオスを見つけて自然に魔卵を入手、もしくは狩って錬成素材の確保がしたいのだ。

 けれどまったくの同種の魔物は存在していないらしい。

 というのもニョロ子の親となった魔物はもっと小さく、大きさは三メートル程で幅は十センチ程度の細長い蛇の魔物だったらしい。



「つまりニョロ子は亜種で、本来の同種の魔物より強い特別な個体ってこと?」

「って事になるな。レア魔物なのか~そうなのか~」

「シーーー」



 竜郎はよりご機嫌になりながら、ニョロ子の鼻先を撫でくりまわす。

 するとニョロ子も嬉しそうに尾の先端をフリフリしていた。



「だが亜種でも、元の種との子供が出来るはずだ。

 巨大火蜥蜴も、おそらく周りにいた火蜥蜴と魔卵を作ったんだろうしな。そいつらの居場所に心当たりはあるか?」

「シーーー?」



 特に群れで生きているわけでもなく、出会えば同種でももぐもぐしてきたので、魔物の分布にはまったくと言っていいほど情報を持っていなかった。

 けれど竜郎がニョロ子の魔卵が欲しいと言う意思を理解したのか、探しだして無理やりにでも魔卵作りをさせると息巻き始めた。



「お、おう。そんなにシャカリキにならなくてもいいんだが……まあ、ほどほどにな?」

「シーーーーーーー!」



 任せてください! と言わんばかりに鼻息をプシューと吐き出すと、ニョロ子は川へと飛び込み流れに逆らうように平原の奥地へと姿を消した。



「私、なんだか同種の男の子が可哀そうに思えてきたよ……」

「あの勢いで、しかも自分の十倍以上体が大きい異性から強引に迫られるんだもんな……」



 二人は人間に置き換えて想像し、ブルリと背筋を震わせた。

 どうかドMのオスでも見つかりますようにと、二人でニョロ子が去った方角に手を合わせて祈りを送った。


 それから適当に狩りをしながら竜郎のSP集めと愛衣のスキルレベル上げを並行して行い、日が傾いてきたのでそろそろ帰ることにした。

 竜郎は天照を握りしめ、転移での帰還準備に入った──のだが、突然ゾワリと体の内部から強大な何かが蠢くような気配を感じ、全身が粟立った。

 そしてそれと同時に、原因も自然と察する事が出来た。



「愛衣っ、直ぐに帰ろう。イモムーが羽化するみたいだ!」

「おっ、やっとだね。でもここじゃあダメなの?」

「羽化の途中で襲われても面倒だし、リアも羽化する瞬間が見られるなら見たいだろうと思ってな」

「そっか。んじゃあ、急いで戻ろっ」

「ああ!」



 もともと集めていた時空の魔力を一気に構築させて、竜郎達は安全な城へと転移したのであった。

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