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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第355話 知能ある魔物

「しゃべったぁ!?」

「うそ、えっ──人間作っちゃったの!?」



 突然流暢に言葉を発したかと思えば、涙を流しジャンヌの前に跪く天使の羽を生やしたケンタウロスのおじいさん。

 その行動も驚きだが、やはり高度な知能を持つことをうかがわせる、その仕草と言葉使いに竜郎たちはもちろん、造りだした本人であるジャンヌでさえ目を瞬かせていた。

 主の反応が無い事に気が付いたケンタウロスは「はて? 何か粗相をしましたでしょうか」と、首を傾げながらジャンヌを見上げた。



「いや、そうじゃない。皆あなたが喋っている事に驚いているんだ」

「貴方は……おおっ、貴方はジャンヌ様の父君ですね。どうぞよろしくお願いいたします。

 …………ところで、私は喋ってはいけなかったのでしょうか」



 不安げな顔で竜郎とジャンヌを交互に見て、どう振る舞えばいいのか、何かとんでもないミスをしたのかとうろたえ始めた。

 その人間味あふれる仕草に思わず笑いそうになるが、それは失礼だと我慢しながら、大よその情報を伝えていく。

 天族創造というスキルで作った事。今までは喋れるほどの知能を持った存在を生み出せたことが無い事。また生み出せるとも思っていなかった事。などなど、現状を整理しやすいように順を追って説明していくと、得心顔になって頷いた。



「そう言う事でございましたか。確かにそのような状態では、驚かれるのも無理もない事ですな」

「システムはインストールされてるんすか?」

「ええ。産まれたと同時にインストールが始まりましたので」



 これでこのケンタウロスは、この世界における人間だと認められた事になる。

 そしてもしかしなくても、それは神力を注いだ影響なんだろうなあと予想以上の効果に感心しながら、手元に出した紙にデータを記入していった。


 それと同時に、これからどういう扱いにすればいいのかも考えてみた。

 確かに鍛えればかなり強くなりそうだが、竜郎達の立っている場所まで来るのは難しい。なのでこれからの旅のお供にするには厳しいだろう。

 けれど見るからに利発そうな言動からして、頭は悪くないはずだ。

 さらにいうのなら、テイム契約とも違い、絶つ事の出来ない絶対的な主従関係が結ばれるのが《天族創造》だ。

 この先ジャンヌの命令に背いたり裏切ることは絶対にありえないと断言できる。

 となると色々とやれる事があるのではないかと思えてくる。



「ん~~……なあ、ジャンヌ。一先ずこの人には、この城の管理責任者になって貰うのはどうだろうか」

「ヒヒーーン」



 それはいいかもーとジャンヌは頷いた。

 だが自分の行く末の事なのに、なんのことか理解出来ていないケンタウロスは『城の管理責任者』とは何かと問うてきた。

 何と説明したものかと顎に手を当て、竜郎は頭の中で言葉を整理しながら口を開いた。



「そうだなぁ……。今いるこの建造物の管理を小天使や小悪魔に頼んでやって貰っているんだ。

 だが知能はそこまで高くないから、言われたことを盲目的にすることしかできない。

 だから管理といっても簡単な掃除や施設の点検くらいしかできないし、突発的に言われていない事態が起こった時に、対処するという応用は全く利かない。

 そこで言うとあなたは小天使達と違い自分で考え、自分で状況を判断して最適な動きを考えるだけの知性を携えている。

 なら下働きをしてくれている小天使や小悪魔たちを指示し、的確に動かす事も出来るだろ?」

「なるほど。ジャンヌ様の住まう城の環境を維持する者達を管理する立場となり、安心して居城を開け、安心して帰って来られるようにする──という事で間違いございませんか?」

「ああ。間違ってない。他にもこの場所はそれなりに強い魔物も多く、中には討伐に頭を使った方が効率よく倒せるものもいるかもしれない。

 そういう時は外にいる俺の従魔たちの司令塔になって貰いたい」

「主と常にいたいと言う気持ちもあるのですが、主の住まいを守ると言うのも従者の重要な務め。私に異論はございません。ジャンヌ様はそれでよろしいですか?」



 ケンタウロスにとっての最上位命令権はジャンヌにある。

 いくら竜郎がやってほしいと言っても、ジャンヌの言葉なしに今後の自分を左右する大きな命令を聞くことはできないと告げると、ジャンヌは特に考える事も無く「ヒヒーーン(よろしくねー)」と答えた。

 その答えにケンタウロスは相好を崩して好々爺な顔で頷いた。



「主が求めるのなら、全力でこの城の管理責任者という職務を全うしたいと思います」

「ヒヒーーン」

「はい。頑張らせていただきます」



 がんばってーという言葉をジャンヌから投げかけられ、感動に打ち震えながらケンタウロスは拳を握りしめ、全身全霊をかけてやろうと決心を固めた。



「そかそか。それじゃあこの城で執事みたいなことをするんだね」

「執事? まあ、そうかな? ……それがどうかしたのか?」

「ふふーん。それじゃあ、あなたの名前は『爺や』だね!」



 突如指をさされ名付けられたケンタウロスが目を丸くしてジャンヌを見ると、そちらもうんうんと頷いている。

 そして竜郎は執事ならセバスチャンじゃないか?と、隣で小さく言葉を零していた。



「ジーヤとはどの様な意味があるのでしょうか?」

「そうだねえ。ジャンヌちゃん(主人)の為に働き、戦い、もしもの時は身を挺してでも守りぬく、そんな崇高な仕事を受け持つ存在が呼ばれる、名誉ある名前だよ!」

「なんと!? それではまるで私の為にある様な名前ではございませんか!」

「でしょー。どう、爺やを名乗ってみない?」

「もちろんですとも! よろしいですよね? ジャンヌ様!」

「ヒヒーーン」



 そもそも爺やは名前ではない。さらに言うのなら執事が戦いとか身を挺して守るのは違うのでは?

 と竜郎が突っ込みを入れる前に名付けられた本人がノリノリな上に、ジャンヌも基本深く考えない性質なのか軽く頷いてしまったがために、もう覆しようがないほど話が進んでしまっている。



(なんか本人は凄く嬉しそうだし、爺やじゃなくてジーヤっていう人の名前だと思ってるっぽいし、俺が反対する事もないか)



 今更違うと言えない事への言い訳を頭の中で並べ立てれば、竜郎の罪悪感は苦も無く消え去った。

 こうしてカルディナ城に、執事のジーヤが新たに加わった。



「あれ? でも金軍鶏の時点で近づくだけで小悪魔たちが消滅するって奈々姉が言ってたっすけど、そのへんは大丈夫なんすか?

 そんなにキラキラした聖気を自分の生活圏に振りまかれたら、奈々姉本人も絶対嫌がると思うっす」



 「あっ」と竜郎と愛衣は今思い出したかのように声を重ねた。

 爺やは常人でも視認できるレベルで、キラキラとした聖気に満ち溢れている。常に後光が差している様なものだ。

 奈々なら不快程度で済ませられるが、小悪魔では遠目に見ただけで失明。近づけば消滅。と、献身的に城の掃除をしてくれている者達に対してとんでもない不義を働く事になってしまう。



「なあ爺や。その聖気を抑えたりすることはできないか?

 管理してくれている子らの中には、下級の邪なる者達が大勢いるんだが……」

「むぅ……どうでしょうな。何せ生まれたばかりで、自分の体に対してもそこまで解っているわけでは無いので………………──おおっ、たった今《聖気制御》というスキルを覚えたようです」

「ヒヒーーン」

「はい。直ぐに使ってみます──」



 竜種ではないのでぽこぽこスキルを覚えられるわけではないが、種族的に《聖気制御》はかなり覚えやすい部類らしく、あっという間に新たなスキルを手に入れた。

 それを使うように指示された爺やは間髪入れずに行使する。

 するとキラキラが次第に収まっていき、内包量は変わらないが、少なくとも外への放出は完全に抑える事が出来るようになった。



「これなら問題はなさそうだな。けど念のため奈々にも確かめてもらおう」



 もしかしたら邪に属した者しか感じ取れない何かが有るかもしれないと、リアの手伝いをしている奈々を呼ぶべく、《無限アイテムフィールド》経由で伝言メモを送った。


 ほどなくして竜郎たちのいる部屋にノックの音が鳴り響いた。

 奈々には金軍鶏以上の天使が産まれたとメモで伝えてあるので、かなり警戒しながらドアをゆっくりと開け、隙間から覗き込むようにして顔をだした。

 中を見渡し爺やに目を止めた奈々は、眉根を寄せてじ~~~っと見つめる。

 そして扉を完全にあけて中に入ってくると、爺やの周りをウロウロしながら小悪魔たちでも大丈夫かどうか確かめた。



「これなら例え触れたとしても大丈夫なはずですの」

「それならば良かったです。よもや私の身に宿る力のせいで、ジャンヌ様方にご迷惑をおかけするところでありました」

「それじゃあ、今後はこの城の管理責任者──いうなれば執事長として頑張ってくれ」

「ヒヒーーン」

「かしこまりました」



 安心して不在時の城を預けられそうな知能ある存在が産まれたという大きな成果。

 貴重な素材消費に見合う十分な結果だったことに、竜郎は内心ホッとした。これでまたニワトリだったらどうしようと、不安だったのだ。



(それにしても……《天族創造》で出来たのなら、《魔族創造》でも同じ事が出来るだろうな。

 となるとあの特殊な化石に匹敵する強力な魔物の死体と言えば……レベル400オーバーの魔王鳥や、レベル100近い上位竜であるボス竜の死骸あたりか?

 魔物としての格はボス竜の方が少し上だろうが、レベルも加味すると魔王鳥の方が死骸としての質は上な気がする。

 魔王鳥の魔卵も欲しいし、脳や心臓もある完全に近い死骸も欲しいし、いくら複製ポイントがあっても足りないな)



 だがまだ一例しかないが、魔卵を産ませると言う手段がある事も解ったので、これからの行動次第では複製ポイントの消費を抑えながら戦力増強も可能だろう。

 そうなるとペガサスや金軍鶏クラスの魔物でも、少々可哀そうだが捨て駒として使うという選択肢の幅が広がってくる。



(そう考えると、その辺のイモムーを捕まえてシュベルグファンガスにするというのは、手っ取り早く強い捨て駒の生成と考えるのなら最高の選択だったんだな。

 成長過程も残っているから改造しやすい上に、将来的に強くなることも確定しているんだから。何匹か作って森へ偵察に行かせるのもありかもしれない)



 この世界の誰もが恐れ、この世界全体でも数か所しかないレベルの危険地帯といわれる場所だ。慎重に事を進めるに越したことはない。

 自分やカルディナ達の強化も大切だが、いざという時に切れる足止め役や囮役なども必要かもしれないと真剣に考え始めた。



(捨て駒にする為に育てるのは気の毒な気もするが、一番大事なのは愛衣達の安全だ。そのために取れる手段は多くあった方がいいんだから)



 ララネストを養殖しようとしている時点で何をと言いたくなるが、食用ですらなく、完全に捨て駒として魔物を取り扱う事への罪悪感がぬぐいきれずに、言い訳するよう自分に言いきかせた。



(そうなると魔卵の合成実験も早めに終わらせて、魔物の量産もしておかないとな。

 ああ、適当に捕獲してくるのもありか。やることは一杯だ)



 今後の予定に入れておかねばならない事を頭にメモしながら、その日は魔卵合成実験の材料量産に努めた。




 翌日も雨。蒼太たちにもご飯をあげた後は、昨日わざわざ時間をとって量産したことで目標数に到達した素材を使った実験をすることにした。

 脳も魔石も小さいが馬鹿みたいに量産したため、余っている広い一室の中に山のように積まれており、非常に気持ちが悪い外観になっていた。

 その場にいるだけで、愛衣もおえっと口を押えて眉根を寄せていた。



「それじゃあ始めるか」

「お願いします」



 実験の見学を申し出ていたリアは、既に目の色を文字通り変えて準備は万端だ。

 竜郎は天照を握りしめ、そのうず高く積まれた素材全てに向かって《魔卵錬成》を発動させた。

 すると山が溶けるようにべちゃっと地面に一度くっ付くと、大量の魔卵がゴロゴロと溢れ出した。



「おー。苦労して復元魔法で量産しまくった甲斐があったね、たつろー」

「ああ、魔卵パラダイスだ──んじゃあ、次は合成だ」



 元となる魔卵の等級は2なので、大量に生み出したところで大した負担も無い。 竜郎は転がる魔卵全てに、近くの卵と合わさるようにイメージしながら発動させた。



「等級は一律2.2に上がったみたいですね」

「ピュィーー」



 《万象解識眼》で二分の一に減ってもなお魔卵で溢れかえった場所を見渡し、大雑把に確かめて2.2以外になっている魔卵が無いかチェックした。

 竜郎もカルディナと一緒に調べていったが、漏れなく2.2。他もそうだったことから考えても、同じ魔卵同士での一回目は必ず0.2等級上がると考えてもいいだろう。

 それからもドンドン合成していき、2.4、2.6、2.8、3.0と、五回目の合成でも変わらず0.2上昇から変わらなかった。

 けれど六回目以降では3.1、3.2、3.3、3.4と0.1刻みに変化していた。



「もしかして等級が上がったら上がり幅も減るって事かなぁ」

「かもしれない。このまま4までやってみよう」



 14回目の合成では山の様にあった魔卵もすっかり減ってしまい、もはや8個しかなかった。



「凄いですね。かなり手間はかかりましたが、等級2だった魔卵が亜竜クラスの4ですよ」

「このまま5、6と上がっていってくれればもっと面白いんだが、さて──」



 残り少なくなった魔卵を合成させていき、残り4個になって確認も楽になった魔卵の等級を綿密にチェックする。

 これで4.0以上になっていれば、等級5にまで至れる可能性が出てくる。だが──。



「だめですね。コンマ1たりとも上がってないです」

「もう一回やってみる?」

「ここまで合成された魔卵を無駄に消費するのはもったいないんだが………………よしっ、実験の為に集めたんだからやるしかない」



 試行回数一回ではデータとしては心もとない。もしかしたら二回目で上がるかもしれない。そう言い聞かせ、もったいないお化けを振り落して合成を発動させた。

 結果は……。



「上がってませんね」

「だな……」



 あれだけの素材をチマチマチマチマひたすら量産してきたのに、残った卵はたった二個。そんな光景に、竜郎は軽くため息を吐いたのであった。

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