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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

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第354話 天族創造の法則

 翌日は雨が降っていた。そこまで強くも無く、待っていれば止みそうな雨だったので、自己強化訓練はその後からすることにした。

 朝食を終えた二人はわざわざ一本の傘で身を寄せ合って、《幼体化》ジャンヌを引きつれ裏庭へ出た。

 そこには竜郎と月読が急ごしらえで作った、金軍鶏とヒヨコの為の水晶鶏舎、隣にはペガサスがいる水晶馬小屋が併設されている。

 昨日魔卵が出来るかどうか試してくれと言ったが、オスもいないので無理だろうとたいして期待せずに鶏舎の方の扉を開けた。

 すると体育館ほどの大きさのある大きな鶏舎の中に、ヒヨコが三十匹ほど元気に走りまわっていた。

 中央には金軍鶏がやややつれた顔をして佇んで、その周りには金軍鶏より一回り小さい白軍鶏が八匹侍っていた。



「なんじゃこりゃ……」

「わーい。ヒヨコパラダイスだー!」



 昨日まではスカスカだった鶏舎の鳥口密度が、たった一晩で一気に増加している事に片や口をあけ、片や沢山のヒヨコに相好を崩してはしゃいだ。

 ジャンヌも遅れて入ってきて「なんか増えてるー」とでも言いたげな顔で、目を瞬かさせていた。

 そんな風に入り口辺りでたむろしていると、金軍鶏がこちらに気が付きコケコケやってくる。

 道を塞いでいた白軍鶏やヒヨコたちが一斉に道を開け、完全に金軍鶏がこの鶏舎の女王なのだと理解した。



「ヒヒーーン」

「コケッコッコー」



 ジャンヌの前にやってくると金軍鶏は一度ぺこりと頭を垂れると、ムムムッといった険しい顔をしながら突然鳴きだす。

 何事かと竜郎達が目を丸くしていると、お尻の方からコロコロと金色に白色のマーブル模様が入った二十センチほどの水晶球が転がった。

 それを咥えると、ジャンヌの方へと差し出してきた。ジャンヌは樹魔法で作った植物で鳥の巣のような受け皿を作って渡してもらい、それを竜郎に見せてきた。



「これはもしかしなくても魔卵じゃないか。たった一晩でこれも作ってたのか?」

「コケコケ」

「ヒヒン──」



 ジャンヌに伝わってきた内容を紙とペンで説明してもらうと、どうやらここにいる沢山のヒヨコたちは、魔卵が出来るかどうか頑張ってほしいと言われた金軍鶏が試行錯誤した結果なのだと言う。

 そして色々試していくうちに、本能レベルで魔卵の作り方がなんとなく解ったようで、ヒヨコの中のオス数体に成長することを許し成体にすると、その中から一番自分の魔力と相性のいい一匹と魔力を掛け合わせて作ったらしい。

 そして竜郎たちがくるまでの間に必死に魔卵に魔力を纏わせて形成させていったのが原因で、今はかなりお疲れ状態らしい。



「見た感じ結構負担がかかるみたいだね」

「一晩でってのが無茶だったてのもあるはずだ。今度からは無理のない範囲でゆっくりと作ってくれればいいと言っておいてくれないか?」

「ヒヒン」



 ジャンヌが無理はしないでね。でも魔卵は欲しいの。と丁寧に伝えると、若干ホッとしたように息を吐いて一声鳴いて了承した。

 どうやら冗談抜きで、かなり無理をしていたらしい。竜郎としてもただの卵製造機として扱うつもりは毛頭ないので、ありがとうの気持ちが伝わるように優しく頭を撫でて労わった。


 目的のモノは手に入ったし、今日はもうのんびりと休んでもらおうと出て行こうとすると、金軍鶏はジャンヌを引きとめた。

 なーに? と首を傾げるジャンヌに対し、金軍鶏は後ろを振り向いて白軍鶏に何やら指示を出す。

 すると白軍鶏たちが、白い羽で出来た巨大な鳥の巣のような物を押しながらこちらへと歩いてきた。

 興味深げに竜郎達がそちらに視線を向けていると、中には大量の金の卵が敷き詰められていた。個数にしたら三十個以上は有るだろう。



「なんでこんなに……」



 疲れているのに何で卵を量産しているんだという視線を金軍鶏に向けると、どうやらこれも魔卵を作ろうと試行錯誤している時に産んだもののようで、これを全部ヒヨコにするのも疲れるし、欲しいのなら持っていってくれという事らしい。



「ペガサスの素材になるかもしんないし、もしそれで異性のペガサスがつくれれば魔卵も産んでもらえるんじゃない?」

「そうだな。くれると言うのなら全部貰って、《天族創造》をやってみようか」

「ヒヒン!」



 見た目通りフワフワした大きな鳥の巣の感触に感心しながら、一旦竜郎の《無限アイテムフィールド》に全てしまいこんだ。そして今度こそ別れの挨拶を告げる。

 いちど金軍鶏がぺこりとお辞儀すると、卵が入っていた巣に横たわり爆睡しはじめた。それを白軍鶏たちが巣ごと押して鶏舎の中央まで持っていく。

 あれならば直ぐに回復するだろうと確信を持ちながら、竜郎達は雨に出来るだけ濡れないように隣の馬小屋にかけこんだ。



「ヒヒーーン」

「ヒヒン!」



 ジャンヌよりもやや低めの馬の鳴き声を上げたのはペガサスで、ジャンヌを見つけると直ぐに駆け寄ってきた。

 滑らかな質感の毛を撫でさせてもらったら、少し距離を置いた所で待機していて貰い、天族創造を行うために先ほど貰った聖なる金の卵を出していく。



「えーと。この子の性別はメスだから、ペガサスが産まれるんならオスがいいってことだね」

「同じ魔物に成るとはまだ解らないけどな」



 卵を並べ終えると《真体化》したジャンヌが、天井にぶつからないようにやや身を縮めて前に出る。その少し後ろで竜郎が竜力補助の為に準備すると、さっそくスキルを発動させた。

 ペガサスを作ったときは二人でも十分だったので、今回はカルディナ達の補助なしで一気に十個消費して作り上げていく。

 するとやはり昨日と同じようにペガサスが出来上がった。



「やっぱり素材が同じなら出来上がる魔物も同じって事でいいのかもしれないな。それで性別は……」

「メスだね。同じ素材だと性別も同じになっちゃうのかな」

「まだ試行回数は二回だ。もう一度やってみよう」

「ヒヒーン」



 増えたペガサスは後ろで大人しくしているペガサスの元に下がってもらい、竜郎は再びジャンヌの天族創造の手助けをしていく。

 ジャンヌの竜力に混ぜるように自分の竜力を流し込んでいると、ドーーン!というお腹の底に響くような音が近くで鳴り響き、何事かと天族創造を一時停止した状態で周囲を確認する。



「あー。雷だよ、たつろー。雨が強くなってる」



 愛衣が外を確認して空を見れば、直ぐに止むだろうと思っていた雨脚は強さを増し、空がぴかっと光ると先と同じ音を響かせ雷が落ちてきた。

 なんだ自然現象か。と胸を撫で下ろすと、オスのぺガサスが産まれる事を願って天族創造を再開させた。



「あれ? なんかさっきより小さくない?」



 愛衣の言葉の通り、白い液体が魔物の形を取り出す時の状態が、ペガサスが産まれた時よりもずいぶん小さい。

 どういうことだと成り行きを見守っていると、出来上がったのは一メートル程で、青い目に雪の様に白い二足歩行のウサギが、鼻をピクピクさせながらジャンヌを見ていた。



「かわいい! でもペガサスじゃないってことは、同じ素材でも違う魔物が産まれるって事が解ったね」



 愛衣がおいでーと手招きすると、二足歩行のウサギが一度ジャンヌを見て、ぽてぽて歩いて愛衣に近寄っていく。それを横目に竜郎は今回の結果から、考えられる情報を纏めていく。



「う~ん……。だが二回連続でペガサスが出た理由が有るかもしれない。最初の一回はカルディナ達も入れて、奈々を抜いた四人がかりで竜力を注いだ。そして二回目は俺とジャンヌだけだから人数は関係ない」

「あっ! じゃあさっきの雷は? 途中で雷が落ちてきて、雷パワーが充電されたとか」

「確かに一、二回目との違いと言われたら真っ先にあがるんだろうが、雷は離れた所だし関係ないと──ん? いや、間接的には関係があるのかもしれないな」

「間接的?」



 やってきたウサギを抱っこして、ぎゅーっとしながら愛衣は首を傾げた。

 その可愛らしい姿に思わずスマホを取り出し写真を取りながら、竜郎は自分の仮説を聞かせていく。



「最初の一回目と二回目は一気に作り上げたが、三回目は途中雷に驚いた俺が一時停止させてしまった……形成までのスピード、もしくはスムーズさが関係しているのかもしれない」

「うーんと、ぱぱっと作るとペガサスになって、ちょっと時間がかかったりして手間取るとウサちゃんになるってこと?」

「と、俺は思ってる」



 垂れ流しになっている身に纏う聖なる力や初期から有している魔力の量から言っても、ペガサスとウサギではペガサスの方が魔物としての格は上だった。

 なんの詰まりも停滞もなく滑らかに創造すればするほど、質の高い天族へと至る。そう考えれば辻褄が合うのではないか。というのが今回の竜郎の仮説である。

 そして一気に作り上げた場合、二回ともペガサスのメスになったということは、性別を変えたいのなら製造途中で上手い具合に詰まりを演出すれば、それがオスになるかもしれない。

 残った卵はあと十個と少し。本当ならもっとたくさんの卵を使って実験していきたいが、休んでいる金軍鶏を起こすのも可哀そうだ。

 リアがここにいればもっと色々解っただろうが、今はアムネリ大森林への探索の為にカルディナ達の装備品を作っていて忙しい。

 特に急ぎでもないこの実験に付き合わせるのも違うだろう。



「ということで、ぶっつけ本番でやってみるか。別に日にちさえかければまた卵は手に入るだろうし」

「だね。ワザと詰まらせるってことは、さっきみたいに一時的に停止させるんだよね」

「ああ。この仮説が合っていると仮定して、どの程度の詰まりで種類が変わるのか、どの程度の違いで性別が変えられるのか──なんかも調べていきたいが、今回は半拍子程止めてみることにする。

 それだけで種類が変われば、それはそれで新しい結果が得られるんだからな」



 再び卵を並べて、今度はジャンヌと話し合って、完成間近という所で半拍子止めて創造することにする。

 タイミングはスキル保持者のジャンヌが知らせてくれる。

 ジャンヌがスキルを発動させて卵が溶けて白い液体へと変化し混ざり合っていく。



「ヒヒーン!」



 そして形成が始まる直前にジャンヌが鳴いて、半拍子竜力を注ぐのを止めてから直ぐに再開する。

 形はペガサスの時と同じ。少なくとも雌雄問わずペガサスが産まれるのは確定した。後は性別だけ……。そう思いながら創造し終わるのを待つ。



「オスだな。まだ偶然だという線も有りえるが、貴重なデータがとれた」

「取りあえず成功だね」



 そこにはどことなく最初の二匹よりも荒々しくも雄々しく、体形もガッチリとしたマッチョなペガサスが佇んでいた。



「うーん。乗るならメスの方がいいなあ」

「そうか? オスの方もあれはあれでかっこいいが」



 しなやかな筋肉をしてシュッとしているメス。筋肉隆々で力強さを感じさせるオス。どちらも互いが気に入ったようで、仲良さそうに寄り添いあっていた。

 この調子なら近いうちにペガサスの魔卵が手に入りそうだと、竜郎は満足げな顔で笑った。


 雨脚が先ほどよりも強くなり、雷も轟轟と鳴り響き、嵐の様に風が吹きすさぶ。

 こんな中で領地散策するよりは、今のうちに他の実験もやってしまったほうがいいと考えた竜郎。

 昼食を手早く済ませ、奈々を除いた魔力体生物組をカルディナ城の中で余っている広いスペースに集合してもらった。



「というわけで天族創造について法則が見えてきたから、今度は風山で手入れた化石で、さらに質の高い天族が作りだせるかもしれない」

「それにこれが上手くいけば、魔族創造の方にも応用できそうだよね」

「そういう意味では奈々姉もいた方がいい気がするっすね」

「だが金軍鶏以上の聖気をまき散らす奴が出てくる可能性が高いのに、邪竜の奈々を近くに置いておくのは可哀そうだからな。

 結果だけはちゃんと教えられるようにしておこう」



 竜郎はそう言ってこれまでの実験結果と、簡単な推測や試したいことなどを纏めた紙をペラペラと揺らした。

 ここに今回の結果や考察も書いて、奈々やリアに渡せば情報共有も早いだろう。

 竜郎は化石を取り出し十個置く。まだ余裕はあるが、そろそろ無駄使いを控えたくなる数になってきたと内心思いながら、皆のいるところまで下がって手に杖を持つ。

 今回は天照の魔力頭脳での演算もフルに使って貰う予定だからだ。



「ヒヒーーン」



 まずは《聖竜の祝福》で聖属性に染め上げなければならない。

 だが今回は大量の竜力を保有する存在が増えたので、最初と比べてずいぶん楽に聖なる物質に変換できた。

 悠長にしていればあっというまに聖属性が放出されていってしまうので、間を開けずに一気に《天族創造》を行使する。

 前の様に形付くまでの間でぐずぐずしていたら、せっかく産まれるかもしれないより質の高い天族を逃してしまう。

 貴重で莫大なエネルギーを生み出し続けるこの素材を使うのだから、出来るだけいい存在が欲しいと思うのは当然の事だ。

 竜郎は気合を入れてカルディナ達にも一気に竜力を注ぎ込むことを告げながら、自分も余力も無視して放出していく。だがその際にまた悪い虫がささやいた。



(大量のエネルギーが欲しいなら神力とか使ってもいいかな? いいよな?

 だって神力ほど上質なエネルギーは無いんだからさ)



 などと心の中で誰に言うでもなく言い訳し、竜力に混ぜて神力も流し込み始めた。

 一瞬ジャンヌが「ヒヒン!?」と驚いた顔をするが、それでも打ち切ることなく集中していき、金軍鶏のときとは比べ物にならないほど早く──特に神力が加わった瞬間あっという間にエネルギーが飽和状態になり、まるで早送りでもしているかの様に形を成した。


 現れたのは、白馬の体に人の上半身が生えたケンタウロスに似た存在だった。

 馬の四足のヒヅメから頭の先までで二メートル半。

 頭の上には光の輪が浮いており、ロマンスグレーという言葉が似合う白髭と白髪の渋い男性で、筋肉質な体の背には大きな天使の翼が二対ついていた。

 さらに手には大きな金の弓矢を持ち、数本の金の矢が入った矢筒を背負っていた。

 そして特筆すべくは、金軍鶏とも比較にならない程清らかな聖気に満ち溢れていた。まさに天使のケンタウロスである。


 それだけでも竜郎達は唖然としてそのケンタウロスを見つめていたのだが──さらに驚くべきことに、自らの意志でジャンヌの前まで来ると、その口を開いて外見に見合った低い声でしゃべり始めたのだった。



「おおぉ……なんと……なんとお美しい……この方が私の主……。ジャンヌ様。貴女に永久の忠誠をお誓いします」

「ヒヒン!?」

次回、第355話は11月8日(水)更新です。

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