第351話 風山を作ってみよう
翌日。今日はジャンヌが一緒に行きたいと言うので、豆太やシャチ太は牧場内で休ませて竜郎、愛衣、ジャンヌ、天照、月読での探索をすることにした。
昨日は平らな道をただひたすらと真っすぐ行っただけなので、今回は遠目に見える標高千メートル程度の山の天辺まで散策しつつ、風山もついでに作ってみようと言う話になった。
「材料はあるんだから、作ってみたいよね」
「風山が有ればそこ特有の素材や魔物が産まれたりするらしいからな。レアは何でも大歓迎だ」
「ヒヒーーン」
今は無きバンラモンテ山で手に入れた古代の魔物の化石が変化したエネルギー物質を、自分たちの敷地内に埋めて風山を作ってみないかと言ってきたのはリアだった。
そうやって色々な研究をして、今後の鍛冶業に生かしたいそうだ。
竜郎達も自分たちの領土内に珍しい土地を作れると言うのに否は無い。
なので特に反対意見が出る事も無く、作り方のコツを聞いて修行ついでに山を目指した。
ちなみに。山以外ではだめなのかと言われればそうでもない様だが、条件を満たしやすいという点では山が一番適しているのだそう。
そんなこんなで珍しい魔物や、土地の管理を任せられそうな強者を探して、昨日は西に向かった進路を南方に向けて進路を取った。
月読の竜水晶による整地作業も並行しながらSP収集、スキルレベル上げの為の戦闘を繰り返ししながらガシガシ進んでいく。
残念ながらクー太やプー子に匹敵する魔物は見当たらなかったので、また新しい魔物でも作って管理者を置いておいた方がいいかもと考えながら、寄ってくる魔物は殲滅、来ないなら無視を決めてあっさりと目的の山の頂上へと到着した。
「ついたー!」
「大した魔物がいなかったのは残念だが、そこそこSPも溜まったし良しとするか」
目的地に着いたことに素直に喜ぶ愛衣と、あっさり着きすぎて拍子抜けしている竜郎と、それぞれの感想を抱きながら小高い山からの風景に視線を移した。
「こうして改めて見渡すと、やっぱり広いな」
「だねー。それじゃあお昼にしよ。もうお腹ぺこぺこだよ」
「ん、そうだな」
傍でうつぶせになってリラックスしているジャンヌに背をもたれ掛け、リアに作ってもらったお弁当を開きながら風山が出来るまでの過程をもう一度復習しておく事にした。
「えーと。地脈だか何だかがもぎゅってなってるとこに、素材を五個くらい埋めれば出来るんだったよね?」
「ああ。リアが言うには地盤が隆起した時とかに出来る、大地のエネルギーが流れる血管的な地脈?っていうのか。そいつら同士がくっ付いたり捩じりあって、より強い循環がなっている所ってのがミソらしい。
だから食べ終わったらその地脈とやらを調査して、一番濃くなっている流れの部分に設置すればいいはずだ」
調査自体も今の竜郎なら直ぐに最適な場所が見つけられるし、穴掘りも魔法でちょちょいのちょいと出来るので、大した苦労も無く人工風山を作りだせるだろう。
ジャンヌや天照、月読と戯れながらゆっくりと昼食をとりおわった竜郎と愛衣は、弁当箱をしまって立ち上がる。
フヨフヨ浮いていた天照を掴んで引き寄せると、さっそく地脈の濃い場所を探っていく事にした。
「えーと……調べればすぐわかると言っていたが、地脈ってのはどういう反応なんだろうな」
「さあ?」「ヒヒーン?」
そんなものを今まで意識してこなかったし、探ろうともしていなかったので、皆で首を傾げながら調べていく。
深く広く地中探査を伸ばしていくと、突然竜郎の探査の魔力がズゾゾゾッと掃除機にでも吸われたかのような反応を示す場所を見つけた。
その慣れない感覚に鳥肌を立てながら竜郎が腕をさすり、具体的な場所をおそるおそる探っていく。
「みっけたの?」
「ああ。黒板を引っ掻いた時みたいな、ゾワゾワするところがそうだと思う」
竜郎の変化にいち早く気が付いた愛衣に説明しながら、地脈にはできるだけ触れない様に慎重に細かな場所を調べつつ、最も太く最も多く脈が絡み合っている場所を特定した。
慣れないゾワゾワに体を震わせながら耐えてそちらへと移動していく。
場所的には今たっている所から二つ山を越えた向こう側にある──といっても山脈のようにこことも繋がっているのだが、現在地より百メートル程低い高さの山となっている。
「この気持ちの悪い感覚を早く何とかしたいし、そこまで飛んでいくぞ。おいで愛衣」
「はいよー」
竜郎が拡げる腕の中にすっぽりと入りこむと、そのままお姫様抱っこで抱えて月読に翼を出してもらう。
ジャンヌも《真体化》して飛ぶ準備が整った所で、一斉に飛び立って登ったり下ったりして山を行く事なく一直線に目的地にまで辿り着いた。
けれどちょうど穴を掘ろうとしている辺りには先客がいた。
飛来してくる竜郎達に気が付くと、地面に差し込んでいた長い針のような舌を引き抜きキーキーと耳障りな声で威嚇してきた。
「あれに近い化物の話が地球にもあったよな。なんて名前だっけか」
「ん~~~~? ──あっ、チュパカブラだよ! たつろー!」
「それだ!」
大きさは百五十センチほど。猫背で二足歩行の人型で緑の体皮。それでいて頭のてっぺんからお尻にかけて魚の骨のような棘が一列に生えていた。
その姿を何かに例えるのなら、地球で知られるUMA──チュパカブラのイメージ画像にそっくりだった。
「残念ですが弊社の外見基準を大幅に下回っているため、今回はご縁が無かったという事で──死んでくれ!」
「来世では可愛い魔物になれるといいね! ばいばい」
竜郎からは天照の先端から湾曲したビームが多数飛び出し、横方向全てを囲い込む様に退路を塞ぐ。
愛衣は扇の天装──幻想花をだして魚の形をした桃色の斬撃を真上から放っていく。
チュパカブラはササッと素早く周囲を見渡して躱せないと判断し、その場で丸くなって受け止める事にしたらしい。
その程度で防げるものかと竜郎達が思っていると、攻撃が当たる直前にチュパカブラの全身に黄色いオーラの様な物が現れた。
「……なに今の?」
「……解らないが、あの攻撃全部をくらってもまだピンピンしているのはわか──」
「──ひゃっ」「ヒヒーーン!」
竜郎が言葉を発し終わる前に、気が付いた時には目の前に黄色いオーラを纏ったチュパカブラが両手の爪を振りぬいていた。
神格化で上がった物理系のステータスでも対応できない程の速さに目を見開いていると、反応できた愛衣、ジャンヌ、月読がそれぞれ扇で、尻尾で、障壁で竜郎を守ってくれた。
愛衣達のおかげで事なきを得た竜郎の視線の先では、こいつ等には攻撃が通らないと察した様子のチュパカブラがすぐさま動き出す。
月読の障壁をチュパカブラが逆に利用して蹴りつけると、流星の様に黄色の線を描きながら地面にぶつかる勢いで戻り、そのまま逃げ去ろうと明後日の方角へ走り出した。
「させるかっ!」
貴重なSPになりそうな魔物をみすみす逃がすわけにもいかないと、竜郎は氷魔法を転移させてチュパカブラの周囲に氷を張った。
突然大地が凍りつき足を滑らせて転倒している間に竜郎達も着陸すると、山に被害が出ない範囲で総攻撃していく。
竜郎は天照と共に転移させたレーザー十本、愛衣は扇の斬撃、ジャンヌは月読と共に氷の嵐を。
そんな並みの魔物なら百回は死ねそうな攻撃を前に、チュパカブラは当たるのも構わずに、黄色いオーラをさらに濃くしながら地面の氷を砕いて一足飛びに突撃してきた。
「こいつ強くない!?」
慣れない扇をしまって宝石剣に持ちかえると、相手の頭突きをそれで弾き返しながら愛衣が叫んだ。
竜郎はチュパカブラのスピードについていけないので、防御は愛衣や月読に任せて、広範囲に渡って重力魔法を展開。
周りの植物を押しつぶしながら相手の動きが鈍くなったところで、チュパカブラを消し飛ばす勢いで極光の魔力を宿した極大レーザーを射出。
けれどチュパカブラはあろうことか、高重力を味わいながら、そのレーザーを両手で受け止めた。
「おいおい……ウソだろ。この威力を素手で受け止めるなんて俺でも無理だぞ……」
「アイツ絶対おかしいよ! 私の纏の斬撃も弾かれてる!」
「ヒヒーーン!」
ジャンヌも自分と月読の混合魔法が効いていないことに動揺が隠せない様子。
だがそれだけやって初めて、相手は動くことも出来ずにその場に押しとどめる事が出来ていた。
「アレを倒すとなるとさらに威力を上げればいいんだろうが、これ以上やるとせっかく風山に適したこの場所が壊れるしなあ……どうしたもんか──ん?」
「何か解ったの?」
未だに猛攻撃を加えつつ、相手の予期せぬ行動にもいつでも反応できるように構えていた愛衣に、竜郎は今気付いたばかりの事を口にする。
「いや、なんかあいつの周りの黄色いオーラみたいな奴がさ、薄れていってないか?
今精霊眼で観てみたんだが、確実にエネルギー量が収縮しているのが確認できたんだが」
「もしかして、あの黄色いのが無くなったら、あの異常な運動能力と防御能力が無くなるとか?」
「かもしれない。──ふっ。…………今レーザーの火力を上げたら減り具合が増えたな。当たりかもしれない。
皆! 俺が合図したら威力を弱めてくれ!」
この推測が当たっているのなら、あの黄色いオーラが尽きた時、このままでは竜郎達の攻撃で塵も残さず消滅する恐れがある。
ここまで苦労を掛けられたのだから、SPと素材位は回収したい。
竜郎は全員が頷くのを見ながら黄色いオーラが尽きそうなタイミングを見計らっていき、自分のレーザー攻撃で調整していく。
そして本当に消える寸前で号令をかけた。
「今!」
竜郎の声と同時に、全員がこれまでの攻撃の威力をかなり落とす。
それと時を同じくして黄色いオーラーが霧散すると、今までの攻撃の一割にも満たない程度の攻撃が次々とヒットして、あっという間に瀕死の状態に陥って地面に倒れ伏した。
「やった! ようやくダメージが通ったよ!」
「ああ。後はSPを──」
「はっ!」
取りに行こうか。と竜郎が言おうとした瞬間、愛衣が拳に纏った気力の拳を撃ち放つ。
するといつの間にか口から出てきて、最初に見た時の様に地面に刺して何かをしようとしていた長い舌を吹き飛ばした。
ギャーッと断末魔を上げている間に、これ以上なにもされない様に竜水晶で顔以外を覆って地面に転がした。
抜け出そうともがいているが、黄色いオーラーを出せなくなったチュパカブラでは何もできない。
けれど油断だけはしない様にゆっくりと傍によると、竜郎は死んでしまう前にとレベルイーターを行使した。
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レベル:69
スキル:《地脈感知》《地吸い Lv.10》
《地力貯蓄 Lv.8》《地力解放 Lv.10》
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(《地脈感知》に、血吸いではなく《地吸い》か……。
この場所で《地吸い》をやっていたという事を踏まえると、地脈の力を吸い取ってため込んで、開放する事で全能力値の大幅な増強を図っていたのかもしれないな。
そんでもって貯蓄分が無くなると他に使えるスキルが無いから、ただの雑魚になると。呆れるほど極端な魔物だな。けどSP的には美味しゅうございましたっと)
竜郎は合計(146)のSPを回収すると、天照と月読が首を切って止めを刺した。
「ふう。これでやっと人工風山作りに移れるな」
「相手の力を削るまでが結構大変だったからねー」
あの魔物のスキル《地力解放 Lv.10》。これを全力で開放している間は、ほぼ無敵といっていい状態へと至る事が出来る。
もし竜郎達ではなく、この領地の推奨探査基準をギリギリ満たした程度の人間では、何十人いても溜めこみ続けた地力を削りきる前に、あっという間に全滅させられていただろう。
そんな魔物とは知らずに、まあ大変だったよね。程度で和気あいあいと話しながら素材回収を終えると、こちらに来た時にチュパカブラが舌を刺していた辺りまでやってくる。
どうやらより地脈の強い場所を把握したうえで、地力を溜め込んでいたらしい。
竜郎は土を側面に圧縮するように押し硬めながら、血管の様に広がる地脈のなかでも一番大事な太く多く絡み合っている場所だけは触らない様に地下へと穴を掘り進めていった。
そして蛇行するようにできた穴の中へ、土の精霊魔法で風山の元となる元古代魔物の化石を穴の最深部まで五つ運んでもらった。
風山の元となる物質がちゃんと届いたことを確認した後は、穴を丁寧に塞いでいき、最後に地中探査で確認してみる。
「ん。ちゃんと地脈と化石が合わさってるし、風の魔力がこの辺一帯に溶けだして広がり始めたのが解るな」
「どれくらいで風山になるのかな?」
「危なくない範囲での最大個数投入したし、今の所問題なさそうで経過も良好だからな。二、三日もあれば何らかの変化はあるはずだ」
「これで珍しい素材が取れるようになるといいね」
「だな。風山特有の高価な薬草とかも取れるらしいしな。──ん? どうしたジャンヌ?」
話の切りが良い所で鼻先をポムポムと当てられた竜郎がその方向を振り返る。
すると《成体化》状態のジャンヌがこちらを見ながら、紙とペンを取り出して、樹魔法を使って何かを書き始めたのであった。




