第348話 中二病
雑魚だろうと何だろうと魔物の残骸は使い道がいくらでも有るので、全て風魔法で掻き集めて《無限アイテムフィールド》へと保存。
そこでSPを確認すると、以前倒した巨大怪鳥から今までのトータルで(1370)もあった。
「かなり溜まったな。さっそく使ってみるか」
「具体的には何を取るつもりなの?」
「取りあえずカルディナ達の強化にも繋がる光と闇魔法を一気に20まで取って、残りの属性魔法は全部14まで押し上げる。これで消費SPは(1313)だ」
「それだけとっても1300ちょっとって、魔神さんの親戚特典は凄いね」
今の竜郎は、これまでの二割のSPでさらに上限解放の取得免除されている。
なので氷魔法だけを例にとっても、レベル11から14に上げるのに、これまでなら(2880)掛かっていた所を、たった(576)で取得できるようになっている。
「そして余ったSPで物理属性魔法とかいう新しく拡張された魔法も少しずつ取ってみようと思う」
「物理属性魔法? 何それ?」
「ようは物理属性の切る、突くなんかの事象を魔法で再現しようっていう感じだな。
全部で斬属性、突属性、打属性、射属性、盾属性の五種」
「いよいよ何でもOKになってきたね。魔法ばっかずるくない?」
「気獣技だって大概ズルいと思うがなぁ」
「それはそれ。これはこれ。だよ。でも斬とか突とかはいいとしても、射属性なんて魔弾でよくない? 何か違うの?」
「ああ、それな。この属性魔法はちょっと特殊で、実際に鉄砲玉とか矢を作って飛ばすっていう魔法ではなく、推進力を他の物体や魔法に与えるっていう魔法なんだ」
「推進力とな?」
魔弾の場合。これは魔力で弾丸を形成し、それを撃ち出すという事が出来るスキルである。
けれど射属性魔法は、それ単体では攻撃能力は皆無。けれど他と組み合わせることで意味を成してくる、ある意味光や闇属性と近い性質を持っている。
例えば火の玉を火魔法で作っても、それを相手に投げつけようとしたら、カルディナの《自動追尾》の様なスキルでもない限り、基本的に当たるまでこちらで制御しなければ移動してくれない。
けれどそこへ射属性を混ぜ合わせると、前に進もうとする推進力を付ける事が出来る。
しかもそれは魔法に限らず、そこらの石ころを拾って、それを弾丸のように飛ばす事も出来るようになるらしい。
ただしこれらの物理属性魔法もレベル有りなので、それが高くなければ大した威力は期待できない。
「へー。それで推進力ね。ちょっと面白そうかも」
「だろ? けど属性拡張とかいうので最初にSPを(10)ずつ支払わないといけないんだがな」
「それくらいなら、あっという間だよ。必要経費ってやつだね」
「ああ。だから斬、突、射をそれぞれ解放で(30)。んでそれを2レベルまであげて(25)で、全トータル(1368)で残り(2)でいこうと思う」
そうして新たに3つの物理属性魔法を開放、取得。光と闇魔法を20。他の属性魔法を14まで押し上げた。
すると──。
《称号『光を極めし者』を取得しました。》
《称号『闇を極めし者』を取得しました。》
「20で何か来るかとも思っていたが、予想通りだったな」
「称号でも覚えたの?」
「ああ。効果は──」
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称号名:光を極めし者
レアリティ:20
効果:ステータスの魔力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力に+500。
光魔法において制御能力特大上昇。
光力を極光力または聖力へと変換可能。
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称号名:闇を極めし者
レアリティ:20
効果:ステータスの魔力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力に+500。
闇魔法において制御能力特大上昇。
闇力を極闇力または邪力へと変換可能。
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「光力と闇力ってのは、それぞれの魔法で作られる光や闇の事で良いんだよね?」
「だと思う。んでそれを極光力やら極闇力とかいうのか、もしくはジャンヌや奈々たちがやってる竜聖剣とかの時に出てる力を生み出せるって事か」
「ちょっとみせてほしーな」
「まかせろ」
竜郎は天照を手放して近くで浮遊していて貰うと、空になった両手の平を空に向ける。
そして右手に光魔法で光を、左手に闇魔法の闇をそれぞれ球体で作りだす。
竜郎は意識してまずは極光と極闇へと変換するように念じてみる。
するとさらにエネルギーを要求されたので竜力を追加すると、光はより明るさをまし、闇はさらに深くなる。そして周囲には光色の、闇色のスパークがパチパチと散っていた。
「かっちょいー。スーパー光魔法とスーパー闇魔法だね。それで使っている側としては、何か変わっている感じがする?」
「同じ大きさなのに内包している力がかなり大きいってのは感じるな。
ちょっと他のと混ぜてみるか──よっと」
試しに極光の魔力に火魔法を混ぜ、それを開けいている方角にレーザーとして撃ってみる。
するとボンッ! と音を立てて、巨大なクレーターを生み出した。
そしてよくそこを見れば、穴になっている地面はドロドロに溶けていた。
「光魔法の他属性強化の力がかなり増したって感じだな」
極闇魔法では鉄すら溶かす熱を持つ氷という、かなり矛盾した物質を作り出すことに成功した。
ただの闇魔法でここまでしようとするならかなり難易度が高いはずだが、極闇の力では大した労力ではなかった。
「だがデメリットもあるな」
「消費エネルギーが高くなるって事?」
「それもある。それもあるが、一番のデメリットは時間だ」
「時間?」
「例えば光魔法で実演するとだな。まず普通のレーザー」
竜郎の人差し指の先から、構えた瞬間にただの光の塊の小さなレーザーが草むらに飛んでいった。
「そんで極光のレーザー」
同じような規模のレーザーを人差し指から放とうとするが、こちらは発射までに一秒ほどかかっていた。
「つまり変換時間がいるから、瞬発力を求められる場面では出しにくいって事だね」
「ああ。こればかりはいくら演算装置や天照たちに頼んでも速く出来そうにはないからな。こちらに余裕がある時に使う大技って所か」
「なるほどなるほど」
次に竜郎達は聖力と邪力を確かめてみる。
こちらも先ほど同様に右手と左手に出した光と闇の玉をそれぞれ変換してみれば、光は見ているだけで心が温まる様な優しくも力強い光となり、闇は見ているだけで不安を掻きたてる様な、それでいて儚さを感じる闇となった。
またそれらの周囲にはスパークではなく、それぞれオーラというのか靄とでもいうのか、その様に形容されるものが周囲を漂っていた。
さらにそこへ火魔法を追加してみれば、光魔法の時とも違う清らかな白炎と、闇魔法の時とも違う不吉な黒炎がそれぞれ燃えていた。
「おー。極も聖邪も、どっちも甲乙つけがたいほどにかっこいいねえ。
ん~邪炎かあ……ねーたつろー。あのねあのね」
「なんだ?」
愛衣に手招きされたので両手に持った炎は消し去って近づくと、周囲にはシャチ太くらいしかいないのに、耳元で囁くように小さな声で話しかけてきた。
「まじか……。いやいやいや。無理だから」
「お願いお願いおねがーーい。一回でいいから見せてー」
「いやいや俺たちはもう高校生だぞ? そんな事できるわけ──」
「おねがーい……ウルウル」
「ぐっ。なんて可愛い目をして俺を見つめてくるんだっ。──しかし」
「ねー。また今度はたつろーのお願い聞いてあげるからー。ねーねー」
「……………………はあ。ほんとに俺の時も聞いてもらうからな」
「うんっ。ありがとー。それじゃあスマホの用意を……」
「……ちょっと愛衣さんや。何故にスマホを出すのですか?」
「いや、どうせなら撮影しようかと」
「ノーーーーーーーーーーー! それはアカンで愛衣はん!」
「何故にエセ関西弁? まあまあ、誰に見せるモノでもないんだし。これも思い出だよ、思い出」
「くそっ。後で覚えてろよ!」
「はいはい。なんでもしてあげるから」
「絶対だぞ!」
愛衣にニコニコした笑顔で見送られながら、少し距離を取る。そして舗装もされていない草に囲まれた場所に立つ。
「…………なあ。ほんとにやる……のか?」
「もちろん! 全力でやってね。変に中途半端にやる方が恥ずかしいんだからー。
セリフはさっき言った通りにやってねー!」
「ええい、ままよっ!」
愛しの彼女がスマホを構え、動画での撮影を既に開始している。
そんな中で竜郎はカメラに対して横向きなる様に位置取って、覚悟を決めて右手で顔を覆い、左手はお腹を抱くようにして斜に構える──俗にいう中二ポーズを全力で決める。
「──くくくくっ。我に仇なすとはいい度胸だ。よかろう。我が力の一端を見せてやろう──はああああっ」
バッと構えを取って右手を前に突き出すと、その手の平に邪力に変換した不吉の闇と火魔法を混ぜ込んでいく。
真っ黒でいて怪しげなオーラを放つ黒炎を手に、竜郎は全力で声を上げる。
「闇の炎に抱かれて消えろっ! ダークインフェルノーーーーーーーー!!」
一切の羞恥心を消し去って、竜郎は魔法だけに集中する。
そして手の平からは邪炎が周囲にまき散らされて、草原の一体を焼き焦がす。
すると焼かれた地面は湯気の様に、未だ邪のオーラを放っていた。
それを見ながらカメラの方に体を向けて、また竜郎は中二ポーズを決めると、最後のセリフを言い放つ。
「ふっ。これでも手加減したのだが──な」
そこでカメラ目線になって、中二ポーズをとりながらのドヤ顔。
「…………………………」
「────かああああああっと!」
「ぐふっ」
竜郎は時間差でおとずれる羞恥心に、顔を真っ赤にして押しつぶされ地面に手をついた。
けれど愛衣の方はホクホク顔で、映像を見返しながらやってきた。
「いやー。よかったよー。CG一切無しで大迫力映像が撮れるなんて、魔法って凄いね!
それじゃあ今度は、聖なる炎バージョンいってみよっか」
「──なっ。そんな話聞いてないぞ! 俺のヒットポイントはもうゼロよ! 竜郎君が死んじゃうわ!」
「それじゃあ──回復のちゅっ」
「んぐっ──────────」
「元気でた?」
「これだけで回復してしまう単純な自分が凄く憎い…………。
解ったよっ、やればいいんだろっ。セリフは何だ! もう何でもやってやるよ!」
「さすが私の彼氏! おっとこ前だね! それじゃあ今度はね──」
そうして脚本、監督、演出、八敷愛衣による撮影会が始まり、それは竜郎が完全に燃え尽きるまであらゆる中二的シチュエーションを演じさせられた。
そしてその最後の方は、天照と月読に撮影を任せ、監督自らもノリノリで出演し、なんだかんだと仲良く中二ごっこを楽しんだ二人なのであった。




