表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第九章 原点回帰編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

348/634

第346話 二人がすべき事

 ようやく帰ったと思ったら自分たちの世界が崩壊した。

 そんな様をまざまざと見せつけられながらも、もう一度異世界に戻りその後にどうするのか話し合い、大まかな事は決まった。

 なので今日はもう夜も遅いので、それぞれ自室に戻って休むことにした。

 竜郎と愛衣は魔力で動くエレベーターで二階まで上がっていくと、二人の部屋へと入っていく、

 そこは大きな一室に、小さな個人部屋が左右に一つずつという間取りをしている。

 そして全面竜水晶で作られているが、壁の中にはリアが造った彫刻が彫られた金属の板が入っているので透ける事は無い。

 そんな部屋に入ると自動で明かりがともり、二人は寄り添いながらベッドに前向きに倒れこんだ。


 いつもならこのまま二人でお互いを求め合っていたのだが、さすがに今日はさしもの竜郎もそんな気分にはなれず、ジッとベッドに顔を埋めていた。

 そしてどちらからともなく首を横に向けると、お互いの手と手を握り合いながら見つめ合った。

 そんな時間が三十分も続いただろうか、ポツリと愛衣が言葉を発した。



「せっかく帰れると思ったんだけどなあ……。また遠のいちゃった」

「ならまた進めばいい。愛衣が進めなくなっても、俺がおぶってでも必ず連れて行ってやる。だから安心してくれ。

 この先どんな事があったって、どんな結末になろうとも、俺が絶対に愛衣を幸せにしてみせるから」



 竜郎は二人きりになってまた泣きそうになる彼女の頬に手を添えて、自分自身にも刻み付けるようにハッキリとそう口にした。

 愛衣の目から一粒の涙が横に流れてベッドに垂れた。

 けれどその涙は悲しいだけじゃない。この世で一番大好きな彼が向けてくれる一途な思いに、嬉しさも感じたのだ。



「ありがとね。たつろ。今夜だけ……今夜だけだから。明日になったらちゃんと笑うから……」

「ああ。泣いている所も可愛いが、やっぱり愛衣の笑顔はちょー最高だからな。愛衣にはいつでも笑顔でいてほしい」

「……うん──ふぐっ──ぐすっ──」



 愛衣は竜郎を抱き寄せ胸に顔をうずめると、声を押し殺しながら静かに泣き始めた。

 竜郎はそんな彼女が明日笑顔でいられるようにと願いを込めて、一晩中頭を撫で続けたのだった。




 朝。日が昇るとカーテン越しに明かりがさしこんできていた。

 いつの間にか眠りについていた愛衣が目覚めると、竜郎に優しく抱きしめられていた状態だった。

 顔を上にあげると、静かな寝息を漏らしながら寝ている竜郎の顔が視界を染める。



(ありがとね。やっぱり貴方を好きになって良かった)



 そんな気持ちを表すように、彼を起こさないように愛衣はそっと唇を重ねた。

 そうすると好きな気持ちが次から次へと溢れ出して、彼を押し倒す。



「──ん!? ──ぷはっ。愛衣? どうした?」

「好き好き好き好き好きーーーー!」



 突然野獣と化した彼女に目を白黒させながらも、暫くの間その身を任せた。


 されるがままに行為を終えると、愛衣は頬を上気させながら、仰向けの竜郎の上に向かい合うように寝そべると、ニコニコしながら顔を見つめてきた。



「何かいいことでもあったのか?」

「んーん、何も。ただ私は幸せ者だなあって思っただけ」

「幸せ者?」

「うん。だってこんな素敵な人が私を幸せにしてくれるって言ってくれたんだもん」



 そこで愛衣はちゅっちゅとついばむ様にキスの雨を降らせてくる。



「それを言うなら俺の方だって。こんな素敵な人が俺を好きでいてくれて、本当に幸せだよ」

「そおなの?」

「ああ。そうなんだ。愛してるよ、愛衣をこの世の誰よりも」

「私も愛してる。竜郎をこの世の誰よりも」



 そうしてただ触れ合うだけの子供の様なキスをして、ただただお互いをしっかりと抱きしめあった。

 それだけでお互いの気持ちが溶け合うようで、二人は今日から元気よく、暗い気分など一ミリも残さず吹き飛ばし、明るい未来へと突き進む覚悟が決まった。



「さあ行こっ。リアちゃんの朝ごはんが待ってるよ!」

「ああ。行こう──と、言いたいところだが。その前に身だしなみを整えような」

「はっ!?」



 そこには一糸まとわぬ男女の姿。このままリビングに降りて行ったら公然猥褻罪だ。

 愛衣と竜郎はいそいで室内にあるシャワーを浴びて着替えると、皆が待っているであろうリビングへと降りて行った。


 だがリビングに入ると誰もおらず、冷蔵庫の中に朝食を入れておきました。というメモが机の上に一枚張り付けられていた。

 どうやらもうみんなそれぞれの活動を始めているらしい。



「皆早起きだねぇ」

「案外気を使ってくれたのかもな」



 まだ十分に朝であり、そこまで遅い時間帯でもないのに誰もいない。

 これはあんなことがあったばかりだ。二人にしておこうと言う心遣いなのだろうと、二人はその優しさに感謝しながら、魔動冷蔵庫に入った朝食を魔動電子レンジモドキで温めてから、ゆっくりと二人仲良く食事を楽しんだ。


 食べ終わり食器も洗って片付け終ると、さて何をしようかという話になってくる。

 リアはこれから忙しくなるし、その手伝いも今や奈々以外には務まらない。

 手伝いが必要なら遠慮なく言ってくる様にもなったので、今竜郎と愛衣が訪ねて行っても邪魔になるだけだろう。

 カルディナ達は探査魔法で探ってみた所、外に出て龍の蒼太やワニワニ隊、ワーム隊の戦いぶりを眺めたり、鍛えたり、戦い方を教えたりと教導官の様な事をして、この城の戦力増強を図ってくれていた。

 あるいは今後何かあって人手が足りなくなっても、竜郎の手助けができるようにとも考えているのかもしれない。



「私達も混ざりに行く?」

「ん~。今でもちゃんとできてるし、今更行ってもあまり意味が無さそうだな」

「じゃあ、どうしよっか?」

「そうさなあ……。ちょっとのんびりプールにでも浮かびながら、今後について話し合いでもするか?」

「それもいいかもねー。なんか精神的に疲れちゃったし、ちょっとのんびり過ごしたいかも」



 という事で四階室内プールにやってきた。

 脱衣所で以前ダンジョンで大量に手に入れたウェットスーツ234個を消費すべく、それを材料にして作った水着を着ていく。

 竜郎はウェットスーツそのままの半ズボンのようなデザインの水着。

 愛衣はホルターネックのフリルが付いたビキニで、竜郎の要望通り胸の谷間がくっきり見えるデザインの水着。



「水着は水着で最高だな!」

「下着と布面積はあんまり変わらないと思うけどなあ」



 美術品でも眺める紳士の素振りを見せながらも鼻の下が少し伸びている竜郎に呆れながらも、ちゃんと喜んでくれている事に心の中でガッツポーズをする。

 そして自分自身もさりげなく竜郎の細身でも、しっかりと腹筋の線が入った引き締まったお腹をちらちらと観察しながら二人でプールの方へと歩いていく。


 すると掃除していたジャンヌと奈々の従魔である小天使と小悪魔がニコっと笑いかけてきて、また清掃活動に戻った。

 プールや併設されている多種多様なお風呂の水やお湯は、その従魔たちがしっかりと管理してくれているので、竜郎達が行くと言ったら直ぐに入ることができる状態にしてくれていた。

 準備運動もそこそこに二人は大きなプールに入って力を抜いて、仰向けに水の上に浮かび上がった。



「あー気持ちいな。プールなんて久しぶりだ」

「だねー。うちの高校プールなかったし」



 竜郎が水魔法で緩やかな水流を作りだし、水に浮かんだまま二人一緒に水面を移動していき、そのまま会話は続いていく。



「それで今日はもう心の休養という事でのんびりさせて貰うとしてもさ、明日からは何かしていきたいよね」

「それなんだが、リアがやってくれている装備品のアップデートが終わるまで、この草原や森方面でSP集めをしていきたいと思ってる」

「そうなの?」

「ああ。クラスチェンジして魔神の系譜ってのになっただろ?」

「なったねえ」

「実は最近次に何を覚えようかと思って自分の取得可能スキル欄を見てみたら、色々愉快な事になっていてな」

「ほうほう。それは──興味深いね」



 竜郎の言葉を聞いた途端興味をそそられたせいで、体に力が入り一瞬水に沈みながらも慌てて立て直した愛衣は、そんな事が無かったかのようにキリッとした顔をしていた。

 それに竜郎は笑いながら、樹魔法で丸太を出すとそれに二人で掴まってプールをグルグルと漂流していく。



「それで続きなんだが、どうやら魔神さんの親戚的なクラスになったせいか、今までなかった奈々の《毒魔法》とか、カルディナの《魔弾》とかも取得候補に追加されてて、他にも見たことのない面白そうなものも追加されていたんだ」

「へー。でもその分お高いんでしょ~う?」

「いえいえ。それがですね。魔神さんの親戚特典はまだまだありまして、なななんと! 全品80パーセントオフ!」

「はっ、はちじゅっぱー!?」

「さささ、さらに! 今まで11レベル以上取るには上限解放を一レベル上げるごとに取得しないといけなかったのがー……」

「いけなかったのがー?」

「全て無くなりました! なのでこれからは直ぐに上のレベルを取得できるんです!」

「えー!? しゅしゅしゅしゅごーい!

 ………………とまあ、通販ごっこはもういいとしても、本当に凄いね。武神特典程じゃないにしても、それに似た感じで……て、もしかしてアッチの方も似てるとかあるの?」



 《武神》のスキルはまさしくチートを冠するにふさわしい性能を持ってはいるが、それに付随するようにデメリットも存在している。

 つまり愛衣は、竜郎にもそのデメリットが適用されたんじゃないのかと思い至ったのだ。

 そしてその答えは、イエスだった。



「ああ。魔法ばっかり取っていたから普通に武術系スキルの取得SPがガンガン上がっていたんだが、それでも有りえないくらいのポイントを払わないと取得できなくなっていた」

「やっぱり……。良い事ばっかじゃないって事だねー。まあでも武術系は私がいるから、たつろーは一杯魔法を取っちゃってよ」

「だなあ。俺も気獣技とか使ってみたかったんだが、これで本格的に難しくなったわ」



 とは言うものの、逆に言えば使いたい理由はそれくらいしかないので、竜郎はそこまで悔しく思う事も無く割り切った。



「ってことで、ガンガンSPを取っていって、ガンガン属性魔法のレベルを上げたり新魔法を取得して、俺の能力を底上げして行こうと思っている。

 そして愛衣にも魔物相手に意識して武術系スキルのレベルが上がるように動いてもらう。

 そうして愛衣もレベルが上がっていけば、十全の状態でアムネリ大森林深部で活動できるとほぼ確定している俺達の戦力増強。ひいては全体の生存率上昇に繋がる。

 だから俺達のすべき事はそれだと思う」

「んーそうだね。元より私たちの世界の事だし、皆をちゃんと守らないとね。

 ちょうどこの辺にはそこそこの魔物が多いし、相手には事欠かないだろうしね」

「ついでに珍しい魔物が手に入るかもしれないしな!」

「半分くらいそれが理由じゃないでしょーねー」



 愛衣が隣で丸太に掴まっている竜郎の脇をツンツンとつつく。

 それに体をビクッと反応させ、「ソ、ソンナコトナイヨー」と片言のいいわけをしたために、更なるくすぐり地獄が彼を襲った。


 そんな風にじゃれ合いながらも今後の方針が決まった二人は、子狼の豆太とシャチのシャチ太を呼んでプールを楽しむ事にした。

 シャチ太の上に乗ってプールを泳ぎまわったり、犬かきで泳ぐ豆太と一緒に泳いだり、特大のウォータースライダーを滑ってみたり、飛び込み台からいかにかっこよく落ちられるかなどなど、二人と二匹で全力で遊びつくした。


 そうした後は、お風呂の方に移動して水着姿でジェットバスに浸かってのんびりする。

 豆太とシャチ太はお風呂よりもプールの方がいいらしく、今もまだ二匹で遊んでいた。



「はー。いい湯だねえ……」

「まったくだ……」



 遊んだくらいでは疲れる事も無いのだが、程よい暑さと勢いよく吹き出す水流に、二人は目を細めて癒されていた。



「いつかここに、お母さんたちも呼んでみたいな」

「さすがに友達までっていくとまずいかもしれないが、親くらいならいいかもしれないな」



 二人は既に世界を取り戻した後の事を話していた。

 まだ本当に出来るとも解っていない。だが、それでもこうして未来を話し合う事で、より強固な意志を持って突き進もうとするために。



「だから絶対、原因を突き止めて──」

「ブッ飛ばすんだから!」



 二人は繋ぎ合った手をギュッと握りあい、視線を交わして強く頷く。

 絶望する時間は昨日で捨て去った。疲れた心は今日で癒えた。

 だから明日からは全力で、この理不尽な状況をぶち壊すために、更に強くなろうと動き出すのであった。

次回、第347話は10月27日(金)更新です。

以降から元の更新スケジュールに戻ります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ