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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八章 帰界準備編

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342/634

第340話 人喰いドリロ

 今回竜を生み出すにあたって、見た目は一切手を加えなかった。

 それは何故かと言われても特に理由は無く、沢山足が有って可愛くは無いが、今回は愛玩動物ではなく防衛のための番をしてくれる存在が欲しかったから誰も変えようとも思わなかった。

 もちろんスピード特化型だとか、元の状態よりも能力を大幅に変えるのであったのだったら、それに適した形を考えていただろう。

 そして今回、竜郎が普通に魔力を注いで生み出した場合。

 全長は120メートル。顔はトリケラトプスに蛇のような長い体、背中側に複数枚の細長い翼で、沢山の足をもつ。という竜になる──はずだった。



「これは……」

「きれーだねー……」



 《強化改造牧場》から飛び出して、空へと舞うのは白金に輝く三本の角を持ち、透き通るような美しい蒼鱗を持つ東洋の龍。

 顔は相変わらずのトリケラトプス顔だが、予定よりも小さな八十メートルほどの全長で、多脚竜ではなく四本の巨木の如き太い手足。

 複数枚あった翼は一枚も無いのに、空を《龍空泳》という特殊なスキルで泳いでいた。

 そして竜郎を見るなり目の前に降り立って、かしずくようにこうべを垂れた。

 竜郎が鼻先を撫でると「キュロロロゥーー」と、気持ちよさそうに目を細めて喜んでいた。



「随分形が違うが……これはこれでありだな!」

「むしろこっちの方がかっこいいよ絶対!」

「えーと、スキルも初期設定と少し変わってしまっていますが、問題はなさそうですね。

 高耐久に高魔力抵抗は健在です。むしろ他も軒並み上がって嬉しい誤算ですかね」

「スキルも変わったのか? どれどれ……」



 竜郎は従魔と繋がった魔力パスを通して、詳しいスキル構成を確認した。



 --------------------------------

 レベル:1


 スキル:《超自己再生》《超鱗生成》《龍力変換・水》

     《龍水泳 Lv.1》《龍空泳 Lv.3》

     《かみつく Lv.1》《ひっかく Lv.1》

     《龍力超収束砲 Lv.1》《龍燐旋風 Lv.1》

     《重燐装甲 Lv.1》《龍骨棘 Lv.1》

     《炎熱爪 Lv.1》《炎熱龍爪襲撃 Lv.1》

     《龍鎌鼬 Lv.1》《龍の息吹き Lv.1》

     《龍水鉄砲 Lv.1》《龍角突進 Lv.1》《龍角槍刃 Lv.1》

 --------------------------------



「とんでもないルーキーだな……。しかもさっきちょっと空を泳いだだけで、もうレベルが上がっているし」

「どんな感じになったんですの?」



 その奈々の言葉に応えるように、竜郎はこの龍のスキル構成を発表していった。



「さすが龍だね。というかドラゴンりゅうって何が違うの?」

「さあ? 能力的に違いは無いようですし、形態で分けているだけだと思いますよ姉さん」

「そうなんだ。まあ強ければ何でもいっか。おほー、でっかいねえ」

「キュルルルルロゥ」



 竜郎がここにいる人間はみんな仲間だと伝えているので、警戒されることも無く愛衣が龍の顔を撫でまわしても機嫌を損ねる事も無く大人しく、されるがままになっていた。



「名前は何にしよっか。龍ってだけじゃ味気ないし」

「そうだな。俺達の拠点を守ってくれるわけだし、名前くらいは付けてあげないと可哀そうだ」



 そうして愛衣の迷走劇場が始まった末に、蒼太そうた(蒼い鱗だからね。by愛衣)に決まった。どうやら愛衣は基本男の子には太をつけておけばいいと思っている節があるようだ。



「じゃあ、蒼太。一旦《強化改造牧場》に戻って、そこで倒せそうな敵を出すからトレーニングしててくれ。その間に、お前の部下を作っておくからな」

「キュュユユユロロー」



 鳥のような高い鳴き声を上げると、竜郎の《強化改造牧場》で作られた異空間牧場に去って行った。

 どれくらいの敵なら倒せるかリアに相談して、絶対に勝てるがスキルレベルが全体的に上げやすそうな過去に倒した魔物をいくつか挙げて貰い、それらを設定しておいた。

 そうして蒼太が牧場に帰っていくと、今度は《無限アイテムフィールド》から先程倒した巨大ワニの死骸から切り取った脳と心臓を取り出していく。

 そしてさくっと《魔卵錬成》で二個の卵を造りだした。



「等級はいくつの卵?」

「等級は4だな。あれ一匹一匹が巨大火蜥蜴と同格だったって事か」

「戦った感じだと、こっちの方が強かったっすけどね」

「あちらは弱い魔物に囲まれていたんですから、弱くて当然ですの」

「こっちは周りが強敵だらけの様ですしね。逆に同じような環境にいたら、それくらい強くなれていたって事でしょう」



 温室育ちで外敵もいない状況で育ったものと、過酷な状況で常に生死をかけて戦ってきたものでは差が出て当然。

 けれど等級的には全く同じという事で、新たな選択肢が生まれてきた。



「ってことは、巨大火蜥蜴ちゃんと混ぜ混ぜ出来るよね?」

「今俺もそれを考えていたんだ。蟻蜂女王も等級4だったから候補に入るんだが、昆虫と爬虫類だったからな。

 いつかやってみたいとは思うが、とりあえずは相性が悪そうだったから保留にしておいたんだが、こっちは同じ爬虫類同士相性もよさそうだ」

「けれど属性的には火に属したものと、水に属したものですの。

 そう言った面では相性がいいようにはあまり思えませんの」

「あー……それは一理あるな」



 竜郎が巨大ワニの魔卵を生成した時には水属性の魔力の比率が多かった。そして巨大火蜥蜴はどう見ても火属性に寄っているだろう。

 日本でのゲーム的感覚で言えば火と水は真逆だし、五行思想で言っても水は火に強く、火は水に弱い。そう言った面で考えると、弱体化しそうな気すらしてきた。

 けれどその考えは、こちらでは少し違うらしい。



「いえ、そうとも限りませんよ。確かに火に水をかければ消火できますが、魔法的に言えば火と相性が悪いのは解。水と相性が悪いのは呪だと思います。

 むしろ火と水は隣り合った属性ですし、相性だけで言うのならかなり良いと思います」

「それはもしかして逆位相的な考え方か?」

「はい。そうです」



 リアが言うには、解魔法でアンチ魔法を造る時の逆に位置する位相を持った属性同士が相性が悪く、曜日順でもある闇、火、水、風、土、樹、雷、氷、生、呪、解、光で並ぶ隣り合った属性は魔力的にだけ考えれば相性がいいとの事。

 その考えでいくのなら闇と光、火と解、水と呪、風と生、土と氷、樹と雷はそれぞれ逆位相同士なので、今後《魔卵錬成》での合成時には意識して気を付けておいた方がいいだろう。



「なら爬虫類同士で、さらに属性的相性もいいと来れば、これは混ぜない手は無いな。蟻蜂女王の時よりもさらにいい結果が望めるかもしれない」

「じゃあ、やってみよー!」

「ああ。だが一応バックアップはとっておいてーっと、よし」



 ワニ卵は二つあるので一つはしまい、巨大火蜥蜴の卵は複製した二個目を取り出した。

 そして地面に二つの魔卵を並べ、《魔卵錬成》を発動し合成した。

 すると群青色の拳大の水晶玉と少し赤みが強いオレンジ色の握り拳大の水晶玉が混ざり合って光を放つ。

 それが収まると、そこには二十センチ程の大きさになった群青ベースにオレンジの縞々が入った水晶玉へと変化していた。

 逸る気持ちを抑えながら、まずは等級を調べてみる。



「等級6! 二つ上がってるな。数字的には蟻蜂女王の時も二個上がったが、4から6への昇格は次元が違いそうだ」

「早く見てみよ!」

「ああ!」



 また《無限アイテムフィールド》で一つ複製してから、《強化改造牧場》にコピーした方を入れ、シミュレーターを起動させる。

 するとそこに現れたのは──。



「これは……ワニ人っすか?」

「随分ワニ成分が多めになってるねー」



 皆の目に映るその姿を一言で現すなら、アテナの言った通りワニ人だ。

 五メートルの筋骨隆々な人型の巨体に群青色のワニの頭をくっつけたような存在で、体はビッシリと堅そうな赤い鱗で覆われていた。

 そして手にはしころと呼ばれる白く巨大な両刃ノコギリを両手に握っていた。その巨体から繰り出されるその一撃は、容易く魔物を両断してしまいそうだ。



「この赤い鱗は火蜥蜴成分だろうな──って、リア? どうした?」

「……ドリロテスタ?」

「どりろてすた? それは一体どういう意味ですの?」



 興味深げな視線で皆がモニターを見る中で、一人リアだけがそれを見て一歩後ろに下がっていた。

 そして呟いた『ドリロテスタ』と言う言葉に奈々が疑問を投げかける。

 するとリアは眉根を寄せて考え込む素振りを一瞬してから、言葉を紡ぎ始めた。



「群青のワニの頭に赤い鱗の巨人……。まさしく人喰いドリロテスタと言われる存在と瓜二つです」

「そんなに有名な魔物なの? こいつって」

「ですね。ヘルダムドでは有名な絵本に出てくる人喰い魔物です。悪い事をした子供にドリロが出るぞっと言って、怖がらせて言う事を聞かせるような存在ですから」

「こっちで言う、鬼とかお化けみたいなもんか。確かに有名人──じゃなかった有名魔物だな」

「ええ。ですがこの人喰いの部分は物語だけではなく、実際にヘルダムドの町一つを一匹で壊滅させ、討伐までに数千人もの人間を喰らったという史実が残されているんです」

「それは強そうっすね。当たりじゃないっすか。龍のお供にピッタリっす」

「確かにそういう意味で当たりなんでしょうが、間違ってもコレを連れて歩くのはやめた方がいいですね……。多分見た人がパニックを起こします」

「そんなにか……」

「そんなにです。小さい頃から恐ろしい存在だと言われて育てられた人も多いですから。

 しかもその絵本自体も世界中に普及してるそうですし、ヘルダムドだけ特別怖がられているというわけではないかもしれませんし」

「そりゃあ、連れ歩かない方がいいねえ」



 少しリアクションを見てみたいという悪戯心も湧き起こるが、リアにここまで言われてしまうとシャレにならないのであろう。

 竜郎は自分達の拠点以外からは出さない様にしようと心に決めた。



「ん~。だがそんなにも強いとなると、強化したコイツ数匹で防衛隊を作ったら、龍と合わせて鉄壁の拠点になりそうだ」

「ならならっ。筋力タイプに速力タイプとか、いろんな状況でも対処できるように分けて強化してみるのも面白いかもよ!」

「一匹でもアレなのに……数匹ですか……。もう大人でも失神しそうですね」

「まかり間違って人間が拠点まで来られても、そういう輩を見た目だけで追い払えるなら結果オーライですの」

「見た目だけでいいなら蒼太だけでも十分効果はありそうだけどな。って事で、とりあえず六体ぐらい生んどくか」



 まるで出前でも取る様な気軽さでさらに五個増やした卵を、《強化改造牧場》へと収納していった。

 そして改造項目は、筋力に重きを置きソコソコの耐久も持った物理系高火力戦士。耐久、魔法抵抗に重きを置き壁役になれる高耐久戦士。とにかく速力に重きを置いた遊撃戦士。何処にでもヘルプに行ける万能型戦士。魔力、魔法力、魔法制御力に重きを置いた魔法系高火力戦士を二体。で計六体の調整を終えた。

 ちなみに体形や最初から持っている武器の形も改造できるので、ガッシリした体形から細身に変えたり、細長い薙刀の様な物や杖などを持たせたりと、役職に合った形に変えておいた。



「名前はワニワニ隊だね。六体で当たればバランスもいいし、よっぽどの物量に押されでもしない限り大丈夫そう」

「例え物量で来ても、そこは蒼太が蹴散らすから問題ないっすよ。こいつらはそこからこぼれた奴らを的確に掃討すればいいんすから」

「だな。それにスキル構成的に、こいつら亜竜じゃなくて竜になってるっぽいし、スキルの成長も早そうだから、この土地でも即戦力になれるだろう」

「そーなんだ。合成を使えば亜竜も竜に出来るんだね」

「みたいだぞ。夢が広がるな。ってことで、それじゃあ孵化させるぞ!」



 せっかく細かく調整したので体形を変えてしまう恐れのある神力を注ぐのは止めておこう──とも思ったが、好奇心を抑える事が出来ずに竜郎は竜魔卵に相性のいい竜力と共に神力までも混ぜ込んでしまう。



(蒼太の時は神力60くらい紛れ込ませられたが、こいつの場合は20くらいしか入らないな。ん~やっぱり等級が高いほど入れられるのかもしれない)



 そんな事を考えながら六体全てに同量の魔力、竜力、神力を注ぎ終わる。

 すると問題なく産まれてくれたので、さっそく異空間牧場からこちらへと呼び出した。

 すると予想通りと言うか、蒼太の時ほどではないにしろ、やはり外見が変化していた。



「また神力入れちゃったんだ……」

「ああ。でももっと強そうになっただろ?」



 そんな竜郎達の視線の前に並ぶ六体の魔物。それらは相変わらずのワニ頭に人型の巨体なのだが、改造して与えた特性ごとに大きく変化していた。


 まず物理系高火力戦士にしたワニ一号。

 元の改造時でも他よりもさらに筋肉質な体型にしておいたのだが、それよりもさらに二回りほど発達した筋肉を身に纏い、手には身の丈ほどの巨大両刃ノコギリの先端に、ハンマーの打撃部をくっ付けたような奇妙な武器を持っていた。

 そして首回りには、白金色の美しいたてがみが生えていた。


 次に壁役として調整した高耐久戦士ワニ二号。

 硬い赤鱗の上から白金の毛皮に覆われ、広い肩幅にガッチリした足腰と、がたいがさらによくなって手には白色の大きな盾を持っていた。


 遊撃戦士ワニ三号。

 これは他よりもしなやかな体つきで、全長も4メートル程まで縮んでいた。

 そして首、手首、足首には白金色の体毛が生え、手には体格的に小刀の様な両刃鋸を二本片手ずつに握りしめていた。


 そして万能型戦士ワニ四号。

 この個体が一番元になったドリロテスタという魔物に近い形をしていた。

 違いと言えば、首回りに加わった白金の鬣くらいだろう。


 最後に魔法系高火力戦士ワニ五号と六号。

 手には白い杖を持ち、首から下にかけて白金色の毛がモサモサと垂れ下がり、見ようによっては毛皮のローブをまとっているようにも見える。

 そして頭が他の四体に比べて一回りほど大きい、頭でっかちなフォルムになっていた。


 それらワニワニ隊は竜郎を見るなり整列し、目の前に騎士の様に片膝ついてかしずいた。



「頭も魔物の中ではいいかもしれないな。立ってくれ」

「「「「「「ゴォオッ!」」」」」」

「うわあぁ。凄い迫力だね」

「恐すぎですよ……」



 竜郎を王の様に仰ぎ見て、訓練された軍隊の様にバッと立ち上がった。

 その時の鳴き声は愛衣の言うとおり迫力満点で、大丈夫と解っていてもリアは奈々の手を握って少し下がった。



「今、お前たちの上司?になるのかな。蒼太という龍がトレーニングをしている。

 だからお前たちにも牧場内でスキルレベルを磨いておいてくれ」

「「「「「「ゴォオッ!」」」」」」



 了承の意を示すように全くの同時に六体が頷いた。それを確認した竜郎は頷きかえして《強化改造牧場》内に送還し、六体同時に戦う連携やスキルレベルを磨くのにちょうどいい相手を選出し、それを送り込んでおいた。


 こうして拠点防衛を任せる魔物の生成を終え、ようやく拠点造りへと乗り出していくのであった。

次回、第341話は10月12日(木)更新です。

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