第339話 番竜をつくろう
無事二人とも取得したので、今度はどんな魔物を生み出せるのか実験してみることにした。
それによって城の管理が出来そうかどうか判断し、拠点の規模を決める事になったからだ。
まずは言い出しっぺの奈々から。
竜郎が《無限アイテムフィールド》の肥やしになっていた、それなりに状態の良い雑魚魔物の死骸を五体(灰色の鳥二体、ネズミの様な獣二体、ハエの様な虫一体)出すと、それを奈々の前に並べた。
「では、いきますの」
竜術となっているが魔法のようなものなので、初めてでも失敗しない様にカエル君杖を取り出して《死霊竜術》を発動させた。
するとカエル君杖から、闇魔法の闇よりもまがまがしい漆黒の竜力が噴出していき、五つの死体にまとわりついていく。
すると完全に事切れていた死体が震え始め、漆黒の竜力が体の中に完全に収まると死体のまま動き始めた。
鳥やハエの様な外観の魔物は空も飛べ、ねずみの様な魔物はチューチューと鳴いてチョロチョロしている。
「凄い光景だな。死体が元気に動いているぞ」
「うー。直で見るとちょっと不気味だよー。奈々ちゃん、早く次の《魔族創造》やっちゃって」
「はいですの。止まりなさい──はっ」
奈々の命令通りに動きをとめると一か所に五体の死体が集まった。
そしてそれを見た奈々は《魔族創造》を発現させた。
五体の死体はドロッと溶け始め、コールタールの様な物質になって混ざり合っていく。
そしてスライムの様にグチョグチョと動いたかと思えば、やがて形を取り始めた。
「できましたの!」
「これが奈々姉の作った魔物っすか。けど素材が素材なだけに、強そうではないっすね」
「でもでも、ちょっとかわいいかもっ」
現れたのは全長30センチ。フォルムはダルマの様な二頭身。短いが人と同じような五本指の手足。大きなくりっとした二つの目に鷲鼻で、大きな口からはギザギザの歯が覗く。
そんな魔物が背中に生えたコウモリのような一対の翼をはためかせ飛んでいた。
「俗にいうインプって奴かもな。マスコットキャラクターみたいで、なかなか愛嬌があるじゃないか。これなら暗がりで見ても大丈夫そうだ」
「ですね。もっと異形然とした存在が出てくるかもと思ってました」
奈々の生み出したその魔物に箒が持てるかどうかと渡してみると、流石は魔物と言うべきか、小さな体の割にしっかりと身の丈の三倍ほどの長さの物を抱えて飛んでみせると、地面の砂浜を掃いて見せた。
「素材のアンデットをもっと強力な物にすれば、もっと強力な魔物も作れると思いますの」
「やっぱりそうなのか。ならまた今度10レベルダンジョンの魔物でも使って、試してみるか」
「はいですの」
今は様子見程度でよく、目の前のインプでも十分掃除や簡単な雑用くらいは出来そうなので、今度はジャンヌの方へと移っていく。
今度必要な物は無機物。鉱物や金属などが主にあげられるが、それらで加工された物でも良いらしい。
だが今回はお試しなので、これもまた竜郎の《無限アイテムフィールド》の肥やしになっている鉄のインゴットを五つジャンヌの目の前に置いた。
ジャンヌは《真体化》すると魔法補正もかかる巨大鉈を取り出して、《聖竜の祝福》を発動した。
すると鉈から神々しい光が溢れ出し、それをジャンヌが鉄のインゴットに振りかけていく。
振りかけられたインゴットは光の粒子が降り注ぐほどに光を宿して輝き始め、最終的には真っ白な聖鉄へと変化した。
「ヒヒーーン」
けれどこれは一時的に聖なる力を宿した物質になっているにすぎないので、少しずつその力は抜けていってしまう。
なのでジャンヌは直ぐに《天族創造》を行使する。
白い鉄がさらっとした白い液体に変わると、神々しい光を放ちながら混ざり合って形をとった。
「こっちも可愛いっ。赤ちゃんみたい!」
そう言う愛衣の目線の先には四十センチほどの体長。美しい金髪の可愛らしい女の子の赤ん坊で、体には白いワンピースを纏っていた。
けれど赤子にしてはしっかりとひらいた大きく利発的な瞳に、背中には真っ白な天使の翼が生えていた。
それをパタパタと羽ばたかせてジャンヌを見上げていた。
こちらにも試しに箒を持たせてみれば、しっかり赤子の様なぷっくりとした短い手でつかんではいて見せた。
「鉄や雑魚魔物の死骸なら比較的簡単に手に入るし、この子らを量産しておけば、ほこりまみれの拠点にはならなくて済みそうだな」
「天魔の従魔って結構貴重な部類に入ると思うんですが、完全に清掃要員ですね……」
「貴重って言っても、ここで戦闘させようと思ったら直ぐ死んじゃうっすよ」
「ですね……」
今は見える範囲に魔物はいないが、海からも草原からもこちらを伺う影はある。竜郎達でさえ、呑気に話してはいるが最低限の警戒は怠ってはいないのだ。
そんな場所で放し飼いにしたら、直ぐに狩り取られてしまうだろう。
「でもそうなると、この子たちを残したまま出て行くのも心配かも。
でも拠点を鉄壁の要塞みたいにすると可愛くないし」
「可愛い拠点にするかどうかは置いておくとして、そこで俺の出番だ」
「可愛い拠点にするとして、どうしてたつろーの出番なの?」
「そりゃあ《魔卵錬成》と《強化改造牧場》で番犬ならぬ番竜でも造ろうかと」
「もしかしてその竜って、ダンジョンボスの……ですか?」
「正解だ、リア。それとこの辺で幅を利かせていた巨大ワニとか、巨大火蜥蜴とかも強化改造して補佐に付ければ、大抵の魔物は近寄れなくなるだろ」
「確かにそれなら強そうですの!」
「ああ、だからそいつらの魔卵を錬成して、拠点作成中に牧場内でトレーニングさせてパワーレベルリングでもしてもらおうと思ってる」
「あっ、もしかして前に魔物が私達の土地から出ないように~って王様から言われて、考えがあるみたいなこと言ってたけど、もしかしてそれも?」
「そうだな。そっちは各区画ごとにリーダー格の魔物をテイムするなり挿げ替えるなりして対応してみるつもりだ。
他の町みたいに壁を造るってのもいいかもしれないが」
「普通は魔物が来ない様に壁を作るのですが、逃げられない様にするための壁を作るんですね……」
「とーさんからしたら、魔物なんてSP補充と卵の素材っすからね。囲っといて損は無いと思うっす」
「否定はできないな。もしかしたら珍しい魔卵が手に入るかもしれないし、一匹も逃がさん」
「また変なコレクター魂に火がついちゃったみたいだねぇ」
愛衣がしょうがないなあと苦笑いしたところで、さっそく魔卵造りに取り掛かる。
リアは豆太の時はお預けをくらったので、なんだかんだ興味深げな視線で竜郎を見つめる。
そんな中で竜郎は魔石と竜の肉体をだして、魔石を元にあった場所に埋め込み直す。それから《復元魔法》を使えば、魔石の入った綺麗な死体になる。
そうして一個の素材にしたところで再び《無限アイテムフィールド》に収納すれば、複製ポイント1で脳も魔石も一緒に増やす事が出来るのだ。
プチ節約術に満足しながら、竜郎は複製ポイント5消費してボス竜の一体分の素材を計6個にした。
それから一体は複製用に綺麗なままで残しておいて、残りは魔卵素材として使える脳と魔石だけを《無限アイテムフィールド》を操作して切り離すと、それを地面にならべていく。
「遂にコイツの卵が俺のコレクションに……」
「いやいや番竜にするんでしょー」
愛衣の突っ込みに竜郎は悩ましそうな顔をしたが、複製すればいいかと割り切って《魔卵錬成》を発動させた。
すると脳五つと魔石五つが引き寄せられるようにくっ付いていき、やがて大きさ五十センチほどの透き通った青色の球体へと変化した。
「おっきいですの!」
「だよな。今までは拳くらいの大きさだったのに、いきなりこのサイズか。
等級は~…………7、それも8に近い──数字にするなら7.8くらいか」
「かなり高いね。さすがボス竜」
亜竜である巨大火蜥蜴が等級4だったので、それよりも三段階以上も格上の存在だと言える。
これなら1レベルでも、巨大火蜥蜴くらいは倒せてしまうだろう。
「まあ強いにこしたことはないし、早く孵化させちゃ……たつろー?」
愛衣が竜郎の方へと視線を向けると、そこには卵をジッと眺めて考え込むような素振りをしている彼の姿があった。
けれど愛衣に見られていると気が付いた竜郎は、直ぐに何を考えていたのかと吐露した。
「いやさ。愛衣は前にイモムーの卵で実験していたことは覚えているよな?」
「そりゃね。そんなに経ってないし、さすがの私も覚えてるよ。それでそれで?」
「その時にイモムーの卵を二つ合成したら、0.2等級が上がっただろ?
こいつにもそれが出来ないかなってさ」
「興味深い話ですね。もしそれが本当だとしたら、ボス竜の等級7の壁を越えさせて、等級8の魔物に出来るかもしれないという事ですよね?」
「ああ、そうだ。幸いコイツの等級は、あと0.2で上の等級になれる。
もちろんイモムーの卵だったから、そうなっただけという可能性もあるが」
けれどもし本当に等級8の卵になるのだとしたら、それは十分やってみる価値がある。
等級7.0と7.9は数字的には離れているように見えても、結局は同格だ。
けれど7.9と8.0では、たった0.1の差でも格が違う。
「じゃあやってみよーよ。複製ポイントはまだあるんでしょ?」
「ああ、まだ残り144ある。十分遊べる範囲内だろう」
リアの装備づくりなどでちょこちょこ消費してはいたが、それでも無駄使いはあまりしてこなかったので余裕もあった。
他のメンバー、特に複製ポイントでの素材生成で珍しい素材を複数必要とするリアも乗り気だった事もあり、竜郎達は実験してみることにした。
となればまずする事は竜の魔卵のコピーである。
念のため原本も残しておきたかったので、合計3つになる様にポイント2消費して複製した。
そして改めて二つの竜魔卵を並べて置くと、《魔卵錬成》でその二つを合成した。
するとそこには一メートルほどの大きさにまで変化した、蒼い水晶球の様な物が現れた。
「でっか! それで等級はどお?」
「等級はジャスト8……成功だ!」
「やりましたの! それでその卵はどんな魔物の卵になったんですの?」
「ちょっとまってくれ。こいつもコピーしておきたいから──っと。これでよし」
等級8の卵も複製して一つは取っておくと、もう一つを出して《強化改造牧場》に収納した。
そしてシミュレーターを立ち上げて、何もしないで生み出したときにどんな形で生まれてくるかを映し出して皆で覗き見た。
するとそこにはフォルムはほぼ前に見た多脚竜ではあるものの、それよりもさらに太く大きくなっていた。
またトリケラトプスに似た頭部の首まで伸びるフリルは分厚くなり、三本の角もより凶悪な大きさになっていた。
「あのバカみたいな防御力を、さらに上げてきたって感じだな」
「相変わらず大振りの攻撃スタイルってのも一緒っぽいっすね」
「けれどその方が拠点防衛には向いているんじゃないですの?」
「頑丈な体で身を持って壁となるって感じだからね。でも細かい敵は逃がしちゃいそうだよね?」
「ですね。中には小さく素早い魔物もいるでしょうし」
「だがかと言って、この防御力を無くすのは惜しいな」
竜郎はこの竜のパラメーターを示すレーダーチャートを見ながら、どこを弄るか考え始めた。
やはり一番尖っているのは耐久力。次に魔法抵抗力。逆に速力が一番低く、魔法制御力が次点で低い。
低いと言ってもそこは同格の存在と比べたらというだけで、そこいらの魔物と比べて特別遅いと言うわけでもない。
なので余計に長所を伸ばすか短所を伸ばすか決めかねていた。
「ん~私は長所をもっと上げていく。に一票かな。それだけの防御性能があるなら前線にドンとおいて、大振りの攻撃で数を減らすってだけで十分だろうし」
「ですね。それに補佐的な役割をさせる魔物も置くんですよね?
だったらそちらを速度高めにして、取りこぼしの処理を──とした方が、防衛としてはいいかもしれません」
「それもそうか。あの巨大ワニもすばしっこかったし、さらに強化すれば縦横無尽に駆け抜けてくれるかもしれないからな」
ということで、元から高い耐久力と魔法抵抗力の項目をさらに伸ばしていき、そこだけかなり尖ったレーダーチャートとなった。
そしてスキルは──。
《超自己再生》《超鱗生成》《竜力変換・水》《竜水歩》《竜飛翔》。
《かみつく》《ひっかく》《竜力超収束砲》《竜燐旋風》《重燐装甲》。
《竜骨棘》《炎熱爪》《炎熱竜爪襲撃》。
と前に戦った時と同じスキルを与え、そこへさらに《竜の息吹き》を付けたし広範囲攻撃も覚えさせておく。そして《竜水鉄砲》という省エネで小規模ながらも、連撃性の高い弱攻撃と、《竜突進》《竜角槍刃》と貫通力のある攻撃手段も増やしておく。
その辺りでこの竜に初期スキルとして与えられる限界が来たので、最後に竜郎のスキルからギフトを授ける段階では、《堅牢体》《連弾》《火魔法》《風魔法》《水魔法 》《魔法密度上昇》が候補に上がっていた。
「属性魔法もいけるのか? でも知能が低い魔物に具体的なイメージを持って使えるとは思えないんだが……」
「いえ、どうやらそれらを与える事で、最も適したスキルに変換して与えらるんだと思います。だから火魔法を選択すれば、それに関係する火系統のスキルを──という感じで」
「ああ、そういう。だったら風魔法でも与えておくか」
竜郎が風魔法を選択すると、《竜鎌鼬》という小さな風の刃を複数放つスキルを覚えた。
なかなか使えそうなスキルに喜びながら、いよいよ孵化させることにした。
「また神力とか混ぜちゃうの?」
「ああ、今回はわりと大雑把な調整だったし、多少フォルムやら変わってもいいからな。弱くなることも無いだろうし」
「ん。じゃあ、どんといこー!」
愛衣がくっ付き見守る中で、竜郎は魔力、竜力、神力全てを混ぜて《強化改造牧場》内の魔卵へと注入していく。
(──ん。やっぱり竜ってだけあって入れる量も多いし、魔力より竜力の方が吸い込んでいく感じがするな。
それに等級が高いからか、豆太の時は1も入らなかった神力が60くらい入れても拒絶されない──っと、さすがにそれ以上は無理みたいだが……さてどうなるか)
そんな事を考えどうなるかワクワクしながら力を注ぎいれると、やがてそれは満たされていくのを感じ取り打ち切った。
そして竜郎はあえて牧場内で生まれたソレをモニターで見ることはしないで、実際に自分の目で、そして皆一緒に見るべく、その生まれたばかりの竜を呼び出したのであった。
明日は更新し、休みを(火)(水)にずらす予定です。




