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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第八章 帰界準備編

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第337話 復元魔法

 未だこちらを伺っている様な気配はチラホラと感じるものの、今の所は腹を出して居眠りでもしない限りは襲ってきそうにないので、全員で砂浜の上に集まった。

 そして改めて周囲を見渡してみる。



「まさか高校生の身空で、プライベートビーチを手に入れるなんて思ってもみなかったな」

「しかもすっごい綺麗な海だよ、たつろー。──あ、サンゴ礁があるよ!」

「寒い地域にサンゴ礁? しかも馬鹿でか──動いてるし……なんだありゃ。三メートルくらいあるじゃないか。

 砂浜が真っ白な時点で珊瑚が有るかもとは思ったが、妙な感じだ」



 この場所の気温はほぼ真昼の現在にして4℃くらいと、十分に冷えた場所である。

 そんな土地にもかかわらず変温動物であるワニ──と言っても魔物だが、それらが元気よく動きまわっている時点で何を今更と言った所ではあるが、地球の常識に照らし合わせているとなんとも不思議な気分がする。

 けれど愛衣はまったく気にもせずに可愛い笑顔を向けてくれるのを見て、別にいいかと竜郎は考えるのを止めた。



「海に面した場所がいいと言うのなら、ここらへんに拠点を建てるのもいいかもしれませんね」

「玄関を開けたら真正面に海。なかなか素敵な場所になりそうですの」

「海の魔物も狩りやすそうっす~」

「ピュイィー」「ヒヒーン」



 天照と月読もピカピカと光り輝いて、皆ここが気に入った様子である。



「ならここ……と言っても砂浜の上に建てるのもな」

「ならここが庭先になる様な感じで、もう少し奥の地盤のしっかりしたとこにドンとデッカイのを建てよーよ」

「けれどここを庭先にしてしまうと、魔物が入りたい放題になってしまう気がしますが」

「わたくし達がいない間に庭を荒らされるのは嫌ですの」

「そこは一応考えているから気にしなくていいぞ」

「そなの?」

「ああ。だから今はどのくらいの広さを確保して、どんな拠点を建てるかを考えてくれ」



 その自信満々な表情に、ちゃんと考えがあるのだろうと察した面々は、どんなところにしたいか話し合いを始めようとした──ところで、不意に天照と月読がグローブを通して竜郎に訴えかけてきた。



「ん? ああ、いいけど。どんなスキルなんだ?」

「どったの?」



 他のメンバーには竜郎が独り言を喋っているように聞こえ、愛衣が不思議そうな顔で問いかけてきた。



「ちょっと待ってくれ。…………ああ、そういう。ん、解った。

 えっとな、天照と月読なんだが、今のクラスになってから増えた取得可能スキルの中に《属性体》っていうのが有ったらしくてな」

「二人はそれが取りたいって事?」

「そうだな。効果的には俺の精霊魔法に近いかもしれない」

「精霊魔法に近くて名称が属性体……。ということは、属性魔法で憑代を造って自分の意志を降ろす媒体とすることが出来るモノですか?」

「察しがいいな。その通りだ」

「ってことは自分の意志で操作できるラジコン的な物を造れるスキルってことでいいの?」



 愛衣のその言葉に天照も月読もピカピカと光り輝いて肯定の意を示した。



「他にも色々応用できるらしいし、俺はいいと思うぞ?」

「私も。というか天照ちゃん達のSPなんだし、取りたいものは取っちゃうべきだよ」



 という事で、天照と月読は新たに解放されたスキル《属性体》をSP(10)支払って取得した。

 すると早速とばかりに、二体はそれぞれの属性体を形成して竜郎達の前に現れた。



「かわいいっ」



 それは全長三十センチほどのミニドラゴン。天照は赤い体に緑の翼、月読は青い水晶の体に水の翼。

 愛衣はそのぬいぐるみの様な、ボテッとした三頭身に真ん丸お目目のミニドラゴン二体を、あっという間に胸に抱きしめた。



「んー天照ちゃんはあったかくて、月読ちゃんはひんやりしてるねー。ぎゅー」

「おお、ほんとだ。あったかい」

「たつろー? それは私のお胸なんだけど?」

「──なに!? どうりで慣れしたしんだ感触だと」

「ワザとでしょー! もう、えろろーなんだから」

「わるいわるい」



 こりゃ失敬とばかり竜郎は愛衣がむくれた様に尖らせる口にチュッと軽くキスをすると、今度こそ本当に胸に抱かれているミニドラゴン達の頭を撫でるように触れてみる。

 すると確かに天照の方は温度で言うと40度くらいでポカポカと。月読はだいたい外気温と同じ4度くらいでひんやりしていた。



「恐らく火と風をベースにしたのと、水晶と水と氷をベースにしたのとで温度の違いが出たのでしょうね」

「他にはどんなことができるんすか?」



 喋る事は出来ないが好きなように動かせるので、今回の様に話し合いの席では頷いたり首を振ったりして意志を簡単に示す事が出来るようになった。

 けれどアテナは、それがどのように戦闘に役に立つのかが気になったようだ。


 そんな質問に答えるように天照と月読はミニドラゴンを動かして、竜郎の方に小さな手を向けて視線を促した。

 するとそれぞれのコアから属性を帯びた竜力が噴出したかと思えば、天照の方は杖に、月読の方は竜郎自身に巻き付いていく。

 そして杖は巨大な槍へ、竜郎は竜水晶で出来た鎧を身に着けていた。



「なるほど。単純に肉体の代わりとして使うだけでなく、物質や人に纏わせて別の形状として防具や武器にしたりもできるんですね」



 リアの言葉を肯定するかのように、愛衣の腕に抱かれたままうんうんと頷いていた。

 竜郎もこのメンツでは実感が湧き難いが、ステータスだけで言うのならそんじょそこらの武術職を超えている。

 なので突発的な近接戦にも、これで瞬時に自身で対応できる。

 それに物理的な面だけでなく杖を巻き込んで属性体で受肉する事で、今まで以上にコアの適合率をあげられる様で、そちらでも強化に繋がっていた。

 また月読もセコム君を巻き込んで受肉したことで、水晶のジェルと言った特殊な物質を自在に操作できるようになっていた。

 それらを確かめるように竜郎が動いていると、愛衣が話しかけてくる。



「重そうな水晶の鎧に見えるけど、動きやすそーだね」

「ああ。むしろジャンヌが樹魔法でやってるパワードスーツ的な効果も出来るみたいだからな。むしろこっちの方が動きやすいくらいだ」

「ふぇー。たった一個のスキルだけど汎用性が高いっすね」



 アテナの言葉にミニドラゴン達は嬉しそうに手をパタパタさせていた。

 ひとしきり天照と月読の属性体が混じった装備を振り回すと、竜郎は二体に解いてもらい常態に戻した。

 それからせっかくスキルの話題になったと言うのもあり、竜郎とジャンヌのスキルカードもパパッとインストールしてしまう事に決めた。



「インストール」「ヒヒヒーン」



 竜郎は《復元魔法》。ジャンヌは《風閃斬存》。

 片やロックがかかっていて誰も使用できなかったもの。片や風魔法に斬撃系の武術職両方が扱えないと、殆ど意味をなさないとしまわれ続けていたもの。

 そんなスキルをそれぞれ取得していった。



 《スキル 復元魔法 を取得しました。》《スキル 風閃斬存 を取得しました。》



「よし」「ヒヒン」



 竜郎とジャンヌは自分のステータスを確認し、しっかりと覚えている事を確かめた。

 するとちゃんとアナウンス通り覚えられているようなので、ヘルプで少し予習し、さっそく実践してみることにした。

 まずは竜郎から。



「さて、ここに取り出したるは、昔レベル1ダンジョンで倒したゴールデンビックイモムーの死骸でーす」



 竜郎がエセマジシャンごっこをしながら出したのは、奈々が《吸精》で倒した為にミイラのような姿になって死んでいる金色の巨大イモムーの死骸。



「いたねー、そんなのも。それでそれで?」

「まずはこれを、レーザーで半分にカットしましょう」



 今度はエセ料理番組の料理人ごっこをしながら、金イモムーを横半分に切り裂いた。



「そうしたら断面に見える魔石を…………気持ちが悪いので魔法を使って取り出しましょう」

「たつろーせんせー。私は魔法が使えませーん」

「そういう時は、いつも傍にいる素敵な彼氏さんにやって貰いましょー」

「はーい!」



 リアの何やってんだオーラを華麗に無視しながら、竜郎は断面から見える深い青色をしたいびつな形の魔石を樹魔法で出した植物の蔓で採取した。

 そしてそれをとりあえずみんなの見える位置に置いておくと、いよいよ竜郎自身初となる《復元魔法》のお披露目である。

 失敗しない様に横着しないで竜念動で自立浮遊していた天照を握りしめ、全面サポート体制で臨んでいく。



「ふっ──」



 竜郎から流れ出した竜力が金の巨大イモムーの死骸に降り注いでいくと、そこを起点して青い魔方陣が地面に描かれていく。

 そしてさらに竜郎が竜力を込めて行くと輝き始め、光が死骸を飲み込んでいく。

 すると半分に分られた死骸が逆再生するかのようにくっ付いていき、ミイラ化した体も徐々に膨らみ新鮮味を帯びていく。

 そうして光が収まった頃には、元の形からは想像できない程ピチピチの死骸が転がっていた。



「すっごいっすね。まるで生きてるみたいっす」

「さすがに命を復元することは出来ないから、復活させる事は出来ないけどな。

 けど──とおっ」



 そう言いながら竜郎が再びレーザーを放って半分に切断すると、その断面には魔石が埋まっていた。



「成功だ!」

「あれ? さっき取り出したはずの魔石が復活してますの」

「肉体の九割が残っていれば、生前の状態に限りなく近い形で復元できるようですね」

「そんじゃあさ。魔石取りたい放題って事?」

「いえ、おそらくこの魔物は等級の低い魔物だからこそ魔石まで完全な形で復元できましたが、兄さんが一番望んでいるであろうボス竜の魔石復元は、等級が高すぎて無理な気がします」

「え"っ。マジか……」

「マジです」



 もしそれが出来るのなら一日1ポイントしか増えない複製ポイントの節約になると思っていただけに、竜郎は大きく落胆の色を見せた。

 けれど物は試しにと、ボス竜の死骸を丸々一体分取り出してみた。

 魔石はもう抜いてあるので、後は《復元魔法》を試してみるだけの状態である。

 さっそくとばかりに竜郎は、先ほどよりも気合を入れて魔法を行使し始めた。



「ぐっ──確かにこれは無理かもしれないっ」



 ちぎれた足や、傷や焦げ跡などはわりと簡単に綺麗になっていく。けれど最後の魔石復元だけはどうも上手くいかず、形成する気配すらなかった。



「くそっ。ならこれでどうだ! はあっ!」



 最終手段として、魔法の効果を上げる力を持っている神力を天照に流し込んでいく。

 青い光が白金色に輝きを変えていき、今度は出来そうな手ごたえを感じ始めた。

 なので思い切り集中しながら、少ない神力を丁寧に織り込みながら続けていき──なんとか全ての工程を終えた。



「はあっ。はあっ。これなら多分できたはず」

「何もそんなにむきにならんでも……」



 愛衣に呆れた顔をされながらも、竜郎はフラフラと新品同然と化したボス竜の死骸に近寄っていき、魔石が埋まっている辺りを切り裂いて中を確かめた。

 するとそこには魔石がちゃんと埋まってはいた。けれど──。



「なんか、元の奴とは違うな」

「見せてください」

「これなんだが」



 加工品の様に美しい形をし、三十センチほどで宝石の様な輝きを持っていたのが元の魔石。

 けれど竜郎が取り出して見せたのはそれとは打って変わり、とても深い青色で一メートル程の巨大な岩の様なゴツゴツした魔石だった。



「明らかに劣化してますね。途中神力を使ったようですが、それでもこれが限界だったという事でしょうか」

「レベルが上がって神力が増したら出来る様に──とかはないんですの?」

「いや。実際にやってみての感想なんだが、これはそんな単純な事ではないな。

 例え俺がレベル300とかになって大量の神力を手に入れても、出来るようになるとは思えない」

「そう考えると複製って実はものすごいチート能力?」

「でしょうね。それを一日一個分のポイントをくれるんですから、SPを大量に払って手に入れる価値はあったのだと思います」

「だな。あの時とっておいてほんとに良かったよ」



 そう言って竜郎は劣化した魔石を大事そうに、《無限アイテムフィールド》へとしまうのであった。

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