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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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333/634

第331話 生まれし魔物

 今回の魔物は鮮やかな透ける黄緑色の羽をもつ、三十メートルほどの巨大な怪鳥。

 竜種ではない様だが、それでも下級竜ですら裸足で逃げ出す圧倒的な威圧感を発していた。

 その怪鳥は生まれたばかりの体を確かめるようにして、竜郎達の見ている前で首を左右にグキグキっと捻っていると、そこで初めて気が付いたようにこちらをめ付けてきた。



「たぶんレア魔物だよな。いいなあ。かっこいいなあ。卵欲しいなあ」

「あかん。たつろーに《魔卵錬成》何てスキルあげちゃうから、変なミッション追加されちゃったよ」

「脳と心臓だけは残してくれって事ですね」

「そのどちらかだけでもいいぞ。けどこっちがヤバそうなら、そんな事気にしなくてもいいから──くるぞ!」



 竜郎が話している間に怪鳥の周りに風の魔力が集まるのを感じ、全員に警戒を促した。

 けれどそれは、攻撃の魔法ではなかった。



「《王纏風装》というスキルみたいですね。アテナさんの風属性にした竜装くらい強力な物になっているので、並みの攻撃はアレに弾かれます」

「防御をまずは固めてきたか。鳥頭ではないみたいだな」

「でもそれなら!」



 愛衣は手に持った宝石剣に獅子纏を行使し、翼だけを切り裂くようにとイメージしながら斬撃を飛ばす。

 その獅子纏の斬撃は《王纏風装》を透過して、羽の一部を切り裂いた。



「グケェエエエーーー!?」

「驚いてるみたいっすね。ならあたしも驚かせてやるっす! はあああっ!」



 黄金の雷による《竜装》を纏い、《竜力路》で一気に怪鳥の巨大な足の横を通り抜けながら鎌で切り裂いて行く。



「クケェエエエーーー!」



 足にもしっかりと纏っていたはずの《王纏風装》ごと軽く切り裂かれ、今度は痛みよりも怒りが勝ったようだ。

 余裕ぶれる相手ではないとようやく察したのか、ここで初めて攻撃のスキルを発動させた。



「羽を剣に変形させて大量に打ち込んでくるスキルです。みなさん気を付けてください!」

「ヒヒーーーン」



 リアが言うようにバサァッと両翼を広げながら空へと舞い上がり、体から何百枚もの羽が抜け落ちる。

 そして抜け落ちた数百にも及ぶ黄緑の羽が剣の形に変化すると、それが一斉に上から斜めに下にいる竜郎達に向かって降り注いできた。

 そこへジャンヌがいち早く前に躍り出ると、《分霊:巨腕震撃》を発動し、巨大ハルバートを持たせると横にグルグルと扇風機の様に回転させて、波動の力と合わせて剣の雨を防いでくれた。

 その間に奈々は全員のステータスアップと自動回復を付与していき、カルディナと虎型の機体に乗ったリアは、それぞれ真・竜翼刃魔弾と手榴弾を遠距離射撃して相手に少しずつダメージを負わせていく。



「天照、月読。俺達もいくぞ」



 竜郎は二人のモードを《高出力体》に押し上げ性能をさらに高めた所で氷魔法、風魔法を光魔法でブーストした《竜の息吹き》を混合させた光氷風竜の息吹きを空へと舞い上がりながら浴びせて行く。

 猛烈な煌めく氷結の嵐にさらされて、頑張って抗おうとしているようだが竜郎、天照、月読三人の全力攻撃に抗えるはずも無く、段々と凍りついて動きが鈍くなり始めた。



「いっくよー!」



 そこで愛衣が飛び出しジャンヌの肩まで一気に飛んで足場に使わせてもらうと、そのまま高い所にいる怪鳥の近くまでやってくる。

 それに一瞬反応が遅れたが、それでもそちらに向かって口から竜巻の息吹きを放射して愛衣へと放ってきた。

 けれど愛衣に直撃する前にアテナがその前に躍り出ると、同じように竜巻を──けれどこちらは黄金の雷が混じったそれをぶつける。

 すると竜巻は対消滅を起こすが、雷だけは真っすぐ伸びて口内から喉の奥まで焼き焦がす。



「グェ"エ"ッ"ーーーー」



 息苦しそうな奇声をあげながらも、それでも未だに完全な氷結から身を守っているのは称賛に値する。

 けれど防御をアテナに任せた分だけ速く《空中飛び》で空を蹴って、怪鳥よりも高い場所へと跳ね上がる。

 今度は体を反転させて上を蹴り下に向かって勢いよく降りる中で、宝石剣から飛び出した二十メートルサイズの巨大な獅子纏の刃を、右翼の付け根に向かって振り下ろす。

 獅子纏の刃は《王纏風装》をすり抜けて肉と骨を断ち、片翼を切り落とした。


 両翼揃わない状態で、その巨体を浮かべる事も出来ずにもがきながら落下していく。

 そこへ竜郎が空を飛んで山を背にする様に位置どると、光氷風竜の息吹きは維持したままで、さらに闇魔法で極限まで硬度を高めた土魔法で尖った土杭を別で造って息吹きに混ぜ込み何本も飛ばしていく。

 《王纏風装》をギリギリ突き破って、土杭が怪鳥の体中に浅く突き刺さっていく。

 その土杭自体は浅く刺さるだけで見た目ほどダメージを負ってはいないのだが、一定数本数が体に食い込んだ時、込めた精霊魔法が発動する。



「グゲェーーーーー!」



 込めた精霊魔法は重力魔法。土杭は有りえない重量へと変化してさらに体に食い込んでいき、片翼だけで器用に不時着しようとしていた怪鳥を地面に叩き落とした。

 地面に落ちてきたところをジャンヌの両手に持った鉈と、《分霊:巨腕震撃》に持たせたハルバートで、残っていた翼も根元を滅茶苦茶に破壊していった。

 これで両翼を失い、体中には鋼鉄よりも硬く重い土杭を何百と打たれて地面に寝かしつけられている状況。



「もう目標ポイントまで集め終ったが、やっぱSPは欲しいよな」



 そう言いながら竜郎は《レベルイーター》を使いにゆっくりと空から近づいていると、突然大音量のスピーカーモードで、機体の中からリアが叫びだした。



「皆さん! 今すぐ離れてください!! そして受けようとはしないで、絶対に避けてくださいっ!!」

「──なんかヤバイの来るかも!」

「「「「「……? ──っ!?」」」」」



 リアに遅れて愛衣の《危機感知》も反応する。

 突然そんな事を言われ何の事だと思いながらも、リアと愛衣が言うのだからと怪鳥から距離を取ろうとした時、それは起きた。

 もう動けなくなったかと思っていた怪鳥の体が黄緑色の眩しい光に覆われたかと思えば、幽体離脱でもするかのように怪鳥の形をとった光の塊が浮かびだし、竜郎へと首をもたげた。

 そして、とんでもないスピードでそれが竜郎に向かって突っ込んできた。

 月読と天照は急いでリアの言った通り避ける軌道を取りながら急上昇していく、それにある程度追尾をしてきたものの、基本的には真っすぐしか進めないらしく、竜郎が背にしていたバンラモンテ山に直撃した。



「──っな」



 竜郎の目の前で、バンラモンテ山の上半分が消滅していた。

 その威力に、確かに受け止めようとしないで良かったと胸を撫で下ろす。

 そしてそれを放ってきた怪鳥へと視線を向ければ、なんと完全回復し、先ほどまで重傷だったのが嘘のようだった。



「すいません。他のスキルを調べていて、そのスキルの調べが甘かったです!

 今のは《痛受痛反治癒》というスキルで、受けた痛みや傷の分だけ威力の増した攻撃を敵に飛ばし、自分を完全に癒す究極のカウンタースキルになっています。

 なので今の一撃は我々が与えたダメージが乗って、本来の怪鳥が持つステータスを大幅に超えた威力を持っています。

 そして即死させても自動で発動するようです」

「傷を与えたらその分こっちに返ってきて、その上完全回復するなんてどうやって倒すの!?」

「そこは安心してください。それをするにも大量の魔力を要します。

 今は風山の力を食べて回復していますが、大本となっているエネルギー源は取り除いているので、あと十三回も発動すれば枯れ果て打ち止めです。

 それまで攻撃を当ててカウンターを発動させて、それを人気のない方向に撃たせれば最後には勝てるはずです!」

「なんて面倒な魔物なんですの、こいつは……。

 その《痛受痛反治癒》というスキルは、お父様の《レベルイーター》では吸い出せませんの?」

「残念ながら、それはレベルの無いスキルですので……」

「そりゃあ、皆で頑張るしかないっすね」

「ピュィィーー」「ヒヒーーン」



 カルディナとジャンヌが、皆をアテナの言葉に賛同するように鳴いた。

 それをレーザーなどで怪鳥の注意を引きながら空を飛び回る中で聞いた竜郎も、大声で下にいる皆を鼓舞していく。



「さすがに今のを町の方角に撃たせるのは不味いが、幸いこの周辺には人払いがされている!

 だから人気のない方向へ向けさせるだけなら、問題なく出来るはずだ!

 リアは発動のタイミング見て、来そうになったら直ぐに注意を頼む!」

「了解です。絶対に見逃しません」

「注意が有ったら、皆は誰も人がいない方向に背を向けるように位置どってくれ!

 そして絶対にそれを躱してくれ!」

「あいあい!」「ピィュー」「ヒヒーン!」「解ったですの!」「了解っす!」



 そうして竜郎達は、この魔物を後十三回瀕死にさせるべく動き始めた。


 愛衣が首を狩って即死させ、《痛受痛反治癒》が発動。森の一部が消え去った。

 カルディナが心臓を打ち抜いて殺し、《痛受痛反治癒》が発動。山がさらに小さくなった。

 ジャンヌが怪鳥の腹をハルバートと鉈で掻っ捌いたところで、《痛受痛反治癒》が発動。山向こうの森が一部が消失。

 奈々が首周辺を竜邪槍で穴だらけにしたところで、《痛受痛反治癒》が発動。山の一部が抉れ始めた。

 リアが虎型の機体を操作しながら強力な爆弾で脳天を吹き飛ばしたところで、《痛受痛反治癒》が発動。さらに山が削れていく。

 アテナが黄金の雷を纏った鎌の一撃で怪鳥を袈裟懸けに切断したところで、《痛受痛反治癒》が発動。森の面積が全体の半分を切った。

 天照が嘴の中に炎を大量にぶち込んだとき、《痛受痛反治癒》が発動。周囲にクレーターがまた増えた。

 月読がセコム君を操作して目から脳を掻き回したとき、《痛受痛反治癒》が発動。バンラモンテ山は、風山地帯一帯だけを残してほぼ消失した。

 そして竜郎も時空と多種多様の魔法を混合し、あらぬところから炎撃、雷撃、氷撃、爆撃などで数度発動させるのに成功し、それも内二回は空に向かって撃たせることに成功した。


 そして竜郎達の苛烈な攻撃と、それに対して同じだけ苛烈なカウンターを躱すこと十二回。

 リアが言っていた十三回まで、あと一回である。

 愛衣に両足を切断されてバランスを崩した瞬間に、ジャンヌが《分霊:巨腕震撃》を使った四本の腕でハルバートを振りぬいて首をへし折った。

 そして最後の《痛受痛反治癒》が発動する瞬間を見計らって、全員が誰もいない方角を背にして立つと、自分を殺したジャンヌに向かって放たれ、それを急上昇して躱し全て無事に人的被害を出さずに終わらせる事が出来た。

 そんな時になれば地球の最高峰エベレストよりも高かった山は、地表数十メートルで、風山も枯れたただの小山と化していた。

 周りの森もクレーターが深く刻まれ、見るも無残な荒れた大地と化している。



「これで最後だ! 気を抜かずに行くぞ!」



 これでもう怪鳥には《痛受痛反治癒》を使うだけの魔力は残されていない。

 という事は同時に体は元気に空を舞っているが、魔法系統のスキルも完全には出せなくなり、かなりレベルが下がっていた。

 そんな状態でも魔法を使おうとしたのが不味かった。口から随分威力が弱まった中途半端な竜巻を吐き出そうとした瞬間。



「《魔法支配》」

「グェッ!?」



 その竜巻の風魔法系統のスキルを支配し、喉の奥へと逆流させた。

 突然の事に驚きながらも、残った魔力を総動員して《王纏風装》を発動して身を守る事だけに魔法を使おうとした。



「それも貰うぞ──はあっ!」

「グゲェーーーー!?」



 そちらも簡単に支配され、風装になろうとしていた風の魔力を全てかっさらわれて逆に竜巻となって毛を毟り取られた。

 訳も解らず混乱していると、いつの間にやら空を飛んでやってきていた奈々に、竜邪槍を三本、右太ももに突き立てられた。

 痛みに堪え、何とか奈々に風の魔力を纏った爪で引っ掻こうとするが、目にもとまらぬ速さで飛来したカルディナに左の翼を真・竜翼で根元から切り裂かれ、バランスを崩して一気に高度を下げて行く。

 そこへジャンヌの《分霊:巨腕震撃》で首根っこを掴まれ、締め付けながら地面に叩き付け抑え込んだ。

 その隙に全員で止血しながら解体していき、最後には頭と胴体だけの巨大な鳥が転がっていた。



「これで終わりだ」



 竜郎は近寄っていき、《レベルイーター》による黒球を吹き当てた。



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 レベル:466


 スキル:《痛受痛反治癒》《王纏風装》《突進 Lv.12》

     《引っ掻く Lv.14》《風爪襲撃 Lv.12》

     《羽毛超再生 Lv.16》《風羽剣襲撃 Lv.16》

     《風魔食 Lv.17》《物魔耐性 Lv.9》

     《竜巻の息吹き Lv.14》《魔王の覇気 Lv.6》

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(はあっ!? レベル466!? 何だそりゃ!? スキルレベルも高っ!

 それに《物魔耐性 Lv.9》とかあるし、どうりで俺の魔法でも直ぐ凍りつかないわけだ。

 あと気になるのは《魔王の覇気》ってなんだよ。え? こいつ魔王だったのか?

 強さ的には有りえる……のか? ボスて言うより、裏ボスみたいなレベルだし……まあ何でもいいか。

 どうせ後は、俺達の経験値になるだけだ)



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 レベル:466


 スキル:《痛受痛反治癒》《王纏風装》《突進 Lv.0》

     《引っ掻く Lv.0》《風爪襲撃 Lv.0》

     《羽毛超再生 Lv.0》《風羽剣襲撃 Lv.0》

     《風魔食 Lv.0》《物魔耐性 Lv.0》

     《竜巻の息吹き Lv.0》《魔王の覇気 Lv.0》

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「御馳走様でした。それじゃあ、皆に経験値が行き渡るように、全員で同時に止めを刺すぞー。

 心臓と脳は欲しいから、今度も首を狙ってくれー」

「やっぱりこいつも卵造って、テイムする気なんだね」

「おう。ここまで苦労したんだから、それくらい特典が無いとな」



 そうして全員で一斉に首めがけて集中砲火を浴びせ、完全に息の根を止めたのであった。

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