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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第330話 黒菌除去

 自分一人では打開策がまるで見いだせなかった状況に、最愛の友が希望の光を連れてきたと、失った悲しみの中でもプラスの感情が沸き起こってきていたアウリッキ。

 そんなのをどうやって解決するのだと、期待の籠った視線を真正面から受け止めた竜郎は、真っすぐ目を見て言い放つ。



「それは今から調べます!」

「──は? 打開策が見つかったからここに来たのではないのか!?」

「いいえ。ここはあの巨大なエネルギーのせいで、遠くからだと探査もかけ難かったんですよ。

 だから今から現地調査を始めます。でも心配しないでください。うちの調査班は世界一ですから」



 そう言って竜郎はカルディナとリアの方へと視線を向けた。

 その自信満々な表情にアウリッキも、自分では解き明かせなかった謎を解明してくれるのだと確信を持った。



「それで質問なのですが、貴方とヘンリッキさんのもくろみでは、数日もあればこのエネルギーを散らせると考えていたんですよね?

 それが何故、今もなおそれが出来ずにいるのですか?」

「ああ、それはな──」



 アウリッキには《魔力構成阻害》という、自身の魔力で相手の魔法を掻き乱し、上手く構成出来ない様にするスキルがある、

 それが黒渦にも適応できると踏んで行動に出て、実際にそれは成功していた。



「だが何故か散らして散らしても、何処からともなく力が供給されていき、終わるどころか気を抜けばさらに巨大な何かになろうとし始める始末。

 このまま俺が少しでも離れれば、更に強く巨大な魔物が生まれてしまうと動くに動けなくなったんだ」



 ちなみに小妖精は空気中の魔力を食べる生き物なので、この場は密度も高く常に最高の状態で飲まず食わずでいられたらしい。睡眠も取らなくてもそれほど支障は無いので、まさにアウリッキでなければ既に魔物を発生させていたと言っても過言ではなかった。



「無限に供給される力………………そう言う事ですか」

「何か解ったのか、リア?」

「はい。力の供給源と、少々荒っぽいですが、この黒渦と蔓延した黒菌を何とかする方法も」

「相変わらずリアは仕事が速いですの」

「まだ調べ始めて十分も経っていないぞ? 早すぎるだろう……」



 リアの《万象解識眼》をただ一人知らないアウリッキだけは、何を言っているんだこのゴーレムはという懐疑的な視線を向けていた。

 けれど竜郎達は、リアが解ったと言って解らなかったことなど一度も無いと知っている。

 なのでそちらは無視して、リアの解決方法を聞く態勢をとった。



「まず供給源ですが、この場所が風山へと至る原因にもなっている、とある物体が原因です。

 ですのでそれを兄さんたちに除去して貰えば、これ以上エネルギーを供給させなくて済みます」

「そのとある物質ってのは何なんすか?」

「この真下に埋まっている、古代魔物の化石です。それも強力な風の魔力を持った存在のモノが大量に。

 それらは死んで化石となり、長い年月をかけたことで魔力を発生させる呪術的な物質へと変化していった。やがてそれは大地を侵食していき、特殊な風の魔力を発生させる力場を造り上げた。

 と、観た限りでは、大体どこの炎山や雷山などでもそういう風に出来て行ったんだと思います。

 それでですね。呪術的に変化した化石によってこの場に風山が生まれた──までは良かったんですが、ここの化石は量がとにかく多いんです。

 風山を維持するのに五個もあれば十分なのに、この大地の下にはエネルギー量からみても六十以上は眠っています」

「六十!? 大量だねぇ。なんでこんなとこにそんなにあったんだろ」



 前に竜郎達の寄った炎山では、炎の魔力を吹き出す化石が眠っていたが、その数は四体分しかないという。

 なのでここには有りえない程の化石が眠っている事に、愛衣は疑問をそのまま口にした。



「そこまでは解りません。その古代の魔物が同じ場所で死ぬような習性があっただとか、何らかのより強い存在に虐殺されただとか。色々想像はできますが、今はそれよりも化石の掘り出し作業に入りましょう。

 それをしまってしまえば、とりあえず供給源は無くなりますし、終わった後で三つくらい埋め直せば風山も維持できるでしょう」

「なら決まりだな。カルディナ」

「ピィー」



 竜郎と一緒にカルディナは地面の中へ探査魔法をかけていくと、これより五十メートル程下に大量の風の魔力を発する物質を発見できた。

 なのでアウリッキにはそのまま魔物の生成を邪魔して貰いつつ、こちらはその場所まで土魔法で巨大な穴を作り上げて行く。



「あれでいいんだよな?」

「はい。間違いありません」



 深くあいた穴の奥を光魔法で照らして見れば、そこには化石──というよりも巨大な鳥のミイラが入った緑の琥珀、と表現した方が近い凸凹した楕円形の球体がゴロゴロとひしめきあっていた。



「何も加工していない状態で素手で触るのはあまりよくないので、触らない様に引き上げてもらえますか?」

「了解っと」



 今度は穴をあけるときに周りに圧縮して固めた土を操って、化石の乗った部分を押し上げながら穴を埋めていった。

 そうして竜郎達の目の前には、美しいエメラルド色に煌めく琥珀の様な物体がゴロゴロ転がっていた。

 竜郎がそれに精霊眼を向ければ、リアの言っていた通り、あの黒渦に魔力を提供しているのが見て取れた。

 なので急いでその全てを《無限アイテムフィールド》にしまいこんでいった。



「よし。これでどうですか? まだ力を回復させようとする何かを感じますか?」

「いや。嘘のように無くなったぞ! 凄いなお前たちは!!」



 これまでは削っても削っても永久に終わらないのではと思っていたのに、今は確実に減らせている手ごたえを感じ、アウリッキは先の懐疑的な視線から一転し、尊敬の眼差しを竜郎達に送っていた。

 彼からしたら、それくらい辛い毎日だったのだ。



「それでこれからどうするんですの? もう供給はされないからと言って散らしてしまえば、黒菌が増えた状態で残ってしまいますの」

「それは単純ですよ。この結界内に蔓延している黒菌をこの場に集めて、その全てを使って一体の魔物になって貰います」

「ああ。それで黒菌は全て無くなり、そいつを俺達がブッ飛ばせば円満解決って事だな」

「確かに単純で解りやすい! とっととやっちゃお。そうすれば黒菌も気にせず思いっきり戦えるし」



 などと既に戦闘モードに心が動き始めている竜郎達とは打って変わり、アウリッキは尊敬の眼差しから狂人をみる視線に切り替わっていた。



「何をバカな事を言っているのだ! その様に容易く倒せるのなら苦労はしていない!!」

「そりゃあ貴方にとっては、今まで苦労してきて抑えていた物ですからね。

 それをいきなりやってきた俺達が、横から解放しますなんて言っても許容できないでしょう」

「そうだ。その通りだ。俺とお前達だけで抑えられるとは思えない」

「俺と──ですか。残念ながら、アウリッキさんは安全な所に避難していて貰います。

 魔物は僕らだけで片付けますので」

「な──。しかしだなっ」

「申し訳ありませんが、これはもう決定事項です。僕らは冒険者ギルドに、僕らの方法で解決することを認められています。

 なので文句は受け付けますが、意見を聞き入れるつもりは有りません」



 これ以上言ってくるのなら実力行使も辞さないぞ。と言った竜郎の視線に、遂にアウリッキの方が折れた。

 自殺志願者にも、戦闘狂にも、他国からやってきたテロリストにも見えないし、何より友が寄越した人間だ。アウリッキは、それを信じることにした。



「絶対に勝つ自信があるんだな」

「はい。俺だけでは難しいかもしれませんが、心強い仲間もいますから」

「……そうか。俺は戦闘に出なくて本当にいいのか? こんななりだが、そこそこ戦えると自負しているが」



 アウリッキは普段の竜郎達と同じく、はた目からは強そうには見えない外見だ。そんな小さな体を自嘲気味に卑下するが、戦う力はちゃんとあるのだとハッキリと口にしてきた。



「レベル9のダンジョンを踏破したと他の小妖精の人達から聞いていますし、弱いなどとは思っていませんよ。

 けれど強敵相手に、付け焼刃の協同戦闘では逆に不安ですので」

「それもそうだな。確かによく知りもしない人間同士で、高度な戦闘は厳しいか……」

「ですのでアウリッキさんは、ここに黒菌を全て集め終わるまでは阻害し続けて貰い、魔物が生まれる段階になったら直ぐに下山して下さい。

 一応危険な魔物と戦闘になるかもしれないとは話してきましたが、念のためにどんな魔物が見えても暫く森に近寄らない様に、結界の外にいるギルド職員に伝えてください」

「それだけでいいんだな。解った。お安い御用だ」



 集めている途中で産まれ、黒菌を全て回収しきれなかったら困るので、その間までアウリッキの熟練と化した技で邪魔し続けて貰う。

 再びアウリッキが作業に戻ったので、こちらはこちらで黒菌をこの場に全部集める事にする。



「どうやって集めるの?」

「そうだな。今回は月読に頑張って貰おう」

「竜障壁で前みたいに集めるという事ですの?」

「おしいな。ちょっとだけ違う。まあ、みててくれ」



 そう言うと、私の出番だとばかりにピカピカと光って主張する月読に、手に嵌めたグローブを通してイメージを伝えて行く。

 そして月読の発動を竜郎と天照で補助しつつ、水と闇と竜障壁の混合魔法を展開した。


 天照を上に掲げると、先端部分からやや粘質の水が噴出していき、ギルド職員たちが張る結界にピッタリと張り付いて広がっていく。

 ギルド職員達が突然の事に驚いている様な反応を感じながらも、竜郎はその水の膜を結界全域と地面に隙間なくしっかりと張り付けると、今度はゆっくりと剥がして収縮させていく。

 すると黒菌は竜障壁が混ざった粘質の水から外に出られず、竜郎の立っているこの場に集まってきた。



「おー何かしっかりと集まってきてるっすー」

「これは変質した水に竜障壁を溶かし込んで、黒菌を集めるようにイメージした魔法なんだ。

 障壁としては全く役に立たないレベルだが、こういう時に袋として使うには十分だろ」



 全員に見守られながら竜郎は速度を上げて竜障壁の溶けた水袋を収縮していき、風山地帯にまで来たところで一旦止める。

 するとこの一帯には、肉眼で見えるほど濃厚な黒菌の霧に覆われていた。もはや視界を見渡すのも難儀するくらいにだ。



「アウリッキさん! 合図をしたら作業を止めて下山してください! 

 あと、この水に囲われた中から出るまで、魔力を纏った状態にするのもお忘れなく!」

「ああ、解っているとも!」



 カルディナの解魔法で水袋の外に黒菌が無いのは調査済みだが、うっかりで黒渦を阻害しているスキルを切った瞬間に、魔力を切って感染されたら元も子もない。

 なので解っていると思いつつも、念のため竜郎は忠告を入れれば、アウリッキも快く返事を返してきた。


 ということで竜郎も最終フェイズに移行していく。

 水袋をさらに収縮していき、自分達のいる場所を通る際はニュルンと纏わりつきながら、黒菌だけは逃がさない様に透過していき、最後にアウリッキと黒渦のいる場所だけにまで縮め終わった。

 水袋の外からでは、アウリッキのスキルでの干渉ができないからだ。そして竜郎は、最後に一人黒菌の中にいるアウリッキに合図を告げる。



「今です! スキルを切って下山してください!」

「心得た!」



 アウリッキは自分の周りに溢れている魔力を切らない様に注意しながら、《魔力構成阻害》を打ち切ってから急いで水の膜を潜り抜ける。

 その際に黒菌が漏れていないか竜郎とカルディナとチェックし、大丈夫と判断できたので、そのまま視線で互いに挨拶を交わしアウリッキは離れて行った。


 風のようなスピードで下山していくアウリッキの背中を見つめながら、水袋をさらに収縮していき、黒渦に全部の残骸を使い切って貰うように促していく。

 するとこちらの思惑通り、黒菌は黒渦にグングン吸収されていき、やがて一つの超巨大な黒渦と化した。


 完全に生まれるまでは油断できないと、水袋を維持したまま待つこと三分。

 ついにそれは全てのエネルギーを使った、強大な魔物へと姿を変えていく。



「あの形はでっかい鳥さんかな?」

「エネルギー源が、鳥っぽい魔物の化石だったしな。形的にも間違いないだろう」



 三十メートルはあろうかと言う、完全に鳥の形をとった黒い塊が産声を上げる。



「クケェェエエエエエエエエーーーーーーーーーーー!!」

「可愛くない鳴き声ですの。カルディナお姉さまを見習ってほしいですの」

「ピュィー♪」



 カルディナが上機嫌に奈々に頬を擦り合わせていると、巨鳥の体が鮮やかな透き通った黄緑へと変化して、鳴き声に反して美しい見た目を露わにさせたのであった。

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