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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第328話 魔卵合成

 愛衣が所望したいつまでも子供のままでいる小さな狼になる予定だった存在は、毛色以外の外見はそのままに、三メートルと言う巨体になってしまった。

 これは竜郎が変な好奇心を見せずに、必要な魔力だけを渡せば予定通りに生まれた所を、竜力を少量、神力を極微量まぜた結果である。


 どうしようかと言いながらも、モフモフ度はかなり良好だったので竜郎と愛衣は大きな足に抱きついたり、背中に乗って寝そべったりと堪能しながら、これはこれでありなのではと思いつつ──解決策があるかどうかを調べて行った。


 すると意外な方法で解決することとなった。

 それは神力と竜力と言う身の丈以上の力に触れたことにより、取得できるスキル枠が一つ増え、覚えられるスキルの種類も増えていた。

 そこで見つけたのが《肉体収縮》という、巨人種が持つスキル。

 生まれたばかりなので、まだ強化改造もかなりやれたと言うのもあって、無事そのスキルも追加された。



「よし、《肉体収縮》だ」

「キャンキャン!」

「やった! 縮んでくよ!」



 体を縮めれば縮めるほど強くなる《肉体強化圧縮》は無かったが、体を縮めても元のサイズと同じ力を発揮できる《肉体収縮》を使う事により、当初の予定通り三十センチのミニサイズへと変貌を遂げてくれた。



「やーん! くぁわいいー!」

「確かにこれはいいワンコ──じゃなかった狼だ」

「ガウー」

「キャンキャン!」



 愛衣がご機嫌でアテナを右腕に、子狼を左腕に抱える。

 愛衣は敵じゃないと伝えてあるので、大人しく胸に抱かれて吠えていた。

 大きめの猫に豆柴の子犬とも見える二体に、竜郎も頬を緩めて頭を撫でた。

 二体とも嬉しそうにする姿があまりに可愛かったので、愛衣と一緒にスマホで撮影しておいた。



「この姿なら、日本に帰っても庭で遊ばせる事も出来そうだな」

「ご近所さんのアイドルになっちゃうかもね!」

「ガー」「キャンキャン!」



 生まれたばかりで元気いっぱいの子犬……ではなく子狼と、それを微笑ましそうに見ているアテナという図式にほっこりしていると、子狼はなれない《肉体収縮》が窮屈だったのか元の大きさに戻ってしまった。



「あれれ? でっかくなっちゃった。小さいのは嫌だった?」

「クーン……」

「微量だが気力を消費するみたいだし、慣れてないからまだ日常的に小さいままってのはきついみたいだな」

「そっか。でっかくて忘れてたけど、まだレベルは1だしね。でもまた小さい姿も見せてね」

「キャンキャン!」

「いいよ。だってさ」



 そうして大きさについては今はこれでいいかと、竜郎と愛衣はお座りした子狼にもたれかかりモフモフを全身で感じながら、アテナは相変わらず抱かれた状態で、いよいよ次のフェーズに移行する事にした。



「お次は魔卵の合成だな」

「おーマッドな香りがプンプンするよ」

「体のサイズとか改造している時点で、既に十分マッドだけどな。

 えーと、これは…………ふむふむ、なるほどなるほど」

「何がなるほど?」



 愛衣も知りたそうな顔でこちらを見てきたので、竜郎は今調べた魔卵の合成について軽く説明した。

 それによれば、魔卵には魔物の種類によって質の等級が違い、それを上手く均一にするようにするのが、一番強い魔物を造りだすコツなのだそう。


 もう少し詳しく説明すると、例えばイモムーの魔卵の等級は1。女王蜂ビプリスや女王蟻アーマレの魔卵は等級2。巨大火蜥蜴の魔卵は等級4。といった種族差がある。

 そこで等級の均一性を無視する例として、等級1のイモムーと等級4の巨大火蜥蜴の魔卵を合成したとする。

 すると出来た卵は劣化魔卵と化し、等級1よりも低い0.5や0.1の極低質の魔物モドキになってしまうらしい。

 これは等級が1違うだけ、また5と6という高めの等級を持つ魔卵同士でも、かなりの高確率で起こる事なので、貴重な魔卵を使う際は避けておいた方がいい。

 また等級の均一性をしっかりと取った例として、2同士のビプリスとアーマレの卵を合成した場合。

 相性によっても上がり幅は変わってくるが、確実に等級は上がり、より高位の魔物の卵へと変化する事が出来る。

 ちなみに等級は解魔法やテイム契約などが出来る人間なら簡単に解る。



「ってことは、今の手持ちで言うと蜂さんと蟻さんの合体が一番いいってことだよね」

「だな。しかもどっちも似たような性質を持っているし、相性もいいかもしれない。ちょっとやってみるか」

「合成してもハチミツ集められるかな?」

「両方とも複製して、バックアップを取っておけばいいだろ」

「複製できるのね、卵ちゃん」

「ああ。なんか出来るみたいだな」



 という事でさっそく毎日1ずつ増えている複製ポイントを2消費して、魔卵を一個ずつコピーし、複製したほうを取り出し目の前に置いた。

 そして《魔卵錬成》を発動して目の前に手をかざすと、二つの卵が液状となって混ざり合い、直ぐに一つの赤橙色の魔卵へと変化した。

 それを竜郎が解魔法で解析すると、等級2同士の卵が合わさった事で等級4。実質的に、巨大火蜥蜴と同質の魔物の卵へと昇華していた。



「2ランクアップか。やっぱり相性が良かったのかもしれないな」

「巨大火蜥蜴と一緒って事は、亜竜並みの虫になったって事だよね」

「ちょっとワクワクしてきたな」

「ガウガウ」「キャンキャン!」



 二人の興奮が移ったのか、アテナと子狼もテンションが上がってきている様子。

 竜郎はさっそく《無限アイテムフィールド》に入れて複製してから再び取り出し、それを《強化改造牧場》に入れてシミュレーターで普通に孵化させた場合の状態を映し出してみた。


 フォルム的には大スズメバチが近いだろうか。色は全身赤に黒の縞模様で大きさは三メートル。

 前足は鋭い鉤爪が二本付いた虫の足、後四本は獣の様な足になっていた。

 お尻の部分には出し入れ可能な産卵管を中心に、周囲には六本の太い針が飛び出していた。

 そしてさらにアップで体を見てみれば、全身細かい毛に覆われているように見えるが、実はその一本一本が岩よりも硬い毒針となっていて、触れば刺さり毒をお見舞いされるらしい。



「なんつーか。蜂や蟻だった時より機動力が増して、自分でもガッツリ戦えるように攻撃的に変化してるな」

「うーん。可愛くないね。蜂蜜は作れそう?」

「あー……。この姿だと作らないみたいだな」

「えー。強そうだし、もっと美味しい蜂蜜が出来ると思って楽しみにしてたのにー」

「まあ、そこは普通の女王蜂に任せ────いや、ちょっと待て。よくよく考えたら、蜂蜜作るのは子供の方だったような……」



 竜郎は蜂たちに《レベルイーター》を使った時の事を思い浮かべると、《蜜生成》というスキルを持っていたのは働き蜂であって女王蜂ではなかった。

 となると、そこの所どうなのだとシミュレーターでさらに深く調べていくと、蟻蜂女王(取りあえず竜郎が付けた名前)が大量に生み出せる働き蜂達のスキルの中に、《上蜜生成》という何やら素敵な香りのするスキルを持っている事が発覚した。



「上蜜……じゅるり。たつろー! それ食べたーい!」

「──愛衣はそれでいいのかな?」

「………………といいますと?」



 メガネもかけていないのにメガネをあげる素振りを見せる意味深な彼氏に、何が問題なのだと愛衣は問いかけた。

 すると竜郎は、シミュレーターが指し示す可能性を口にした。



「俺が使っているのはただ魔物を収納する牧場じゃあない。強化改造する牧場だぞ?

 上蜜程度で愛衣は満足できますかな?」

「──はっ!? まままま──まさか!」

「その通りだよ、愛衣君。いじり倒して蜜生成特化型にした場合……《極上蜜生成》を子に持たせられるのだよ!!」

「極……上!? そっちーーーーーー! 絶対そっちにしてーーーー!!」

「任せろ! 最高の蜂蜜を貴女に、波佐見養蜂所。──の開店も近いぜ!」



 本来この魔物は《強化改造牧場》の性能をフルに使って戦闘特化にすれば、昆虫界のドラゴン──シュベルグファンガスすら超えるスペックを持たせられる存在だ。

 もしこれがテイムできるのなら、全財産(はた)いてでも手に入れたいと思うだろう。

 けれどそんな魔物も、二人にとっては蜜をくれる蜂さん扱いだ。近くに普通のテイマーがいたら、滂沱の涙を流し惜しんだことであろう。



「それじゃあ、やるぞ。えーとここをこうしてーあーしてっと。

 んで余った所に自衛用のスキルでも入れとけばいいな。よしできた」

「ばっちこーい!」



 蟻蜂女王が産む働き蜂が、出来るだけ蜜を生成するのに特化できるように強化改造し、申し訳程度に攻撃できるスキルとパラメーターも与えておいた。

 しかしそれでも十分に、女王単体でそこいらの魔物くらいは狩れるスペックとなっていた。

 そうして竜郎は、今度はかなり完璧に調整したので、子狼の時の様な事をして何かがずれると困る。

 なので今回は(・・・)自重することにして、普通の魔力を注いでいった。

 するとシミュレーター通りの魔物が、牧場を映すモニターの中の花生い茂る空間に出現した。

 これで牧場内の魔物とテレビ電話の様に意志の疎通ができる。



「一杯子供を産んで、一杯蜂蜜を作ってくれ!」

「ジーーー!」



 映し出される蟻蜂女王は素直に了承の意を示すと、さっそく牧場内で産卵の準備を始めたので竜郎はモニターを切った。



「異空間の牧場の中にある物で作った蜂蜜も、ちゃんと食べられるの?」

「ああ。それは問題ないはずだ。

 必要な餌やら環境やらは俺の魔力とかを吸い取って勝手に作られて、魔物が必要だと思った時に自動的に供給されるんだが、それをそのままこちらに持ってくることはできない。

 だが中の魔物が、それを加工して作り上げた物質は、指示を出せば持ってきてもらう事が出来るんだ」

「持ち運び養蜂所じゃん! しかも維持費が魔力って、他にも食べ物作れる魔物がいたら絶対捕まえようね!」

「だな。植物系の魔物とかでそういうのはいそうだし、一旦地球に帰ってのんびりしたら、食べ魔物探訪に興じるのも面白そうだ。

 さてそれで話を戻すが、今はまだ産卵中で無理だが、数日後には大量の極上蜜が手に入るはずだ。そしたらリアも交えて一緒に蜂蜜パーティしよう」

「それはいいね! 楽しみにしてる。ふふふーどんな味だろー極上蜜ちゃ~ん♪」



 すっかり上機嫌の愛衣と小虎のアテナと、『豆太まめた』と愛衣に名付けられた子狼(豆柴に似ていたから)とじゃれついた後は、時間的にも今日最後の実験を試みることにした。



「本当はもう少し試したいことがあったんだが、今日はこれで最後の締めとするか」

「お? 何々?」



 竜郎は実験の為に、これまで使う事も無いのに入れっぱなしになっていたイモムーの死骸から、心臓と脳を合わせて四十個取り出した。

 少々気持ち悪い光景に二人は目線をそらしたが、豆太が興味深げに鼻を鳴らして食べようとしたので慌てて竜郎は牧場に強制送還した。



「危ない所だった……。豆太にこんなものを食わせるのは流石に無いぞ……」

「ナイス判断だよ、たつろー」



 二人で見つめ合って頷いた後は、この気持ちの悪い光景をさっさと消し去る事にした。

 竜郎は《魔卵錬成》で四個のイモムーの魔卵を造りだした。



「それでどうするの? たつろーもイモムーパパを造りたいの?」

「いや、今回これは合成素材だ」

「合成? 何とくっ付けるの?」

「イモムー同士でだよ」

「え? そんなことできるの?」

「同じ魔物なんだから等級も同じ。質の均一性で言えば、一番合致する卵だと思ってな。

 けどどうなるか解らないから、コイツでまずは実験してみよう。

 イモムーの死骸なら沢山あるし、何処に行ってもいるから供給も楽だ」



 ということで竜郎はまず等級1のイモムー卵を二つ手に取り、《魔卵錬成》で二個を一個に合成した。

 そして直ぐに等級を確認すると……。



「上がっている様な、いない様な……。言うなれば等級1.2的な?」

「全く同じ種類の魔物でも、強化は出来るけど相性的には微妙って事かな」



 等級1よりは質が高くなったが、等級2というほどではない。という何とも中途半端な魔卵になった。

 そこで《強化改造牧場》のシミュレーターで生まれたらどんな姿になっているのか観てみても、違いは全く解らなかった。



「まあイモムーだけがこうなるって言う可能性もあるが、参考までに覚えておこう。

 それじゃあ次はっと」



 竜郎はまだ合成していないイモムー魔卵同士を合成して調べると、先ほどと同じ等級1.2の魔卵が生み出された。

 ここまでは先の結果と同様なので、特に思うことなく先へと進んでいく。



「今度は、この等級1.2同士の合成だ」

「合成した奴をさらに合成するんだね」

「ああ、出来るかどうかってのも気になるし、どうなるかも気になるからな」



 そうしてイモムー卵二個から造られた卵同士を合成し、再び等級を調べれば1.4になっていた。



「またちょっとだけ上がったな。これで無限合成したら、イモムーでも最初から等級5とかに出来るかもしれないな」

「でもさー。そうしたところでいるかな?」

「うーん。シュベ公まで育てちゃえば、かなり強そうだとは思う。

 思うが、そこまで苦労してほしいかと言われればNOだなぁ」

「だよねー」



 普通のテイマーならどんな苦労をしてでも欲しいだろうが、竜郎達の戦力になれるかと言われれば微妙である。

 そんなものを作るくらいならと、竜郎はある一匹の魔物を思い浮かべていた。



(レベル10ダンジョンのボス竜の魔石を持っている。脳もある。

 これで十個くらい合成すれば、どんな魔物が出来るんだろう)



 と、さすがにそれはリアがいるときに相談しながらやろうと決めて、竜郎はその考えを一時的に心の奥に引っ込めた。

 そうして夜も大分深くなってきたので、明日に備えスッキリするために、二人寄り添ってマイホームの自室へと入っていくのであった。

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