第327話 魔物作り
竜郎と愛衣は絶対に寝なければいけないわけではなく、一月寝ないで生活しても問題なく活動できるようになっていた。
けれど『寝る』という行為をすることで、気のせいなのかもしれないが、なんだか気持ちがスッキリするので基本的に睡眠は少しとることにしていた。
そんな仮眠から目覚めた二人は、さっそく《魔卵錬成》について話し合っていた。
「いっちばん最初は、かわいーのにしよーよ!」
「かわいいねぇ。実験的に造れそうな魔物の中で、比較的マシな容姿の奴って言ったら……ん~──狼っぽい奴とかどうだ?」
「わんわんだね! いいかも!」
「狼だってば……。まあ似たようなもんか。となれば、俺達の部屋に死骸を置くのも嫌だし外に出よう」
「だね!」
必要な素材は、生成したい魔物の脳か心臓か魔石のどれでもいいから十個。脳五個に心臓五個と、別に同じものをそろえる必要が無いと言うのは使いやすい所だった。それなら特殊な魔物を除いて、心臓と脳を一体から二個ずつ素材が確保できるからだ。
ちなみに特殊な魔物とは、主にゴーレムやスケルトン系の脳や心臓を持たない魔物。
ダンジョンではなく野生のゴーレムなどは、核が心臓扱いらしいので十体倒せば素材は確保できる。
けれどスケルトン系の脳も心臓も無い魔物は、ダンジョンに行って魔石を取って来るしかないようだ。
「まあ、骸骨なんて今はいらないけどな」
「肝試しに使えそうで面白そうだけどね」
「ガチお化けじゃねーか……」
と、ヘルプで調べ解った事を話し合いながら外へと出てきた二人。
そこでマイホームの正面で日向ぼっこ兼見張りをしていた、小トラ状態のアテナがテコテコ興味深げに近寄ってきたので、愛衣が抱き上げて胸に抱えた。
「アテナちゃんも一緒にみよーね」
「ガウー♪」
愛衣の胸に抱かれて目を細めるアテナの頭を撫でると竜郎は、《無限アイテムフィールド》から森で木魔物の人間──ヘンリッキによってけしかけられた軍勢の中にいた狼魔物の心臓を、適当に地面の土を使って作ったトレイに十個並べた。
脳は全てレーザーで打ち抜いて穴が開いていたので、使えなかったからだ。
「なんだかこの絵図、一気に黒魔術の怪しい儀式みたいになって来たな」
「心臓も時間を止めて保管してたから、新鮮でかなり生生しいしね」
まだヌラヌラとして今にも動き出しそうな心臓を直視しないように細目で見ながら、竜郎は《魔卵錬成》を意識し、その心臓に手を掲げた。
すると十個の並べられた心臓が液体の様に溶けだし混ざり合い、竜郎から十二属性の魔力が勝手に流れ、その魔物に適した量がその液体に混ざっていく。
(感覚的には氷の魔力が一番比率が大きかったな。氷系統の魔物なのかもしれない)
そんな事を考えていると、やがて液体は拳大の球体状の形に変化していき、灰色に青を少し混ぜたような色の魔卵が出来上がった。
「これがあの魔物の卵か。是非コレクションに加えよう」
「こらこら。孵化させるんでしょ」
「おう……。そうだ。それじゃあ、もう一個増やしておこう」
「まあ、色々試せるかもしれないしね。にしても、哺乳類っぽい見た目なのに卵って不思議だねー」
狼魔物の数は23体いたので、心臓の数的にもう一匹分ある。
なので大した消耗でもないと、同じ卵を二つ錬成した。
「えーと、そんでもってこれを《強化改造牧場》に収納と」
「《アイテムボックス》みたいだね」
「実質魔物用の《アイテムボックス》みたいなもんだからな。
んで次は牧場内で孵化させるには~っと」
牧場に収納した魔狼の卵をイメージすると、それが頭の中にポンと浮かんできた。
(えーと、映像を出す事も出来たんだよな。愛衣達にも見えるようにでき────たな)
「あっ、モニターが出てきた!」
「ガウガウ」
竜郎の目の前に、水平に宙に浮かぶ長方形の映像が映し出された。
それは竜郎のイメージ一つで他人に見せる事も、見せない事も出来る上に、大きさも自由に変える事が出来る様だった。
これは視覚的に改造結果などをシミュレーション出来る様だ。
そうして画面に映し出されたのは、雪がしんしんと降り注ぐ平原の様な場所にポツンと先ほどの卵が置かれているというもの。
「たしか卵の段階で強化、改造するのが、一番自由度が高いんだよな。
どんな感じにしたらいいと思う?」
「可愛い奴! ずっと赤ちゃんみたいに小さいのがいい!」
「そんな事できるのか? えーと…………出来るんかい」
孵化前ならかなり体形も融通が利くらしく、竜郎のイメージが弾かれることも無くすんなり通った。
「やった!」
孵化後のイメージ映像を出す事が出来るので、そこへ何も強化改造をしなかった場合のオオカミを映し出し、強化改造したらどうなるかと言う比較を出してみた。
「かわいいな」「かわいい!」「ガーウ」
まず前者は小柄な女性くらいの大きさをした、犬よりも牙が長く足もガッシリとした立派な狼だった。
それに対し大きさを指定して可愛らしい見た目になる様に改造を施した場合の映像では、柴犬の子供のような三十センチくらいの子狼が表示されていた。
「これで見た目はいいな。となると次は──スキル構成もいじれるみたいだな。
えーと今のまま孵化させた場合、持っているスキルはー」
強化改造をしなかった場合、生まれた時に覚えているスキルは、《かみつく Lv.1》《ひっかく Lv.1》《嗅覚 Lv.1》の三つだけ。
成長していく過程で覚えられると確定したスキルは、《疾走》《氷歩》《氷爪》《爪襲撃》《氷礫》となっていて、後は行動次第では別のスキルも……といった所だった。
「そこから改造強化するとどうなるの?」
「俺のステータス値の強さによって、強化率も変わって来るみたいだが、ぶっちゃけこの子の初期限界値まで最初からあげられるっぽいな。
それと覚えられる可能性のあるスキルからも、いくつか選べるみたいだ」
まずモニターに出された気力、魔力、筋力、耐久力、速力、魔法力、魔法抵抗力、魔法制御力の今の比率を現すレーダーチャートを出す。
現在は速力が一番高く、次点で筋力。一番低いのは魔法抵抗力で、次点で魔力だった。
そこから今できる範囲で強化させるために比率にプラスしていき、全てにおいて最初から高い値になれるように調整した。
「随分平均的にするんだね。特化型にすることもできるんだよね?」
「何かを削ればその分他を高くできるんだが、魔法も物理も行けるみたいだし、何でもできる子にしてみようかなと」
「器用貧乏にならなきゃいいけど」
「まあ、モフモフ要員だしな。ガチの戦闘に出すつもりはないから問題ないだろ」
「あー、それもそっか」
という事で、全てにおいて優秀で、尖ったステータスの無い万能型に強化。
そして次に、スキルを付与していく。
《かみつく Lv.1》《ひっかく Lv.1》《嗅覚 Lv.1》に、成長と共に覚えるはずの《疾走 Lv.1》《氷歩 Lv.1》《氷爪 Lv.1》《爪襲撃 Lv.1》《氷礫 Lv.1》を初期スキル付けていき、さらに適性のある《氷盾 Lv.1》《氷棘 Lv.1》《氷属耐性 Lv.1》《氷の息吹き》を与える。
まだ候補スキルはあったが、これ以上は素体となる魔物の才能の限界で、もう枠がなくなっていたのでそこで終える。
「そんで最後にギフトだな」
「ぎふと? 何が出来るの?」
「取得できるスキル枠以外に、親から子へ自分のスキルをコピーして覚えさせられるらしい。
でもまあ、これも魔物によって下位互換になったり、覚えられなかったり、容量不足だったりっていうのもあるから、何でもってのは無理だけどな」
そこで竜郎は自分の持っているスキル中でギフトできるスキルは何か調べて行くと、《魔力回復速度上昇》《集中》《堅牢体》《統率》となっていた。
素体の容量的にはこの中から一つが限界である。
思っていた以上に少なかったが、自分の持っているスキルが特殊な物ばかりなのでそれもしょうがないかと愛衣にどれが良さそうかと視線を向けた。
「うーん。魔法系のスキルが多いから、《魔力回復速度上昇》とかでいいんじゃないかな?」
「そうなると魔法に少し強化比率を寄らせた方がよくなりそうだな」
「そっか。それじゃあ《堅牢体》はどうかな。近接戦で攻撃を受けても頑丈な体で持ちこたえるって感じで」
「ふむふむ。他はまあなくてもいいかってレベルだし………………よし。《堅牢体》にしようか」
「うん」
そうして最終的に生まれた時から以下、13個もの初期スキルを持った万能型の子狼の魔物に強化改造した。
《かみつく Lv.1》《ひっかく Lv.1》《嗅覚 Lv.1》
《疾走 Lv.1》《氷歩 Lv.1》《氷爪 Lv.1》
《爪襲撃 Lv.1》《氷礫 Lv.1》《氷盾 Lv.1》
《氷棘 Lv.1》《氷属耐性 Lv.1》《氷の息吹き Lv.1》
《堅牢体 Lv.1》
「これで初期設定で出来るのは全部出来たな。それじゃあ、孵化させるぞ」
愛衣とアテナが頷くのを横目に見ながら、竜郎は《強化改造牧場》内の魔卵と魔力的な繋がりを造る。
あとはその繋がりを通して魔力を送って行けば孵化する──のだが、竜郎は少し好奇心が働いて、ここで魔力に竜力と神力を混ぜ込んでみることにした。
(ちっ。どっちも弾かれた。量が多かったのかな。ちょっとずつ減らしてみるか)
竜力と神力の量を減らしていき、魔力パスを通れるだけの少量の竜力と極微量の神力にすることで、無理やり押し通すことに成功した。
そして竜郎の魔力を受けていき、強化してさらに量が増えた器に満ちて行く。
やがて魔卵が光り輝く粒子となって子狼の形になっていき、光が収まると白金の毛並を持つ子狼が生まれた。
子狼の姿がモニターに映し出されると、竜郎の視線を感じたのかそちらに顔を向けてキャンキャン吠えて尻尾を振っていた。
「あれ? シミュレーションだと灰色っぽい毛並だったのに、やけにキラキラした毛並になってるね? なんでだろ?」
「………………とりあえず呼んでみるか」
「うん、モフモフちゃんカモン!」「ガウー」
竜郎は映像に映し出された子狼に何か違和感を感じたのだが、呼び出して直接見てみれば解るだろうと、子狼を牧場から目の前に召喚した。
「キャンキャン! キャンキャン!」
「「………………」」「──ガウ!?」
呼ばれたことがうれしかったのか、子狼は竜郎の周りを元気に吠えながら走り回り始めた。
「ねーたつろー。孵化させるときに何かしたでしょ」
「ふははっ。魔力以外に神力と竜力を入れちゃったぜ!」
「入れちゃったぜ! じゃないよ! 確かにかわいいけどこれじゃあ……」
そう言いながら愛衣が見つめる先には、プラチナの美しい毛並をした柴犬の幼少期に似た面影をもつ子供の狼がいた────ただし三メートルの大きさの。
「でかすぎるよっ! おうち入んないよ!」
「モフモフのしがいはあるぜ!」
「ありすぎだよ!」
「キャンキャン! キャンキャン!」
「ガーウ……」
二人が騒ぐ中でも元気にドスドス駆け回る巨大子狼に、アテナはやれやれと愛衣の胸の中でため息を吐いたのであった。




