第323話 骸骨お化け
同じ言葉をリピートしていた木魔物の元人間が突然「逃がさない」──と、確かにそう言ったのが竜郎と愛衣の耳に届いた。
他のメンバーも言葉は解し得ないが、言っている単語が変化したくらいは理解できた。
なので全員一斉に木魔物に目線を集中させると、突然巨大な──それだけで三メートルは有りそうな人間の骨の右手が何処からともなく現れ、一番近くにいた竜郎を握り潰そうとしてきた。
けれど月読が直ぐに竜障壁を張って弾き飛ばした。
「ありがとな、月読」
「別のも来るよ!」
「──月読!」
弾き飛ばされた手が勢いのままに後ろに飛んでいき、そのまま木魔物にぶつかりそうになる。
けれど今度は同じくらい巨大な左手が現れそれを掴むと、次に骨の巨大足が二本同時に現れ、両手両足の四本同時攻撃で月読の竜障壁をガンガンと叩いてくる。
その一本一本の力は相当なものだが、まだ月読の竜障壁だけで何とかなるレベルなので、地面を含めた六面に壁を張って貰い、全員が中央に集まり相談しようとした。
けれどその間にも今度は骨盤から背骨、肋骨、鎖骨まで繋がったボディが出現し、手足が本来あるべき位置に戻っていく。
「ここまで来ると、何が来るか解ったな」
「うん。理科室の骨格標本みたいだね」
理屈は不明だが、手足が繋がり首から頭のない24メートルはある巨大な骸骨が立ち上がる。
そして足元に最後のパーツがガチガチと歯を噛み鳴らしながら、目の入っていない仄暗い空洞から、確かに見られているような視線を感じた。
巨大な骸骨は、その頭蓋骨を手に取るとパズルを嵌め込むようにボディに連結させた。すると三十メートル近い巨大骸骨お化けが出来あがった。
「オオオオオオオオオオオオ────」
「俗に言うアンデッドって奴っすね。けっこー強そうっす」
「リア、アレのスキルは何ですの?」
「えっと──兄さん、障壁を増やしてください!」
「ん!? 解った──月読!」
リアが《万象解識眼》で相手のスキル構成を見てから動こうと思っていたのだが、巨大骸骨はどこからともなく骨でできた先端が丸い、これまた巨大な棍棒を手に持つと、ゴルフのスイングの様に振りかぶった。
そしてそれと同時に骨棍棒から黒い邪悪な気が噴出し、ものすごい勢いでフルスイング。
棍棒の先端の丸い部分が竜障壁にぶち当たった瞬間、あっさりと一枚目を打ち破る。
けれどリアの忠告通り月読は竜障壁を何層も重ね、さらにその合間合間には竜郎が土と闇魔法で造った低反発素材に似た質感の土壁を差し入れ威力を押し殺させる。
その甲斐あって、恐ろしい威力を内包した一撃を止めることに成功した。
だが再び同じ構えを取り始める。
「また来るか! カルディナは魔法の気配が有ったら直ぐにアンチ魔法の準備を。後は各自散開し、独自の判断で当たってくれ!」
竜郎は十二属性の魔力の籠った十二個の球体に精霊を降ろし、カルディナに付いていき、アンチ魔法を使う時にどの属性魔法にも対応できるように協力してくれとお願いする。
それから竜郎も精霊眼で魔法の兆候を見落とさない様に警戒しながら、月読を使って愛衣を連れて空へと離脱した。
他のメンバーも各自の判断で散開し、誰も何もなくなった場所をむなしく骨棍棒が通過していった。
その風圧だけで森の木が倒れていく様を目にしながら、竜郎は愛衣を抱えたまま頭蓋骨の真上まで飛んで行き、動きに注意しながら一瞬で近寄り《レベルイーター》の黒球を吹き付けた。
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レベル:74
スキル:《部分分割》《骨の軍勢》《骨王棍棒召喚》
《堅牢体 Lv.10》《骨王邪気 Lv.6》《骨吸収 Lv.3》
《怪力 Lv.5》《棒術 Lv.5》《邪崩打 Lv.10》
《聖力耐性 Lv.2》
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(何だコイツ!? 普通にレベル10ダンジョンの中層くらいにいてもおかしくないじゃないか。
元はどれだけ優秀なテイマーだったんだ!?)
『どーしたの?』
『いや、こいつの能力の高さに驚いただけだ』
『そんなに凄いんだ』
『ああ。だがこれはSPがかなり美味い。ダンジョン以来の大豊作だ』
『よっしゃー! 全部吸い取っちゃえー!』
『おう。今やってるぜ!』
そんな風に竜郎と愛衣が過ごしている中、他のメンバーたちも各々奮闘していた。
まず竜郎達が上に上昇した時、巨大骸骨はスキル《骨の軍勢》を行使して、自分の頭蓋骨以外の体からボロボロ垢が落ちるかの如く、一メートル半ほどの骸骨が何十体何百体と零れ落ちてきた。
そしてそれはあっという間に軍勢と化して、巨大骸骨の足回りに何処から持ってきたのか、骨の剣と盾を持って整列し始めた。
巨大骸骨が足を踏み出せば潰されそうな位置にいるにもかかわらず、統率した軍隊の様な動きで足の踏み場を開けるので、問題ないようである。
そんな蟻のように群がるアンデッドモンスターを前に、ジャンヌは竜聖剣を振り回し突撃して行った。
「ヒヒーーン」
「ォ────」
アンデッドモンスターに対する効果は抜群で、ジャンヌの手に持つ巨大な竜聖剣が触れる前に光輝に触れただけで埃の様に崩れ去り灰になっていく。
そのまま軍勢を蹴散らして親玉の方まで駆け寄っていくと、竜聖剣を人で言う太もも辺りに位置する骨に突き刺した。
「オオオオオオオオ────!」
こちらは流石に親玉と言うべきか、突き刺さり貫通はしたのだが、それ以上動かす事は出来ずに固定され、今もなお継続的に生み出されている骸骨たちの様に消え去る事は無かった。
それどころか逆に両手に持った怪しい邪気の籠る杖を振り上げ、ジャンヌの脳天をかち割ろうと振り下ろしてきた。
聖竜に属するジャンヌは邪気への攻撃能力は高いが、攻撃されるのは弱い。
それらの相性も合わさって、流石に直撃は不味いと踏んだジャンヌは《分霊:巨腕震撃》を生み出し、その手に《アイテムボックス》から出した巨大ハルバートを持たせ、波動の力を最大まで発揮しながら振り下ろされた棍棒の先端に打ち上げた。
ガーーーーーーーン!!! と壮大な音を立てながら棍棒と《分霊:巨腕震撃》の持つハルバートが激突し、お互いに弾きあった。
大質量の棍棒を振り下ろすと言う行為に、《怪力 Lv.5》《棒術 Lv.5》《邪崩打 Lv.10》が乗った最高峰の一撃と、《分霊:巨腕震撃》による《斧術 Lv.10》を使った振り上げ──と、ジャンヌの方が状況的に不利なのにもかかわらず堂々の相打ちに収めた。
それどころか打ち付けあった棍棒には波動の力による衝撃で罅が入り込み、もう一度やれば確実に破壊できるところまで押しているのだから、実質今のはジャンヌに軍配が上がるだろう。
けれど巨大骸骨は罅の入った棍棒を手から吸収していき、それが見る見る内に短くなっていく。
そして完全に吸収し終わればジャンヌが竜聖剣であけた右太ももの穴を修復し、また新しい棍棒を二つ召還して片手ずつ手に持ち、その両方を振り下ろしてきた。
「わたくしの事も忘れないで欲しいですの!」
「あたしもっすよ!」
二本同時に降りてくる邪気纏う棍棒は、ジャンヌの邪魔をしない様に様子をうかがっていた奈々とアテナが対処を始めた。
奈々は気獣技で狼の足を両足に纏わせると、呪魔法で自身の筋力を最大限強化してから左足で地面を蹴り飛ばし、右足で飛び蹴りを巨大骸骨の右手首に当てた。
すると表面に罅が入っただけで折れはしなかったが、それでも棍棒を下ろす先がジャンヌから大分横へと逸れた。
そしてアテナも奈々とほぼ同時のタイミングで、《分霊:鏡磁模写》を五枚使った磁力の反発力も足したジャンプであっという間に左手首の辺りまで飛び上がる。
竜装の右腕を土属性に切り替えて、竜力の煙を圧縮してから風属性に切り替えると、突風に押される様にアテナの右拳が巨大骸骨の左手首を殴って進路を曲げた。
「むちゃくちゃ堅いっすね~」
「でも本気でやれば、壊せない事も無さそうですの」
それなりに高いレベルに元から高い耐久力。そこへスキルの恩恵──《堅牢体》でさらに固く、《骨王邪気》で全体のステータスアップをしているので、その体は異常なまでの硬度を宿していた。
けれど今は竜郎が《レベルイーター》を使い終わるまで壊さない様にセーブしているので、もっと本気でやればやってやれない事は無いと奈々とアテナは判断した。
その間にカルディナは巨大骸骨のあちこちに真・竜力刃と魔弾の混交弾を、各所に何発も打ち込みながら傷を負わせていき、警戒を怠ることなく破壊の準備に勤しんでいた。
リアは巨大骸骨の周りにいるチビ骸骨──と言っても小柄な女性ほどの大きさはあるのだが、それらが結界の外へ向かわない様に、一人で壁を造り上げ数を減らし防衛線を張っていた。
そんな皆の足止めのお蔭で、竜郎は無事全てのスキルレベルを吸収し終えた。
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レベル:74
スキル:《部分分割》《骨の軍勢》《骨王棍棒召喚》
《堅牢体 Lv.0》《骨王邪気 Lv.0》《骨吸収 Lv.0》
《怪力 Lv.0》《棒術 Lv.0》《邪崩打 Lv.0》
《聖力耐性 Lv.0》
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(トータルSP(170)……これで!)
竜郎は湧き上がる嬉しさを抑えながら、全員にレベルイーターを使い終わった事を大声で伝えた。
「こっちは終わった! 後はこいつを破壊するぞ!!」
「あいよーっと!」
まず愛衣が竜郎の腕からぴょんと飛び出すと、拳に纏った白黒入り混じった竜纏の拳を首の骨に向かって思い切り殴りつけた。
スキルを失い当初よりだいぶ耐久力が下がったとはいえ、それでも硬いはずの骨は、それだけであっさりと消し飛んで頭蓋骨が落ちて行く。
「ピュィーー!」
カルディナはあちこちにチマチマと撃ち込んで罅割れを起こさせていた個所に、秒間数発の勢いで全力の真・竜翼刃魔弾を放っていく。
すると脆くなっていたせいで、全長からしたら小さな穴に過ぎない傷から他の小さな傷へと伝播して、その重い自重も相まって腕以外の肩から肋骨、背骨が一遍に崩壊していく。
「全力で行くですの!」「やるっすよ~~!!」
腕だけでも動くことのできる巨大骸骨の手は、体から切り離されても往生際悪く近くにいた奈々とアテナを右と左のそれぞれの腕で握り潰そうと迫って来る。
けれど奈々は一旦《竜飛翔》で飛び上がって躱しながら高い場所まで昇ると、少しずつチューンアップしているカエル君杖を取り出し、氷魔法を顕現する。
それは巨大骸骨の腕にも負けない程大きく、奈々の竜力をふんだんに使って造り上げられたダイヤモンドよりも硬い氷の塊。
それを気獣技纏った両足と、カエル君杖の先端についている巨大化させたカエル君を操作したカエル張り手で、同時に下にいる巨大骸骨の巨大右腕に向けて打ち下ろした。
大質量にして超硬質の氷の塊が、とんでもない勢いで骸骨右腕に激突し、そのまま粉々に破壊しながら地面に押し潰した。
アテナは今の全力では愛用の鎌が壊れかねないのでそちらは諦め、ならばと竜装を操作して左右の腕部分の形状を巨大鎌へと変形させる。
それに試しに気獣技をかぶせてみれば、意外にすんなりと紅の鰐の歯がその鎌二本に追加されていた。
これならいけると、そこへさらに《燦然輝雷》で強化した黄金の雷魔法を全力で纏わせて、迫りくる手の平にハサミで切る様に横向きで交差させながら薙ぎ払った。
すると豆腐でも切り裂いたかのように、横向きに巨大な左腕骨が分割されていき、そこからさらに踊るように両手の鎌を振るって細切れにしていけば、あっという間に小さな破片と化して動かなくなった。
「ヒヒーーン!」
上半身が崩れ去っていく中、下半身の前にいたジャンヌは、左足には巨大ハルバートを持たせた《分霊:巨腕震撃》で、右足には自分自身で攻撃をすることにした。
まず《分霊:巨腕震撃》は波動の力を存分に使いながら、両手持ちで木こりの様に横薙ぎに斧刃を当てて短くカッティングしていく。
ジャンヌ自身は樹魔法で植物を体に纏わせ筋力をさらに強化させると、両手に巨大鉈をもって、そこへ竜聖剣を纏わせると、こちらも同じように聖なる竜の力を宿した鉈を振り回し、右足を容易く切り捨てて短くしていく。
そうしてほぼ同時に足は骨盤と共に繋がった、関節部分だけになって動かなくなる。
そこで止めだとばかりに、《分霊:巨腕震撃》と自身の手の四本でハルバートを持ち、骨盤めがけて波動の籠った斧刃を叩き落とした。
残った骨盤は割れるどころかバラバラになって散って行った。
「それじゃあ、雑魚の皆さんももう増えないみたいですし、一気に行きますね」
リアは体が全て壊され、雑魚の援軍が追加されなくなる時を待ちながら、既にあちこちに鍛冶炎材を散布し終えて準備は万端。
親玉が頭だけになっても、配下の骸骨たちは元気に活動している。けれど数はいても所詮は雑魚。
リアは虎型の機体の前足二本の肉球部分を、鍛冶術を使って赤褐色にすると、それで地面にペタペタとスタンプを押すように触れて行く。
すると骸骨たちが特に密集している辺りを中心に、円錐形に地形が窪んでいく。
傾斜は五十度ほどで、突然変わった地形に対応できずに円錐中央部に転がり落ちて行く。
そして一瞬で大量の骸骨たちを一か所に集め終ると、そこへ機体の口から火炎放射と、背中から出た砲身から手榴弾を射出していき、爆発と炎に包まれる。
巨大骸骨の方ならこれ位は耐えられただろうが、ただの骸骨たちでは抗う事も出来ず、粉々になって焼かれ壊れていった。
「後は残り物の処理ですね」
地形変動から免れた少数の骸骨たちに虎型機体で突撃して行き、残った全ても破壊しつくしていった。
「後は頭だけだな。レベルは残したし、止めは天照と月読だけでやってくれ。
きっとレベルも上がるだろう」
未だ空にいる竜郎がそう言うと、杖とコートに付いている二つのコアが点滅し、天照と月読だけで一つの魔法を組み上げて行く。
その空白の時間で頭蓋骨だけがモソモソ動こうとするが、周りには姉たちがいて魔法で固定してくれた。
それに感謝をしながら天照は風魔法を、月読は氷魔法を混ぜ込んでいくと、十字に斧を重ねたような巨大な氷の刃を造り上げると、圧縮した風魔法で弾き飛ばし、勢いよく落としていく。
そしてカルディナ達の様々な魔法によって動くことの出来なくなった巨大頭蓋骨の脳天に直撃し、綺麗に四分割して完全に巨大骸骨全てを倒し終えたのであった。
《《『レベル:6』になりました。》》




