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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第322話 木の魔物

 不穏な動きをする木の魔物を察知し、その動きを全員が見えるようにジャンヌに一つ、竜郎達に二つ、カルディナの《分霊:遠映近斬》で生中継する。

 そうして観ていると狼魔物達は、イモムーを生かしたまま咥えた個体だけ森林を駆け抜け来た道を戻り始めた。それ以外の魔物はイモムーの捜索を続けたままで。


 イモムーを咥えた個体は予想通り木魔物の前にまでやってきた。すると狼は咥えたそれを木魔物に向かってほうった。

 宙を舞いながら木魔物にそれがぶつかりそうになった時、今まで一切動かなかったソイツの枝が動き、巻き付くようにイモムーを捕えた。

 木魔物の枝がゆっくりとイモムーを締め付けていく。



「えっ。せっかく持ってきたイモムー殺しちゃうの?」

「……いや、殺すつもりはないみたいだぞ」



 死ぬ直前で締め付けていた枝が離れて地面に落ち、ビクビク痙攣しているイモムーであったが、それでも生きてはいた。

 けれど次の瞬間、そのイモムーが闇に溶けるようにして消え去った。



「何をしているのか詳しい事は解りませんが、恐らく今みたいに消し去るには、自分で直接弱らせる必要があるのでしょうね」

「──二体目が来ましたの」

「………………こっちも同じように締め付けているって事は、リアっちの考えが正しいっぽいっすね」



 二体目、三体目と次々イモムーを狼に集めさせては枝を伸ばして弱らせ消し去る。

 そんな行動を繰り返し、四体目の個体を回収したところで、狼達は捜索を止めて全て戻り始めた。

 そして樹魔物目の前までやってくると、狼たちは全て消え去った。



「後はシュベ公が出てきたら完全に確定だな」

「ってゆーか、もう確定じゃないの? 他に同じような事をしてる奴もいないんでしょ?」

「ああ、いない。けれどシュベ公を生み出す瞬間。または出現させる瞬間、別のどこかから干渉が無いとも言い切れない。

 だから確実にシュベ公を出すまでは観察を続けるつもりだ」

「万が一にでも二度手間になるのは面倒ですしね」

「それもそっか」



 愛衣も納得した様なので、今度は残ったイモムーとくだんの木魔物を重点的に探査と観察を続けることになった。


 時は過ぎていき、それから八時間程が経ち、完全に朝日が昇り始めてきたのだが、それでも木魔物は何をするでもなくジッと樹木に成りすましていた。

 リアは途中でウツラウツラと睡魔に襲われていたので、途中で眠るように言ったので一人寝息を立てていた。

 竜郎と愛衣はエンデニエンテのお蔭で眠気もなく、飽きはするが観察をしていると、ようやくその時がやってきた。



「──きたっ」「あっ」



 カルディナの《分霊:遠映近斬》に、木魔物の周囲にシュベルグファンガスが四体出現する様が克明に映し出されていた。



「他に怪しい反応は無いか?」

「ピュイッ」



無いと断言する様に頷くカルディナ。その間にもシュベルグファンガスは四体共にバラバラの場所へと飛び立とうとし始めた。



「出るぞ! 奈々はリアを起こしてジャンヌと一緒に後から来てくれ!」

「おとーさまは?」

「他のメンバーと一緒に、シュベ公を先に討伐しておく。

 今なら一塊だから、いっぺんに片が付くからな」



 そう言って竜郎は膝の上に座っていた愛衣を抱えて立ち上がると、竜力の膜を張る腕輪を起動し黒菌対策をしっかりとし、愛衣や他のメンバー達もやっているのを確認した後、開きっぱなしになっていた扉から飛び降り結界を抜けて森の中へ侵入。


 カルディナとアテナも後に続いて来るなかで、竜郎は月読の翼を広げて空高く浮上してきたシュベルグファンガス四体に天照を構えて湾曲するレーザーを射出。

 それによって三体いっぺんに仕留めることに成功するが、残り一体は位置取りが悪く躱されてしまった。

 しかし後から来たカルディナが竜郎達の後ろから、《自動追尾》を行使した竜翼刃魔弾を撃ち込んだ。

 それは三体仲間がやられて警戒心をあらわに動き回り、こちらを探し始めたシュベルグファンガスを追いかけていく。

 当たる一秒前には向こうも気が付くものの、追尾されて避けきれずに体に穴を穿たれ事切れ地上へと落下していった。



「これで今日生み出した分のシュベ公はいなくなったな」

「でも、あの木魔物に反応は無いね」

「ああ……。一体何がしたいんだ、アイツは」

「遅れましたっ」



 空中で浮いたまま木魔物の動向を見守っていると、麒麟型の機体に乗って《空歩》モドキでジャンヌ、奈々、アテナと共にリアが追いついてきた。



「いや、大丈夫だ。それより全員集まった所で、奴が何なのか確認しに行こう」

「ですね。私も興味ありますし」



 全員が合流し、何が起こっても対処できるように万全の心構えで木魔物の三百メートルほど手前に降り立って、ぞろぞろと並んで静かに歩み寄っていった。

 だが二百メートル圏内に入り込んだところで、今まで本物の木の様に何もしなかった存在が行動を起こしてきた。



「俺達が近づいて来るのが解った様だな。流石に黙っていられなくなったか」

「だね。でもあれくらいなら大丈夫かな。数は多いけど、目立って強そうなのもいないし」

「蹴散らしてやるっす」



 木魔物は狼魔物を出現させた時と同様に、自身の周囲から百近い魔物の軍勢を放ってきた。

 その魔物達は同種もそれなりにいるのだが、獣型、鳥型、昆虫型、植物型、人型と多種多様。だというのに他種族同士で争うことなく、その全てが真っすぐ竜郎達に視線が向いている。



「あれだけいると、中には珍しい魔物もいそうですね」

「──なに? いっぺんに焼き尽くそうかとも思ったが、素材回収のために最小限のダメージで済ませるか」

「おとーさまが全部やられるんですの?」

「まあ中途半端に残すのも面倒だし、魔法で片づけるよ。けどカルディナはちょっと手伝ってくれ」

「ピュイ!」



 カルディナが元気に返事をしてくるのに微笑みながら、竜郎は天照を構えて自分達の立っている場所だけを土魔法で地面を底上げして五メートルほどの高台に変形させる。

 次に魔力頭脳のコアの周りについていた傘骨がガシャンと音を立てて外れていく。

 外れた傘骨八本は天照の《竜念動》で自動的に動き始め、竜郎の杖の先に輪形に整列して静止した。

 そして光と火による混合魔法を杖先と傘骨の計九本の先端に収束していくと、それを九方向の魔物が密集する斜め下に向かって打ち込むようにイメージする。

 すると杖や鉤爪の先から丸い赤光の球体が出来あがった。

 それでどうするのだろうかと他のメンバーたちが見守っている中、竜郎は必要な情報を集めるためにカルディナに手伝って貰う。



「探査魔法で、全魔物の形と位置情報を俺に渡してくれ」

「ピイィー」



 カルディナが探査して細かく百体近い魔物の正確な形、移動し続ける位置情報をリアルタイムで調べ上げていき、それを竜郎が同期して受け取りながら天照に丸投げしていく。

 そんな事をしている間にも、魔物の軍勢が衝突するまで後数秒という所まで迫ってきている。

 けれど竜郎は慌てることなく、天照が自身のコアを使って魔法を最適化してくれるのを待っていると、時間にして二秒ほどで完成させた旨を伝えてきた。



「発射!」



 竜郎の掛け声一つで魔法が発動し、九つの球体一つ一つが分化して細いレーザーとなって何本も射出していき、その全てが累計九十八体の走る魔物の眉間を的確に打ち抜いた。

 ドザアアアッ──と一瞬にして最小の傷で殺された魔物達は一斉に倒れこみ、それ以降ほとんどの魔物が立ち上がる事が無かった。



「植物型が四体に虫型が一体残ったか」

「それじゃあ、追加を出される前にやっつけとくね」

「ああ。頼む」



 竜郎が地形を元に戻しながら答えると、愛衣は地面が低くなる中、青い気力の弓矢を何本も飛ばして残りも片づけてしまった。



「それじゃあ、本丸の方に行くですの」



 大量の魔物を《無限アイテムフィールド》に収納しながら、この魔物達の主である木魔物の前にまで走っていく。

 そして互いの距離十メートルといった所で止まって観察するが、今のところ動く気配がない。



「あれが何なのか解るか? ただの魔物……って事でいいのか?」



 魔物を何体も呼び出し使役し、あまつさえイモムーを急成長させることもできる謎の魔物。

 今まで見てきた中でも明らかに異質な木の魔物に、竜郎はどう対処するのが正解なのかとリアに問いかける。

 リアが機体のモニターを観察しながら、そこに映る魔物に《万象解識眼》で解析し始めると、途中からそうではないかと思っていた通りの結果に表情を暗くした。



「………………いいえ。ただの魔物ではありませんね」

「てゆーと、特別な魔物って事?」

「特別と言うかですね。端的に言ってしまえば、アレは元人間の魔物です」

「──な!?」「──え!?」「ピュィ!?」「ヒヒン!?」「人間ですの!?」「マジっすか!?」



 それぞれの反応を見せる中、リアは説明していく。



「まず初めに、黒菌には魔物になろうとする性質があると言いましたよね?」

「ええ、覚えていますの。それで人間に付けば魔物に成ろうとしても成れなくて、死んでしまうという話でしたの」

「ええ。けれど逆にこれは魔物なら既に魔物なので、そこまで影響を受けることはありません。なので本来、魔物以外に付着してしまうと、かなり危険な代物──という事になっている……のですが、一つ例外があるようです」

「その例外がアイツって事っすね?」

「その通りです。兄さん達もこの世界について、それなりに知識がついてきたとは思いますが、こちらの人間の定義はご存知ですよね?」

「ああ。システムがインストールされているか……──って、まさか」

「んん? 何かおかしい?」



 竜郎はリアが言いたい事が何となくわかり木魔物に目線を向ける中、愛衣は疑問符を浮かべて首を傾げていた。



「つまりあれは、魔物という性質は持っていたが、システムをインストールされた人間だった……ってことでいいのか?」

「ええっ? 魔物なのにシステムをインストールされてるなんて、ありえる事なの!?」

「有りえますよ。流石に見た目がかけ離れているので、人型の人間の多くいる国にはほとんどいません。間違えて魔物と思って攻撃されてしまう事もありますので。

 ですがこの大陸の向こう側にある大陸には、そういった方々が多く暮らす国もちゃんと存在しているのです。

 そしてこの方は何故ここにいたのかは知りませんが、この森の中で黒菌に感染し、魔物の体を持っているお蔭で拒否反応を起こす事はなく受け入れられたようですが、人間の部分──つまり思考能力が著しく低下してしまったようです。

 魔物に成ろうという性質が、より魔物らしい形に変異させた結果でしょうね」



 想像もしていなかった事実に、竜郎達は呆然と木の魔物を見つめた。すると──。



「×○××× ○○×××× ○○×○○×○×」

「わわっ、なんか喋ったよ!」

「言葉を話せるのですか!?」

「×○××× このもりから いますぐたちされ」



 知らない言葉を耳が捕えるも、四単語以上聞き取った事により、竜郎と愛衣だけは《全言語理解》が発動し、何を言っているのか聞きとれ話す事が出来るようになった。

 話が出来るのなら会話で穏便に済ませられるかもしれないと、すかさず竜郎は問いかけを向けた。



「立ち去れとはどういう事だ。俺達は冒険者ギルドから依頼を受けてきている!

 話が出来るのなら──」

「おまえたち このもりから いますぐたちされ」

「ちょっと! 言いたいことは解ったから、こっちの話も聞いてよ!」

「おまえたち このもりから いますぐたちされ

 おまえたち このもりから いますぐたちされ

 おまえたち このもりから いますぐたちされ

 おまえたち このもりから いますぐたちされ

 おまえたち このもりから いますぐたちされ」

「ダメだ……会話にならない」



 向こうの話している言語で竜郎と愛衣が話しかけているにも関わらず、相手は同じ言葉を繰り返すばかりでまるで通じなかった。



「やはり会話が出来ない程に侵されているようです。なので、話し合いでどうにかするのは無理かと……」



 《万象解識眼》で観た限りでは、既に対話が出来ない程に魔物化してしまっていたのに言葉を話した。

 なので会話を理解できるのか──と思ったのだが、やはり微かに残った人間の残滓が出てきているだけで、自分が今何を言っているのかすら理解しているか怪しかった。



「どうするべきだと思う?」

「一度根付いた黒菌は、もう離れることは有りません。やるのなら細胞ごと破壊するしか対処法が無いので、全身に行き渡った状態のこの方は、もう魔物として生きていくしかないでしょう。

 ですので……冒険者ギルドに報告して……その…………処分、して貰うのがいいのかもしれません」



 やはり自分たちでやるのはリアも抵抗があったようで、あえて遠回りな選択肢を提示して来た。

 竜郎とて魔物とはいえ元は話す事も出来たであろう存在を、軽軽な気持ちで殺す事には抵抗があった。

 なのでその提案に乗ることにし、壊れたレコードの様に同じことを呟き、もう出せる魔物がいないのか、動く様子のない木魔物の事を知らせに立ち去ろうとした──その時、魔物が不意に別の言葉を発した。



「おまえたち この──こののの──み──おま──がさ──がががにがににに──……………………にがさささなああああいいいいいいいいい!!」



 と。

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