第321話 増えた謎
何かの役に立つかもしれないと十二体分の死体を回収し終わると、竜郎達は直ぐに撤収作業に入った。
「もういないよな?」
「ピィー」
カルディナに隠れ潜んでいる個体がいないかどうかもう一度チェックしてもらい、問題が無いようなので今日の作業は終わりだと入ってきた方角へと進路を切った。
「大分早く終わっちゃったけど、今日はこれで帰って一休みして、それから明日改めて発生源を見に行くんだよね?」
「ああ、そのつもりだ。後は念のため帰ってからと、明日の朝に体に異常がないかチェックしておこう。
リアの造ってくれたこれのおかげで問題ないとは思うが」
そう言いながら、今もなお自動的に竜力を吸って膜を張ってくれる腕輪が嵌る腕を掲げた。
「それでも入念に調べておいた方が安心ですし、何らかの異常がないか調べておいた方がいいでしょう」
「そうですの」
そんな事を話しながら結界の張られている所まで戻っていくと、まだ夕方前だと言うのに帰ってきた竜郎達に慌てた様子で、ここの管理責任者でもあるギルド職員の女性が話しかけてきた。
「どうされましたっ? 中で何か問題がっ?」
「……え? 事前に解っていたこと以外、問題は特になかったですけど」
「えーと? では今日のシュベルグファンガス討伐は諦められたので?」
「諦める? いえ、思ったよりも強くなかったので、もう終わってしまっただけです。
死骸も回収してあるので見てみますか? 一度何かに定着した黒菌は伝染らないんですよね?」
「はい。それでは……できれば」
減る物でもないので結界から出ると竜郎は、皆から送られた頭やらなんやら、バラバラになった死骸を十二体分並べていった。
紛れもないシュベルグファンガスの無残な死骸たちに、ようやく本当に駆逐してきたのだとギルド職員たちも理解し、その場が騒然となった。
「まだ数時間も経っていないのに……よくぞここまで」
「ええ。実際もう少し時間がかかる予定だったんですけどね。最初の三体を倒している時に、律儀に仲間を呼んでくれまして。
おかげで森を歩き回らなくて済んで、大幅な時短になりました」
「十二体いっぺんに戦ったのですか……?」
「いえ、一人一から三体ずつ相手にしただけなので、十二体いっぺんにと言うわけでもないですよ」
竜郎は広げた死体を収納し直すと、未だにポカンとしている人たちに別れの挨拶をしてから去って行った。
そんな後ろ姿を眺めつつ、一番新人の職員が口を開いた。
「シュベルグファンガスという魔物は、実は弱かったんですかね?」
「そんなわけないでしょっ。空をどんな昆虫型よりも高速で飛翔し、気が付いた時には爪で引き裂かれ、毒針を打ち込まれる凶悪な魔物なのよ?
複数人で当たっても長い尻尾の先の槍で、縦横無尽に掻き回してくる。
なまじ速さについていけても、あの硬い甲殻を破る一撃を当てなければ効果は無い。
そんな魔物を、あなたは倒せるの?」
「でも硬いと言ってもバラバラでしたよね?」
「だからおかしいって言っているのよ!」
今一納得いかない顔をしている新人に、ギルド職員の女性はため息を吐いた。
最初に見たシュベルグファンガスが、無残な死骸と装備品に傷どころか汚れ一つない討伐者たち。
確かにこれでは自分の言葉に説得力はない。だから見かけても手を出さないよう釘を刺すだけにとどめ、ギルド職員の女性はそれ以上の説明を諦めたのだった。
そんな一幕があった事など知る由もない竜郎達は、さっさとマイホームを置いていた場所に舞い戻ると、付近にいた魔物を遠距離射撃で潰して風魔法で掃除すると、家を置いて身体チェックしていく。
そこで問題は見られなかったので、その日は自由時間として各々の時間を過ごしながら次の日を迎え、朝のチェックも問題なかった。
なのでシュベルグファンガスを討伐し終わり、すっきりとした森を横切って、後は発生源を調べに行くだけ──のはずだった。
けれどバンラモンテの風山に向かうまでの間で、魔物との交戦が少なく最短距離で行ける道のりを調べようと、バンラロフテ森林全体に探査魔法をかけた事で異常が発覚した。
「ええっ、イモムーパパが復活してるの!?」
「ああ……。数は四体と昨日の三分の一になっているが、間違いなくシュベ公だ」
「ピィュー」
カルディナの《分霊:遠映近斬》に映し出された映像でも、しっかりとその姿を確認できた。
「もしかして昨日リアが言ってたテイマーが、実はこの森で生きているとかはありませんの?」
「人間の反応は無かったはずだ。それに今もないよな?」
「ピィー」
カルディナはうんうんと頷いて、肯定の意を示す。
「取りあえず森を見に行ってみませんか? 直接観れば、また何か解るかもしれません」
「そうっす。とりあえず行ってみるっす」
「だな。よし、とりあえず近場に一体いる。そちらへ向かおう」
そうしてコソコソと歩きながら森を行き、件のシュベルグファンガスのいる場所までやってきた。
「やはり、テイムされた誰かの魔物ですね」
「予想通りと言えばそうだけど、そうなるとどうやって? って事になるよね」
「結界付近にはギルドやら国やらの人たちが見張っているだろうし、こっそりと忍び込んだり、魔物を忍び込ませたりって言うのは難しいはずだからな」
さらに言うのなら、今張られている結界に何かが触れれば解る様になっている。
そして解魔法で周囲を常に探査もしている。そんな中で五メートルもの巨体を見逃すはずもないのだ。
「ってことは最初からずっと中にいた。って思いたい所っすけど、そんな反応も無いんすよね?」
「もう訳が解らないですの。何かそういうスキルを持った魔物でもいるんじゃないですの?」
「……何にしても、私たちが帰ってから再びここに来るまでの間に何かが起こったのは確かです。
ですので今いるシュベルグファンガスをもう一度全滅させてみて、森の外から監視してみるのはどうでしょうか?」
「同じ状況を作ってみて、同じことが起きるかどうか実験してみるという事か。
そして何かが起こるなら、必ず何らかのアクションが起きるはず……。
現状を理解するためにも、一度やってみた方がいいな」
「うーん。一日無駄にすることになっちゃうけど、このままじゃ気持ち悪いし、イモムーパパもどのみち全部狩っとかなきゃいけないんだから、それがいいかもね」
他のメンバーにも異論はなく、竜郎達はもう一度シュベルグファンガスの討伐に乗り出しのだった。
そうしてシュベルグファンガスを討伐していった時、数以外の違いを発見する事が出来た。
--------------------------------
レベル:4
スキル:《急速成長》《ひっかく Lv.1》《毒針 Lv.1》
《高速飛翔 Lv.1》
--------------------------------
「やっぱりこいつもか」
まず一つ目の違いとして、昨日と同じように一体を捕捉したとき、痛めつけて他の個体を呼んでもらおうとした。
しかし一体目の個体も二体目の個体も、昨日の最初の三体と同じくけたたましく鳴き叫びはしたのだが、他の三体がそれを聞きつけてやってくる事は無かった。
なので一体一体倒しに森中を移動することになってしまった。
そして二つ目。こちらは単純明快。今日いた四体全てがレベル3~6の範囲内で、スキルも少なければ、スキルレベルも酷いありさまと、非常に弱体化していた──というもの。
「まるで今日、生まれたばかりと言った感じですね」
「だな。一晩で無理やり用意したって感じだ。なら、この森内のイモムーの数を減らしてみるか」
「全部じゃなくて減らすだけなの?」
「全部やったら何も行動を起こさなくなるかもしれませんし、数を減らせば何らかの行動を見つけやすいから、ですよね?」
「ああ。その通りだ。だから数を減らして、広く浅くイモムーがいる状況を作り出してみよう」
という事で竜郎は早速行動に乗り出していく。
まず最後の一体からも微量のSPを頂き、始末して死骸を回収。
そして月読の翼を広げて愛衣はお姫様抱っこ、カルディナは自前の翼で空へと上がっていき、天照は《竜念動》を自分本体の杖に使って浮かび上がらせると後に続いた。
結界の境界ギリギリまで上がった所で、竜郎は愛衣を片手で抱えて右手を下に向けると、そこへ天照がスッと入り込んできたのでそれを握りこむ。
「カルディナ。この森内の全イモムーの探査を頼む」
「ピュイィー」
カルディナが莫大な竜力も駆使して探査魔法を瞬時に広範囲へと広げていく、そして余すことなく全イモムーの所在を突き止めていく。
その結果をカルディナの探査魔法に同期しながら把握していき、天照に伝えながら魔法のイメージを送っていく。
すると天照の先端から赤い光球が生み出され、一メートルほどの大きさまで風船のように膨らんでいく。
膨らみが止むと、やがてそれはクルクルと高速回転し始めたかと思えば、遠心力で千切れ飛ぶようにレーザーが流星の如く森全体に降り注いだ。
そしてそれが止んだ頃には、空から降ってきたレーザーに的確に撃ち抜かれ、死体すら残さずに森にいたイモムーの約95パーセントが消え去った。
「よし。後は一度引き返して、今回の話をギルドの人にも話して情報収集しよう」
「うん」「ピュー」
竜郎達は再び顔なじみのギルド職員のいる方角へと取って返した。
いつも話す女性職員の人に、シュベルグファンガスが復活していた事などを伝えると、流石に驚きが隠せない様子だった。
「それで結界内に、昨日僕らが出て戻ってくるまでの間に、誰か──または何かが入り込んだと言う情報はありませんか?」
「……ない──はずです。少なくとも、そう言ったことがあれば、こちらで解る様になっていますので」
「ですか。だとすると……──」
結局目ぼしい情報も得られなかったので、今から中を監視する事と、何かあったら結界内に突入する旨を伝えて、そこから離れた。
少し結界から離れた人気のない場所でジャンヌに《真体化》してもらうと、空駕籠を背負って貰い全員が乗り込んでから上空へ。
そしてそのまま森の中心地、結界の上で止まって貰うと、竜郎はフロントの部屋の外へと出られる扉を開けて、解魔法の魔力をより森の方へ出し易くした状態で椅子に座り込んだ。
「それじゃあ、これからは持久戦だ。愛衣はとりあえずくっ付いていてくれ。んで以て探査をかけっぱなしにする」
「くっ付くのは得意だから任せて!」
一晩中魔法を使っていたとしてもバテる事は無いだろうが、竜郎は愛衣に股の間に座って貰い、ぎゅっと背中から抱きしめた。
これは常に万全の状態で臨むためにも必要な事であり、決していちゃつきたいわけではないのだよ。という謎のいいわけをする竜郎であったが、誰も聞いてはいなかった。
「それじゃあ、やるか。カルディナ、ジャンヌ。疲れたら魔力を渡すから、直ぐに言ってくれよ」
「ピュユィー」「ヒヒーン」
カルディナには探査を手伝って貰い、ジャンヌにはこれより空の上で停止し続けて貰う事になるので、念のため無理はしない様に言っておく。
そして竜郎は空駕籠の天板で座っているカルディナと共に、結界の外から森の中を監視し始めたのだった。
何事も起きる気配もなく時間は経過していき、竜郎は自分の膝の上に座る愛衣と語らいながらも、イモムーの状態を濃く、森全体の動きを薄く捕らえ監視を続けていた。
時間は既に夜の25時を過ぎ、一日26時間のこの世界の暦がまた新しく切り替わりそうになっている。
もしかして今日は何も起こらないのだろうかと竜郎と愛衣が話し合い、ずっと同じ所に停泊し、フロントガラスから見える飽きた景色を眺めていると、不意にイモムーではなく森の中に動きがあった。
「──カルディナ!」
「わわっ」「ピィー!」
突然声を上げた竜郎に驚く愛衣の頭を優しく撫でながら、カルディナの《分霊:遠映近斬》で奇妙な動きを見せている場所を映し出してもらい、そこへ食い入るように視線を向けた。
するとそこには捕捉はしていたが、大勢いるうちの一匹だと思っていた木の魔物の周囲に、一メートル程の体長の狼の様な魔物が突如現れ始めグルリと囲っていた。
そして合計三十匹ほどの狼が木魔物の周囲に出現し終わると、一つの意志を持って森の中へと散っていく。
「今の狼みたいなのは、この木の魔物が呼び出したのか?」
「何にもない所から湧いて出てきたように見えたけど、地面の中に潜っていたとかじゃないよね?」
「いいや。地中の中も軽く調べていたが、そんな気配はなかった。
まるで無から有を生み出すみたいに狼が現れたんだ」
「ってことは、この木の魔物がイモムーパパの元凶って事かな」
「かもしれない。しかしだとすると、あの狼たちに何をさせて────そう言う事か」
「どうゆーことだ?」
竜郎はカルディナと共に狼たちの行方を調べていると、それぞれが何かを探すような動きを見せていた。
そしてお目当てのモノを見つけると、木魔物の方へとそれを持って走っていく。
「狼の魔物が俺達が残しておいたイモムーを殺さず生け捕りにして、木魔物の所まで持っていこうとしている」
「あっ、ほんとだ!」
一つ目の《分霊:遠映近斬》には木魔物を映したままにしてもらいつつ、二つ目の《分霊:遠映近斬》にイモムーを咥えて走っていく狼の姿を映し出してくれた。
その映像を見た愛衣は、指をさして叫んでいた。
「これはもう決まりだよ、たつろー! 犯人はアイツだね!」
「ああ、だが木魔物がイモムーに何をするのかが気になる。
このまま少し観ていよう」
「うんっ」「ピィー」
そうして竜郎と愛衣は他のメンバーにも伝声管で号令をかけて集まって貰い、そして開け放った入り口付近に飛んできたカルディナと共に、謎の魔物を観察していくのであった。




