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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第320話 シュベ公狩り

 竜郎が三体を処理するために歩き出した頃には、残りの九体は既に視界に入り込むほど接近していた。

 山に向かって正面よりやや左寄りの方向から三体固まった状態で、左方向からは二体が固まった状態で、後はバラバラの方角から四体やってきていた。



「多いのはあたしがやるっす!」

「ピィューーー」



 三体固まっている方へとアテナが飛び出し、ならば私はこちらだと、このパーティ一番の空中戦の申し子カルディナが二体かたまっている方へとお互いに《真体化》した状態で向かっていく。



「なら後はちょうど、一人一体ずつ倒せばいいね」

「でしたら、わたくしはあっちへ行きますの」

「なら私は向こうの奴をやります」

「ジャンヌちゃんはどっちがいい?」

「ヒヒン!」



 「あっち!」と元気よく鼻先の角で示したので、愛衣はジャンヌをよしよしと撫でてから余った一体を請け負う事にした。



「それじゃあ皆、無理だけはしない事。危なくなったら誰かを呼ぶんだよ」

「解ってますの。おかーさまも遠慮なく呼んでくださいですの!」

「ヒヒーーン」

「あははっ。その時はお願いね。でも私が危ないときは、絶対にたつろーが来てくれるから大丈夫だと思うな!」

「ふふっ。それはお熱い事で」



 最後には結局のろけを聞かされ、リアは思わず笑ってしまう。

 そして誰からともなく自分の標的に向けて駆け出した。




 三体を請け負ったアテナは《分霊:鏡磁模写》を発動し鏡を五枚展開すると、それを斜め上に向けて間隔を開けて重ねると、内一枚の一番上に来ている物に足を乗せた。

 竜装を纏い鎌を分割して両手に持ち、手足から漏れる竜力の煙は雷の属性に変換して周囲に紫電をまき散らす。

 その頃になるとアテナの真上まで後三、四秒といった所まで三体のシュベルグファンガスが迫っていた。



「そんじゃま、出撃っす!」



 五枚の間隔を開けて重ねた鏡の磁極を制御し、斥力によってバネの様にして自分の足を押し上げさせ、自前の脚力も合わせてロケットの様に空へと突撃して行くアテナ。

 五枚の鏡もその後ろに並んで追従しながらついていく中で、三角形にフォーメーションを取っていた一番前の個体の下顎あたりに、その勢いのまま頭突きした。



「あたしの方が固いっすね!」

「ビッ──」「「ギィーーー!?」」



 突如飛来した竜装纏ったアテナに頭突きを食らった個体は、顎をグチャグチャに潰され、周囲に放たれていた紫電によって体中に電流が駆け巡る。

 結果全身を痙攣させて動きが鈍った所をアテナの鎌が首を通過していき、頭を切り離されて落ちていき、遅れて体も落下していった。



「一撃で死なないところが良いっすね!」

「「ギィーーー!!」」



 鏡を浮かせてその上に立ち、余裕たっぷりにサムズアップして残り二体に竜装の兜の中で笑みを浮かべる。

 それに二体は怒り狂いながらも闇雲に突撃しないで分散し、挟撃体制に移行した。



「魔物のクセに頭もソコソコ良いみたいっすね」



 左右、上下、前後。空中での高い機動力を生かしながら、挟み込むように《衝撃波》を放ってアテナを攻撃していく。

 だが近づくとヤバいと本能で解っているのか、一番攻撃力の高い《ひっかく》を使うタイミングを見計らいながらも、隙なくアテナに風魔法で《衝撃波》を散らされ前に出られずにいた。



「もー、同じ攻撃ばっかで飽きちゃったっす~。来ないならこっちから行くっすよー。いいんすねー?」

「「ギィー」」



 言葉は理解していないが、どうやら痺れを切らして自分から来るようだと悟った二体は、どちらか一方に向かった瞬間もう一方が背後から《ひっかく》をお見舞いするように視線で合図を送った。



「それじゃあ、まずはこっちからっす!」

「ギィッ!」

「ギッ!」



 右手に飛んでいた個体にアテナが向くと、標的にされた個体がもう片方に合図を送り、送られた方も了解の意を示す。

 そんなこともお構いない無しに、アテナは動き回る片方に向かって勢い付けてジャンプし一瞬で肉薄すると、鎌で翅を片手で二枚ずつ切り裂いて、四枚の翅を一瞬にして散らして見せた。

 だが翅を失い紫電に焼かれながらもアテナに《ひっかく》を浴びせようとしつつ、仲間が未だに攻撃しに来ない事を奇妙に思い、チラリと視線をそちらに向ける。



「ギィ──!?」

「ああ、そっちのお仲間ならもう死んでるっすよ」



 振るい上げた二本の前足をいとも容易く切り取られた事よりも、アテナの後ろで斜めに彼女を映す鏡から這い出したドッペルゲンガー達に、八分割された仲間が地面にゴミの様に落ちていく様を唖然と見つめていた。

 だがそれにかまうことなく、アテナは無情に鎌を二刀薙いで首と胴体を切り離し、三分割されたシュベルグファンガスはあっさりと地上へと吸い込まれていった。



「任務完了っと」



 戦いを終えたアテナは久しぶりにソコソコの相手との交戦に満足しつつ、死骸を回収しに自分も地上へと降りていくのであった。




 二体を相手にすることになったカルディナは、《分霊:遠映近斬》を五個周囲に展開させ、一瞬でシュベルグファンガス達の前に躍り出た。

 まるで転移して来たようにいきなり目の前に現れた鳥とも獅子とも取れるような不思議な形態をし、異様な威圧感を放つ存在を前に、二体は思わず空中で制止する。

 そして睨みあう事二秒半。

 シュベルグファンガスが同時に動き左右に分かれた──のだが、ほぼ同時に落下していた。

 そして目に見えたのは自分のバラバラになった胴体。二体は訳も分からず「ギィ……?」と鳴くと同時に目から光を失った。



「ピユィーー」



 なんてことは無い。二体が動いた瞬間に、二体が気が付かぬほどの速さで動いて、横一文字に通り抜けざま、分霊と竜翼刃で切り刻んだだけの事。

 二体の死骸を空中で器用に《アイテムボックス》にしまうと、カルディナは誰が助けを呼んでもいいように、危なくなりそうなら駆けつけられるように、探査魔法を広げてそれぞれを見守り始めたのであった。




 先行したアテナとカルディナに遅れて行動を開始した愛衣、ジャンヌ、奈々、リア。

 愛衣は自分の担当のシュベルグファンガスが頭上に来るまで待っている間に、グローブの魔力頭脳も起動しておく。

 そして剣と体に纏を纏い、空を見上げながら軍荼利明王を構えて青い鳥の形をした気力の弓矢を番える。



「きたっ! ──はっ」



 まずは牽制とばかりに《一発多貫》で嵩増しした鳥型の矢を三回高速射撃する。

 一度に五本ずつ矢が飛んでいき、ほぼタイムラグなく迫りくる十五本の矢は身を捻って躱せるものではない。

 シュベルグファンガスは慌てて急停止し、後方へと一度下がろうと振り向いた。

 だがその瞬間。パンッ──と乾いた音を立てて頭が破裂した。



「うわっ、グロッ!?」



 弓矢は全て囮であり、呑気に空中で方向転換している間に愛衣は既に《空中飛び》で後方に回っていた。

 そして振り向きざまに頭だけを狙った竜纏の拳を飛ばして、その部位だけを破壊した──というわけである。

 愛衣は鎧の効果でもある気力の盾を足場にしながら、体液が飛び散る前に死骸を回収し、自分の《アイテムボックス》に入れるとすぐさま竜郎の《無限アイテムフィールド》へと送っておいたのであった。




 愛衣と別れて自分の担当の一体を倒すべく、奈々は《真体化》して飛ぶと空でシュベルグファンガスが来るのを待った。

 前方に迫るシュベルグファンガスも空で待ち構える奈々を敵と認識し、遠方から《衝撃波》を飛ばしてきた。



「当たっても大したダメージにはならないでしょうけど、勘違いされても困りますの」



 奈々は《アイテムボックス》からグザンの牙を取り出して、空を踊るように舞い竜力纏う牙で容易く打ち破っていく。

 五発も蹴散らした頃合いにシュベルグファンガスが肉薄し、奈々の頭上から二股に分かれた鉤爪状の太いカブトムシの様な前足で、全力の《ひっかく》を奈々の両肩に放ってきた。



「──ふっ」

「ギッ!? ──ギィーー!!」



 しかしそれが当たるよりも早く回転しながら両手に持つグザンの牙で、シュベルグファンガスの太い手首に《かみつく》をお見舞いし、女性の細腕とは思えない程の膂力りょりょくで受け止める。

 それに驚愕しながらも、シュベルグファンガスは残り五本の腕で奈々を抱きしめるように《ひっかく》を発動し、さらに二股の槍の様な尾の先端も合わせて突いてきた。



「ウザイですの!」

「ギッ──」



 さてどうやって倒そうかと考えている所で邪魔をされ、考えるのも面倒になった奈々は極太の竜邪槍を七本だして、六本の足と尾の付け根を貫いて千切り取ってしまう。

 そして《竜爪襲撃》で首を狩り取り、死骸を《アイテムボックス》に回収した。



「もう少し強ければ、色々出来ましたのに」



 常人が聞いていたら耳を疑うような発言と共に、つまらなそうな顔をしながら地面へと降りていくのであった。




 愛衣や奈々と別れてリアは相手のスキル構成や身体能力を鑑みて、今の虎型ではなく麒麟型にフォームチェンジしたほうが良いと判断した。



(虎型でも十分行けるでしょうけど、あのスピードについていくなら麒麟の方が楽そうですからね)



 ちなみに大猩猩型──つまりゴリラ型ではピーキーすぎて、難しくなるだけなので真っ先に却下された。

 そうして麒麟型に形状を変えた所で自重を軽くするように操作して、上空から飛来するシュベルグファンガスめがけて空を駆け上っていく。

 下方からやってくる麒麟型の機体に搭乗したリアに気が付いたシュベルグファンガスは、さっそく《衝撃波》を飛ばしてくる。

 それをジグザグに空中をジャンプしながら軽やかに躱していき、あっという間に近くまでやってきた。

 その行動を見たシュベルグファンガスは、リア側には遠距離攻撃が無く、衝撃波を躱している事から効果があると思ったらしい。

 近づくと同時にまた距離を取ろうと、上へと飛んで行きなが衝撃波を飛ばしてきた。



「当たっても大して効かないんですけど……、せっかくの初実戦ですし、もう少し試させてもらいますよ」



 リアの中では以前この機体で戦った魔物は的でしかなく、ただの実験として脳内処理されているので、実質これが初の実戦だと捉えていた。

 そしてこの魔物は竜郎達の尺度では雑魚だが、一般人からしたら十分脅威的な魔物だ。

 それならちょうどいい実戦経験が詰めるだろうと考えたのだ。



「逃げる魔物を追いかけながらの、自動回避もいい感じですね。

 では今度は、こちらからも攻撃させてもらいましょう」

「──ギィッ!!」



 麒麟の両目から熱光線を出して撃ってみたが、光に反応したのか撃ち出す前の僅かな溜め時間で、あっという間に射線上から逃げられた。



「兄さんの魔法みたいに、もっと速く撃てる様に改造したいですね。

 それじゃあ、お次はっと」



 リアは《アイテムボックス》から手榴弾を取り出すと、それを正面モニタの下にある穴に放り込んでいく。

 するとシュンと掃除機に吸い込まれる様に消えていくのを確認してから、今度は機体の背中に細身の砲身を形作るようにイメージする。

 するとその通りに竜鱗を掻き分けて茶色い鉱物で出来た砲身が現れ、そこから空中で足を踏ん張りシュポンと音を立ててシュベルグファンガスへと、先ほどリアが出した手榴弾がピンを抜いた状態で飛んでいく。

 だがそれに対してシュベルグファンガスは、衝撃波を放って撃ち返そうとしてきた。

 けれどそれは衝撃波が当たった瞬間に破裂し、それと同時に強烈な閃光で辺りを照らした。



「ギィーー!?」

「閃光による外部カメラの保護も完璧と」



 外部カメラ──ここで言うと麒麟の目についている物はリアの操作や、規定以上の光を感知すると自動的にサングラスの様な効果を持つ保護膜を張って視界を一時的に暗くする。その為、中に映るモニターごしでは、目を開けたままでも全く眩しくなかった。

 けれど相手は目をやられてしまったらしく、グルグルと空中を暴れまわっていた。



「じゃあ、次は角を試してみましょう」



 角にリアの竜力を流し込んでいくと真っ赤になりながら発熱し始める。その状態で暴れまわるシュベルグファンガスにそっと近づき、えいやと首を縦に振って長い尻尾を切り取った。



「ギィーーー!?」

「切れ味良好。刺し具合は──これもサクッといけますね」



 まるで豆腐に箸を刺すかの如く、スッと堅い甲殻を溶かしながら背中に穴を穿った。



「じゃあ、後は最後にこの状態での鍛冶術を使った操作ですね。

 よいしょっと」



 リアの声と同時に背中から鉱物で出来た腕が飛び出し、《アイテムボックス》から普段使い用の槌を取り出し、手榴弾を入れた時と同じ穴に差し込むとまた吸い込まれていき、その手の先から槌がでてきた。

 その状態でも意識すれば、少々ラグはあるが機体を伝って槌に鍛冶術を纏わせることに成功。

 そして口から鍛冶炎材を噴射しシュベルグファンガスに塗布すると、槌で殴って鍛冶炎を背中側の甲殻全体に纏わせた。

 それからもう一度叩くと、やはり直接やるよりイメージの伝達が遅れたものの、甲殻が内側の肉を抉るように、細かく櫛のようにギザギザに変化して内臓を破壊した。



「タイムラグが気になりますが、これはしょうがないですね。機体自体のハンマーで直接やれば問題ないですし」



 麒麟型でも足の先端のひづめが槌扱いなので、そこでも鍛冶術を使えたのだが、今回はあえて面倒な方法を選択して実験したのだ。

 そうして満足のいく結果が出たことにリアは満足し、落ちて行った死骸の回収に向かうのであった。




 愛衣達と別れたジャンヌは、シュベルグファンガスが自分の姿に驚いて、他の人の所に行かない様にギリギリまで来るのを待ってから、いきなり《真体化》した。

 そしてやはり巨体は怖いのか方向転換しようとした所で、ジャンヌはすかさず風魔法で気流を乱して飛行の妨害をする。

 それでも飛翔よりも上位のスキル持ちなので、何とか落下しないで飛行を保っていたが真面に動くこともできない様子。

 ジャンヌは口元に竜力を収束していき、空でバランスを保つことだけに集中してほぼ静止状態のシュベルグファンガスに向かって《竜力収束砲》を撃ち放った。


 収束砲が来ることは察しながらも上手く動けず、一瞬にしてシュベルグファンガスの首から下が蒸発し、ジャンヌは風を操作して首だけを自分の前に落とした。



「ヒヒーン」



 「なんだー弱いじゃなーい」とでも言いたげに鼻を鳴らし、ジャンヌは頭だけを回収しておいたのであった。




 竜郎は竜障壁に小さな穴をあけ、そこから頭と体だけになったシュベルグファンガスに《レベルイーター》の黒球を当てていく。



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 レベル:57


 スキル:《急速成長》《植物達の応援》《同族増強》

     《ひっかく Lv.7》《毒針 Lv.7》《高速飛翔 Lv.3》

     《衝撃波 Lv.5》《翼刃 Lv.4》

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(SP美味いな、こいつ等。レベルもソコソコだし、さすがテイマー産のシュベ公。

 どこの誰かは知らんが、ここまで育ててくれてありがとう。ちゃんと俺達の今後の糧にするから、恨まず成仏してくれ)



 南無南無と手を合わせながらスキルレベルを頂戴していき全てを取り終れば、次の個体へと移っていき、シュベルグファンガス三体から計(257)ポイント手に入れ、これにて竜郎の総SPは(908)となった。

 時空魔法の取得SPは(1000)なので、残り百をついに切ったという事になる。



(ここまで長かった。最初はどうなる事かと思ったが、ゴールは目前だな)



 少し感慨にふけりながら衝撃波も出せなくなった残りのシュベルグファンガスを、天照と月読の経験値にすべく一匹ずつ止めをささせ、余った一体は同時に攻撃して息の根を止めた。

 もし余ってるならもう一匹くらい欲しいなと探査を広げると、もうどこにも生きた個体は存在していなかった。



「皆、仕事が速いなー」



 あと二体もいれば1000に余裕で届きそうであったが、ここで時空を取っても、ひとまずこの依頼だけは片づけていくつもりだったので、まあ焦る事は無いかと、のんびり竜郎は皆のいる方へと歩いていくのであった。

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