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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第318話 起動テスト終了。いざ森へ

 突然連れてこられたところで、こちらの思い通りに動いてくれる訳もない魔物達。

 けれど竜郎の呪魔法によって今や十年来の相棒の様に寄り添い合って、一つの敵に向かって攻撃を始めた。


 まずは遠距離攻撃が出来る木の棒に目玉を付けたような魔物が、小さな火の玉攻撃をリアの乗る虎型の機体に向かって連続で放ってきた。

 そしてそれに合わせるように、空を飛べるハエ型魔物が山形の軌道を描きながら、前足二本の鎌の攻撃を背中に浴びせようと迫ってきた。



「こんな炎じゃ当たった所で傷一つ付きませんが──お返しです!」



 一番早く機体にたどり着きそうになった横一列に飛んでくる小さな火の玉たちに対し、リアは口をパカッとひらかせると、喉奥から猛烈な勢いで火炎放射を噴射した。



「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ーー」



 火の玉はあっさりと飲み込まれて掻き消されただけに止まらず、火の玉攻撃してきた目玉に向かってまっすぐ伸びていった。

 しかし当たる瞬間に、目玉魔物を守るように背中を向けた二メートルの巨体の人型の魔物が立ちふさがって背を焼かれていた。

 それにハエ型魔物は激昂しながら羽音を立て、背中に切りかかってきた。



「当たりませんよ」

「ビーーーー」



 しかし火炎放射を打ち切って身を伏せながら軽やかに後ろに飛ぶと、目の前で無防備に身をさらす三十センチのハエに向かって、竜力を流し灼熱を纏った爪で軽く引っ掻いた。

 するといともたやすくバラバラに切り裂かれて、あっという間に死んでしまった。



「アアアアアアアアアアアアーーーー!!」

「────!!!」



 目の前で仲間(と思わされている)が殺される様を見せつけられた残りの二体は奇声を上げ、目を血走らせて怒り狂いながら攻撃してきた。


 人型の魔物はメタボ体形には見合わない速度で走ってくると、棍棒で機体の頭部を叩き潰そうとしてくる。

 けれどそれをあえて虎で言う肉球部分で受け止めると、そこから鍛冶炎剤が棍棒に浸透する。

 そして肉球に鍛冶炎が纏うと棍棒全体にもそれが移っていく、けれど熱くも無く実害も無さそうなので二撃目を振るってきた。



「実は肉球部分は、私のハンマー扱いなんですよね」

「ア゛ア゛ア゛ア゛ーーー!?」



 二撃目で再び肉球部分に棍棒が触れた瞬間、《鍛冶術》変形と創造が発動して魔物側だけトゲトゲに変化して、持ち手や体など全身を突き刺した。



「虎ぱーんち!」

「ゴボッ──」



 棍棒の形が強制的に変化させられ棘が大量に刺さっている中で、機体の左前脚で思い切りスナップを利かせて元棍棒ごと腹を叩くと、その部分が盛大に弾け飛んで人型魔物は上と下に分割された。

 けれど操っていたスライム自身は無事なので、分離した上部分を操って、這うように逃げようとするも、虎の機体の目からビームが放たれ焼き殺された。



「目からビームでた!」

「俺のレーザーを魔道具で再現したっぽいな」



 愛衣の背中から抱きついた状態で観戦していた竜郎は、突然のレーザー攻撃にはしゃぐ彼女の頭を撫でながら冷静に解説した。


 そうして二体の魔物がいなくなった所で、それまで魔法を練っていた目玉魔物の準備が整ったようで、一メートル程の火炎球を頭上に発現させていた。



「時間をかけてやった割に残念な魔法ですね──っと」



 それを撃ち放とうとしてきた瞬間、リアは機体を空に走らせ一気に魔物の頭上に駆けのぼる。

 眼下に魔物を捉えた所で機体の背中から砲身が生えて、そこからピンを外した状態の手榴弾がシュポンッと音を立てて発射された。



「なんか生えてきたっす!」

「体の形を大きく変えるのではなく、体にああいうものを生やす程度なら応用が利くそうですの」



 突然視界からいなくなった機体を探して、火炎球を維持したままキョロキョロしている魔物の頭上に射出された手榴弾が着弾。

 バーンッと大きな破裂音と共に火炎球を吹き飛ばし、魔物自身も消し飛んで三体全ての魔物の反応が消えた。



「圧倒的だったね」

「よいしょっと。圧倒的と言っても、今のは魔物が弱すぎですよ。

 生身の私でも余裕で勝てるレベルでしたし」



 空から坂を下るように降りてきて、地面に着陸したところで重さを戻して愛衣の言葉に応答した。



「まあ、もっと町から離れればそこそこのもいたんだろうけど、この辺だとアレが限界だしな」

「はい。でも最初のテスト走行とすれば手ごろな相手だったかもしれませんね。

 それじゃあ最後の形状にいきます」



 その言葉にアテナが少しだけ残念そうな顔をしていると、三つ目の形状変化が始まった。



「──形状3:大猩猩おおしょうじょう

「猩猩に大だからゴリラ……だったか?」

「そっちにいったかぁ」



 虎型の形状がぐにゃりと解けて球形に戻ると、また竜鱗を排出しながら新たな形へと変化していった。



「ゴリラにしたって、足が短いな」

「それに上半身とのバランスも悪そうだけど」



 第一印象でそんな言葉が出るほど、それはアンバランスな体型をしたゴリラ型の機体だった。

 上半身の腕から胸にかけた部分は太くたくましく、全体的に筋肉隆々と言った感じなのに対して下半身は足が短く、大雑把に全体のフォルムを現すのなら逆三角形と、とてもアンバランスな形状をしていた。



「この形状の機動力は皆無です。なので────」



 ゴリラ型の機体が動き始めるが一歩、二歩と先ほどまでの俊敏さのかけらも無く、子供が小走りで簡単に追い抜けるスピードで精いっぱいだった。



「確かに機動力は全くないっすね」

「ですがこれまでの麒麟、虎の二つと比べてパワー特化になっています。

 コレに盾を持たせて防御させたり、動きを止めた相手に重量級の一撃を浴びせる時なんかに使えると思います」

「完全なるパワータイプか」



 リアは座席に座った状態でパーツ分けされた大型のロケットハンマーを床に置いていくと機体の中に吸い込まれていき、組み上がった状態でそれが大きなゴリラ型機体の手の平から生えてきた。

 そして大型の──リアが生身で使っている時のものよりもさらに大きい、ハンマーの頭だけで五メートルはありそうな物を握りしめた。



「では、もう少し離れていてください」



 リアに言われるままに全員が後方へと下がっていくと、ゴリラの腕を動かしロケットハンマーを起動させた。

 ハンマーの頭の後ろ部分から炎が勢いよく噴出されるなかで、リアは重量を軽くするように操作すると上にロケットの様に機体が飛んで行った。

 握った腕で柄の一部を捻って噴出孔の向きを調整しながら100メートルほど上昇する。

 そうした所で重さを元に戻し、噴出孔を上に向け、重量+ロケットの推進力で地面に突っ込んでいく。

 そして地面に激突する寸前で噴出孔内部に爆発を起させながら腕を振りぬき、腕力、重量、爆発とロケットの推進力による特大の一撃を地面に打ち放った。



「うおっ」「わっ─」



 離れて立っていた竜郎のいる地面が揺れるほどの衝撃と風圧が届き、風が吹きやんだ場所を見てみれば隕石でも落ちたかのようなクレーターの中心で、ゴリラ型機体が呑気に手を振っていた。



「そうか、機動力を無くしてもロケットハンマーの推進力で飛ぶこともできるのか」

「直線的な軌道ですのでかわしやすいですが、当たれば堅い魔物でも砕けますの」

「確かにあの威力を直接受けるのは痛そうっす」

「ヒヒーーン」

「痛そうですむのもおかしいけどな。俺ならぺちゃんこだ」



 そうして話していると麒麟モードに戻したリアが颯爽とやってきて、球形に戻して入る時の行動を逆再生するかのように中から出てきた。



「これならリア一人でシュベルグファンガスを倒せそうだな」

「ふふっ、私が全部倒してもいいんですか?」

「あたしも二体くらいは倒したいっす~!」



 冗談交じりの言葉にアテナが反応して、この場に笑いが起きた。



「っとまあ冗談はさておき、連続稼働時間はどれくらいなんだ?」

「フル稼働だと十六時間程でしょうか。帰還石をこの──中に補充すれば魔力頭脳だけは動かせられますが」



 そう言いながら魔力頭脳のエネルギーにする帰還石をいれる、直径三十センチほどの筒状の入れ物を取り出した。



「この巨体を動かすための動力は私の大量に余ってる竜力なので、それが切れたら動けなくなるんです」

「あー。竜力を使って動かしてるんだね」

「ええ、そうなんです」



 魔力頭脳は今もリアが持っている筒状の入れ物に帰還石を敷き詰めて、操縦席の近くにあるソケットに嵌めれば良いらしいが、それではまかなえない機体を動かすエネルギーを竜力で代用したのだそう。



「それじゃあ、これで見せるのは全部か?」

「はい。これで準備万端です」

「よし、それじゃあいざ、イモムーパパ退治にしゅっぱーつ!」



 そうして愛衣の元気な号令に皆で応えると、マイホームをしまってシュベルグファンガス討伐に向かった。


 今回はいよいよ結界の内部に入り込むので、一応そこを管理しているギルド職員に話を通してからと思っていた。

 なのでバンラロフテ森林より少し手前でジャンヌに降りて貰う。

 そこから徒歩で結界の張られている場所まで向かう時、リアだけは機体を虎型にした状態で、背中部分を戦車のハッチの様に開けて縁に座った状態で操縦しながら進んでいた。



「軽装鎧の蜘蛛足さえ接続していれば、こうやって外から操縦する事も出来るんですの」

「戦闘時にこんな所に座ってたら振り落されちゃうので、こういう時くらいしかやりませんけどね」

「「へー」」「ピィー」「ヒヒーン」「ほー」



 などというプチ説明を聞きながら進んでいくと、すっかりとこの五日間で顔なじみになったギルド職員の女性がいる場所にたどり着いた。



「こんにちは」

「はい、こんに────ちは。えーと、そちらの方々は……」



 ここへは竜郎、愛衣、カルディナ、天照、月読だけしか来ていなかったので、竜郎の中に入っていたジャンヌや家の守りを固めていたアテナ、そして奈々とリアにはお目にかかった事が無いため確認を取ってきた。



「ここにいるメンバーで、うちのパーティ全員です」

「えーと、その虎の様な物は一体……」



 《成体化》状態のジャンヌも中々に迫力があるのだが、実力者のパーティなのだから強力な魔物をテイムしたとでも思えば納得はできた。

 けれど明らかに非生物の巨大な虎に乗る幼女という絵面だけは、消化しきれずにダメもとでギルド職員が問いかけてきた。



「この子は私のゴーレムです」

「ゴーレムですか!? これが!?」

「実は私はこういうゴーレムを造るスキル持ちなので」

「ああ、特殊スキル持ちなんですね」

「はい」



 事前にこれを他人に説明する時になんというかは決めていたので、その通りにリアは説明した。

 この世界のスキルは多種多様。全部を知る人間などいないし、そういうスキル持ちだと思わせれば説明が楽。

 それに《万象解識眼》があるからこそ造れたという意味では、リアの言もあながち嘘ではない。

 そんなことですっかり奇妙なゴーレムを製作し従わせるスキル持ちなのだと納得したギルド職員は、スッキリした顔で「説明ありがとうございました」と律儀に礼を述べた。



「それで全員で来たという事は、いよいよ結界内に?」

「はい。今日はとりあえずシュベルグファンガスを討伐して、夕方頃に帰って、明日、問題究明に向かおうと考えています」

「えーと……シュベルグファンガスは報告では十二体いるとおっしゃっていましたが……夕方までに全部倒すのですか?」

「ええ。そのつもりですが?」



 それが何か?とでも言いたげな竜郎の顔に、ギルド職員は深く考えるのを止めた。



「い、いえ。解りました。では、お気を付けて」

「はい」



 そうして竜郎たちは黒菌対策の道具が起動している事を念入りにチェックしてから、結界の内部へと足を踏み入れていくのであった。

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