第313話 依頼内容と報酬確認
依頼について軽く話し合っていると、ふと気になる事に思い至ったリアがギルド長──イッポリートへ質問を投げかけた。
「そう言えば先ほどこの国の未曽有の危機などと言っていましたが、もしやその病原菌は拡散し続けているのですか?」
「……ええ。その通りです。ですが今のところは、こちらで幾つか特殊な魔道具を使って結界をあの地域一帯に張っているのでまだここは安全です」
「今のところはっていうのが、気になるね」
「ええ……今のところは、です。今現在も無尽蔵に病原菌は増えていまして、解析班の計算によれば、このまま止まることなく増え続けた場合、あと二年と三ヶ月で全結界が破壊。
その際に一気に拡散され、カサピスティの国土の実に半分以上が飲み込まれるらしいのです。
そしてさらにそこからも増え続ければ、国全体に行き渡ってしまう計算になります」
「それって下手したら、国どころか世界全体……なんて事も有りえそうですね」
「はい。ですので今のうちに片づけてしまいたいのです」
「このことは、今の所誰が知っているんですの?」
「この国の上層部と一部の兵達。この国のギルド長全員とギルド長が信用できると判断した人間二人。解析や実験に携わった者達。といった所ですね。
避難勧告や国民や他国の人間には、半年を切る一日前までは知らせないでほしいとカサピスティの王に頼まれているので、必要最低限の人間しか知りません」
「国境にいた兵たちは知ってたんですかね?」
「国境兵ですか? そうですね、我々の方で人材が見つかったら直ぐに手配できるように、飛行手段を持ったテイマー達を配備しているそうですし」
「そう言う事ですか」
「と言いますと?」
そこで竜郎達は国境に入った時の兵たちの事を話すと、イッポリートも先の言の意味を理解して苦笑いしていた。
「早とちりしてしまったようですね。ですが焦る気持ちも解ってあげてください」
「はい。理由が解らなかったから気持ち悪かっただけで、別段腹を立てていたわけではないので、もう気にしていませんよ」
「なら良かったです」
と。モヤモヤも晴れた所で、これまでの情報を加味して全員と相談した結果、前向きに検討してもいいと言う事になった。
つまりは報酬しだい──という事である。
「報酬は結果しだいですが、とりあえず最も我々にとって理想的である原因究明していただいた場合、120億シスにハイアルヴァ勲章を関わったパーティメンバー全員に授与。
後はカサピスティの宝物庫からお好きな物を各員に一点。
と。ここまでが、カサピスティ王より直接提示された報酬となっています」
「王自らですか。まあ、それはいいとしても、その何とか勲章と言うのは一体?」
「ハイアルヴァ勲章は、カサピスティ国の窮地を救った者に与えられる勲章ですね。
これを授与された者は、この国において貴族階級と希望する町の一角の土地を与えられます。
ただこれは国民になる場合ですので、そうでなく冒険者稼業を続けるのであれば、貴族階級相当の扱いになって、希望があれば土地も貰えるといった所です」
「ってことは要するに、別に国民になって貴族にならなくても、紫のとこにも入れて、どっかに土地を貰えるって事でいいのかな?」
「はい。それであっています」
「土地ですか」
いずれにせよ竜郎は、こちらの世界と行き来出来る様になったのなら、世界各地に拠点が欲しいと思っていた所だった。
これは渡りに船かと少し心が傾いてきたところで、ふと竜郎はある事に気が付いた。
「そう言えば、先ほど『ここまでが』と注釈を付けていましたが、王が提示したもの以外の報酬があるのですか?」
「はい。今回は世界規模で大打撃を被る危険性を持った、重要度が極めて高い依頼です。その為、冒険者ギルドではランク授与も考えています」
「ランクですか。それはパーティ全員に?」
「勿論。関わったとされる全員にです」
「それはどれくらいになるんですの?」
「現状では具体的には言えませんが、依頼達成までの期間や達成内容次第では、現在発行されている最高の個人で11、パーティランクで12も有りえるかと」
「11ですか!? それって確か、今では一組しか存在してないんじゃ……」
「それだけの価値ある行いだと、我々は考えていますので」
竜郎が驚きの声を上げる前に、リアが目を丸くして叫んでいた。
それにより、竜郎は少し冷静になれた。
(今でもどこぞの御老公よろしく、かなりの効果を持っているみたいだが、流石にそこまで行くとどうなるんだろうな)
などと少し不安もよぎるが、もうかなり大きく動いてしまっているし、ランク6の時点で驚かれているのだから、それが大きくなったところでどうだと言うのだろう。
むしろそれだけ突き抜けてしまった方が、逆に自衛にもなるかもしれない。
それにリアにもランクを与えられれば何かあった時も、リア一人だけだったとしても冒険者ギルドは厚遇してくれるだろう。
(あれ? これって意外とアリなんじゃ?)
以前この世界で最初に寄った町オブスルで、冒険者ギルドの受付をしていたレーラに魔竜の件を大々的に発表すれば個人でも8、パーティでは10にもなれると言われたのを辞退した。
だが今はもう戦力も十全に整い、目立ったところで何とでもなる。
そう考えた竜郎は、今回は受けられるのなら受けてしまおうと思い至った。
その旨を愛衣とも念話で相談し、他の皆にもそれとなく告げながら話し合い。
とりあえず受けてみようかという事になった。
「おおっ。それはありがたい」
「ただ、こちらも条件を出してもいいですか?」
「はい。限度はありますが、大抵の事は何とかしてみるつもりです──が、何を望まれますか?」
「まず一つ。受けた後に調査した結果、僕らでは無理だと解ったら、この依頼を直ぐになかったことにしてほしいんです」
「それは大丈夫ですね。今回は事が事ですし、安請け合いされても困りますし。
では二つ目は?」
「二つ目はですね。この子達も冒険者ギルドに登録してほしいという事です」
「──これはっ」
ちょうどいい機会だと、カルディナをポケットから出して《成体化》してもらい。
ジャンヌを竜郎の中から《幼体化》状態で顕現させてみせた。
するとイッポリートは、突然現れた魔物然とした存在感を把握して、見えない目を見開いて内包される力の量に驚愕していた。
「そのお二方は、システムがインストールされていますか?」
「はい。ちゃんと言葉を理解し文字も書けます。それと二人ではなく四人です」
「四人? といいますと……──っそこにいる杖とコートの二方も、その……そうなのですか?」
「はい。システムがインストールされていますし、文字の読み書きも出来ます。
とくにこっちの子達はあまり大っぴらに登録したくはなかったので、ここでこっそりとやって貰いたいのです」
杖を出し、コートに入れっぱなしのセコム君と共に天照と月読を宿すと、その存在をスキルで直ぐに把握した。
形状は杖の様な物に、コート。カルディナとジャンヌは、見た目が人型でない人間も多く所属している冒険者ギルドであるので全く問題なかったのだが、流石に装備品を登録した記録などないはずだ。
けれどシステムがインストールされている以上、どんな形をしていようとも人間だ。
差別するわけにはいかないと、開いた真っ黒な瞼の奥を再び隠して落ち着きを取り戻した。
「わ──かりました。それも、問題はな──…………いはずです。三つ目の要求は有りますか?」
「以上の二点で構いません」
「解りました。では直ぐに用意いたしますので、しばしお待ちを」
そうしてイッポリート自ら道具を持ちに行き、カルディナ、ジャンヌ、天照、月読の冒険者登録をしてもらった。
ちなみにカルディナは竜郎に作って貰ったペン持ちの器具で、ジャンヌは樹魔法で手の様に、天照は竜念動で、月読はセコム君で、それぞれ自分で必要事項を記入した。
「ではこちらが依頼書です」
「はい」
九つに分かれた同じ依頼書をイッポリートが机に並べていき、それを一枚一枚全員で受け取った。
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依頼主:カサピスティ国,冒険者ギルド
依頼内容:1、バンラロフテ森林における奇病の原因究明。
2、奇病の元の根絶、または有用な治療法の確立。
3、シュベルグファンガス亜種の全討伐。
※ただし上記一つでも解決すれば、達成として看做す事も可能。
報酬:全て達成時
12,000,000,000 シス
ハイアルヴァ勲章授与。
カサピスティの宝物庫から一人一点選択。
結果において相応しい冒険者ランクを授与。
報酬:1、2達成時
11,000,000,000 シス
ハイアルヴァ勲章授与。
カサピスティの宝物庫から一人一点選択。
結果において相応しい冒険者ランクを授与。
報酬:1、3または2、3達成時
10,000,000,000 シス
ハイアルヴァ勲章授与。
カサピスティの宝物庫から一点選択。
結果において相応しい冒険者ランクを授与。
報酬:1または2のみ達成時
9,500,000,000 シス
ハイアルヴァ勲章授与。
カサピスティの宝物庫から一点選択。
結果において相応しい冒険者ランクを授与。
報酬:3のみ達成時
500,000,000 シス
許諾 / 拒否
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(討伐だけだし、3のみだと随分報酬が下がるな。確かに奇病関連をなんとかしなきゃ意味ないしな)
竜郎達全員、許諾を選択した。
すると依頼書は粒子になって、竜郎達に吸い込まれるように消えていった。
「あなた方の事を周辺で森から先を封鎖しながら、見張っているカサピスティ兵や、ギルド職員に伝えて通れるようにしておきますので、明日以降から開始してください」
「解りました。ではこっちの準備ができ次第、向かいたいと思います」
「お願いします」
そうして竜郎達は、冒険者ギルドを後にした。
竜郎達が冒険者ギルドから出ていった後、蟲人の男がギルド長室を訪れてきた。
そこで依頼を受けて貰ったとイッポリートが告げると、蟲人男は不安そうに眉を下げた。
「あの子達で本当に大丈夫なのでしょうか?
確かにランク6なら実力はあるのでしょうが、まだ経験も浅い子供ですよ?
将来有望な冒険者たちを、あんな場所に送るのは……」
「確かに実力があっても、経験が足りなければ不測の事態はいくらでも起こりうるからな」
「だったら──」
「だが。私の目に映るあの子たちは、随分闘いに慣れているように感じた。
あの年齢であっても、相当な修羅場を通ってきたはずだ」
竜郎達はレベル10ダンジョンの深部という、過酷な状況下を乗り越えてきた。
そんな経験をイッポリートは見えないからこそ、雰囲気を敏感に察知したようだった。
普段から冗談の類を言わないイッポリートが、こうも断言したことにより、蟲人の男もようやく踏ん切りがついたようだ。
「そう言う事でしたら、私もあの子たちを信じてみようと思います」
「ああ、私の勘では、何かしらの成果を上げてくれるはずだ」
「大人の自分達が何も出来ないと言うのも心苦しいですが」
「なら、あの子たちに報いれるように、こちらも全力でサポートしなくてはね」
「はい! では私は調整に向かいます」
「頼んだ」
執務机の方に座り直したイッポリートが仕事を再開しながら鷹揚に頷くと、蟲人の男も動き出し、竜郎達が明日からでも直ぐに動けるように調整に向かったのであった。




