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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第310話 不可解な対応

 リベルハイトという国の上空をのんびりと進みながら七日間かけて、数か所だけだが観光してきた竜郎達一行。

 そしていよいよ次の国、バンラモンテという世界最高峰の山を国内に持つ、カサピスティへと向かっていた。

 その道中、竜郎達はリクライニングシートのある部屋で次の国について話し合っていた。



「リベルハイトで買った本によると、カサピスティとかいう国は、平均気温7度くらいの寒い国らしい。

 後はヘルダムド、リベルハイトと違って、ガチガチの王政国家とも書かれていたんだが……何か違うのか?」



 寄った事のある二つの国にも王はいたらしいのだが、それと何が違うのか今一理解していない竜郎は、元ヘルダムドの国民でもあったリアに説明を求めた。



「うーん。私も別に政治には興味なかったので、細かくはちょっと解りませんね。

 ですが子供に教える様な適当な、こんな感じかなっていう説明でもいいならできますけど、それでもいいですか?」

「ああ。何となくでもいいから頼む。向こうに行って、知らずに王の不興を買うのも面倒だからな。子供でも知っていそうな知識くらいは仕入れておきたい」



 その竜郎の言葉にリアは頷くと、少し考え込むように顎に手を当て首を傾げ、記憶を絞り出すかのように言葉を紡ぎ始めた。



「えーとですね。簡単に言ってしまえば、ヘルダムドとリベルハイトでは、王の勅命であっても条件が整えば棄却出来て、カサピスティではそれが出来ないといった所でしょうか」

「リベルハイドとかなら勅命も棄却出来るんだ」

「はい。厳密にはもっと複雑なんでしょうけど、私の認識の範囲内でかなりザックリ説明するのなら、ヘルダムドの国王がもつ発言権を5とした場合、政治に関わる事を許された一部の王族が4、領主などの高位の貴族で3、中位貴族で2、下位貴族と国民から選ばれた各領の町長で1。と言った具合になる──とします。

 そこで王がしたい事を発言した時に、それ以上の発言権になるように反対者を集める事で棄却出来るんです」

「ってことは、王と王族二人が結託して13の発言権を得たとしても、14人の町長が反対すれば却下出来ると思えばいいか?」

「だと思います。実際にはもっと複雑でしょうし、様々な人間関係が渦巻いているはずですから、そんな単純ではないでしょうけど」

「それでもってカサピスティは、そう言う制度が無いから王の言う事が絶対だという事になるんですのね」

「はい。それにヘルダムドの発言権は王だけでなく他の貴族にも適用されるので、領主が自分の領民に横暴な法令を敷こうとしても、さっきの数字を例に出すのなら、町長が四人以上集まれば取り下げさせる事もできます。

 ですがカサピスティはどうやら位が絶対らしく、身分が上の者には下の者は逆らってはいけないらしいです」

「はー。また難儀な国だな。

 めんどくさそうだし、目的を済ませたらここはとっととおさらばしよう」

「さんせー。あれ、そういえばその国では、私達冒険者はどういう扱いになるのかな? 平民と同じくらい?」

「えーと、ちょっと待ってくださいね、姉さん」



 奈々が幾つかあるカサピスティ関連の本を片手にペラペラと調べていくと、すぐにその項目に行き着いた。



「どうやらただの旅人だと平民と同じ扱いの様ですが、冒険者の場合は位による命令権などは無しとしているようです。

 なのでどこぞの貴族にアレをしろと強制されても、断る権利があるって事ですね。

 ただ貴族に無礼を働けば、普通に死罪すらありうるらしいですが」

「やっぱめんどくさいっすね。とーさんの言った通り、早く出るのが良さそうっす」

「だな。ってことで、カルディナ達もいーか?」

「ピュィー」「ヒヒーーン」



 外で頑張ってくれているカルディナとジャンヌにも伝声管を使って、会話は伝えていたので、しっかりと理解したうえで了承の旨を示した。



「それじゃあ、バンラモンテで用を済ませたら直ぐに出国ってことでよろしく」



 そうしてカサピスティでの大体の行動を決めた竜郎達は期待半分、不安半分で国境を目指した。

 リベルハイトとカサピスティの間にも、どの国でもない地帯があるので、そこでも着陸しておいた。

 だが目印になりそうなポイントが無いので、地に埋まって何百年も経っているであろう石の飛び出した部分に、相合傘を竜郎と愛衣の文字を日本語で削って写真を撮った。


 そんな寄り道もしながらも周囲から浮かない様に厚着をしてから、お昼頃には国境の門にたどり着いた。

 ここでもリベルハイトと同じように四つにレーンが分類されていて、位の高い人ようのレーンに並んでみようかと思いながらも、お国柄がアレなので普通に冒険者用のレーンに並んだ。

 そのレーンを担当していた衛兵二人は陰鬱な雰囲気で、冒険者達の身分証をみては肩を落としていた。



「人の身分証を見てはがっかりした顔するって、感じ悪いな」

「だねぇ。誰か探してる人でもいるのかな」



 そんな事を言っている間にも竜郎たちの番がやって来た。

 子供ばかりなのを見て、身分証を見る前からがっかりしながら適当な態度で提示を求めてきた。

 予想できたことなので別段苛立つことも無く身分証を見せると、暗い雰囲気だった衛兵二人が電流でも流れたかのようにビクッと体を震わせた。

 その反応に何事かと全員が身構えながら目を丸くしていると、男の一人が竜郎の右手をガシッと両手で握ってきた。



「やっと来てくれたんですね!」

「は? あの、一体何を──」

「ささっ、ここではなんですので、是非中へどうぞ!」

「うわっ──手を引っ張らないで下さいっ」

「一体何だろうね?」

「解らないですの。でも害意は無いようですけど」

「取りあえず付いていきましょうか。兄さんも連れてかれてますし」

「あんなの振り払えばいいっすのに」



 害意どころか崇拝すら含んだ目を向けられるものだから、竜郎はいくらでも払える手を払うに払えず詰所の方へと引っ張られるままに連れて行かれた。

 愛衣達はその光景に圧倒されながらも、竜郎の後に続くように残されたもう一人の衛兵に最敬礼されながら、見送られる様にして国境の門をくぐっていった。


 連れていかれた先は門の内側にある衛兵達の休憩所の様な小屋で、その中にある四人掛けのテーブルの下に置かれた、年季の入った四角い箱の様な椅子を出してきて座るように促してきた。

 椅子の数が衛兵の分とアテナの分が足りなかったので、新しく奥から持ってくる間に、別の衛兵がお茶を入れてくれた。

 そうして落ち着いた所で、テーブルの向かい側に座った竜郎を連れてきた衛兵が口を開いた。



「貴方達は高ランクの冒険者で、例のあの件で来られたんですよね。

 いやー、冒険者ギルドもまだ事に当たれそうな人達を探してるなんて言って、あれから誰も寄越してこないから心配してんですよ!」

「……ん? もしかして勘違いをされていませんか?

 例のあの件とは、具体的に何の事でしょうか?」

「そんな冗談よしてくださいよ! 例のあの件と言えば、あの件ですよ! ほらっ解るでしょう?」



 希望に満ちた顔から縋る様な顔で必死に訴えかけてくる男に、竜郎は左右を向いて全員の顔を見て「あの件」に覚えがあるかどうか確かめてるが、全員が首を横に振って否定した。



「すいません。やはり勘違いだと思います。「あの件」とやらに全く心当たりが有りませんので……。」

「そ、そんな……。それじゃあ、冒険者ギルドに依頼されてきた訳ではないと言うのですか?」

「その通りです。貴方がいった言葉から察するに、「あの件」は冒険者ギルドが関わっているようですが、僕らがここに来たのは完全に私用です。

 知人に暇があった時に、この国にいる人の様子を見てきてほしいと言われたから寄っただけですから」

「あ……ああ。そうなんですね……。それは、お引き止めしてしまって申し訳ない……。

 もう行って貰って結構ですよ…………」



 勘違いだったのだと理解した男や、その周りで立って話を聞いていた衛兵たちも、皆最初に見た陰鬱な顔に戻っていた。

 そして立つ気力もないのか、竜郎達を見もしないで話していた男は机の一点を見つめたまま呆然としていた。



 『なんだかモヤモヤするが、何時までもここにいてもしょうがない。もう行こう』

 『そうだね。結局「あの件」ってのが何なのか解らずじまいだったけど』

 『わざわざ「あの件」と言ってぼかしているんだから、部外者が突っ込んでもいい事でもないんだろうさ。気にしないほうがいい』

 『うん、解った』



 愛衣と念話で即席会議を終わらせると、二人は同時に椅子から立ち上がり、それに追随するように奈々たちも立ち上がった。



「それでは、失礼します」

「はい……」



 あまりにも陰鬱な様子に、こちらが悪い事をしたかのような感じになっているので、竜郎達はそそくさと退散した。

 出た足のままにテクテクと早足で歩いていき、百メートル以上離れた所で竜郎達は止まった。



「なんだか、しょっぱなから妙な事になったし、様子見もかねて近くの町に入って雰囲気を見てみるか」

「あんまり変な事に成ってるんなら、国境が近い内に引き返した方がいいもんね」



 当初の目的では世界最高峰の山──バンラモンテに近い町に一気に行こうと思っていたのだが、不穏な気配を察して国境から一番近いガガポアという町に向かう事にした。

 ガガポアまでは歩いても充分行ける距離だったので、カルディナは《幼体化》してポケットに入って貰い、ジャンヌには竜郎の中に入ったままで、後は自分の足で向かった。


 十分ほど早歩きで歩いた所にその町はあった。

 そのガガポアと言う町は、まず町へ入るための門が二つあり、一つは何の飾り立てもされていない、町壁と同じ色をした門。そしてもう一つは、豪華な装飾がされた金塗りで紫色の模様が入った前述の物より二回りも大きな門だった。

 そして開いているのは、何の変哲もない門だけだった。



「どう見ても一般人用と、貴族様用って感じだな」

「偉い人が来たら、態々あれを開けるって事っすね。めんどくさい事するっす~」

「これだけでも、あんまり住みたい国って感じじゃないね」

「ですの」「ですね」



 そんな事を話しながら一般通用門の短い列に並んでいき、直ぐに順番がやってきた。また高ランクだと解った時に、変な感じになるのかと竜郎と愛衣は身構えながら身分証を提示した。



「──っ高ランク冒険者の方々ですね」

「はい」



 門番の女性衛兵に少し驚いた顔をされたが、それは今までの国とさして変わりない反応だったのでほっとした。



「この国の町に寄るのは初めてですか?」

「初めてです」

「では、少し注意事項を説明させていただきます」

「はあ」



 ホッとしたのもつかの間、今までにない対応が入ってきたことで、再び警戒心がぶり返した。



「カサピスティでは、どの町も住人の階級ごとに、次の様に住む場所が決められています。

 まず下級市民は町の壁にもっとも近い外周部、地面の色が茶色の部分。

 次に一般市民は下級市民の暮らす層の内側、緑色の地面の部分。

 そして上級市民はその内側、地面が赤色の部分。最後に貴族の方々が住む町の中心部、紫色の地面の部分──となっています。

 そして町人は自分の身分を超えた人達が住む地区には、入っては行けないことになっています」

「それを冒険者に説明するという事は、その決まり事で僕らも何らかの制限がかかるという事ですか?」

「はい。まずランクを持たない冒険者の方は、下級市民地区までしか入る事を許されていません。

 そしてランクを1でも与えられている冒険者は、一般市民地区まで。ランク4以上の冒険者で上級市民地区までとなっております。

 なのでランク6の上級冒険者のお二人は、上級市民地区まで入っていい事になっていますが、貴族の方々の住む紫色の地面の部分には立ち入らないようにしてください」



 そこまで身分で区切るのかと辟易しながらも、気になる事のあった愛衣が口を開いた。



「それだと、ギルドとかの施設はどうなってるの?」

「商会ギルドの店は地区ごとに存在し、売られているグレードが違うだけです。

 また冒険者ギルドは最外周部に設置されているので、誰でも入る事が出来ますのでご安心を」

「僕が下の階級地区までしか入れない人を連れて、上級市民地区に入る事は可能ですか?」

「厳密には上級市民ではない外の人なので、その場合は一人につき一人まで連れて行く事が可能です」

「一人までか……。解りました。他に注意事項は有りますか?」

「はい。最後に町を出歩く際は、必ずこれを見える場所に身に着けていて下さい」



 そうして渡されたのは、竜郎と愛衣には赤色の紐に赤色の四角いプレートのついた物体。奈々、リア、アテナには茶色の紐に茶色の四角いプレートのついた物体が渡された。

 どうやらこれを腕に巻きつけるなり、首から下げるなりして、ここにいていい存在なのだとアピールできるようにしておけという事らしい。

 よく見れば門番の衛兵の女性と、その後ろで見守っていた男の衛兵のどちらの腕にも、同じような緑色のそれが身に付けられていた。



「それを身分の違う他者に渡したり、上の身分の物を身に着けたりするのは、この国では重罪ですので、お気を付け下さい」

「解りました。以上で説明は終わりですか?」

「はい。以上となります。では、ここでそれをお付けになってから、町へとお入りください」



 なんだか肩が凝りそうな国だと思いながらも、ここで文句を言っても時間の無駄なので、全員さくっと渡されたひもを首にかけて、町の中へと入っていくのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] なんかTRPGのパラノイアを思い出す様な規則だな
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