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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第309話 残りの町々

 エアリモにて絶えず熱風が吹きだす穴の場所で記念撮影した後は、次の町イテマコンに向かった。

 イテマコンでの目印は、大量の獅子の石像が置かれた公園。

 この町は、何故か至る所に大小問わず獅子の置物が置かれていたのだ。



「新手の宗教かな?」

「それかシーサー的な意味合い……でもないか。それなら個人の家々に備え付けてないとおかしいもんな」

「公共の道や施設にしか置かれてないですし、この町の町長が何らかの意図をもってやっているのかもしれません」



 周りの家屋は相変わらずの奇抜なセンスが光るものばかりだったが、それでも獅子の置物を置いている家は一つもなかった。

 それに首を傾げながら全員で獅子の置物と睨めっこしていると、壮年の夫婦が話しかけてきた。



「君達は、それが気になるのかい?」

「え? ああ、はい。何かコレには意味があるのでしょうか?」

「意味なんてないわよ。何でも昔、今の町長が魔物に襲われている時に、剣術家に助けられたとかでね。

 それでその時に獅子の気獣技を使っていたとかで、すっかりご執心になっちゃったのよ」

「それでこんなにしちゃったの? よくこの町の人たちは怒らなかったね」

「まあ、それ以外は凄くいい町長なんだよ。それに全部、税金じゃなくて自腹でやったし、それならこれ位許してやるかって思うくらいには、あの人に皆世話になっているしね。

 ……ただまあ、あの公園だけは撤去してほしいよなぁ」

「そうよねぇ」



 何かを思い出したかのように、夫婦は苦い顔で互いに相槌をうちあっていた。



「公園ってなんの事っすか?」

「ここから真っすぐ進んで、三つ目の角を右に曲がってさらに進んだところにあるよ」

「自分達の目で見てきたらどうかしら。そうすれば、私達が言った意味も解るはずよ」



 そんな言葉を残して、夫婦は去って行った。



「気になりますの。おとーさま、行ってみたいですの」

「私も見てみたーい!」

「俺も気になるし……んじゃあ、行ってみるか」



 好奇心に促されるままに、竜郎達は聞いた通りの道順で進んでいった。

 今回は到着時間が遅めだったせいもあって、辺りが薄暗くなってきていた。



「これがその公園か……」



 公園の大きさはテニスコート一面程で、そこにあるベンチや申し訳程度に置かれた滑り台とブランコが、全て獅子の形をしていた。

 さらにそれだけにとどまる事は無く、周囲にはビッシリとポーズの違う獅子の石像が並び、内部にも三歩歩けば獅子に当たると言わんばかりに点在していた。



「百歩譲って、獅子の石像が大量に置かれているのはいいとしてもさぁ……」

「アレ全部の目を光らせて、口をガチャガチャ動かすのはどうかと思うっす」

「薄暗いから凄く不気味です……。それにアレ、触ると鳴くみたいですよ」

「そうなんですの? えいっ」

「がお~」

「「「「「「「……………………」」」」」」」



 誰もが想像していた威風堂々とした鳴き声ではなく、明らかに中年男性が「がお~」と鳴き真似しているだけにしか聞こえなかった。

 他の石像もいくつか触ってみれば「がうがう~」「が~~~」「ぐわ~~」などなど、声質は全て同じなのに微妙に一体一体鳴き方を変えてくるあたり、かなり手が込んでいた。



「これは多分、町長の声なんだろうな……」

「ここまでやるなら、もう好きにしてって感じだね。町の人が怒らないのもちょっと解ったかも」

「でもインパクトは有りますね。夢にまで出てきそうですけど」

「だな。じゃあ、ここで記念撮影して次にいこうか」



 住人も不気味だと思っているのか、近くには誰もいない。それにここほど思い浮かべやすい場所も、この町には無いだろうと皆で記念撮影して町を出た。



「観光だけなら面白い場所だったかもしれないですの」

「でも住みたいとは思わないな」



 竜郎の言葉に静かに全員が頷き返し、次の町へと飛び立った。


 次の町の名はティチー。目印は、牧草地帯の中にある小さな島。

 この町の特徴は民家は相変わらずのリベルハイト仕様になっているが、地面は一切舗装されていない牧草地帯で、謎の動物が好き勝手にそこら中うろついていた。

 その動物は鼻が地面に着くほど長く、四本の足が一メートルと長い豚のフォルムで、背中側だけに個々によって様々な色のアフロの様な毛を付けて、のんびり草をんでいた。

 そして良く見ると牧草も手前は普通の緑色なのだが、奥に行くにつれてグラデーションに色が変わっていた。



「ペコムシャですね、あれは」

「ぺこむしゃ? お腹が空きそうな名前だねぇ」

「有名な動物なのか?」

「はい。あれはですね──」



 リアの説明によれば、あの動物は竜郎達の世界で言う羊の様な動物で、この町の住人は背中のモコモコした毛を刈って糸をつむぎ、それを衣服などに流用するのだそう。

 背中の毛の色が個々で違うのは食べた牧草の色で変化するからで、この町はそれに目を付け一切害のない色のついた草を長い年月かけて生み出して、そこでストレスなく放牧する事で、人工ではなく自然についた珍しい色の毛色を持つペコムシャを生み出すことに成功した。

 ただ難点と言えば自然のままに育てているので、狙って珍しい色を出す事が出来ないのだそう。

 無理に一か所に押し込めたり、一方的に草を与えると毛質がボロボロになって商品にならないからだ。

 けれど三百頭に一頭くらいの割合で現れる、美しい毛色に最高の毛質をしたペコムシャ毛は、目玉が飛び出るくらいの高額で取引されるらしい。


 そして肉の味も美味しいらしく、老いたペコムシャは潰して食べられている。

 なので肉の為に育てている町もあるようだが、ここは基本毛を目的にして飼っているので、本当に美味しい肉質の最高級ペコムシャ肉はここでは手に入れにくいとの事。



「へー。隣の国の町なのに、良く知ってたっすね」

「ここはヘルダムドでも有名な町なんですよ。本で読んだ時に、実は一度行ってみたいと思っていたんです」

「なら念願が叶ったってことですの」

「そうですね。そういえば、この町の中央付近には湖があって、その中に人が一人乗れる程度の小さな島があるそうですよ」

「町の中に湖か。それは珍しそうだな。この町では、そこで写真を撮るか」



 という事で、さっそく奥へと進んでいった。その道中、ペコムシャの肉を出す店が有ったので、そこで昼食を取ることにした。



「んー。見た目通り豚肉に近いな」

「だね、生姜焼きにしたら美味しそう」

「生姜焼き。私も、そちらに行ったら食べてみたいです」

「おう、食え食え。そんなに高くも難しくもない料理だからな」



 竜郎と愛衣とリアの三人は、ペコムシャ肉のグラタンの様な食べ物に舌鼓を打ってからは、この町の産業ペコムシャ毛で作られた衣類なども見てみた。



「このセーターなんか、たつろーに似合いそうだよ。買ってみたら?」

「ん? そうか?」

「カサピスティに近付くほどに気温が下がっていますし、ここらで買っておいた方が向こうで浮かないかもしれませんよ」

「それもそうか。アテナなんか黒の短パンに半袖とかだし、寒い所じゃ浮くだろうからな」

「そうなんすか? こういう格好の方が動きやすいんすけどね」



 という事で全員分の寒冷地用の衣服もそろえておいた。ちなみに着る必要もないのだが、カルディナとジャンヌも欲しそうな表情をしていた。

 なのでリアが帽子とセーターを編んでくれることになり、二体は嬉しそうにしていた。


 そんな風にセーターなどを購入したりと、そこそこ観光も楽しんだ後に目的の場所にたどり着いた。

 そこは窪地に水を溜めたような湖で、広さは野球ドーム程の大きなもので、何匹かのペコムシャが水を飲みにやってきていた。

 牧歌的な風景に癒されながら湖の中心部に目を凝らすと、リアが言っていた通り小さな島がちょこんと浮いていた。



「人が飲んでも平気なくらいきれいな水で、魚もいるな」

「どこどこ?」

「あのへんだ」

「あっ、ほんとだ。食べられる奴かな」

「うーん。美味いかどうかは置いておいて、毒はないな」



 先ほど食べたばかりなのに、もう食べ物の話をしている二人にリアが苦笑いしていると、青色の毛をしたペコムシャが無警戒に近寄って、奈々に向かって長い鼻を押し当ててきた。



「随分人懐っこいんですのね」

「この町でペコムシャに危害を加えれば事故でもない限り罰せられるので、人間は優しくする事は有っても、いじめたりはしないという認識をしているから。ですかね」

「おー。おとなしくって、なかなか可愛いっす~」

「どうせならそいつと一緒に、あの島をバックに記念写真をとるか」

「おお、いいね~。おいで、ペコちゃーん」



 好奇心旺盛なのか、愛衣が手招きするとホイホイとやってきて長い鼻を伸ばして臭いをかいで、大丈夫だと判断したのか愛衣に撫でられるままにジッとしていた。

 その間に竜郎はスマホのタイマーをセットして、真ん中にペコムシャ、その両脇に竜郎と愛衣、その周りにカルディナ達と並んで写真を撮ることに成功した。



「ありがとねー」

「ブェエエエエー」



 豚の様な羊の様な鳴き声を上げながら、愛衣が撫でるのを止めると青毛のペコムシャは去っていった。

 その姿を横目に他にも何枚か風景写真なども取ってから、竜郎達はその町を後にした。


 そして今回リベルハイトで立ち寄った最後の町ヤトゥルッタ。ここは町の中ではなく、その手前の大きな橋が一番印象的だったので、そこを目印にすることにした。

 ヤトゥルッタという町は敷地面積の小さな所で、ひび割れた地面がそこら中に広がった場所に、囲まれるようにして存在していた。

 その罅割れは底が見えない程に深く、人が何もしないで落ちたら死んでしまう場所だった。現に足を滑らせ人が落ちたり物を落としたりと、不都合な事が多々起きていた。

 そこでヤトゥルッタは罅割れのない地帯から、町の前までに大きな一本橋を造ったのだ。



「でっかい橋だねー」

「橋の上でサッカーが出来そうだな」



 そう言う竜郎達の目の前には町の門まで伸びる、長さ200メートル、幅100メートルほどの巨大な橋が強烈な存在感を発していた。

 そして町壁の奥に目をやれば、三つの巨大な円柱の塔が上に1200メートル程の高さまで伸びていた。



「凄いインパクトですの。町の中よりも、ここで写真を撮っておいた方が覚えていやすい気がしますの」

「巨大な三つの塔をバックに、巨大な橋の上でってか。確かに、これを超える光景が中に広がっているとは考え辛いな」



 塔の上からの眺めも絶景そうではあるが、高い所からの景色はジャンヌの背中の上から見ているので新鮮味も無いだろうと、結局ここで記念写真を撮ることにした。

 その最中に通行人に何をしているのだろうという視線を何度か向けられたが、気にせずにパパッとスマホに写真を保存した。

 それからせっかくなので、町の中も覗いて行く事にした。


 町に入ると見えるのは巨大な塔だけで、一番下の地面にはそれ以外に何も立っていなかった。

 なので一番手前の塔に入ると、そこの一階は冒険者ギルドになっていた。今の所用は無いのでそこを出て、今度は塔の横に巻きつくように設置された螺旋階段を上がって行く事にした。


 そうして解ったのは、二階から十二階までは商会ギルドの店が入り、その上も人が暮らす居住区ではない様子。

 そして螺旋階段の三階に一つのペースで、他の二つの塔に渡る橋が架かっており、町人は下に降りることなく塔と塔を行き来して生活しているらしい。



「町の面積が狭い分、上に生活圏を広げていった結果、こんな風になったんでしょうね」

「この塔の耐震強度は大丈夫そうっすか?」

「ええ。さすがに塔自体はしっかりと建てられてますね」

「ここで手抜き工事なんかしたら、とんでもないことになるだろうしな」

「自己責任だけじゃ、負いきれないよね。でも、塔の上に立ててる家は相変わらず妙ちくりんなのばっかだけど」



 そんな事を話し合いながら頂上目指して登っていくと、三つのうち一つの塔は屋上が開放されて展望台の様になっていたので、さっそく行ってみた。

 するとちょうど夕日が沈み始める頃あいで、中々に見栄えのいい景色が広がっていた。

 なので最後にそこでも写真を数枚撮ってから、この町を後にするのであった。

次回、第310話は8月30日(水)更新です。

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