第308話 暑い町
リベルハイトにて竜郎達が寄った四つの町々。
名称は寄った順にエアリモ、イマテコン、ティチー、ヤトゥルッタ。
これらに立ち寄ったおかげで、竜郎がいつか《時空魔法》を取得して転移を使えるようになったら、リベルハイトのヘルダムド側からカサピスティ側までの国境までの間を、およそ五分の一ずつ進んだ場所に行けるようになったはずである。
まずエアリモ。
ここでの記憶の目印は、熱風が吹きだす巨穴。
この町は外壁に入った途端に体感で解るほど、外よりも気温が高かった。
そして至る所に赤色の地表から長さ十メートル、直径三十センチほどのパイプが刺さった妙な町だった。
「この町、ちょびっと暑いねー………ん? あのパイプは何かな?」
「さあ? でも何か熱風がパイプの先から出てるから、何かの排熱口の役割を担っているんだと思う」
「町の気温が高いのは、そのせいですね」
愛衣の疑問に対して竜郎が解魔法で軽く調べた結果を告げると、リアが額に滲み出した汗をぬぐいながらそう言った。
ちなみに竜郎と愛衣は称号効果で暑さに適応してしまったので、最初に熱いと感じて直ぐに何とも思わなくなった。
けれど通行の邪魔にならない様にはしているようだが、見渡すだけでも地面からポコポコ生えているパイプは異常そのもの。
少し立ち寄ったら次に行くつもりだったのだが、気になったのでそこだけでも調べておくことにした。
竜郎がカルディナと一緒に闇と解の混合魔法で誰にもばれないように、熱風の発生源をたどりながら町の奥へと進んでいく。
そこで思った感想はと言えば。
「何か妙な建物が多いですの」
「何と言うか、見ていて落ち着かないっす」
ヘルダムドの町の様に普通に箱型や、三角屋根型の家もあるにはあるのだが、それでも大概はショッキングピンクに金のラメが散りばめられていたり、家は小さいのに一面金箔が張られた家など自己主張が非常に強い。
さらには捩じった手拭いの様な形状の物を、地面に縦に突き立てた様な奇抜な形や、どこの原始人?とでも言いたくなるような丸太を三角錐型に組んだ家をそのまま巨大化させた様な形状をしていたりと、どれもこれも統一性も協調性も皆無な建物が乱立した街並みだった。
ホルムズも一軒たりとて同じ建物は無かったが、それでも町並み自体も作品の様ですらあった。だが考え無しに建てられた場合、こんなにもチグハグになるのかと、竜郎は改めてセンスの大事さを痛感した。
「こちらは特に建物に制限は無いみたいですからね──って、あの家……」
「あの家がどうかしたのか?」
リアが目に留めたのは大きなサイコロの様な正六面体の上に、それよりも少しだけ小さくなった正六面体を、さらにその上にそれよりも小さな正六面体を……と、合計八個の立方体で出来た民家だった。
「横着して癒着してない階が有りますね。あれじゃあ、かなり強い突風が吹いたら倒れてきますよ……。
うちの国では絶対にありえない建築物です──あ、あれも耐久に難ありですし……」
「まるで目立ったもの選手権だね、ここは」
その家から数十メートル先に見える建物も、柱の数が構造物に対して少ないらしく、倒壊の危険もあるらしい。
「もしこの国で宿屋に泊ることが有ったら、家の耐久度を調べてからにしよう」
「それがいいですの」
「門にいた人が自由とか自慢げに言ってたっすけど、流石にこれはダメっすよね」
「事故が起きたら誰が責任とってくれるんだろ」
その問いにはこの国で暮らしたことのないメンバーしかいないので、誰も答えられずに町の奥へとさらに歩を進めた。
ちなみにその答えはと言えば、「自己責任」である。自由が故に責任は全て個人であり、国や町は関係ありません。ということらしい。
建物の倒壊で誰かが死んでしまった場合、その建物の所有者が全ての罪を背負う事になり、国も誰も一切庇ってくれないし、庇えない。
「ん? なんかさらに熱くなってきた?」
「適応しているはずなのに熱いって感じるって事は、そう言う事なんだろうな。
リア、大丈夫か?」
「え、ええ。何とか」
奥に進むにつれて擦れ違う人が減って温度は上がっていき、この町に来るまではヘルダムにいた時よりも涼しいくらいだったのに、いざ竜郎が解析してみれば気温にして39度にもなっていた。
リアも称号を得た結果、本人曰くゴーレム気味のドワーフになったらしいので、普通の人間よりは暑さや寒さに少し強くなっていたが、それでもこの温度は厳しいようだった。
なので竜郎は慌てて風と氷の混合魔法で自分達の周りだけを冷たい空気が流れる空間にして、そこだけ温度を25度まで下げておいた。
「おーひゃっこくなったー」
「ありがとうございます。兄さん」
「なに、俺達も別に適応しただけで、快適って訳でもないからな」
称号効果によって平気な体になるはなるが、普通に常温のほうが気持ちいいと感じるのは変わらないのだ。
竜郎達の周囲だけクーラーが効いた部屋の様に快適になり、歩調も速くなっていくと、向こう側からこの暑い中、頭と上半身に鎧を着こんで、腰に剣を佩いた中肉中背の男の二人組がやってくるのが見えた。
その二人はやはり熱いのか、手には団扇らしきものを持って、自身を仰ぎながらダラダラと歩いていた。
「この町を巡回中の兵隊さんっすかね。同じ鎧に同じ剣を身に着けてるっす」
「だと思いますの。それにしては、随分やる気が無さそうですが」
「まあ、俺達の周り以外だと40度いってるみたいだし、そんな中で鎧着込んで歩けって言われたらああもなるだろ。と言うかよく倒れないな」
「だねー、私だったら逃げてるよ絶対」
そんな風に二人組の男達に揃って視線をやっていると、向こうもあと少しで擦れ違うという所で、ようやく竜郎達に気が付いて声をかけてきた。
「やあ、君たちは冒険者かい?」
「はい。全員そうですよ」
「へえ、まだ若いのに大したもんだ。あれ? ……というかこんなトコまで来ちゃって熱くないの?」
「魔法で調整してるからへっちゃらだよ」
「魔法で? ──おお、こりゃすごいや」
説明するよりも早いと竜郎は魔法の範囲を広げて、二人もその中に収めて涼ませた。
すると男たちはガバッと頭の鎧を脱いで、下げていた横掛けバッグからタオルと水筒を出して汗を拭き水分補給すると、嬉しそうに礼を言ってきた。
「いやーありがとう。その若さで冒険者やってるだけあって、実力者って訳だね。
俺達もこれ位の事が簡単に出来れば、もっといい仕事に就けただろうなぁ」
「それを言うなっての。悲しくなるだろーが」
最後は愚痴っぽくなっていたが、それでも二人は笑っていた。
中々話しやすそうな二人組だったこともあり、竜郎は一つこの町について尋ねてみることにした。
「あの、礼と言ってはなんですが、何故この町にはこんなに熱風がでるパイプが刺さっているのか聞いてもいいでしょうか?」
「え? ああ、それはだね」
男達の話によると、ここよりさらに奥に行ったところに巨大な穴が開いており、そこから絶えず熱風が噴出しているらしい。
何もしないでそれを放っておくと、そこだけ凄い温度になってしまうので、穴に蓋をして風をあちこちに散らす事にした。
それがあのパイプの正体らしい。だがそのせいで、町全体の気温が上昇してしまったのだとも付け加えられた。
そんな所に態々《わざわざ》町を作らんでもと竜郎達は思ったし、排熱は町壁の外にやるようにすればいいのにとも思ったのだが、それにも理由はあるらしい。
「あれはこの町の武器にもなるのさ」
「武器ですか?」
どうやら町中に突き出しているパイプに接続する道具が有り、それによって熱風を相手に浴びせられるので、レベルの低い一般人でも持たせるだけでそこそこ戦えるようになるらしい。
現にそれによって悪漢を退治したり、侵入してきた魔物を退治した事もあると言う。
さらに隣国ヘルダムドとリベルハイトが険悪だった時期が有り、戦争に発展した時も、この町でヘルダムド兵たちを食い止めた事もあるのだという。
「ま、そのかわり町の中は年中暑苦しいんだがね」
「ってことで、この先はもっと熱くなるし、蓋をされたでかい熱風穴しかない。
んでもって、そんな事をするとは思っちゃいないが蓋に悪戯されても困るんだ。
だからこれ以上先に関係者以外を入れるわけにはいかないんだよ。
悪いが引き返してくれるかい?」
「あー、そうなんですね」
竜郎は兵たちの言う事を素直に受け止めた──フリをしながら奈々を見た。
その視線で何がしたいのか理解した奈々は、竜郎と一緒に呪と闇の混合魔法で、黒く光る球体を二人の前に生み出した。
「でもせっかくなので、その穴を見てみたいんです。壊したり悪戯したりなんかしませんし、通ってもいいですよね?」
「…………え? ああ…………、そうだよな。べつにいーよな」
「………………ああ。だいじょうぶだろ。いいよ、行っといで」
「ありがとうございます」
「うわぁ。何か目がすわっちゃってるけど大丈夫かな?」
「わたくし達が視界から消えれば、何事もなかったように戻りますの」
どうせ来たのなら、その珍しい穴を見てみたくなった竜郎は、二人に呪魔法をかけて竜郎達は通っていいのだと思考を誘導したのだ。
その結果、二人は黒い球体を見た瞬間、催眠術にでもかかったかのように目がトロンとすわっていき、言われるがままに竜郎達を通して歩き去って行った。
けれどちょっと悪いかなと思った竜郎は、精霊魔法で少しの間だけ二人の周りを涼しくするように頼んでおいてから、その風穴を目指した。
奥に進むほどに、またさらに気温は上がっていき、現在では52度まで上昇していた。
そんな環境でも竜郎の魔法で快適に進んでいくと、やがて大きなマンホールの様な物を発見した。
とりあえず竜郎とカルディナで探査して、その下がどうなっているのか調べると、そのさらに奥に目的の穴が有るようだ。
なので遠慮なく蓋を開けて全員でマンホールの下に降りて行った。
するとそこには広大な地下空間が広がっており、その中央には真っ赤なマグマの様な光を放つ直径三十メートルはある円形の蓋と、そこから見慣れた管が何本も彼方此方の地上に向かって伸びていた。
「凄い空間だな。ここの温度は大体83度くらいあるぞ」
「うげっ。いるだけで火傷しそうだね。んで、あの蓋は溶けたりしないのかな。
鉄を溶かした時みたいな色してるけど」
「あれは耐熱と頑丈さを兼ね備えた特殊な合金みたいですね。だからあのままでも、後二十年くらいは持つはずです」
愛衣の質問に《万象解識眼》を使いながら答えると、リアはその蓋に使われている合金について「あれにあれを、あの比率でまぜたんですね。興味深い」などと呟きながらメモを取り始めた。
それが一段落着いたら、ジャンヌにも出てきてもらって、皆で蓋の前で記念撮影した。
「こうしてスマホの中に行った場所をデータとして纏めておけば、忘れて上手く思い出せなくなっても大丈夫って訳だ」
「帰ったらアルバムが作れそうだね。はい、たつろー。笑ってー」
「にっ」
愛衣がスマホを構えて竜郎を撮ろうとしてきたので、態と変な笑顔を浮かべた。
「ぶっ。もっと普通に笑ってよー!」
「いただきっ!」
「あっ。もーずるーい」
その変な笑顔に素の表情で愛衣が笑った瞬間、竜郎はすかさず笑顔の写真を撮影した。
それに愛衣はぶー垂れながら口を尖らせると、それも可愛いと竜郎は連写で愛衣の顔をまた撮影。
それに怒った愛衣が、その変な顔の写真を削除しようとしてくるのを、竜郎は全力で死守してみせた。
そんな目の前でいちゃつくバカップルに、リアは一言。
「何もこんな所でイチャつかなくても……」
「どこでも仲がいい二人は最高ですの!」
「ピィー」「ヒヒーン」「まったくっす」
「こちらも相変わらずですね……」
魔法で熱を防いでいるとはいえ、リアにとっては危険地帯に変わりない。
なので早く出たいと思ったのだが、竜郎と愛衣はさらに十分間そこでいちゃつき続けたのであった。




