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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第七章 黒菌編

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第307話 自由の国リベルハイト

 ルドルフに別れを告げた一行は、補給物資もこの町にいる間にたんまり溜め込んであるので、そのまま顔見知りになった兵に惜しまれながら町の外へと出た。

 頃合いにすれば昼と夕方の間くらいなのだが、極夜の日なので周りは夜だ。

 けれど隠れて移動するならこちらの方が都合がいいと、足早に人気の無い場所に行き、ジャンヌに背負って貰った空駕籠に搭乗した。



「それじゃあ、ジャンヌ。高度を高く保ちつつ、今向いている方角へ真っすぐ進んでくれ」

「ヒヒーーーン!」



 一番前のフロントガラスの部屋から、竜郎が伝声管で外のジャンヌへ伝えると、翼を広げて雲迷彩を発動させた状態で、ゆっくりと離陸して高度をグングン上げていった。

 かなり高い所までやってくると、ジャンヌは真っすぐ水平に、体を傾けない様に気を付けながら進み始める。

 そうして完全に安定軌道に入った事を確認した後は、竜郎と愛衣はそのままここに残って夜空のデートを、リアと奈々は作業が有ると言ってリクライニングシートのある一番広い空間へ、アテナは小虎になってシートにうずくまってくつろぐべく奈々の後ろをテコテコついていった。



「なんか贅沢な光景だよねー。もし元の世界でこんな風景を観ようと思ったら、飛行機のパイロットになるしかないだろうし」

「ヘリコプターなら相乗りで観られそうだが、こんな風に二人っきりでのんびりってのは出来ないだろうしなぁ」

「うん」



 二人は空駕籠の一番前方部分に立ち、竜郎は愛衣を背中から抱きしめ、愛衣はそっと体重をかけながらフロントガラスから見える一面の夜空を眺めていた。

 そして竜郎がギュッと腕に力を込めると、愛衣も腰に回っている手をギュッと握り返して、そっと振り向きキスをした。

 それからはギュッとするのがキスをする合図だとでも言うように、二人は夜空を見ながらキスがしたくなれば無言で腕に手に力を入れて、何度も何度も飽きることなくじゃれあった。



「お山に行く前に、一個国を通り過ぎてくんだよね。このまま一気に行く予定だっけ?」

「いいや。どうせなら等間隔にいくつかの町によって、転移できる場所を増やしておこうかなと思ってる」

「何かの時に行きたくなるかもだし、その方が良いかもね」

「ああ。と言っても、ちょっと立ち寄るくらいで済ませるつもりだけどな。

 残りSP的に時空魔法までの道のりが見えてきてるし、風山で一気に近づけたい」

「どうせ観光するなら、SP集めとか気にしないでしたいしね」

「そう言う事だな──ん」



 そこで愛衣が竜郎の手をギュッと握って振り向いてきたので、それに応えてキスをした。

 そんな風に何時間も立ったり座ったりしながら、くっ付きあっていると、やがてヘルダムド国の国境の真上を通り過ぎたのを確認した。

 ここから少しの間は、何処の国にも属していない地域の上を行く事になる。



「ヘルダムドとリベルハイトの間くらいの場所で、今のうちに一旦降りて転移用のポイントを造っておきたいな」

「そこまで後どれくらい?」

「このスピードだと十分ちょっとだな。おーい、ジャンヌー」

「ヒヒーーン?」



 そこで後もう少ししたら、一度停止してくれるようにジャンヌに伝えた。

 特に見るものも無いヘルダムドとリベルハイトの交易用の道があるだけなので、このままジャンヌには待機して貰って、竜郎と愛衣だけで着陸して場所を覚えたほうが効率がいいからだ。


 予定通りジャンヌが停止すると、ちょうど良さそうなポイントをカルディナと探っていく。

 転移したら目の前に人がこんにちは。では少々困るので、人目の無さそうな場所が望ましい。

 呪魔法で誤魔化せばいいのだが、そんな事をしなくてもよさそうな場所が有るのなら、それに越したことはないのだから。

 交易路付近では今日は極夜の日と言っても、もう時間的にも夜だと言うのにポツポツ人の反応が有るので、明るい時間ではもっと多いだろう。

 となると、その辺りから外れた場所をとなってくる。



「ピィー」

「ん? ああ、確かにこの辺ならいいかもな。目印もあるし」



 カルディナが《分霊:遠映近斬》で見せてくれた映像を覗き込むと、そこには三本ほどの木がくっ付いて出来た大きな木が映されていた。

 そこはここからそこそこ離れてはいるが、国同士の境目の普通は誰も通らない舗装されていない場所にあるので、思い浮かべ易い上に人目も少ないと好条件だった。



「じゃあ、ちょっと行って来るな。カルディナ、ここの見張りを頼む」

「ピィュー」



 そう言うと竜郎は愛衣をお姫様抱っこし、扉を開けて外へと飛び降りた。

 重力に従って落ちていく中、月読にお願いしてセコム君を操作して貰い、水の六枚翼を背中に広げると、天照と一緒に風魔法を起こして一気に目当ての木が有る地点にまで飛んで行く。



「ひゃっはーーーー」

『またこんなにスピード出しちゃってまあ』

『障害物とか無いから平気だ!』



 竜郎の悪癖によってグングンスピードを上げていき、最後の方は横回転や螺旋軌道を描き、あっという間に目的のポイントに到着した。



「とーちゃっく!」



 竜郎の腕の中で愛衣が元気よくそういうと、地面近くでぴょんと飛び降りて着地した。

 それに遅れて竜郎も到着すると、二人で大きな木を見上げた。



「あははっ。でっかいねー!」

「どちらかと言うと、でかいと言うより太いって感じだが」



 高さだけ見ればもっと高い木はあるだろう。けれど普通の木をゴボウとするのなら、この木は三本のダイコンを捩じるようにしてくっ付けた、横にドンッと太い幹をしていた。

 中々に見ごたえのある堂々とした佇まいに二人は、少しの間触ったり見たりして、最後にスマホで写真を撮った後ようやく戻ることにした。


 また竜郎が翼を生やして空に上がっている最中、その腕に抱かれていた愛衣がふと遠見の目に小さな明かりを捉えた。

 その事を竜郎に告げると、「ああ、それか」と既に知っている反応だった。



「あれは何処の国にも属さない、または属せなかった人達の集まりなんだと思う。

 町みたいに安全に暮らせるわけじゃないし、他人が守ってくれるわけでもない。

 けれど何処の国の方にも属してないから、自由な人達って事みたいだな。

 そして元犯罪者もいるが、その大半は建国の際に国に属することを拒んだ先住民族の生き残りだとかで、年々数も減っているらしい」

「へー。よく知ってんね。いつの間に調べたの?」

「暇な時にリベルハイトについての本を読んだんだ。その時に、国境と国境の間にそういう人達がいるっていうのも書いてあったんだ」

「そゆことね。でも国の外だからって放置されてるって事は、危ない人達ってわけじゃないのかな」

「偶に盗賊行為に及ぶ奴が出てくるらしいが、そういう輩は冒険者とかに直ぐ始末されてしまうから、向こうも平穏に暮らすために大人しくしていると本には書かれてたな」

「そう言う人達もいるんだね。大変そうだ」



 けれど所詮は他人事なので、それから特に気にする事無くカルディナ達と合流した。

 それから翼を畳んで空駕籠の中に戻り進んでいくと、リベルハイトの国境から出ている解魔法に気が付いた。

 国境を勝手に越える者がいないかと、二十四時間体制で解魔法使いが詰めているらしい。

 これはヘルダムドを越える時もそうだったので、特に気にする事無く同じように探査魔法が届かない程の高度を保ったまま通り過ぎようとも思った竜郎。

 だがどうせなら玄関口を観察して、衛兵などのその国の人間性も見ておこうという話になって、ジャンヌに国境近くで着陸して貰った。

 時間的には深夜なので、当然門はしまっている。今から訪ねても開けてはくれないだろう。

 なのでここで家を出して夜を越した後に、堂々と門をくぐる事に決めた。


 そうして家を適当な形に整えて《無限アイテムフィールド》から出して設置して、認識阻害のアイテムを起動させて外からは見えなくした。

 それから中に入ると、空駕籠の中でずっと図面を引いていたリアが竜郎に話しかけてきた。



「兄さん。ちょっとお願いが有りまして」

「ん? なんだ?」

「えーとですね。以前私の足になる魔道具を造りたいと言ったじゃないですか」

「言ってたねーそんな事」

「はい。それでですね、色々試行錯誤して、どんな物にするかを決めたのはいいんですが、それを実現させるのにある物が必要だと解ったんです」

「そういう言い方をするって事は、かなり珍しいものなのか?

 むしろ持ってないやつとか?」

「いいえ。実は10レベルダンジョンのボス竜の魔石が欲しいんです。丸々一つ。あれは複製できますかね?」

「あー多分できると思うが、ちょっと待ってくれ」



 人の手が入った加工品は、《無限アイテムフィールド》の機能でもコピーはできない。

 そしてダンジョンで戦った竜のボスの魔石は、見た目こそ加工されたようだが人の手は入れていない純粋な魔物の素材のはずだ。

 なので出来るだろうとは思いつつも、雰囲気が他と違うので心配になったのだ。

 けれど竜郎の不安も杞憂に終わり、あの命の脈動すら感じるほど力強い存在感を放つ魔石を三つに増やす事が出来た。

 なので一個を残して二個リアに渡した。



「一個で良かったんですよ?」

「まあ、また何かに使えるかもしれないし、予備として持っていたらいい。

 コピー元はまだあるし、複製ポイントも余裕があるから好きに使ってくれ」

「では有難く使わせてもらいますね、兄さん」



 竜郎から受け取った竜の魔石を二つ《アイテムボックス》に、リアは嬉しそうにしまいこんだ。

 それからは適当に寛いだ後、カルディナ達が見張ってくれるので、竜郎達は安心して眠りについた。


 朝と言うよりは昼に近い時間帯に起きた竜郎達は、食事をとったらカルディナは竜郎のポケットに、ジャンヌは竜郎の中に戻して、リベルハイトの国境にそびえ立つ門まで歩いていった。

 大きな壁に付けられた大きな門は四つ仕切りがされて、それぞれ商人、冒険者かただの旅人、自国民、身分の高い人に分けて身分証を確認していた。

 竜郎達ならほとんど誰も並んでいない身分の高い人ようのレーンに並んでもいいのかもしれないが、自分からあそこに並んで断られたら恥ずかしいので、普通の冒険者や旅人用のレーンに並び始めた。

 竜郎達は雑談しながら並んでいると、思っていたよりも早く順番がやってきた。


 冒険者達を相手にするという事もあってか、他のレーンよりも屈強な肉体で強面の男が二人控えていた。

 


「身分証の提示をお願いします」



 見た目に反して穏やかな声に若干驚きながらも、竜郎達は素直に身分証を提示して見せた。



「これは──。ようこそ、リベルハイトへ。我が国は貴方達を心から歓迎します」

「はあ。ありがとうございます」

「しかし高ランク冒険者の方々と、そのお連れの方々なら、あちらのレーンでもよろしかったのですよ」

「ああそうなんですね、次からはそうしてみます」

「はい。その方が我々もあまり驚くことは無いので。

 それにしても、やはりヘルダムドは窮屈だったでしょう? しかし我が国は自由の国。

 人々に危害を加える様な事は流石に許されませんが、そう言ったこと以外ならヘルダムドの様に法で禁止されているからなど、口やかましい事は少なくいい国ですよ」



 人工魔石を開発できた今でこそ魔石関連の規制が緩まってきているが、それでもまだリベルハイトの方が自由度が高い。

 そのかわり買い取り価格があちらよりも安いのだが、私的利用にも寛大なのでそこだけ取ってみても規則が緩い国らしい。


 他にもヘルダムドでは家の高さ制限や敷地面積なども、その人物の所得や身分で決められていたり、町の景観を著しく損なう物なども禁止されていた。

 さらに商売を始めるにしても、特定の町を除いて申請などがめんどくさい。

 だがこの国では、高さ制限も敷地面積も関係なく、自分で調達できたのならどんな奇抜な家でも下品な形の家でも許されるし、商売も最低限の資金を持って書類を一枚提出すれば簡単に始められるし、売っていい物の範囲もこちらの方が広い。


 そんな自由が売りの自慢の自国に、高ランク冒険者が他国からこちらを選んでくれたのだと思った衛兵二人は、鼻高々に竜郎達を通してくれた。

 竜郎達にとってはただ向こう側の国に行くための通過点に過ぎないのだが、そんな事を説明する必要もないので、いい気分のまま放っておいた。


 そうして分厚い壁のトンネルを潜りぬけると、そこには六方向に延びる石畳が整備されており、その先にこの国の町々が有る様だ。

 他国の人間を見ておきたかったのだが、やはりそんなには違わないんだなと目的も果たせたので、それから人目の少ない所まで行き、再び空駕籠に乗り込んで真っすぐ国を斜めに横切るように進んでいく。

 皆で話し合った結果。リベルハイトには国境から国境までの間に、飛行ルートを四分割した所に当たる四つの町に寄って、この町の転移ポイントを作っておくことにした。



「帰れた後は色々探索したいしな」

「そうだね。いっそのこと新婚旅行は異世界! とかも楽しいかも!」

「地球にも面白そうな所は沢山あるが、それもいいかもなぁ」



 竜郎は頭の中で観光に向いていそうな場所も、「いつか」の為に調べておこうかなと、心のメモに書き留めておくのであった。

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