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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第306話 事の顛末と旅立ち

 美しい花火に竜郎達や、さらに後方にいた人間達まで空を見上げて見入っていた。

 だがリューシテン領主──ドンだけは、この世の終わりだとばかりに目に光なく口元から笑いを零していた。

 そうして一発限りの巨大な花火ショーが終わると、竜郎はドンを解放して何もなくなった広大な更地に無造作に転がした。



「はっあははっ。俺の城は、どこ行ったんだ? あはっあははっ」

「完全にいっちゃってるね、この人。景気づけにもっとやっとく?」

「いや、それには及ばない。いい気付け薬が有るんだ」

「あ゛、それは──」


 愛衣が天装の扇──幻想花リーナモルテを出して、もっと幸せにしてあげようとしたが、竜郎はそれを止めて《無限アイテムフィールド》から鉄の円柱型の容器を取り出した。

 それが何か思い至ったリアは、うわぁと引き攣った表情を浮かべた。

 リアの反応に竜郎以外の皆が首をひねっていると、さっそく彼は行動に移り始めた。



「まずは邪魔なコレはどっかやって~~っと」



 そういいながら竜郎は杖も使わずに火魔法で、ドンの頭の髪を全て燃やし尽くした。

 けれどちゃんと皮膚は焼かない様に加減したので、された本人はまだ自分が何をされたかも気が付かずに更地を見て笑っている。

 そこで竜郎は樹魔法で体を厳重に保護しながら、絶対に自分には触れない様に注意して容器の蓋を開け、フサフサの枝葉部分で何かの塗り薬らしき赤みがかった黄色い粘液を掬うと、それをべチャッと綺麗な禿頭に塗りたくった。



「ぎゃ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ーーーーっ」



 するとドンは悲鳴を上げて頭を押さえて転げまわろうとするが、動きだそうとした瞬間月読に拘束して貰い、頭全体に綺麗に塗り終えた。

 その間にもドンは頭皮にやすりをかけられながら、熱湯を浴びせかけられたような壮絶な苦痛を味わった。



「えーと。それはルドルフさんに上げたケガハエール?」

「何時の間にそんな名前に……? ってまあ、それはいいか。

 いいや、これは違うよ。そのネーミングセンスで名付けるならケガヌケールかな。

 どうだ。恐ろしい兵器だろ?」

「うわー、兵器かどうか置いておくとしても、男女問わずきついねソレ」

「ケガハエールの製造過程で、私が造ったものですね」



 そう、それは塗ればどんな活発な毛根すら死滅させる脱毛薬。

 ルドルフの為に毛生え薬の開発をしている途中で、実はそちらが完成する前に脱毛剤の方が先に出来てしまった。

 そちらを造って解析してから、毛生え薬に着手する方が効率が良かっただけなのだが、竜郎は何かに使えるかもしれないと取っておいたのだ。


 このケガヌケールは軽く塗っただけでも、六十年は復活しない恐ろしい効果を持っており、治すにはケガハエールの定期的な塗布が不可欠だった。

 そして塗れば皮膚は激しい炎症反応を起こし、毛根を死滅する際には頭蓋骨を削られるような痛みを伴う。

 さらに炎症は生魔法で治るが、毛は生えないと言う強情さも兼ね備えていた。



「さらにこいつはドワーフだ。領主という地位だったら何とかなってたかもしれないが、これから生きていくのに難儀するだろうな」

「ああっ。そっか。ドワーフのぴかりんは、珍しい上に恥ずかしいんだっけ?」

「そうです。人種なら老化と共に誰にでも起こりうる自然な現象ですが、ドワーフだと態とやってる変人と思われてしまったりもしますからね……」

「殺しはダメみたいですし、これで今回は勘弁してやりますの」

「社会的には死んじゃってるっすけどねー」

「くわばらくわばら──んじゃあ、最後に一発殴って終わりにするか」



 そう言って竜郎は死なない様に加減しながら、月読が操るセコム君を纏ったパンチを腹部に浴びせ、肋骨数本にひびを入れる程度で締めとした。

 自分が味わっているわけではないので解らないが、悶えるドンの様子から頭の激痛具合がそれを上回るダメージを与えていたからだ。



「しょうがないから、これでリアに手を出した件だけはチャラにする事にしよう。

 もう用は無いし、後の始末は冒険者ギルドに任せて俺達は行くか」



 竜郎は拘束していたドンを城のあった更地の真ん中に転がすと、一先ずホルムズの冒険者ギルドに終わった事を伝えた方がいいだろうと、ここから撤収する事にした。

 竜郎は愛衣を、奈々はリアをお姫様抱っこして、それぞれの方法で夜空へ月明かりの中でも誰にも見えない高さまで舞い上がっていく。


 そこまで上昇するとジャンヌに空駕籠を背負って貰い、カルディナ以外のメンバー全員が乗り込んでいく。

 そしてカルディナは万一にでも追跡してくるような存在がいないかなど探査しながら、一旦ホルムズへと帰るべく、のんびりと移動していくのだった。




 そんな風に竜郎達が立ち去った後、残された者達は今後どうしたものかと憂う者、冒険者に戻るため、またはなるために去って行く者。と、各々が明日からの生活を考え始めている中。全身ボロボロだったエドゥアール、両上腕の筋肉と骨のみ断たれた状態で痛みに悶えていたので、愛衣に気絶させられていたアンドニは、見知った生魔法使いたちに治療を受けてようやく動けるまで復調した。


 そして目が覚めるなり、ここは何処だと問いかけた。何故なら自分の知っている場所とはもう似ても似つかないからだ。

 そこで城に何が起こったのか知らされた。



「俄かには信じられないが……、あの少年達ならと思ってしまうな」

「だとすると本当に、ここが城のあった場所って事なんだな。

 まじで何も残ってないとか、天災よりひでーな、こりゃ。

 んで、あそこで転がってんのがドン・モロウか」

「おいおい。一応まだドン・リューシテン・モロウ。リューシテンの領主だぞ。まあ、もうそれもあと数日で終わりだろうが。

 それじゃあ君は、これまで纏めた資料とここで起こった事を纏めた報告書を陛下の元に持っていってくれ」

「はっ!」



 回復を行いここまでの経緯と周囲の状況を説明していたリューシテンの兵の格好をした男が、エドゥアールとアンドニの二人に敬礼して、本当の仕事に戻っていった。



「後はアイツを王都につれていくか。このままだと、何処に行くかも解らんからな」

「ああ。そうしよう」



 エドゥアールとアンドニも、ようやく本来の仕事に戻れると今もなお頭皮を押さえて悶えているドンの元へと武器を出して歩いていこうとした──が。



「げっ。そういえば俺の剣は、本当に持ってかれちまったのか!?

 陛下になんて言えばいいんだよ……」

「それは私も同じだ。まさか国宝級の装備品を勝手に賭けて取られましたなんて、なんと陛下に説明したものか……」



 せっかく本来の仕事に戻れると喜んだのも束の間、やはり帰りたくないと憂鬱な気分に押し潰されそうになり二人はトボトボと歩き始めた。

 そしてすっかり変わり果てたドンの前に二人がやってきた。


 すっかり元通り──とまでは言わないが、最低限の行動が出来るようになったエドゥアール達を視界に入れたドンは、急に目に光を取り戻していった。



「──お゛、おいっ。早くあ゛いつらを殺してごい!

 絶対に許ざんぞ……俺に手を出したこどを後悔させてやる………ぐうううう──」

「生憎ですが、それは出来ません。既に──というか、元から貴方の部下ではないですし、我々は貴方を王都ヘルダムドへ連行しなければいけません」

「何だと? 俺を連行? 平民風情にそんな権限があるわけないだろうが!

 解ったならざっざどいけ。金なら後で──」

「全く察しの悪い男だなぁ。エドゥアール」

「ああ」



 そこでエドゥアールとアンドニは、ドンとの契約の時に見せた、王の権限により特別に用意されていた偽物の身分証ではなく、本来の身分を示す証をシステムから表示した。



「私は王直轄部隊──魔法十二衆が一人、アシル・ダンドロー」

「そんで俺は、王直轄部隊──武術十三衆が一人、ヒエロニムス・ミロだ。

 王命において、お前の調査を請け負ってきた。俺達二人の判断が一致した場合、捕縛許可も出ている」

「魔法十二衆に武術十三衆? はっ──、そんな者達が小僧と小娘にやられるわけないだろうが!」

「うぐっ」「ぐはっ」



 ドンが鼻で笑いながら言葉のナイフで急所を思い切りついて来て、身分は嘘でないのだがあんな無様な負け方をした後では、その名誉ある称号が付いているのが心苦しくなった。


 何故ならこの魔法十二衆と武術十三衆は、各属性魔法の中で最も優れた人物、各武術スキルで最も優れた人物に与えられる称号で、王命以外で動く事は無く、それが誰か知っているのも極わずかという特殊な部隊。

 なのでアシル(エドゥアール)は樹魔法でのヘルダムド軍トップ。ヒエロニムス(アンドニ)は剣術でのヘルダムド軍トップという証でもあった。

 ただしヘルダムド国民でヘルダムドの軍に所属している者という条件が有るので、必ずしもその分野での最強というわけではないが、国王の名を背負っている以上、無様な負けは許されないのだ。



「あの少年達を基準にして推し量るのは、問題があります。

 あの子ら──いいえ、あの方々は十中八九、魔神と武神の御使い様でしょう」

「そうだぜ、まったく。でなければ、あれだけ多種多様な武術系スキルに魔法スキルを使えるわけがないんだからな」

「ですね。それにあれほどとなると、余程重要な使命を与えられているのでしょう。

 そうなると貴方は、魔神と武神の二柱の邪魔をしたのかもしれないのです。

 それがどういう意味を持つかくらいは、貴方にだってさすがに解るでしょう?」

「魔神と武神に選ばれし人間達だとでも言うのか……? あんなガキどもが?」



 そこでようやくドンは、二人に手を出したのは不味いのではないかと思い始めた。

 もし本当にそんな大層な者達であり、その二柱から使命を受けて行動していたのなら、ドンのした事は神に仇なす行為と言われてもしょうがないからだ。


 神自身が直接手を下した例は無い。だが、なんらかの神の意志を邪魔した者が、その神の恩恵を受けている全ての人間に殺すように神託を下した例は実際にあるのだ。

 その時は恩恵を受けている者達が、さらに深い恩恵を求めて我先にと競うようにその人物を殺しにかかった。


 当然、怒らせた人物は直ぐに殺され、殺した者はその神から恩寵を与えられた上に、どんな国も罪に問わない──というより問えない。

 それは神の意志であり、どんなに権力を持っていようと、それに背けば先の人物の二の舞になるからだ。


 そして今、名前が挙がった武神と魔神。この二柱は特にヤバい。

 武神の恩寵は、その下に位置する各武術系スキルを持つ全ての人間であり、魔神の恩寵は、その下に位置する各魔法系スキルを持つ全ての人間だ。

 戦闘職でその二柱の恩寵に欠片も預かっていない人間など、この世界には存在しない。


 つまり武神と魔神の二柱同時に怒りに触れれば、世界中の戦闘技術を持った人間が一斉に敵に回る。

 それは目の前の二人も例外ではないし、自分の部下達も該当する。つまり誰も守ってはくれなくなるという事だ。



「あれだけの戦闘や魔法を目の前で見て、それでも復讐しようなんて思えるのはある意味スゲーけどな。

 あれは本物だ。それ以外に説明がつかない。これ以上は、あの二人の事を考える事も止めた方がいい」

「それに私達の実力は知っていますよね。何度も見せてきたのですから、いくら世間知らずの貴方でも一線を画しているという事は理解していたでしょう?

 だから私達を近くに置いたのではないのですか?」

「た、確かに……そうだ…………」

「そんな俺達が手も足も出せずに負けたんだぜ? そうでもなきゃおかしいだろーが」



 そこまで懇切丁寧に説明されてようやく、自分はとんでもない大罪を起こしたのだと理解した。──まあ、勘違いなのだが。



「どどどどどうすればいいっ!? どうしたらいいっ!? 教えてくれ! 俺は死にたくないっ!

 それにおおおお、お前たちだって、邪魔をした事には違いないだろうっ。同罪だ!」

「一緒にするなたわけ。エドゥアール──じゃなかった……え~と、アシルはどうか知らないが、俺が例え任務だからと言って、お前なんかの部下になったのは、王ではなく剣神から神託があったからだ。

 そして俺は結果的に、武神の御使い様が気獣技の極技を使えるようにした。

 それで罰せられるとは思えんからな」

「私は……はっ、そうだ。魔神の御使い様は、私の出した植物を一種採取なされていた。

 特に神託があったわけではないが、あれは御使い様方の手助けになるに違いない!

 神は人間と違って浅薄ではない。きっと帳消し──とまではいかずとも、死を宣告する事は無いはず!!」

「でも明日朝起きたら、樹魔法が無くなってたりしてな」

「──それは困るっ。……だが起こしてしまった事はしょうがない。これから毎日謝罪の祈りをする事にしよう……」



 ヒエロニムス(アンドニ)の冗談交じりの言葉に狼狽したアシル(エドゥアール)は、勘違いだと言うのに毎日死ぬまで謝罪の祈りを続けると誓った。



「なら、おおおお俺も毎日祈ろうっ。いや、祈るだけじゃないぞ。二人の像も作って──」

「像! それは効果があるかもしれませんね。御使い様の邪魔をする気はなかったのだと、形でも示せば許して貰えるかもしれません!」

「そ、そうだろう! ではさっそく──」



 ドンは今ある私財を使って二人の像を作らせようとするが、それはヒエロニムス(アンドニ)に止められた。



「あーアシルは好きにすればいいが、お前は王都に行って陛下に沙汰を下してもらわなきゃいかん。

 悪いが冒険者ギルドもお怒りの様で、さっさと決まりをつけないと、せっかく更なる発展を遂げようとする我が国の行く末も暗くなるんだ。わりーな」

「な──。待てっ、せめて像だけでも作らせて──」

「ダメだ。そんな時間はもうない。アシル、拘束してくれ」

「解った。ドン・リューシテン・モロウ。あなたの案は、私が有り難く採用させて頂きます。

 ──ふぅ、これでお怒りに触れないで済むかもしれないな」

「そんな──むぐっ」



 そうしてドンは抵抗むなしく樹魔法の蔦でぐるぐる巻きにされ、植物ゴーレムが引く車で、急ぎ王都へと移送された。


 この数日後。ドンは正式に領主の座を剥奪。さらに本来なら財産の九割を没収され、仕事を与えられ、平民としてヘルダムドの国のどこかで生きていくだけで良かったのが、冒険者ギルドまで怒らせた事により全財産没収、平民どころか国民として生きる権利まで失った。

 なのでドンは国民としての身分証を消され、これからはヘルダムド国の全ての町に入る事を禁じられた。


 実質国外追放だが、そんな人間を他国へと渡らせるのも外交上問題になりそうなので、関所を越えさせないようにし、魔物が多くいる森へと捨てられ外の世界で生きる事になる。

 そしてそれが執行された数か月の間。ドンは悪運強く生き延びながら、魔物が食べ残した物などで食いつないで生きのびていた。

 だが最終的に激しい腹痛に見舞われ悶えている時に、ただのドンは誰にも気がつかれることもなく、魔物に食われてこの世を去ったのであった。


 そしてドン以外の事で、今回の事件によって新しく起こった事がある。

 それはリューシテンからホルムズへの首都の取り換え。それにより、ホルムズに新しい領主が迎えられた。

 さらにリューシテン領主が長年暮らした城の跡地には、全長二十メートルに及ぶ巨大な金属の像が建てられた。

 それは二人の男女の像だった。

 これは王が、自分の国の領主が神を怒らせたのだから、自分にも何かあるのかもしれないと恐れたからだ。

 だがそれはどちらも本人よりもかなり美化されて、超ド級の美男子、美少女にされているのだそう──。




 そんな自分達の容姿とはかけ離れた馬鹿でかい像が建てられてしまうとは思ってもいない二人は、現在呑気に同じリクライニングシートで抱きしめあいながら眠っていた。

 朝食から日付が変わるまで動きっぱなしで、精神的にも疲労していたからか二人ともぐっすりである。

 そしてリアも別のシートに横たわって、こちらも人心地ついて安心したのか熟睡していた。

 カルディナは最初と変わらず探査魔法を巡らせて警戒し、ジャンヌは三人が安らかに眠れるようにと、出来るだけ揺れが少なくなる様にゆっくり飛行した。

 奈々とアテナはする事も無いので、幼女と小トラ状態でそれぞれシートで寛いで待機した。


 昼近くまで寝てようやく三人が起き始めた。



「ふぁ~。良く寝たぁ~。 あれ? もう夜になっちゃったの?」

「今日はずっと夜の日だよ」



 目が覚めて窓から外を見れば夜だった事に寝ぼけた頭が付いていけずに、そんな事を言っていると、横で愛衣の寝癖を優しく撫でつけながら竜郎が答えを教えてくれた。



「ああ、そういえば光属の日だっけ」

「そういうことだ」



 この日は光属の日。一日ずっと夜が明けない極夜である。

 だが巨大な月のお蔭で明かりが無くても夜道は明るい。そんな夜空を空駕籠に乗って飛んでいき、やがて目的のホルムズの町へとたどり着いた。

 出た時と同じ門から入り真っすぐ冒険者ギルドに行くと、すぐにギルド長の部屋へと通された。

 そしてそこで事の顛末を語って聞かせた。


 ホルムズのギルド長で女性のドワーフ──ヒルデ・ウェバーは、話を聞くにつれて顔は微笑みつつも内心引き攣っていった。

 一日ちょっとで隣町に行って城に攻め込み、人質を救出した上で制圧。そして誰も殺すことなく、跡形もなく城を壊して再び戻ってくる。

 そんな事を普通の人間に言われたところでかたりの類だと切って捨てるだろうが、竜郎達が言うと説得力が有りすぎた。

 さらに竜郎達がのんびりとホルムズに向かっている間に、現在のリューシテンの城がどうなったのか向こうのギルド職員から、鳥型の使い魔経由で連絡がきているので信じるほかない。

 憶測で書かれた部分まで補完してくれた内容なのだから。



「それで今に至ると言う事ですね」

「はい。それで今ので何か問題点とかありましたか?

 ない様なら、そろそろ出立しようと思っているのですが」

「えーと……」



 死者が出なければ何をしても、こちらで対処すると言った手前、死人が出ていないのだから問題が無いかと言われれば無い……のだが、こちらの想定していた範囲を軽く超えていた為、本当に問題が無いのか最早個人では判断が付かなかった。

 どう答えたものかと逡巡する事数秒、「まあ、向こうが悪いんだしいっか」と開き直る事に決めた。



「大丈夫ですよ。ドン・リューシテン・モロウの行った行為には、こちらからも国へ抗議いたしますし、あなた方に迷惑が掛からない様に処理させて頂きます」

「それは助かります。ヒルデさん。今回は色々と手を回して頂き、ありがとうございました」

「いえ。冒険者を守るのも、冒険者ギルドの義務ですから」



 それから竜郎以外のメンバーも礼を言い、軽く別れの挨拶をしてから冒険者ギルドを後にした。

 そして次に向かうのは、この町で一番お世話になったあの人だ。



「おう、どうした。何か俺にようか?」

「いえ。この町を出立することになったので、最後に挨拶をと思いまして」



 今日出立することを、リアに技術を伝授してくれたルドルフ・タイレに竜郎が代表して告げた。

 するとルドルフは、少しだけ寂しそうな顔をしてくれた。



「ああ……そうか。もう行っちまうんだな。

 でもまあ、またこの町に来る事が有ったら顔を出しに来てくれや」

「はい、必ず。ルドルフさんは私の師匠ですから!」

「師匠っても、ほんの数日だけなんだけどなぁ」



 受け取った技術により、リアは大きく成長する事が出来た。そして成長できた分だけ、リアはルドルフに尊敬の念を抱いていた。

 なので日数などは関係なく、たった数日の事だとしても、リアにとってはまごう事なく師匠なのだ。

 そんな気持ちが痛いほど伝わる視線で真っすぐ見られ、ルドルフは照れたようにぶっきらぼうな言い方でそう言って、今やすっかり髪の生え揃った頭をポリポリと掻いた。



「あははっ、照れてるー」

「ううう、うるせぇっ」



 それを愛衣にからかわれて、ルドルフはさらに恥ずかしそうに顔を赤らめた。



「でも本当に、この町にはまた来ると思います。面白い所ですからね」

「ああ、そうしてくれ。楽しみに待ってるぜ」



 その言葉に全員で了解の言葉を告げた。これから元の世界に帰っても、またこちらに来た時には転移魔法もあるので、どんなに離れた場所にいようとも行き来は楽になるはずだ。

 そしてここで金策もしたいと思っているので、なおさらよく来る事になるだろう。

 そんな皮算用を竜郎が思い浮かべていると、ルドルフから話しかけられた。



「そんで次は何処へ行く気なんだ?」

「次は隣国リベルハイトのさらに向こう側の国、カサピスティに行こうと思っています」

「国を一つ挟んだ向こう側か。結構遠くに行くんだな」

「ええ。行ってみたい場所が、そこにあるみたいなので」

「そうか。まあ若いうちは色々観といた方がいいからな。死なない程度に頑張って行ってこいや」



 竜郎もカサピスティの何処とは言わなかったし、ルドルフも聞こうとはしなかった。

 竜郎達の様な力ある存在の行き先情報を詳しく知っていると思われると、妙な事に巻き込まれるかもしれないからだ。



「はい。では、行ってきます」

「いってきまーす」「ピピピッ」「ヒヒン!」「行ってくるですの」「行ってきます!」「またねっす~」

「おう、行ってこい!」



 そうして竜郎達は、この町で縁を深めたルドルフに手を振って、次の目的地──世界最高峰と呼ばれるバンラモンテ山へと向けて旅立つのであった。

これにて第六章の終了です。ここまで読んで下さり、ありがとうございます。

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