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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第305話 心を抉る一撃を

 謁見の間、城の上、城の前、城の内、城の後。それらの制圧がほぼ同時に終わった頃。

 竜郎はエドゥアールの杖を、愛衣はアンドニの剣をそれぞれ自分の《無限アイテムフィールド》などに忘れず回収しておく。

 それを済ませると、この世に勝る者は無しと思っていた二人の無残な姿と、大きな月が見えるようになった吹きさらしの自分の謁見の間に唖然としているリューシテン領主──ドン・リューシテン・モロウの元まで、二人は並んで歩いて行った。

 そしてその頃になってようやく、ドンは正気を取り戻した。



「ききき貴様らっ! よくも我が城をこんなに滅茶苦茶にしてくれたな!」

「そんなの知るか。兎に角、二人は見ての通り戦闘不能だ。これでリアは返して貰えるという事で良いな」



 とっくに確保済みなのは勿論竜郎も知っているが、ドンへの制裁をどの程度にするか計る為にあえてそう言った。

 二人を倒した──それも圧勝という事実に周りの兵や使用人達は、ここでドンが素直に引き下がってくれと心から祈っていた。

 だがドンは、生まれながらにして自分より偉い人間は王族だけだと言われて育ってきた人間だ。

 その認識はこんな状況になっても変わるはずもなく、自分の身に暴力が降りかかるなど想像すらしていなかった。



「ふざけるな! あんな約束無効に決まっているだろう! むしろ城の件は許してやるから、今後俺に従え! 解ったなっ!!」



 ドン以外の城の人間は、これでリューシテン領主は本当に終わったと確信し、ならば自分達は大丈夫なのだろうかという不安から、血の気が失せて倒れる者まで現れた。



「城の件は許してやるだと? ふざけてんのはどっちだよ。

 先に喧嘩を吹っかけてきておいて、いざ負けたら開き直んなよ見苦しい」

「なんだと! 私は領主だぞ。それなのになんだ貴様のその態度──」

「領主が何だっていうんだ。俺はここの領民でもヘルダムドの国民でもない、ただの冒険者だぞ?

 それでも、お前が真面な領主で尊敬できる立派な人間であったのなら敬意を抱いていただろうさ。

 でもあんたは、ただ領主に生まれたから偉いと思ってるだけで、実質そこいらの自分は凄いと勘違いして、周囲に迷惑をかけるチンピラと変わらない愚か者だ。

 そんな人間にとる態度なんて、これでも充分過ぎる。今回の一件が無ければ話す価値すらないんだよ、お前なんか」

「チンピラ……だと? もう我慢ならんっ! 命令だ! こいつらを切って捨てよ!!

 …………………………どうしたっ! 聞こえなかったのか! 早くやれっ」



 領主は並外れた力も持たない一般兵に、二人を殺せと命令する。

 けれどその言葉に動く者がいるはずがない事は、正常な頭を持っていれば誰でも解るだろう。ここで例え生き残れたとしても領主生命短い男の命令に逆らうのと、化物二人に無謀な戦いを挑むのと、どちらがいいかなど明白なのだから。

 兵達は聞こえないとばかりに下を向いて、微動だにしなかった。



「やりたいならお前がやれよ…」

「──誰だ! 今この俺をお前といった奴は!」



 小さく零れたこの場の誰もが思っている言葉を、この場の誰かが小さく呟いた。

 静まり返ったこの場では小さな声も響き渡ってしまったが、誰が言ったかまではドンには解らなかった。

 そして知っていても、それをドンに告げる者は誰もいなかった。

 その事にまた顔を赤らめて怒り出す。



「どいつもこいつも役に立たん! インタイヤはまだ帰ってないのか!

 他の選抜隊を出せっ!」



 と。そう言って何やら城の外で起こった事への対処へ向かわせていた、自分の秘書がまだ帰っていない事に気が付いて怒鳴っていると、ちょうどいいタイミングで目当ての人物が、生気を失いガリガリに痩せ細った状態で壊れた扉から部屋へと入ってきた──後ろに奈々とリアを連れて。



「むっ! 貴様なぜその女を連れてきた! 早く連れて行って閉じ込めておけ!!

 それとエドゥアールもアンドニも役に立たん。別の奴もその時連れてこい。いいな!」



 自分の部下が明らかに異常な状態だと一目見れば解るのに、ドンはリアが部屋から出て普通に歩いている事を問題とした。

 だがそれに対して何も反応せずに、ゾンビの様にフラフラと歩きながらドンの前に立つと、インタイヤは衰弱した老人の様な力ない掠れた声で言葉を発した。



「もうしわけ、ございません…タイレ様……それは、もう無理でございます…………。

 この城の兵及び選抜隊……全滅…いたしました…………」

「そんなバカな冗談を言っている暇があるなら、早く動け愚図が!」

「冗談ではありません……。信じられないと言うのであれば、ご自分の目で、お確かめになられればよろしいかと……」

「貴様も俺を愚弄するか! もういい。自分でやる!

 お前も、お前らも全員処刑してやるからな!」



 真実だけを語っているインタイヤの言葉を信じる事も無く、領主が代々受け継いできた宝剣を《アイテムボックス》から取り出して鞘から抜いた。

 それは装飾こそ華美だが、実際に戦うためには造られていない見せかけだけの剣。そんな野菜を切るにも難儀しそうななまくらな剣で何をする気だと観察していると、竜郎の前までノシノシやってきた。



「何のつもりだ?」

「先ほど言っただろう。自分でやると!」

「周りに見捨てられ、唯一味方でいた秘書の言葉も耳に入れないとか、ほんとうにもう、何処までも哀れで救いようがないんだな。お前と言う男は」

「ほざけっ!!」



 そう言いながら振り上げてきた剣を、月読が自動でセコム君の触手を出してへし折った。



「なっなんてことを! 城を滅茶苦茶にした挙句、我が家の宝剣までも」

「攻撃されたんだから、防ぐのは当たり前だろう。アホなのか?」

「俺は領主だぞ。そんな人間の攻撃を防ぐなど、平民にあってはならんのだ!」

「はぁ。もういいや……めんどくさい」



 ここまで頭がいかれた人間と話すのは初めてなので、竜郎はどうやって自分のした事を後悔させたらいいのかと悩んでいた。

 あまりにも馬鹿すぎて、ただ暴力を振るった程度では心に響かせられないからだ。

 けれどここまでの話を聞いてようやく、まずは(・・・)心を抉る方法が浮かんできた。



「なあ、さっきから城城いっているが、この城がそんなに大事なのか?」

「当たり前であろう! この城こそが俺の権威の証なのだ!

 これほどの場所に住めると言う事が、他の人間との違いを表しているんだからな!」

「ほうほう。それはいい事を聞いた」



 繋がりのない話を急にふっても、特に疑問を感じる事なく素直にドンは竜郎に答え、それに竜郎はニヤリと笑った。

 その笑みで、ドン以外の人間は何をする気なのか察しがついて、一斉に逃げ始めようとした。

 だがそこで空から威圧しながらカルディナがやってきた事で、全員の動きが凍りついて止まった。



「おっ。ナイスタイミングだ」

「なんだ、あの魔物は!」

「あれ? 弱っちいくせに何で威圧が効いてないんだろ?」



 う伸うと地位に胡坐をかいて生きてきたのであろう、一般兵よりも弱いはずのドン。

 だと言うのに一般兵ですら硬直している中で、何故かカルディナの威圧を前に平然と動いていた。

 それを何故かとリアが《万象解識眼》で確かめてみるが、特殊なスキルなどの何かが有るわけでもなかった。

 どういう事だろうと考えながら、これまでのドンの行動を反芻し、リアは一つの仮定にいきついた。



「おそらくですが……。もの凄く鈍感で、それに加えて思い込みの力というやつが働いているのかもしれません」

「それだけですの? 思い込みやらなんやらで、どうにかなる様なものではない気がしますの」



 竜から放たれる威圧感は、言うなれば生物としての本能に訴えかけるもので、同格以上かそれに近い者でなければ抗う事は基本的に出来ない。

 だが遺伝的なものもあるのかもしれないが、生まれた時からちょっとした──それこそ誰もが生きていれば味わうような、低レベルの危険すら味わう事のない超箱入りの引き籠り生活を何十年も過ごした結果、生物の持つ危険を感じ取る本能が薄れてしまったのだろう。

 さらにそこへ自分より偉い存在、勝てる存在が王族以外にいないという思い込みが加わって、下級の竜ですら硬直する威圧の中で平然としていられるのだ。



「まるで危機意識のない奴だとは思っていたが、そこまでいけばある意味才能だな…。と言うか、そんなんでよく《危機感知》が覚えられたな」

「馬鹿は強いって事だね!」

「その通りなんですが、そう言ってしまうともうほんと……身も蓋もない」



 そんな事を言いながら、今もなお空にいるカルディナに向かってギャーギャーみっともなく騒いでいるドンに視線を向けた。

 ある意味凄い才能だが、絶対欲しくはないなという思いを込めて。



「まあいいや。カルディナ。探査を一緒に頼む」

「ピュィーーー!」

「なんだ。これは貴様の物か。なら──モゴゴゴ」

「うるさい。お前は特等席で見せてやるから、黙ってそこで待ってろ」



 月読によるセコム君操作で口を塞ぎ四肢を掴み、そのまま凧のように触腕を伸ばして、城の全てが見えるくらい空高くまで伸ばして放っておく。



「これで五月蠅いのは消えたな。じゃあいくぞ」

「ピィー」

「探査────────ん、完了。それじゃあ、天照」



 竜郎はカルディナと一緒に、城内部とその付近全てに探査をかけて、何処に何が誰がどのように存在し、地図すら描けるほど城の構造も調べつくした。

 そうして下準備を終えた所で、今度は天照に魔法のイメージを伝えていく。

 それにコアを点滅させながら応じ、直ぐに望んだ魔法を発動させた。


 竜郎の握る杖──天照のコアの方を頭上に高く掲げると、傘骨を展開。

 そして傘骨達がそれぞれ違う方角に先端を向けると、その一本一本から極細で強力なレーザーカッターが何本も射出され、城自体を誰も傷付ける事なく、全部を細かく操作しながらズタズタに切り裂いていく。



「今!」



 そしてバラバラに切り裂かれた城が崩れそうになる瞬間、竜郎は有り余る竜力をガンガン天照へと送っていき、城とその周辺全てに重力魔法を発動。

 天照の演算能力を借りながら、自身も多重思考を発動させて分割された城のブロックと人間、そしてついでに貴重品をパズルのように組み替えながら移動させていく。

 竜郎達はドンよりも低い位置だが上空へ重力魔法で移動し全体が見える位置へ、ドンを除くそれ以外の人間たちは、城のあった場所から離れた所に配置。

 城を構成していたブロック達は一つの場所に纏めて山積みにして、城跡地の隅に配置。

 宝物庫にあった貴重品などはパズルのように組み替えている作業のどさくさに紛れさせながら、巧妙に竜郎の《無限アイテムフィールド》に配置……という名の慰謝料徴収。



「ふう。これでよしっと」



 完全に仕分け作業が終わったら、竜郎達は人を配置した場所と、元城の塊の間にゆるやかに着地した。

 そして全てを終えて、暇そうに待機していたジャンヌとアテナとも、その時に合流した。これで全員無事に集結できたという事になる。


 だが多重思考により魔力が減り、ただでさえ燃費の悪い重力魔法を大規模に発動させたせいで竜力もガッツリ減っていた。

 そんな少し疲労感を見せた竜郎に、愛衣はすかさず抱きついた。



「ぎゅ~~」

「──なんだこれは。力が漲ってくる……。さては貴女は天使さん?」

「ぶぶー。私は貴方の彼女さんでしたー♪」

「おっといっけね。あんまりにも可愛かったから間違えちゃったぜ!」

「ふふー。もう、しょうがないんだからー。ぎゅ~~」

「本当に、いついかなる時でも変わりませんね。兄さんも姉さんも」



 こんなバカップルぶりは、いつでもどこでも見てきた光景だったが、リアは段々慣れを通り過ぎて、嬉しさと安堵すら感じる奈々たちの境地に至り始めていた。

 だが本人はその事に気が付かずにそんな事を言っていると、その間に竜郎の魔力は完全回復した。



「それじゃあ、感想を聞いてみようかな」



 竜郎は月読に頼んで、空高い場所で大事な城がバラバラに解体されるところを見ていたドンを、拘束したまま口だけを解放した。



「……な、なんてことをしてくれたのだ」



 さすがにここまでやれば効いてくれたようで、ずっと怒り心頭で血圧パンパンの赤ら顔だったのが、呆然として涙を流していた。



「何て事をしてくれた(・・・)。だって? なんで過去形なんだ?

 お楽しみはこれからだぞ!」

「これ以上、何があるっていうんだ……?」



 竜郎が笑顔でサムズアップしながらウインクして、まだカーニバルは続いていると告げてきた。

 そんな顔に愛衣は竜郎のウインクに心ときめかせ、ドンは何が起こるのだと体が震え始めた。



「そんなの決まってるじゃないか! 祭りと言えば花火ってな!!

 愛衣達は爆風に備えて対爆防御ーーーー!」

「おっけー!」「ピィユーー」「ヒヒーーン!」「解りましたの!」「解りました!」「了解っす~!」



 竜郎は天照に闇と爆発魔法をベースに、火や氷、雷などの属性魔法もブレンドしたイメージを伝えていく。

 すると竜郎から竜力を吸い取っていき、望んだ魔法を綺麗にすぐさま構築し終わった。

 そしてその闇色の中に光り輝くエネルギーが混ざった物体を、城の残骸に打ち放った。



「「たーーーまやーーーーーーーー!」」



 竜郎と愛衣がそう叫ぶと同時にそれは大爆発し、闇魔法によって音を減らし、上に向かって吹き上げるように構築した結果。

 激しい爆風が吹き付けてきたが、愛衣やカルディナ達が防御層を張っているので問題なく、爆発のエネルギー本体は城の残骸を消滅させながら上に登っていく。

 そして高い場所まで上がった所で、夜空に闇魔法で何色にも色付けされた火や雷などが、夜空いっぱいに咲き誇ったのであった。

前章でも同じような事になっていたのですが、また休みを挟んだ次話が章の終りとキリが悪くなってしまうので、明日の月曜日も更新したいと思います。

それに伴い火水に休みをずらし、一日追加で木曜日も休んで、金曜から七章開始。という流れにさせて頂きます。

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