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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第304話 悪役は奈々?

 城内部での戦闘を始めた奈々とリア。大きな音を立てて、周りが慌ただしくなってきたところで、リアが城の内装をトッテンカッテン改造し始めた。

 まずはフロア内を区分けしている部屋ごとの壁に鍛冶炎材を投げつけて、鍛冶炎を灯させると、柄の長い金槌で叩いて取っ払い、その際に出てきた兵は奈々がぶん殴って気絶させていく。

 そうして上下のフロアも巻き込んで、三階分の高さと城のワンフロア分の広さを存分に生かした豪華な闘技場を造りだした。


 ちなみに奈々に殴られて気絶した兵士たちは、闘技場周りの観客席に顔だけ出して埋められて、使用人などの非戦闘員はとりあえず普通に座らせておいた。

 闘技場を造るのにかかった時間はたったの五分。鍛冶術のレベルに素の技術、それに《万象解識眼》が加わった事でこれほど大掛かりな事も魔法の様に一瞬で、されど魔法よりもずっと肌理細やかな出来の物を造れるようになっていたのだ。

 



「さすがリア。良い仕事してますの!」

「ふふっ。お粗末様です。私はあの部分が気に入っているんですが、ナナはどうですか?」

「確かに凝ってていい感じですの。でもそれで言うのなら、わたくしは──」



 闘技場のど真ん中で《真体化》した奈々とリアが、その出来についてキャイキャイ話しこんでいると、二つしかない入り口のうち城の背面方向に位置する方からゾロゾロと城詰めの兵たちが最初に入ってきた。

 そして様変わりした城内部に驚き、観客席にならんだ生首──にみえる埋められた兵達にさらに驚き、先ほどまで二人の声だけが響いていた空間が途端にうるさくなってきた。



「うるさい奴らですの。全員石にしてしまおうかしら」

「あはは……。それはやりすぎですよ」



 奈々の実力なら、一般兵相手なら本当に一瞬で石像に変えられるので、その言葉はシャレにならないとリアは苦笑いするしかなかった。



「あっ。キサマらだな! ここをこんなにしたのは!」

「何か問題でもありますの? せっかく造ってやったのだから、凡夫は泣いて喜ぶべきですの」

「なんだと~~~っ! もういいっ。手荒くしてもかまわん。奴を捕まえろ!」

「わたくしを捕まえる? あなたたちが?

 あははははっ。冗談だけは上手い様ですのっ、あははっ、ははっ」



 笑い出した奈々の姿に、命令していた男以外も馬鹿にされたと憤慨しながら一斉に迫ってきた。

 そこでようやく笑いが収まった奈々は、良い事を思いついたと無邪気に口角を上げた。

 その顔に何をするかは知らないが、ご愁傷様とリアは合掌して兵達に祈りをささげた。



「リア。足元だけに流れる風を向こうに起こしてほしいですの」

「足元だけに? はあ、解りました。え~~と────ぽぽいのぽーーいっと」



 お祈りを中断すると、突然の奈々の注文に《アイテムボックス》から希望の魔法が起こせる手榴弾を取り出し安全ピンを外して三つ、前へと適当に分散して投げた。

 奈々はタイミングを見計らいながら、床に着弾した手榴弾から兵たちの足元に向かって流れる風の気流が生まれ始めたと同時に《鉱石化の息吹》を吹き付けた。

 すると風に乗った白い粉が勢いよく兵士たちの足元を通り抜けていき、足だけを石に変えてしまった。

 それにパニックを起こして悲鳴を上げている中で、奈々は毒魔法を兵士たちに浴びせていった。

 すると生身の部分は何の異常もないと言うのに、石化した足だけがボロボロと崩れ始め、さらに阿鼻叫喚と化してしまう。



「うわぁ……。ちょっとエグくないですか?」

「でも完全に石の部分がもげるまでやらなければ止血する必要はないですし、動きも止められ、石化を解かれても生魔法で修復しないと歩けないと、殺さないで無力化しつつ力を見せつけるというのなら、これが一番手っ取り早いですの」

「まあ、ただ毒魔法で昏睡状態にしても、解除されては直ぐに復帰してしまいますしね。

 ただ、あの方々にそれが解除できるとは思えませんが……」

「そう言う事ですの。それじゃあ、動けなくなった輩は舞台からどくです──の!」



 そう言いながら氷を右手に纏うと、それをドンドン膨らませて巨大な腕にした。

 そしてそれを横斜め上向きに払うようにして振るうと、足がボロボロになった兵士たちが観客席に吹っ飛ばされて転がった。



「ふう、これで綺麗になったで──あら?」

「ちっ」



 目の前が綺麗に一掃された事に満足げに頷いた奈々の左斜め上、観客席の陰から十字手裏剣が頭めがけて飛んできた。

 それをいとも容易く人差し指と中指だけで掴み、奈々はそちらに頭を向けた。

 すると舌打ちしながら黒髪でポニーテールの女が、全身黒づくめの服装で姿を現した。

 と。そちらに集中している隙に、今度は奈々の真後ろの客席から小さくジャラッと金属音がしたかと思えば、気が付いた時にはもうすぐそこまで固い重りが迫ってきていた。



「こっちにもいたんですの? 隠れるのが上手いんですのね」

「くっ」



 けれど迫ってきた重りは人差し指のデコピンではじき返し、それを放ってきた者は慌てて横に飛んで避けていた。



「双子ですかね。容姿が瓜二つです」

「のようですの」



 そうして現れた二人目は、手裏剣を撃ってきた女と髪形も容姿も格好もそのままで、手にはお互い流星錘と呼ばれる細長い鎖の先端に、重りを付けた投擲武器を所持していた。



「おやおや、もう始めてしまったのかい? 主役が登場する前に、脇役が始めるなんてダメじゃないか」

「いつあんたが主役になったんだよ、まったく」

「そうですよ。それに我々は早くここを片付けて、外に出たと言う竜を倒しに行かねばならないのですから」



 双子と睨みあっていると、また兵達が入ってきた方の入り口から、今度は三人組の男女が入ってきた。

 入るなり言葉を上げた赤髪で顔の整った男は、戦闘に来たとは思えない程ラフな格好で肩をすくめながらやってきた。

 そんな男に呆れた声を出した金髪のエルフの男が、杖を油断なく構えながら後ろに続く。

 そんな男の横で同じく金髪の女エルフが、冷静に闘技場内に視線を這わせて状況確認していた。



「最初に攻撃を仕掛けてきた双子は、投擲。二番目に仕掛けてきた双子は、鞭術持ちです。

 それから赤髪の男が聖騎士のクラスで物理防御どちらもソコソコいけて、男エルフは火魔法、女エルフは呪魔法使いです」

「聖騎士……ジャンヌお姉さまの紛い物みたいなものですの?」

「紛いものというより、劣化版といった所でしょうか。竜聖剣ではなく聖剣というスキルを持っていますし」

「なんだ、やっぱり紛いものですの」



 自分の姉があんな鼻持ちならない雰囲気の男と似ているなどとは思いたくもない奈々は、そう言って対象への興味を切って捨てた。

 そんな風に新たに来た人間達を観察していると、再び客席側に潜んでいた双子両方から片や投擲スキルで、片や鞭術スキルで流星錘が飛んできた。

 違いは真っすぐ鎖付の重りを投げるのと、鞭のように鎖をしならせて打ち付けてくるといった所だろうか。

 だが奈々にしてみればスピードも大したことが無いし、威力も直撃したところで傷すら負わないだろう。

 なのでそちらは無視して、まずはリアの守りを固める事にした。

 奈々は《分霊:呪人形》を発動させ、それと同時に動き始める。

 分霊の方は、三つの異なるドールハウスから三体の人形が飛び出して、直ぐに西洋人形とぬいぐるみはリアの両脇について、日本人形はリアの頭の上に飛び乗った。

 あとは不測の事態が起こっても、人形達がリアを守ってくれるだろう。


 それを横目で確認しながら、先ほどから投擲の派生スキル《軌道修正》と鞭術の派生スキル《錯視》。さらに威力を向上させる猪の右前足のヒズメの気獣技、うねうねと鎖を動かす事の出来る蛇の胴体の気獣技。

 これらを巧妙に組み合わせ、そこに双子ならではの連携を加えた攻撃により、見事に武器を破壊しようと爪を振るった奈々に、流星錘を触れさせることなく操って見せた。

 けれどタイミングがギリギリだったので、奈々の攻撃を躱す事は出来たが、こちらも当てる事は出来なかった。

 軽く振っただけとはいえ自分の攻撃が届かなった事で、奈々はステータスだけではない経験と技術による強さを垣間見て、楽しくなりそうだと深く笑みを刻む。

 そして双子とどう戦おうかと考え始めた──のだが、先ほどの聖騎士のクラスを持った男がオーバーリアクションをしながら横やりを入れてきた。



「こらこら。だから言っているじゃないか。そこの双子は俺を引き立てる存在でしかなく、主役は俺だぞ。

 勝手にそちらで盛り上がらないでくれたまえ」

「だったら勝手に参加すればいいですの。わたくしが相手をするに足る相手だと思ったのなら、ちゃんと主菜として扱ってやるですの」

「ふむ。その方がいいみたいだね。おい、俺の援護をしたまえ」

「しょうがない、やってやろう」「はいはい」



 今もなお双子から絶え間なく流星錘の連打と手裏剣を打たれている奈々を見て、割って入るしかないと悟った聖騎士はスキルを発動させた。

 するとラフな格好からアテナの竜装のように、どこからともなく現れた黄金の全身鎧を身に纏う。

 さらにそこから身の丈よりも少し大きい百九十センチ程の白い大剣に、白い盾を《アイテムボックス》から出して手に持った。

 そこへ呪魔法使いの女エルフがステータスアップの魔法を付与していき、エルフの男は火魔法の魔力を練り始めていた。



「では行かせて貰おう。はああああああああっ!」




 白い大剣に聖剣スキルをかぶせて、刃の部分が光り輝き始めた。すると黄金の全身鎧も聖なる気を帯びていき、邪に位置する存在には見るだけでも嫌な気分がするであろう。

 けれど奈々は邪の中でもトップクラスの竜のクラスであり、さらにそれを一つ超えた場所に位置しているので、そこまでの効果を発揮するほどではなかった。

 だが奈々は剣に聖剣スキルを重ねている所が気になって、自分も爪に竜邪槍を重ねてみた。

 すると爪に竜邪槍が合わさって、黒い円錐型の小さな槍が指先を覆って不吉な黒いオーラを放ち始めた。



「私もやらせてもらおう」



 ちょうどその頃。男エルフが撃ってきた火と光の混合魔法、奈々も間近でよく見知っている、竜郎の十八番魔法のレーザーを何本も打ってきた。

 なので試しにと、そのレーザーを竜邪槍纏う指先で引っ掻いた。

 すると軽く触れただけで面白いように消滅していった。

 その間にも観客席を走り回る双子から手裏剣が打たれてくるので、そちらも対処していると、ようやく大口を叩いていた聖騎士の大剣が届く範囲にやってきた。



「邪なる力を使うのなら、俺の聖剣が恐かろう!」

「はぁ?」



 ジャンヌの竜聖剣クラスの力を秘めていれば怖いと思いもするだろうが、そちらを燃え盛る業火の大剣とするのなら、聖騎士の聖剣は火のついていないマッチ棒だ。

 ノーガードで直撃したところで、ちんけなマッチ棒では折れるのが関の山であろう。

 だがその呆れ顔を強がりと思ったのか、盛大に笑いながら大剣で首を刎ねようとしてきた。

 双子もそのタイミングに合わせて流星錘を同時放ってきて、男エルフも女エルフに魔法関係のステータスを強化して貰い、器用に聖騎士を避けるように二股に分かれた光と火魔法による火炎放射が弧を描いて奈々に攻撃してきた。

 状況を整理すると、現在上方の側面部と背面部からは流星錘。両横面部は火炎放射。そして真正面からは聖騎士の聖剣の力を秘めた大剣。と、四方を見事に囲まれている状況だ。



「ふははははっ。食らうがいい、我が聖剣の一撃をっ!! …………………………は?」

「「うそ……」」「ありえないっ」「そんなっ」



 客観的に見ればどう見ても奈々が劣勢で、どれか一つくらいは当たるだろうし、何より邪槍らしきスキルを使う存在なら、聖剣の一撃で致命傷を負うはず──だった。

 けれど奈々は、自分の周囲にウニの針の様に全面に極細の竜邪槍を展開することで、その全ての攻撃を無効化して見せた。

 そして当然、一番被害が大きかったのは、真正面で肉薄してきていた聖騎士だった。



「がぎゃあああああああぁあーああああぁあああああああっ!????」

「何をしてもうるさい男ですの。お父様の爪の垢でも飲ませたいですの」

「いえ、ナナ? さすがにそうなってしまっては、兄さんでも叫ぶのでは……?」

「お父様はそこまで軟弱じゃありませんの!」

「えぇ……」



 それは無理だろうと、リアは引き気味に一歩下がりながら悲鳴を上げた男を見つめた。

 聖騎士はスキル《英雄装》という特殊なスキルで出来た物理、魔法両方に耐性を持つ全身鎧を身に着けていた。

 だが上から両目、両耳、両頬、両肩、両わき腹、両腕全体、股間含めた下半身全体に、細い針の様な竜邪槍が突き刺さっていた。

 さらに絶対的効果を発揮すると言っていた聖剣宿る大剣は、聖なる気は一欠けらも残っておらず、それどころか剣だったかどうかすら解らない程ボロボロになって、聖騎士の手から床に落ちた衝撃でばらばらに砕けていた。

 ちなみに、頭と上半身の内臓関連は即死しかねないので態と避けておいた。

 さらに魔法も竜邪槍に触れた途端に掻き消され、流星錘は重りの部分が消えてしまい、鎖も短くなっていた。

 そんな状況で竜邪槍を消すと、穴だらけの聖騎士からは血のシャワーが降り注いで死んでしまう。

 なので氷魔法で全ての穴を凍りつかせて塞いだ。だが痛みは想像を絶するようで、聖騎士は床の上に倒れこんで芋虫の様に蠢いていた。


 それを見た双子やエルフの男女は、元から親しかったわけでもないし、名前すら真面に呼んだ事も無い男に同情しながらも、一番大事な自分の命の為に生存本能に従って動き始めた。

 解りやすいのは男女のエルフ。女エルフが全力で男エルフを強化しながら、奈々に向かって広範囲に炎壁の魔法を行使しながら、二人そろって出口に駆けて行く──つまり逃げるという道を選んだ。

 そして双子の方は奈々に背中を見せた瞬間やられると思い、もう一人の方に目を向けた──つまり人質を取るという道を選んだ。


 双子に三体の人形を突破できるとも思えないので、奈々は足に狼の気獣技を纏って、向かってくる炎の壁を直径三メートルの極太竜邪槍で穴を空け、一足飛びに通り抜けた。

 そしてなりふり構わず逃げているエルフの男女の姿を確認すると、地面を蹴って斜めにジャンプし追い抜くと、二人の目の前に竜邪槍の柵を叩き込んだ。

 そして竜邪槍の柵を間に挟んだ状態で、奈々と二人のエルフが向かい合った。



「頼む殺さないでくれっ!」「いやあああっ」



 男は泣きながらひざまずいて命乞いし、女は半狂乱で耳を両手で覆って床にうずくまった。



(もしかして、やりすぎだったかもしれないですの……)



 奈々としては少し悪役気分で暴れていただけだったのだが、あまりの怖がられっぷりに、どうしたものかと考えた末。竜邪槍の柵を消し去って、頭に手を置いて生魔法で昏倒させた。

 そして仰向けに寝かせて二人の寝ている顔を見れば、この世の終わりの様な苦悶の表情でうなされていた。


 一方リアの方はと言えば、双子は奈々が離れた事をこれ幸いと、急いで人質確保に向かった。

 その速さはリアの目では対応できておらず、双子は自分たちの選択が正解だったのだと希望を目に宿した。

 けれどその希望は、直ぐに踏みにじられる。

 リアに短くなった流星錘の鎖を巻きつけようと近づいた瞬間、投擲スキル持ちの方には西洋人形が、鞭術の方には日本人形が腕に抱きついて来た。

 それにまさか人形ごときが自分達の速さについてこれるとは思ってもみなかったので、思わず驚愕していると直ぐに異変が訪れた。

 投擲持ちは巻き付かれた右腕が石化して崩れていき、鞭術持ちは右手が腐り始めた。



「「──っひ」」



 双子は反射的に大丈夫な方の左手で、鏡映しの様に同時に払おうと人形に触れてしまう。するとそちらも同じように石化し、腐敗していった。



「「あ……ああ…………」」



 自分の両腕が崩れ、腐るのを目の当たりにした双子は、放心状態でリアの前で膝をついて戦意を喪失した。

 ちなみに今回は、不殺の為に腕だけにとどめていたので、それ以上は石化も腐敗も起こりはしなかった。

 そしてちょうど双子が戦意を喪失した時に、二人を寝かしつけてきた奈々が目の前に現れた。

 双子はもう楽にしてくれと、顎を上げて首をさらした。

 その姿に奈々は無感情な顔で同時に首を絞めるように手をやって、生魔法で寝かしつけたのであった。

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