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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第二章 オブスル大騒動編

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第29話 宿での一幕

 食堂から三人が出ると、もうすっかりと日が暮れて月が煌々と地面を照らしていた。



「んじゃあ、俺はここまでだな」

「ありがとね。おじいちゃん」

「ありがとうございました。ゼンドーさん」

「ああ。こっちこそデフルスタルの時は世話になったし、お相子だ。

 そんじゃあ俺はいくぜ。いつまでも荷馬車を置きっぱなしじゃ、ギリクも困るだろうしな、がははっ」



 そして最後まで豪快に笑って、ゼンドーは去っていった。その後ろ姿を、二人は見えなくなるまで見送った。




 ゼンドーは、荷馬車を操縦しながら考えていた。あの場所に現れたデフルスタルのことを。あの時は二人の押しの強さや、混乱していたこともあって簡単に竜郎たちの話を信じた。しかし今思い返してみると、やはりアレは夢ではなかったのではと思い始めたからだ。

 一人前の冒険者ならば、倒すことは十分可能な白水晶のデフルスタル。しかし夢の中の二人のように、片手間に倒してしまえるような相手ではない。そんなのは、高レベルの冒険者でなければできないはずだ。


 もし、あれが夢ではなく本当にあったことならば──そう考えるとゼンドーは体が震えた。恐さではなく感動して。

 そしてたとえそれが夢だったとしても、ゼンドーはあの二人には特別な何かがあるように思えてならなかった。

 


「きっとあいつらは、将来とんでもねえことを成し遂げるに違いねえ。

 そんな奴らを老い先短い俺が案内できたなんて、こんなに心躍ることはない! がははははっ」



 そうしてゼンドーは胸を高鳴らせ、煩そうに顔をしかめた二匹の馬を引いて家へと帰っていった。




「行っちゃったね。ちょっと寂しいなぁ」

「ああ。でもこの町の人なんだし、会おうと思えばいつでも会えるさ」

「うん、そうだね──じゃあ、私たちも行こっか」

「そうしよう」



 どちらからともなく歩き始め、宿に入った。すると、受付のカウンターからギリクが「おかえりなさいませ」と挨拶をしてきたので、二人はそれに返答しそのまま二階へと階段を上っていった。

 上り終わると隙間なく小部屋がいくつか並んでおり、ギリクが言ったように一人を想定していると一目で解る造りとなっていた。

 それから部屋番号を確かめるため、竜郎は受け取った鍵を取り出した。



「2-3って書いてあるから───あそこだよね」

「んーそうだな。間違いない」



 同じ番号の書かれた扉の鍵を外すと、竜郎はドアノブに手を掛け中に入った。それに愛衣も続き、念のために鍵を掛け直した。



「確かに狭いが…まあ、二人寝れない広さでもないし別にいいよな?」

「うん、石のベッドじゃない所が気に入った!」

「うん、普通石のベッドが置いてある所なんてないからな」



 左隅の壁にくっつけるようにしてシングルサイズのベッドが置かれ、後は特に何もなく、一人が座って寛げるほどのスペースしかなかった。

 しかしベッドは綺麗に整えられ、部屋の隅に至るまで清掃がなされており、居心地は悪くなさそうだった。

 椅子もないので一先ず二人はベッドに腰を下ろすと、後ろにごろんと倒れた。すると森でお世話になった硬い寝床とは比べようもなく、柔らかく二人を迎えてくれた。



「「…………──っは!?」」

「危ない、このまま寝落ちするところだった」

「それも悪くはないけど、身ぎれいにしてから寝ときたいよね」

「風呂…はないし、魚取る時に使った石タライにお湯張って体拭くぐらいか」

「はあ…、それしかないよねぇ。んじゃ、タライ君出すから、お湯を入れてくれる?」

「まかしとけ」



 《アイテムボックス》から愛衣がタライをだすと、竜郎は火と水の混合魔法でお湯をなみなみと張っていく。



「ほい、出来上がり。さあ、俺が見守ってるから先に拭いてくれ!」

「なんで見守るの!? あっち向いてて!」

「はあ~」



 まったくしょうがないなあ、とでも言いたげに肩をすくめて竜郎はため息をついた。



「なんでため息つかれなきゃいけないの……。あっそうだ! たつろーは私が拭いてあげるから、目隠ししてて」

「そそそそれはなんてプレイですかっ!?」

「プレイじゃないからっ、上だけだし。下はさすがに自分でこっそり拭いて」

「よし、それでいこう!」

「さっきまで眠そうだったのに急に元気になっちゃって…」



 愛衣がぶつぶつ言っている間に、竜郎は上半身裸になって、ジャージを使って目隠しした。



「見えてない?」

「ん、見えてないぞ」

「じゃあ…」



 そういって愛衣はショルダーバッグの中にあったタオルを取って、お湯で湿らせ竜郎の体を拭いていく。



「どう? こんな感じ?」

「ああ、気持ちいいぞ」

「細く見えて意外と筋肉質だよね、たつろーって」

「筋肉は嫌いか?」

「マッチョは嫌だけど、このくらい適度についてるのは結構好きかも…」

「お、おう」



 素直な感想に若干照れた竜郎をよそに、愛衣は魅入るように見つめながら丁寧に竜郎の背中、脇、お腹、腕と筋肉のラインをタオルでなぞっていく。

 


「これでどう? 痒いとことか無い?」

「ん、大分さっぱりした」

「そっか、じゃあ一先ずたつろーはそのままでいて。パパッと自分の拭いちゃうから」

「俺が拭いてやろうか?」

「いいから、大人しくしてなさい」

「背中だけでもいいんだよ?」

「遠慮します」

「背中だけでもいいんだよ?」

「…結構です」

「背中だけでもいいんだけどなあ………」

「………もうっ、わかった。背中だけだからね!」

「ひゃっほう!」

「えろろーめ」



 そう言って背中以外を拭くために裸になり、体を拭いていく。あらかた拭き終わると、下を履き上だけはそのままにして腕で胸を隠した。



「じゃあ、たつろー。お願い」

「お、おう」



 竜郎は早速とばかりに目隠しを取ると、愛衣が背中を見せて座っていた。



「では、失礼して…」

「う、うん」



 タオルをお湯で湿らせ、愛衣に近づく。するとうなじから背中、腰のラインがしっかりと見え、心臓がバクバクと音を立てた。そのことを気取られぬようにと、竜郎は冷静に背中にタオルを押し当てた。

 その際、愛衣がピクッと動いたのがやけに生々しくて、頭が沸騰しそうになる。何とか冷静になろうとして視線を少しずらすと、愛衣の胸元がちらりと見えた。

 ブラジャーを乾燥させたときに解っていたが、普段の見た目以上に大きかったその胸は、緊張しているのかギュッと腕に押し付けられ形を変えていた。そこは背中以上にデンジャーゾーンで、漫画だったら鼻血を吹きだしていたところだ。

 そんなアホなことに頭をグルグル巡らせ、朦朧としながら綺麗な白い背中を何度も拭いていく。



「もう、いいんじゃない?」

「………」

「たつろー?」

「──っは、すまん。ぼーとしてた」

「ううん、いーよ。むしろ淡々と、何も思われない方が問題だろうし」

「せ、せやな」

「何故に関西弁? ──やっぱりたつろーも、そういうことしたいんだよね」

「──そう…だな。したくないとは言えない」

「そっか。でも今日はごめんね。明日は早いし、疲れてるし、もっとちゃんと綺麗にしてからがいいし、他にも色々──ね?」



 そんな言葉をかけてくる愛衣がとても愛おしくなり、竜郎は後ろから抱きしめた。

 


「──っ、たつろー? えっと、今日はね」

「わかってる。愛衣が望まない限り、絶対にしない。でも、これくらいは許してくれないか」



 体がカチコチに凍っていた愛衣の体から、だんだんと力が抜けていった。そして、照れながら呟いた。



「──ん、まあ、これくらいなら、おすきにどーぞ……」

「ああ」



 そうして上半身裸同士でしばらく温もりを共有し合うと、どちらからともなく距離を取って着替え直したあと、今度は愛衣に後ろを向いてもらって、竜郎が全身を拭いた。



「じゃあ、寝よっか」

「そうしよう」



 そうして二人でシングルベッドに入り、また抱きしめ合いながらお互い眠りについた。



 ちなみに余談だが、興奮して眠れそうになかった竜郎は、強制的に生魔法を使って眠ったとか眠らなかったとか───。

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