第2話 マップ機能を取得したい
「あの裂け目に落ちたせいでゲームみたいな世界にきちゃったー。とかそんなオチ?」
「あーあるあ、ないだろ」
「えーじゃあ他にこれ説明できる? VRとかあったけど、さすがに今の技術じゃこんなことできないでしょ」
そう言って愛衣はシステム画面を手の甲でコンコンと叩く動作をした。
それを否定できずに竜郎は「むう」と唸った。
「プロステ4のソナーさんでも無理ですか?」
「いや、ソナーだろうと忍刀堂だろうと現時点ではムリ」
「デスヨネー」
それからもああでもない、こうでもないと言い合いながらシステムを弄り、画面の消し方と起動の仕方を発見した。
なんと、ただそうなれと思うだけでいいのだ。これを発見した時には、もう地球の技術ではないのだと察してしまった。
そんなとき、ふと一つ案が浮かんだ。
「ヘルプを使ってみるのはどうだろう」
「システムとは関係ないことまでヘルプの範疇かな? んーでも損するわけでもないしやってみよっか」
「だな」
竜郎はヘルプ画面を立ち上げ手を置いた。
「ここはどこ? ……マップ機能が有効になっていないから無理。
じゃあ有効にするには? ……スキルからマップ機能を取得する必要があると」
「わかりそ?」
「スキルにマップ機能があるんだってさ」
「え、ホント!? もうGPSいらないね!」
「いやいるだろ……たぶん。まあ、いいやスキルスキルっと」
初期画面のスキルの部分をタッチすると、武術、魔法、生活、特殊、システム拡張、その他などの項目が表示された。
他の項目にも惹かれたが、今は我慢と竜郎はシステム拡張にふれると、いくつか表示された中でマップ機能を発見した。
「おっ、あったあった。んじゃ取得──おう」
「どったん?」
「スキルポイントが足りない」
「いくつ必要なの?」
「取得スキルポイント(9)だって」
「今私らいくつあるんだっけ」
「(3)だな」
「ダメじゃん」
「ダメダメだな。ヘルプさーんどうすりゃいいのー…スキルポイントは特殊な方法以外では、レベルを上げることのみで取得できる。
んで、1レベル上がるごとに一律(3)ポイント取得可能ってことだ」
「じゃあ、あと2レベルあげればいいと」
「そういうことだな」
「よっし、じゃあレベルあげちゃうぞー。出てこいスライム! シュッシュッ」
《スキル 体術 Lv.1 を取得しました。》
「おや?」
謎のシャドーボクシングモドキをしていた愛衣が、突然動きを止めた。
「ホントにスライムが出たのか!?」
「ん~ん、違う違う」
「じゃあ何だ?」
竜郎に訝しげな視線を向けられている愛衣だが、そのままシステムを起動し、さっきの声の言っていたことを確かめた。
「まあちょっと私のステータス見てみてよ」
「ああ」
そう言って素直に自分のシステムから、竜郎が愛衣のステータスを見ると。
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名前:アイ・ヤシキ
クラス:体術家
レベル:1
気力:751
魔力:1
筋力:151
耐久力:151
速力:101
魔法力:1
魔法抵抗力:1
魔法制御力:1
◆取得スキル◆
《武神》《体術 Lv.1》
残存スキルポイント:3
◆称号◆
なし
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「あれ、クラスが体術家になって、スキルに体術が増えてる。
それにステータスも微妙に上がってるし…何やったんだ?」
「何ってこうシュッシュッシューっとね」
《スキル 体術 Lv.2 を取得しました。》
「あ、レベル上がった」
「ホントだ……それに今の動き、さっきのなんちゃってボクシングより様になってたぞ」
「え、ほんと! ていていていっ──やあっ」
調子に乗った愛衣は、最後に蹴り技も織り交ぜ演武のように体を動かす。
その動きはもう素人の域を超えていた。
《スキル 体術 Lv.3 を取得しました。》
「レベルアーップ! ほらほら、たつろーもやりなよー」
「ふむ」
はしゃぐ愛衣を尻目に竜郎は辺りを見渡すと、手ごろな枝を拾って適当に振り回す。
「何してるのー?」
「ちょっと実験をな。今俺がやったみたいに、これを振り回してくれ」
「ん? まあ、いいけど。そりゃそりゃ」
《スキル 棒術 Lv.1 を取得しました。》
「お、今度は棒術だってー。ってことはたつろーも?」
「いいや、なにも覚えてない。その異様なスキルの習得速度は《武神》のおかげで間違いなさそうだな」
その言葉に愛衣は納得したように手をポンと叩いた。
「あー。どーりで簡単に覚えられるはずだわ。
じゃあ、たつろーはどうする? レベルを上げるってことはなんかと戦うってことでしょ。
いざという時のためになんか護身スキルあった方がよくない?」
「そうだな。なら、せっかく強力な前衛がいるなら魔法とか使ってみたいな」
「ずるい! 魔法があるなら私もそっちがいい!」
「ずるいって、愛衣はスキル的に魔法は無理だろ。その代わりに武術系チートなんだからいいだろ」
「うー」
そう言ってむくれる愛衣の頭を撫でながら、もう片方の手で参考までにとシステムから、スキル取得の魔術の項目をタッチした。
すると、いくつかの属性魔法と魔法使用を有利にしたりといったスキルがずらりと表示された。
「えーっと、火、水、風、土…この辺はまあ王道だよな。んで、樹、雷、氷」
「他には他には?」
愛衣がキラキラした目でこちらを見ていたので、口元を緩めながら急いで続きを見ていく。
「生、呪、解……よくわからんな、後でヘルプを使うか。後は……光、闇に重力、時空──こんなのまであるのか」
「ちょっと前のはよくわかんなかったけど、光とか闇の魔法とか使ってみたかったなー。覚えたら見せてね!」
「覚えたらな。あーでも光と闇はスキルポイントが他より高いな。
他は軒並みLv.1取得にスキルポイント(1)の所が、Lv.1から(11)になってる。
──っうわ、重力は(500)で時空は(1000)って、もはや取らせる気すらないだろ」
そうして一通り見終わると、次に竜郎は生、呪、解についてヘルプで調べた。
結果、生は回復や治療、呪は様々な効果を対象に付与、解は解析や探知が主な用途であることが分かった。
「優先的に取っておいた方がよさそうなのは、生、火、水あたりか」
「だねー、こんな森の中で怪我は怖いし、火は便利だし、生水恐いし。
(3)あればLv.1全部とれるんでない? ちなみに私の魔術の欄はほぼ全部(999)ってなってたから、とれそうになかったよ」
「まじか、武神スキルぱねえな。よし、試しになんか取ってみるか」
「おー」「ギィーギィーー」
「「ぎぃ?」」
二人しかいなかったはずなのにもう一人の声が……などというとホラーのようだが、実際にはその声の正体はイモムシであった。
森の中でイモムシが這ってやってくるのはままあることで、普通ならそこまで気にしなくてもいいと言えるだろう──ただ、全長50センチ超もなければの話であるが。