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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第297話 賭けをしよう

 奈々たちが開戦の狼煙を上げる少し前。竜郎と愛衣が戦いを申し込まれた頃。

 竜郎はどうするか念話で相談していた。



『返してくれるって言ってもなぁ。もうリアは奈々が確保してくれたし、後は二度と手出ししたくなくなるようにするだけなんだが……どうするか』

『別に戦うだけならいいんじゃない?

 どっちみちこの時点で交渉決裂…………あれ? この場合はどっちなんだろ。

 一応返してくれるって言ってるわけだけど』

『決裂って事で良いんじゃないか? だって戦えっていうのも向こうの都合なわけで、謝る気はさらさらないって事だろ』

『そっか。だよね! じゃあ向こうは勝手に好きなように思って貰って、こっちも好きなようにやればいいって事だね』

『そういうこった』



 と。はた目からは無言で見つめ合っている様にしか見えない二人に痺れを切らした領主──ドンが、どうするのかせっついてきた。



「おいっ。やるのか、やらないのか。早く決めいっ」

「はぁ…五月蠅いなぁ。はいはい、解った解った。

 そっちはそっちの思うようにすればいい」



 そう言いながら竜郎は紙を四枚取り出し、月読にセコム君を動かして氷魔法で筆記台を目の前に造って貰うと、カルディナ達への手紙を書いていく。

 領主は何をしているのかと疑問には思ったものの、何か準備をしているのだろうと興味を無くし勝手に進めることにした。



「ならばさっそく。エドゥアール、アンドニ」

「はい」「おう」



 紺色の長髪の三つ編みマフラーのエドゥアールと呼ばれたエルフと、アンドニと呼ばれた橙髪の獣人が領主の両脇から離れて、二段になっていた階段をゆっくりと降りてきた。

 竜郎はその間に四枚のメモを書き終わり、カルディナ、ジャンヌ、奈々、アテナにそれぞれ送信し終わった。



「これで────よしっと」

「準備は終わったのかい?」

「ああ。やっておきたかった事は全部終わった」

「そうか。ならそろそろいいかな?」



 エドゥアールが余裕たっぷりに竜郎が何かをし終わるまで待つと、《アイテムボックス》から植物の蔦が絡み合って出来たような一本の棒に、緑褐色の菱形のプレートを葉っぱに見立てているかの如く散らした、変わった杖を出して手に持った。

 そしてそれに続く様にアンドニもまた、紅鬼石という剣術や鎌術と相性のいい鉱物で造られた刀身を持つ紅の剣を柄から抜いて上段に構えた。

 そんな戦う気満々な二人なのだが、その表情はいっちょ新人を揉んでやるか──くらいの軽い物であった。

 それを見抜いた竜郎は、コレクター魂に火が付いた。これはカモれるのでは無いかと。



「凄そうな杖と剣だが、さぞかし珍しい良い物なんだろうな」

「──ん? アンドニのは知らないが、私の杖はとある高レベルダンジョンでしか現れない魔物の素材を加工して造らせた一品だ。

 そこいらではまず手に入らないだろうね」

「俺のだって、そこいらじゃ手に入れられねーよ。

 なんたって刀身は混じりっ気なしの純紅鬼石で出来ているうえに、紅鬼石しか扱わない職人に手ずから造って貰った最高級品だぜ」

「それじゃあ、ただ戦うのもなんだし俺達と賭けをしないか?」

「は?」「ああ?」



 いきなりの賭け事への誘いに、何を言っているのだとエドゥアールとアンドニはポカンとしていた。

 しかしそれもまあ当然だと、竜郎は言葉を続ける。



「ここに竜瞳玉の原石が四つある。俺達が負けたら全部あんたらに渡そう」

「──なにっ」「竜瞳玉だとっ」



 フォルネーシスとの交渉時に棚ボタ的に手に入れたモノだったのだが、どんな金属に混ぜても強化できる万能さから、あらゆるところで重宝されていた。

 けれど希少鉱物故に入手は難しく、供給が求める人間の数にまったく追いついていなかった。

 そんな鉱物が目の前に四つ、この少年と少女に勝てば最低でも二つはどちらも手に入れられるという。



「けど俺達が勝ったら、その杖と剣を貰おう。どうだ? やるか、やらないか」

「面白い。当然手に入れた後に鑑定させてもらうが、本物だとしたら賭けに乗る価値はある。

 俺はやるぜ。エドゥアールがいらねえと言うんなら、俺だけでやってもいい」

「お待ちなさい。誰もやらないとは言ってないよ、アンドニ。

 …………ハッタリではなさそうだし、良いでしょう。勝った側が負けた側に指定の物を差し出すと。

 領主様、よろしいでしょうか?」



 確かに竜瞳玉は値打ちものだが、既に完成されている自分たちの杖と剣の方が価値は高いとは思っていた。だが、この二人は確実に勝てると思って気軽に賭けに乗ってしまう。

 そしてこれは面白くなってきたと、領主も膝を叩いて賛成の意を示した。



「面白いではないか! 構わんぞ。それにどちらも褒美があった方が、本気を出すだろうて」

「んじゃあ、そういうこと──」



 竜郎が思惑通り賭けが成立したので、さっそく戦闘に入ろうとしたところで、大きな墜落音が城外から響き渡ってきた。

 それに何事かと竜郎と愛衣以外の面々が身構えていると、直ぐに城内からも爆発音が鳴り響いた。



「何が起こっている! 直ぐに誰かを向かわせよ!!」

「はっ」



 秘書を名乗っていたインタイヤが、椅子から腰を浮かせたドンの命令を受け、早足で謁見の間から退出した。

 明らかに異常事態だというのに、それだけでドンは全てが解決したとばかりに座り直した。



「では始めたまえ」

「我々は行かなくても?」

「大丈夫だ。緊急時用に今日は選抜隊全員を招集させておる。

 インタイヤには特別に命令権を与えておるし、あ奴なら良き様に采配できるであろうよ」

「んじゃあ、問題ねーな」



 選抜隊とは正式名称、リューシテン領選抜隊という。それはこれまでドンが集めてきた特殊なスキルや、様々な才能に恵まれた人間を集めた集団をさす。

 何ともそのままの名前でがっかりだが、住民の血税をふんだんに使って集めただけあってその能力は高く、全員で事に当たれば大抵の事が解決出来るであろう。そう──大抵は。



『問題ないだって。随分自信が有る様だけど、カルディナちゃん達は大丈夫かな?』

『あの子達なら大丈夫だろう。もはや存在自体がチートだしな』

『竜力も馬鹿みたいに増えたしねー。ならまず私たちは、目の前の奴らから装備を強奪すればいいんだね!』

『おいおい。人聞きが悪いぞ、愛衣。これは双方合意の元に組まれた賭けなんだ。

 決して盗んだりとか、無理やり奪うというわけじゃあないんだよ』

『あらかじめ精霊眼で大体の戦力を図ってる時点で、後出しジャンケンみたいになってるけどね』

『それは言わない約束だぞ、母さん』

『おっと、そうだったわね、あなた』



 などと念話で和気あいあいと奪い取った後の装備の使い方を相談していると、向こうも準備が整ったようだ。

 絨毯はかたづけられ、謁見の間の中央に広いスペースが作られた。

 大きさ的には体育館くらいあるだろうか。場所くらいは移動すると竜郎は思っていたのだが、これだけあれば多少暴れても問題はなさそうである。



「では二対二のチーム戦でいいかな?」

「こっちは慣れているんだが、本当にいいのか?」



 竜郎と愛衣は二人でくっ付くだけで大幅にパワーアップする事が出来る上に、念話、心象伝達など情報共有も万全。

 逆にエドゥアールとアンドニは、お世辞にもコンビとして連携が上手く出来るほど仲がいいとは思えない。

 まだ個人戦の方が向こうは勝機があるだろうと考えた上での、竜郎なりの忠告だった。

 けれど相手はそれを忠告だとは思わなかった様だ。



「それを見越してのハンデさ。こちらも負けられないので、これ以上はあげられないが、個人戦よりは我々に付け入る隙が出来ると思うよ。

 領主様、これくらいならよろしいですよね」

「あまり勝負にならなさ過ぎても興が冷めるというもの。良いぞ、許可しよう」

「まあ、それで勝負になるとは思えんけどな。はははははっ」



 などとぬかし始め、微塵も負けるとは思っていない様子の領主達。

 その態度に、さすがに愛衣もむっとしたようで……。



『むむむーー。なんか感じ悪いよーあいつらー』

『気にするな。舐めてかかって後悔するのは向こうなんだ。俺達はいつも通り、慢心せずにやればいいだけだ』

『うーん。それもそっか。じゃあ、初撃からかましていくね。たつろー!』

『ああ、相手の魔法は任せとけ。全部蹴散らしてやる』



 なんだかんだ言っても竜郎も愛衣同様相手の態度にイラッとはきていたので、天照を持つ手に自然と力が籠る。

 そうこうしている内にも状況は進んでいき、出入り口の方向に宝石剣を構えた愛衣が前衛、竜郎後衛で縦に並び、相手は紅鬼石の剣を構えたアンドニ前衛、エドゥアールが後衛で縦にと、双方同じような陣形で互いの正面に距離を取って立った。



「では始まりの合図は、私がしてやろうぞ。では────はじめえええい!」



 ドンが偉ぶって開戦の合図をした瞬間、愛衣とアンドニはほぼ同時に剣を手に突撃して行った。

 十数メートルほどあった距離は二人にとって有って無い様なもので、一秒にも満たない間に激突した。

 けれどたったそれだけで、二人の実力差がもう出てきていた。



「──ぐっ!?」



 飛び出したのは同時でも、愛衣の方が走った距離が長く剣速も上だった。

 その結果──愛衣の赤い気力によって獅子の爪の形を取った宝石剣により、頭を縦にスライスされる寸前。同じく爪の気獣技を帯びた紅鬼石の剣を差し入れるのがやっとだった。

 けれどタイミングがギリギリ過ぎて、額からは血が流れていた。



「こんくらいなら死なないって訳ね──なら」

「──何だコイツはっ」

「おろ?」



 愛衣は額の皮一枚で寸止めするつもりだったのだが、それでも対応して見せた事で、やっても大丈夫なレベルを見極めていき、今度は宝石剣の刀身の両側の腹から真っ赤な気力で出来た獅子の腕を出し、アンドニを両サイドから叩き潰そうとした。

 けれどアンドニも同様に紅鬼石の剣の両腹から気獣技による獅子の両腕を出して、正面は剣同士で鍔迫り合い、両脇は互いの気獣技による獅子の両腕が組み合うという図式で堪えて見せた。



「へー。両腕も出せるんだ。すごいじゃん」

「……それは遠回しに自分も凄いと言っている様なもんだぞ」

「そーゆーつもりはなかったんだけどね」

「──くそっ。エドゥアール、早く援護をしろっ! 何をしているんだ!」



 目の前の少女から目を離した瞬間にやられかねない状況の為、周りが確認できないアンドニはエドゥアールが今どういう状態なのかも見ずにそう言った。

 けれど援護どころか声すらかけてこない彼に、あちらも援護に回れる余裕が無いのだと察して冷や汗が流れる。



「どうなってやがる、このガキ共はっ」

「んじゃあ、もうちょっとギアを上げてくよ!」

「──ちっ」



 ほぼ全力で対応している自分と違って未だに底が知れない愛衣を前に、アンドニは舌打ちして切り札を使う事に決めたのだった。


 一方、開戦の合図と同時に、魔法戦も静かに始まっていた。

 当初エドゥアールは、樹魔法でゴーレムを二十体造り上げて、半分をアンドニに加勢させ、半分は竜郎への攻撃に使うつもりだった。

 そしてそれさえ決まればアンドニがさっさと少女を無力化し、直ぐに二対一に持っていけるだろうと踏んでもいた。

 エドゥアールが本気をだせば、一秒もあれば同時に二十体の植物ゴーレムを生成する事が出来るからだ。

 そう一秒。たったそれだけあればよかったというのに、竜郎は一秒よりも早く正確で、それでいて強力無比な直径一メートルはあるレーザーを、杖の先から真ん中の愛衣達を避けるように、くの字に折れ曲がって、出来かけのゴーレム達に対して無慈悲に打ち下ろしていった。



「これでは魔法が使えない──ならっ」



 エドゥアールはエルフの中でもマジックエルフという魔法超特化した種族であるが故に、魔法の感知能力は高かった。

 その感知力で打ち下ろされるレーザーの威力を察して、ゴーレム作成を続けながら自身の持つ植物の種の中で防ぐことのできる物を《アイテムボックス》から取り出し床にまいた。

 そして杖を振ると一斉に種が芽吹き、巨大な円盤型の枝をいくつも持つ木が床に生えていき、エドゥアールの周囲をドームの様に覆ってレーザーを遮った。


 その成果にエドゥアールはこれで勝てると喜色の笑みを浮かべるが、竜郎は別の事に夢中だった。



「おおっ、頑丈なうえに元から魔法に対する抵抗力も持っているのか!

 面白い植物だな、ジャンヌのお土産に良いかもしれない。

 月読、一本引っこ抜いて来てくれないか?」



 コートの内側にくっ付いていた月読のコアが点滅すると、竜郎の背中側に雷太鼓の様に巨大な水球が複数展開された。

 そしてそこからスライム状の触手が伸びていき、一本と言わず全ての木々の根元に巻きついていき、先端に氷魔法でガッチリと杭打ちして根こそぎ床から引っこ抜いて竜郎の元まで運んできた。



「お、おう。一本で良かったんだがな。まあ、いいか。ありがとう、月読」



 褒めてと言わんばかりに立派な木を振り回す月読に苦笑いしながら礼を言い、竜郎は全て《無限アイテムフィールド》にしまいこんだ。



「──は?」



 けれどそれとは対照的に、エドゥアールは一瞬で視界が開けてしまったことに何があったのか理解が追いつかずに呆けてしまった。

 竜郎からしたら植物採集くらいの感覚でしかなかったが、一本だけでも百キログラム以上ある樹木を数十本同時に持ち去られてしまうなど、誰が想像できようか。

 けれど直ぐに戦闘中ということを思い出して、稼いだ時間で二十六体の植物で構成された人型で、剣と盾を持ったゴーレムが完成した。



「ゴーレム達よ、行けっ!」

「させるかよ」



 エドゥアールの意志に従い、十体のゴーレムはアンドニの加勢をしに、残りは竜郎めがけて突撃してきた。

 動きは三十レベル前後の武術職系に匹敵し、愛衣からしたら遅いが竜郎からしたら速いといったくらいだった。

 なので普通の攻撃くらいなら運動能力の高さから自動で躱してしまい、魔法攻撃もそこそこ耐性が有るので、数を用意されれば厄介なスキルだった──はずなのだが……。



「──な…んだと……」



 ここまでの竜郎の魔法技術の高さから、二十六体全てが無事にたどり着けるとは思っていなかった。

 けれどゴーレム達は不規則に左右に動かして照準を定めさせないようにしていたし、常に盾を構えさせて防御力も上げさせていた。

 これならばいくら何でも三分の一くらいは残るだろう──と予想していた。

 けれど竜郎が杖を横に向けて放った二十六筋の極大レーザーは、動き回るゴーレムに合わせて曲がりくねり、いとも容易く消滅させてしまったのであった。

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