表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

296/634

第294話 奪還作戦開始

 豪華な部屋で軟禁中のリアは何処にいて、何故そこにいるのか。

 白いローブの──シアンと名乗った女性から聞かされた話によって、段々と理解し始めた。



「……というと、もしかして私よりも兄さ──タツロウさん達が目当てだと?」

「と聞いています。ですが貴方も優秀な鍛冶師だそうなので、厚遇してくれるはずですよ」



 語る内容によればリアはどちらかと言えば添え物扱いで、《万象解識眼》について領主は知らない事が判明した。

 どうやら本当にリアの事は、優秀な将来有望な鍛冶師の少女。くらいの認識らしい。



「私は仲間を呼び寄せる餌って事なんですね」

「ありていに言ってしまえば、そうですね。

 ですが大人しくしていれば、我々は絶対に危害を加えません。

 それどころか必要なものがあれば、何でも用意させていただきます」

「じゃあ、《アイテムボックス》を使えるようにしてください」

「……はて、何の事でしょう」



 真っすぐ自分を見てきたリアに一瞬驚いたものの、シアンはとぼけて何も話さないという態度をとった。

 リアも使えるようにしてくれるとは思っていなかったので、気にもしなかった。

 と。状況が解り落ち着いてくると、今更ながら喉が渇いている事に気が付いた。



「あの、お茶か何かを貰えますか?」

「はい。あらゆる茶葉を取り揃えておりますが、どれに致しましょう。

 例えなくても直ぐに持ってこさせますが」



 猫獣人──名をマリサと名乗ったメイド服の女性が、自分の仕事だとばかりにズイッと前に出てきた。

 こんな状況なのだ。せっかくなので高い茶葉を要求してやろうと考えた、最近竜郎の貧乏性が伝染うつってきたリア。

 お金持ちの御婦人方にも大人気の、甘いお茶が出るという、前から密かに気になっていた茶葉を注文してみることにした。



「えっと……、それじゃあドゥチクレとかは──」

「勿論ございます。シュライエルマッハーさま。

 ただいま用意いたしますので、ごゆるりとおくつろぎください」

「はあ……。では軽食なんかもありますか? 何時間も食べてない様なので、お腹がすいてしまって」

「直ぐに用意させます」



 女性に人気の茶葉なのでドゥチクレは当然の様に用意してあったらしいが、軽食までは用意していないらしい。

 なのでマリサは扉までトコトコ歩いていき、外にいる見張り番に軽食を用意するように言ってから、部屋から出る事もなくティーセットを用意し始めた。

 軽食の方も準備くらいはしていたのか、お茶が入り終わる前に少しだけ扉を開けて盆と皿を乗せたカートが差し入れられた。

 マリサは茶葉が開くのを持つ間に軽食を机の上に並べていき、最後に頃あい良く出たお茶をカップに注いで横に置いた。

 リアはベッドから降りて机に向かいながら、料理と茶葉を《万象解識眼》で調べていく。



(毒や薬、呪術的な何かが込められている様子もないですね。確かに私に危害を加える気はなさそうです)



 そんな事を考えながら四角いパンの上に具を乗せた食べ物に舌鼓を打ちつつ、甘いお茶で心が安らいでいった。



「おいしいですね。この料理もお茶も」

「お茶の入れ方は茶葉ごとに習熟していますし、料理もプロに作らせていますので」

「はあ……。それにしても、随分と強引な事をしますね。ここの領主は」



 お姫様扱いに慣れずに愚痴をこぼしながらお茶を飲んでいると、今まで黙って見ていたシアンが口を開いた。



「私の時もそうでしたからね。旦那を誘拐されて、ここに来ざるを得なくされました」

「それでよく働けてますね。私だったら人質取り返したら、すぐに逃げますけど」

「お給料がいいんですよ。うちの旦那は稼ぎが悪いし、これから子供を育てるにもお金がかかるのに、冒険者稼業は楽しいけれど収入に浮き沈みが激しい上に結構忙しい。

 だから、そろそろ安定した職がほしいなって思っていた所だったんですよ」

「へー。でもこっちの仕事は忙しくは無いんですか?」

「私達は基本的に、領主がこんな人材が揃ってますってアピールするための存在ですから。

 危ない仕事は兵士たちに任せて、私たちは今みたいに本当に必要な時以外は、領内なら自由に遊んでていいんですよ。

 おかげで子供との時間もいっぱい作れて万々歳でした。一年の半分以上が休みな上に、給料も冒険者時代よりもいいんですから」

「はあ」



 そんなんでいいのか、とは思いながらも、確かに自由の形にこだわりなく定住先を探している人にとっては天国みたいな職場だ。

 などと考えている所で、ふと竜郎達の事が気にかかった。

 おそらく自分を助けに来てくれるだろうなとは思っていたが、よくよく考えれば、それだけで帰るだろうかと不安になってきたのだ。

 そして考えれば考えるほど、あれ? これヤバくね? と言う言葉が頭の中で巡り始める。

 勿論ヤバいのはリア──ではなく、この城が、である。



「あの……念のために聞いておきたいのですが、ここの領主って人当たりのいい方ですか?

 変に挑発したりとかは…………しませんよね?」

「あー。お世辞にも良いとは言えませんね。私の時も、まだ主従関係も無いのに見下した感じでしたし」

「はわわわわわ……」

「あら、かわいい。突然どうしたんですか?」



 混乱のあまりリアの口から意味不明な言葉が漏れ始めるが、傍目から見ると幼女が「はわわ」と言ってアタフタしているようにしか見えず、シアンとマリサはほんわかした瞳を向けていた。


 だがリアは、それどころではない。

 まだ竜郎達と出会って一年も経ってはいないが、数ヶ月もダンジョンの中で共に生活し、命を預け合った仲間たちだ。大体の事は解っているつもりでいる。

 その思い出の数々から、あの人物たちが身内に害を与えられる事を何より嫌い、何より怒るポイントだと知っていた。

 そしてリアは、今や本当の妹の様に竜郎や愛衣から可愛がられ、カルディナ達とも友人関係を築けていると贔屓目を除いても断言できる。

 つまりリアも、竜郎達にとって身内という輪の中に入った存在であるという事だ。


 であれど、竜郎達とて鬼ではない。素直に謝罪し、無傷でぴんぴんしたリアの顔を見れば溜飲もいくらか下がる事だろう。

 けれどそんな対応は、ここの領主には期待できそうにない。



「まままま不味いですよっ。早く私を返さないと、とんでもない事に!」

「とんでもないこと? 何があるって言うんですか?」

「あの人達を怒らせたら危険なんですよ! こんな城なんて軽く消し飛ばしちゃいますよ!」

「あははっ。それは大変ですねえ。避難訓練でもしておかなきゃ」

「冗談ではないんですよぉ!」



 リアの可愛らしい容姿のせいもあって、今一緊急性が伝わらず、二人には冗談としか受け取って貰えなかった。

 そしてそんなリアを落ち着かせようと、マリサが話に加わってきた。



「優秀な方々というのは聞いていますが、ここにだって優秀な人達は大勢います。

 いくらなんでも消し飛ぶなんて有りえませんよ」

「優秀って……」



 凡人をネズミだとするのなら、マリサの言う優秀な人達はさしずめネコと言ったところだろうか。

 けれどリアの言っている竜郎達は、ネコ科はネコ科でもライオンだ。

 それもライオンの中でも、非凡な力を秘めている者が六人も。

 ネコがいくら集まった所で、ライオンの中でも上位にいる存在達に何が出来ると言うのだろうか。



(一人でも町一つ破壊できそうなのに……六人も同時に攻めて来るんですよ……。

 あー……、なんでよりにもよって兄さんたちに目を付けてしまったんでしょうか……)



 もう何を言っても無駄だと悟り、リアは天を仰ぎ「もう私しーらないっ」と開き直って、お茶のお代わりをマリサに頼むのだった。




 自分たちの義妹に化物扱いされているとも知らずに、竜郎達は町に出て直ぐに空へと乗り出して、空中で空駕籠をジャンヌに背負ってもらうと、風魔法も使って全速力で一気にリューシテンまで向かって貰った。

 空を行きかう魔物はジャンヌが汚れない様に、《真体化》したカルディナが縦横無尽に空を駆け回り駆除していけば、あっという間にリューシテンの壁が見えてきた。



「そこでスピードを緩めて、高度を上げてくれ」

「ヒヒーーン」



 空駕籠の中でシートベルトをしていた竜郎は、マップで位置を確認しながら伝声管を使って指示を出した。

 そしてスピードが緩まってきたところで、シートベルトを外して一番前の部屋に小走りで向かっていった。



「カルディナ。領主の城を探してくれ。今のカルディナなら、リャダスの城みたいに隠蔽されていても見つけられるだろ?」

「ピィーーーユュイーー」



 任せて!っと意気込んで高度を上げるジャンヌよりもさらに上に上がっていき、城の在り処を先行して探りに向かった。

 城にはやはり特殊な隠蔽魔法がかけられていたが、カルディナがあっさりと場所を特定し、案内されるように真上のはるか高い所でジャンヌに止まって貰った。



「それじゃあ、今から作戦を話すぞ。まずは俺と愛衣だけで領主と話しに行く」

「あたし達は行っちゃダメなんすか?」

「んーカルディナ、ジャンヌ、アテナは展開次第だな。

 まずは何が何でもリアの安全を確保しておきたい。

 という事で領主と対話という体を取っている間に、奈々には途中まで俺達と一緒に来て、それから城に潜入してリアを奪還してきてほしい」

「それは面白そうですの!」



 メラメラと闘志を燃やしながら、奈々は出撃はまだかとウズウズし始めた。それを羨ましそうにアテナが見つめた。



「それでも向こうが大人しくリアを返して、俺達に誠心誠意謝罪してくれると言うのなら、荒事は避けようとは思っている」

「まあ、あの手紙からして有りえないだろうけどね」

「だな。だから交渉が決裂した場合、奈々がリアを確保したと同時に空に待機していたカルディナ、ジャンヌ、アテナたちは城に攻めてきてほしい」

「ピイィーー」「ヒヒーン」「腕が鳴るっす!」

「合図は《アイテムボックス》経由での物の送受で、やり取りすればいいだろう。

 奈々はリアを確保したら、直ぐに俺に何か送りつけてくれ」

「了解ですの!」



 それから細々とした意見を擦り合わせていき、最後に竜郎が纏めに入った。



「それじゃあ最後に整理しよう。まず俺とカルディナで、リアの居場所を相手に解らないように探査。

 その後、俺と愛衣は領主の元に行って注目を集めておく。

 その間に奈々は一緒に城内部に入った所で別れて、特定したリアの居場所まで事を荒立てずに行き確保。

 確保が終わった時、または終わる前に円満に解決していたら、後はギルドに任せて大人しく帰ろう。

 だが確保が終わっても、まだ交渉が割れていたら──二度と俺達に関わり合いたくないと思わせてやろう。中途半端だと逆に逆恨みされるかもしれないからな。

 今の中で質問はあるか?」



 全員を見渡しても特に意見は無いようなので、まずは解と土と闇の混合魔法で相手側に悟られることなくリアの居場所を探査していく。

 城の真上のかなり高い場所なので、細長い丸太状の形で放射し、土魔法で壁をすり抜け、闇魔法で相手側の解魔法をすり抜け、解魔法でリアと思われる反応を探っていった。

 そして隈なく探していくと城の三階、右隅から四番目の一室に行き着いた。



「見つけた」

「やったね!」



 居場所が特定できたので、ざっと見張りの数だけを情報収集して打ち切った。

 解魔法を隠蔽した状態での情報取得は難易度が高く、直接深く調べればバレてしまう可能性もあるからだ。



「城の三階、右隅から四番目の一室。その部屋の扉の前に見張り一人。中に知らない反応が二人。いけそうか?」

「それくらいなら問題ないですの」

「でもちゃんと気を付けて行くんだよ」

「解ってますの。油断大敵ですの!」

「そうだな。例え格下に見えても、どんなスキル持ちか解らないから、気を付けるに越したことはない。

 それじゃあ、居場所も解ったし」



 リアの大よその位置を把握できたので、今度は呪と闇魔法による姿の認識阻害を奈々にかけていく。

 ダンジョン前ではある物を無いように見せるのは難しかったが、アーレンフリートから学んだ事をふんだんに生かしつつ、レベルの上がった今なら余程の使い手でない限り誤魔化せるようになっていた。


 そうして奈々を常人には認識できない様にしたら、竜郎は愛衣を抱えて月読にセコム君の体を使って三対の翼を出してもらう。

 そして杖を握って天照に竜力を渡して風を起こしてもらい、一気に夕暮れに染まる空を駆って町の門へと向かった。それに奈々も《真体化》して追随していく。

 高高度なので常人には厳しい飛行でも、二人はエンデニエンテの称号効果を遺憾なく発揮して直ぐさま適応。奈々は元々平気なので心配ご無用。

 三人はまったく問題なく門付近に着地し、同時に竜郎は羽を水球の中にしまい、奈々は《成体化》した。

 奈々の《真体化》は認識できなくても、竜の威圧感が半端ではないので潜入には不向きだからだ。


 特殊なアイテムでもない限り、飛翔能力を持たない人間が魔法で空を飛ぶのはかなり消費が激しい。

 なので空からの来訪者は珍しいらしく、順番待ちをしていた人たちの注目の的となっていた。



 『今回はしょうがない。高ランク冒険者の特権を使わせてもらおう』

 『順番待ちしている人たちごめんね!』



 きちんと順番を守っている人たちに申し訳なかったので、心の中で謝りながら三人は急いで町門の前の詰所に駆け寄ると、気が付いた衛兵の一人が止まる様にジェスチャーをしてきた。



「困りますよ。皆並んでいるんですから、ちゃんと守ってください」

「すいません。ですが緊急なんです。これを──」

「────おっと、これはこちらこそ失礼しました。高ランクの冒険者様でしたか、ではそちらの方も?」



 奈々はちゃんと認識阻害がかかっているので、衛兵は目線すら向けることは無く愛衣にだけ顔を向けた。

 それに対して愛衣は、堂々と身分証明をして見せた。



「これね!」

「────確かに。確認いたしました。お忙しい所お止めてしまい申し訳ございません。

 こちらに我々が通る通路がございますので、お急ぎという事でしたらそちらを、お使い下さい」

「助かります。──行こう、愛衣」

「うん」



 そうして衛兵が直ぐに許可の印をくれたので、急いで通してくれた小さな通路を通って町へと入っていくと、そこはリューシテンの中核という事もあって、リャダス同様移動式の通路が採用されていた。

 そして町並みもリャダスより飾り気が有る程度でほとんど変わりは無いようだった。

 なので鑑賞もそこそこに人目の少ない通路に向かう道に乗り、途中からは空路に切り替えて城を真っすぐ目指した。



「あそこだね」

「ん、そうみたいだな」



 リャダスの時同様、一定距離に近づくと城は全貌を現した。

 さすがに最初から喧嘩腰で行くわけでもないので、空から乗り込むようなことはしないで堂々と正門の前に降り立った。



「それじゃあ会いに行ってやろうかね。ドン・リューシテン・モロウとやらに」

「あんまり気は進まないけどね」



 出来れば一生関わり合いたくない部類に入る人間だろう事は大体察しがついているので、二人は重い足取りながらもリアを助けるためだと、こちらをじっと見て警戒している門番に近寄っていくのであった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ