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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第290話 違和感

 食事も済ませ、相変わらず多めに頼んだので、手を付けていない料理は《無限アイテムフィールド》にしまいこんで解散となった。

 竜郎は、愛衣に「行ってきます」のキスをたっぷりとしてから、最後のアーレンフリートとの談話に向かった。

 一階ロビーの隅っこの席、ここ数日ですっかり二人の指定席の様になっていた場所に向かうと、やはり既に目立つローブを身に着けたエルフの男が紅茶を口に付けて待っていた。



「やあ、先生。今日で最後だと思うと寂しいものだな」

「早めに切り上げたいと言ったのは、そっちだけどな」

「いかにも。けれど寂しいと言う気持ちを抱いているのは本当のことだ。

 私はね、輝かしい才能が大好きなんだ。そして凡人は大嫌いでね。

 そんな中にあって先生のパーティは皆、才に溢れていて感動すら覚えたよ」

「ふーん。その割には入りたいとは言わなかったな」

「入れてくれと言ったら、入れてくれたのか?」

「入れないな」

「だろうっ。くくくくっ」



 何がツボに嵌ったのか、アーレンフリートは腹を抱えてクツクツ笑った。

 それからひとしきり笑うと、目の隅に笑い涙を浮かべながら姿勢を正した。



「まあ、私も入りたいと言う事はないから安心してほしい。

 私の魔法は一人の時が一番強いのだから」

「まあな。俺達と一緒にいる時は気を使ってくれていたようだが、本来なら全方位を巻き込んだ呪魔法が使えるらしいからな。

 魔法職でも半端者は直ぐに呑まれるし、武術職じゃ抗えないだろう」

「然り。だから私は滅多にパーティを組んだりはしないのだ。

 けれど今回は、あまりにも先生が輝いて見えてね。つい羽虫の様に止まってしまった。だが実に面白かったぞ、先生」

「俺もそこそこ楽しかったよ」



 実際、呪魔法以外でも、その長い時を生きてきた経験から本などでは知りえない情報を沢山持っていた。

 それをペラペラと教えてくれるのだから、竜郎としてもとても興味深かったのだ。



「そういえば新しい暇潰しの種を見つけたと言っていたが、アーレンフリートは何処に行くつもりなんだ?」

「この領の主都、リューシテンの町さ。面白い噂を聞いたのでな、直ぐに行きたくなったのだ」

「あんまり人に迷惑かけるなよ」

「くくっ、それは保障できんな!」

「威張るなよ……」



 この男は誰がどうなろうと、最終的に自分が面白ければそれでいいと言う心の持ち主だ。

 確かに面白さを前に第三者の迷惑が立ちはだかったら、躊躇もせずに壊して進む道を選ぶだろう。

 そんな者に目を付けられた何かに、竜郎は憐憫の念をほんの少しだけ抱いた。



(まあ、俺達に関係ない所でなら、いい……のかな?)



「ところで先生たちも、遠くない内にここを離れるのだろ?

 そっちは何処へ向かう気なのだ?」

「秘密だ。また押しかけられても困るしな」

「くくくっ、その警戒心の強さも好感が持てたんだ。

 そしてこれからも、それは持ち続けた方がいい。

 先生の様に才能あふれる人間は、いつだって誰かを引き付ける。それは良い悪い関係なくだ。

 だから油断は禁物だ。でなければ、私の様な者に足をすくわれるかもしれないぞ」

「御忠告どうも。それがアーレンフリートでないことを祈っているよ」

「くくっ、違いない」



 そんな益体のない話を続けていき、最後には、これまで何度も聞いてきた呪魔法の素晴らしさについて一方的に語られ、締めとなった。



「んじゃあ、もういい時間だし今日はこれまでだな」

「そうか。それは残念だ。もっと呪魔法について語りたい事があったと言うのに」

「まだあったのかよ……。もうお腹一杯だ」

「ならば仕方がないな。では私も部屋に戻るとしよう。明日は昼、北門から出る予定だ」

「それは昨日も聞いたが」

「そうか。明日は昼、北門から出るから見送りに来てくれてもいいんだぞ」

「そう言う事かよ。まあ、気が向いたら皆で行く事にするよ」

「では──待っているぞ!」

「あっ、おい。気が向いたらだからな!」



 竜郎が最後まで言い切る前に、アーレンフリートはバッとローブをひるがえしながら立ち上がり、颯爽と自分の部屋へと去って行ってしまった。



「たくっ。行かなきゃ来るまで待っていそうだな」



 去っていく後ろ姿に溜め息を吐きつつ、竜郎は明日の予定に一つ予定を書き加えておいたのだった。


 その夜も愛衣と仲睦まじく過ごし、少し寝ると直ぐに朝がきていた。

 その日は何故か体がだるく病気でも患ったかと思ったが、称号効果があるのだから、ただ眠たいだけだろうと生魔法で目を覚まさせ、気にならなくなったところで愛衣を起こした。



「たつろ、ちゅー」

「ん──」



 寝ぼけながらもタコの様に口を尖らせて、おはようのキスをねだられ、竜郎は望むところだと唇を押し付けた。

 そうして朝っぱらからベッドでイチャついてから、着替えて朝食を取るためにリアと奈々を呼びに行った。


 昼にはアーレンフリートを見送りに行く予定なので、それまではノンビリと過ごす事に決め、朝食も全員揃った中でゆっくり会話を楽しみながら食べ始めた。



(──ん?)



 そんな中で竜郎は何度も違和感を感じたのだが、それが何か解らずモヤモヤした気持ちのまま朝食を食べ終わった。



「んじゃあ、かたづけようか」

「はーい」「はいですのー」



 フロア毎の廊下に設置されたボックスに置いてくるために、食べた食器を一つに纏めてしまおうと竜郎が声をかけた。

 それに愛衣と奈々が返事をして立ち上がろうとしたところで、リアが無反応だったことに気が付いて全員の視線がそちらへと向いた。


 ──その瞬間、愛衣と奈々に挟まれるように座っていたはずのリアが、霧が溶けるように目の前で消え去ってしまった。



「──は?」「「「──え?」」」「──ピッ?」「──ヒヒン?」



 一瞬、それこそ瞬きしている間に、人が一人消え去った状況に、誰もが理解が及ばず目を丸くして口を開けた。

 けれど直ぐに正気を取り戻す。



「──リアっ、何処だ!」



 大声を上げて名前を呼び、部屋中を見渡すが何処にもいない。

 カルディナは既に《真体化》して探査魔法を走らせながら、分霊の映像も確認しつつ全力で捜索を開始している。



「わたくし達の部屋を見てきますの!」

「お願い!」



 奈々が慌てて部屋を出て、廊下を挟んだ向かい側のドアを乱暴に開け放って中を隈無く探していった。

 するとリアの簡易工房を設置していた辺りで、見覚えのない紋章で封蝋された質のいい紙で出来た手紙を見つけた。

 奈々はすぐさま手に取って中身を改めようと封に指をかけたが、先に竜郎に渡した方がいいのではと思い直し急いで隣の部屋にとんぼ返りした。



「おとーさまっ、こんなものが!」

「手紙……? カルディナ」

「ピィューー………………ピィー!」



 罠の類はないか解析して貰いOKが出たので、竜郎は封蝋の刻印をスマホで写真を取ってから、鉄を使って土魔法で型も取る。

 それから出来るだけ刻印の形が残る様に割りながら中身を改めた。



 --------------------------------------------------

 突然仲間がいなくなってさぞ心配な事だろう。だが安心してほしい。

 彼女は、このリューシテン領主。ドン・リューシテン・モロウの名において、身の安全を保障しよう。


 何でも彼女は素晴らしい技術を持っているそうではないか、それを一個人が保有するのは大きな損失ではないかと思うのだ。

 なので、今後は我が領の専属鍛冶師として迎え入れよう。

 そして君たちも、冒険者として優れているらしいな。

 我が領は強い力を欲している、相応のポストを用意しよう。

 

 だがこれは強制ではない。彼女と再び会いたくないのなら、無視して構わない。

 けれど会いたいと言うのなら、我が城に来て忠誠を誓うといい。

 さすれば直ぐにでも会わせてやろう。


 ドン・リューシテン・モロウ

 --------------------------------------------------



「何言ってやがるこのジジイはっ。頭沸いてんのかっ!」

「人ん家の子攫っといて何、この言いざまは!」



 竜郎と視界を共有しながら読んでいた愛衣も、一緒になって憤慨していた。

 そしてカルディナ達も内容を確認すると、同じように憤慨していた。

 特に奈々は、今すぐにでも領主を殺しに行きそうな勢いだった。



「おとーさまや、おかーさまに忠誠を誓えなどのたまった挙句に、リアを本人の意志も無視して専属鍛冶師に? ──ブッ殺しますの」

「奈々、ちょっと落ち着いてくれ。とりあえず、身の安全は保障されているらしいし少し整理しよう」

「うっ、解ったですの」



 《真体化》して周囲に強力な威圧を漏らしていた奈々を宥める事で、竜郎は段々と冷静な頭に戻っていった。

 けれどこんな手紙一枚で身の安全を保障されたところで、安心など出来ない。

 さらに本当にリューシテンの領主かどうかも定かではない。

 だからこそ、まずは猪の様に突撃するのではなく、現状を深く理解してから冷静に動かなくてはならないのだ。



「まずリアをどうやって攫ったかだ。さっきまで一緒にいたのに消えるようにいなくなるなんて、どうやったと思う?」

「転移魔法とか?」

「もしそう言ったスキルを持った人間がいたとしても、俺達に気付かれることなく、部屋にも入らずに出来るとは思えない。

 可能性はゼロじゃないが、ほぼ無いと思っていいはずだ」

「じゃあ、他には何がって事っすよね。ん~~何か、ここまで出かかってるのに出てこないと言うか……。変な違和感を感じるっす」

「ああ、それはわたくしもですの」

「ピィイー」「ヒヒン」

「カルディナ達もか、俺も朝からどうも変な気がしているのに解らないんだ。愛衣もそうか?」

「え? 私は特に何にも感じないけど?」

「──愛衣は感じてない?」



 竜郎達と愛衣の違い。それは何か考えてみる。



(性別の違いは俺だけだし、魔力体生物かどうかは俺がいるから違う。

 となれば魔法が使えるかどうか…………)



「──あ。カルディナ、最大出力でリアがいた場所に探査魔法をかけてくれ」

「ピィーユィー」



 竜郎は霧で隠れていた何かを掴みとるように、カルディナの探査魔法によって流れ込んでくる情報を《多重思考》も行使して解析していく。

 すると目当てのモノを発見し、今回リアを攫った犯人が誰なのか理解した。

 そしてそれを理解したことにより違和感が晴れ、逆に何故そこに行きつかなかったのかと不思議に思うほど簡単に答えに行きつけた事に腹立たしくも思えた。



「さっきリアは消えたんじゃない。最初から、ここにはいなかったんだ」

「え? いたじゃん、お話だってしてたし」

「そういう風に思っていただけだ。何もいないのに、あたかもソコにリアがいるかの様に思い込まされていたんだ。

 そして時間を稼ぎ終わった頃に、それが解けただけ」

「ん~~?」「ピィー!」「ヒヒン!」「あっ!」「そう言う事っすか!」

「愛衣。こっちにおいで」

「んん?」



 完全に術中に嵌っている愛衣は自力でその答えに到達できずに、一人首をひねっていた。

 竜郎は愛衣を抱き寄せて精霊眼で観ながら、かけられていた呪い(・・)をカルディナと一緒に解いていった。



「呪魔法だ!」 

「そうだ。それも四六時中一緒にいた奈々の目をごまかし、部屋の中にまで入ってリアを攫い、手紙まで置く余裕すら有るほどの呪魔法だ。

 これだけ警戒していたのに、どういう方法でここまで嵌める事が出来たのか見当もつかないが、こんな事が出来る奴なんて、そうはいない……。

 アーレンフリート。あいつは最初からこれを狙っていたのかっ」



 あれ以上の呪魔法使いは、まずいないだろう。そして、あれほどの実力が無ければ、こうも見事に竜郎達に呪いをかける事など不可能だ。



「となると、リアはいつ攫われたんですの?

 ずっと近くにいたはずなのに気が付きませんでしたの……」

「少なくとも二、三日とか前って事は無いはずだ。

 ──そうだ。愛衣は昨日、改修が終わった宝石剣を受け取ったはずだよな。

 あれは幻だったのか?」

「ちょっと待って!」



 愛衣はすぐさま《アイテムボックス》から宝石剣が入っているのを確認し、取り出してみる。

 するとちゃんとリアが改修してくれた状態になっていた。



「ってことは長くても、とーさん達と別れた後くらいからと思えばいいっすね」

「ああ。時間的に半日経ってないかどうかって所か……。急がなくちゃな。

 それじゃあ愛衣達はとりあえず、ここで最警戒状態で待っていてくれ。

 あれだけ念を押していたんだ。出て行くと言っていた門にいるだろう」

「一人で行くの? 危なくない?」

「一人じゃない。天照も月読も一緒だ。

 それに今回は最初から敵として会いに行くんだ。もう魔法戦で後れを取る気はない」

「危なくなったら直ぐに呼んでよ。いざとなったら、遠隔で私のスキルも貸すからね」

「ああ。その時は頼む」



 そうして竜郎はリアに造って貰った装備を身に着け、天照と月読を宿し、全力での戦闘が可能な状態にまで持っていく。



「行ってくる」

「うん。頑張って」



 愛衣達に見送られながら、カルディナ達にはここの守りを固めて貰い、竜郎はアーレンフリートがいるであろう北門に急ぐのであった。

次回、第291話は8月2日(水)更新です。

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