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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第288話 君たちは弱い

 まったく気が乗らないタイマン勝負をする羽目になった竜郎であったが、今夜のお楽しみが出来たおかげで、やる気に満ち溢れていた。

 そして鼻の下が伸びそうになりながら必死でこらえている竜郎を、愛衣はジト目で見つめていた。


 一方。絡んできたツンツン茶髪男──ヨシリーは、頬に滲んだ血を袖で乱暴に拭うと、地面に刺さった金ぴか槍を抜いて竜郎の正面に立った。



「俺様とぉ、てめぇーのタイマンだぁ! 他の奴に手を出させるなよ」

「じゃあ、そっちは手助けして貰ってもいいぞ」

「俺様は卑怯もんじゃねーぞぉ!」

「そうかい。それならそれで別にいいが。んで、ルールは?」

「相手に負けを認めさせたら勝ちだぁ! 解りやすいだろぉ?」

「ん。了解。それじゃあ、とっとと始めよう。俺達は他の所も回ってこなくちゃいけないんだから」

「あっ、だがさっきの触手みたいのは使うなよ。アレはズルだからな」

「ズルって……、ガキかよ。はいはい、それでいーよ。早く始めてくれ。そっちからでいいから」



 竜郎の余裕っぷりな態度に青筋を浮かべて顔を歪めるが、手に持った槍を見て心を落ち着かせた。

 要は、これで自分という存在を知らしめればいいのだ。その後、土下座させて謝らせればいい。

 そんな浅はかな考えをめぐらせながら、ヨシリーは右足を前に両手で槍を構え、ぐっと力を込めてから走り出した。



(気力も真面に武器に流せていないな。あれなら仮に当たっても、ステの耐久力だけで何とかなりそうだ。

 だが、かと言って受けてやる義理はないな)



 竜郎は天照を軽く持ち上げようとしたところで、これではタイマンじゃないかもしれないと中に戻って貰い、ただの杖としてだけで魔法を行使した。



「──なんだ? 足が──っ」

「はいおしまいっと」

「──つ」



 竜郎の足元から地表を這うように氷が侵食していき、ヨシリーの足を捕えて固定。そのまま体を這い上がって肩の辺りまで氷結。

 動きが止まった所でライフル杖の杖先から、尖った氷柱を出して喉元に軽く押し当てた。

 相手は槍を振るう事も出来なければ、動くこともできない状況で凶器を突き付けられている状況。どうみてもチェックメイトである。



「く、くっそがぁっ! 魔法使うなんて卑怯だぞぉ! ゴラァ!」

「──は? いやいやオレ魔法使い、オマエ槍術家。

 だから俺は魔法を使うし、お前は槍を使うんだろ?

 それの何が卑怯なんだよ」



 こちらとしては態々、天照も月読も協力を取りやめて貰った状態で戦ったのだ。

 それで魔法を使ったからと言って、卑怯呼ばわりされる言われはない。

 それは今も地面に寝転がって手足をバタつかせている七馬鹿達も理解できたのか、口をポカンと開けて動きを止めてヨシリーを見つめていた。



「うっ、うるせぇ! 男が魔法とかだせぇんだよ。

 てめぇーも男なら……ままま魔法無しでやれよ!」

「はあ……。往生際が悪いな。

 それじゃあ魔法使いの俺が、魔法を使わずに、お前に勝てば文句は無いのか?」

「そっそうだ!」



 ヨシリーも内心おかしな事を言っていると言うのは理解しているようだが、それでももう引くことはできないのか、顔を引き攣らせながら肯定した。



「じゃあ、それでやってやる。けど魔法無しで負けたら、今度こそ終わりだからな。

 それ以上グタグタ言うのなら、二度と立って歩けなくしてやる」

「──たたたたた、たりめぇよぉ……」



 竜郎の怒気に声を震わせ、無理やり笑って見せた。

 なので竜郎は一旦、ヨシリーから氷を溶かして自由にした。

 そしてもう一度、距離を取り直した。



『だいじょーぶ?』

『問題ない。それに普通に戦っても勝てそうだが、今回は圧勝したいから切り札を使う』

『切り札? ──ああ、あれね。なら安心だ』



 竜郎は右手の中指に嵌っていた反転の指輪を意識し、起動するように念じてみた。

 すると竜郎の能力と共に、指輪の白と黒の部分が反転した。



《全スキルが一時凍結されました。その代償として《槍術 Lv.14》、《身体強化 Lv.5》が一時付与されます》



(おっ、籤運のない俺が、ここで槍術とは気が利いてるじゃないか)



 竜郎は《無限アイテムフィールド》から、誰も使う予定のないダンジョンの宝物庫で拾った大槍を出して構えた。

 先ほどまで魔法使いだった少年が自分よりも立派な槍を、自分よりも堂に入った雰囲気を醸し出して目の前に立っている状況に、ヨシリーも流石に動き出そうとした足が止まる。



「こないなら、こっちから行くぞ?」

「──くそがぁああああ!」



 これは見かけ倒しに違いない。ヨシリーは自分に言い聞かせるように念じながら、恐れを吹き飛ばすように大声を上げて竜郎に全力で突きを放った。

 けれどそれは簡単に竜郎が槍先を斜め下に動かし受け流すと、そのまま円を描くように大槍の柄の先でヨシリーの横っ面を軽くなでた。



「──ごばっ!?」

「ん、力加減が難しいな」



 確実に頬骨が砕かれ、左頬は見たこともないほど腫れ上がっていた。

 けれどヨシリーはアドレナリンが出ているのか、痛みを無視して立ち上がる。



「ふぁああああああっ!」



 呂律すら碌に回らなくなった状態で、自分が魔法使い相手に、それも槍で負けるなど有りえないのだと、もはや米粒ほどしかないプライドを振り絞って連続で突きを放った。

 攻撃する隙を与えなければ、いいのだと考えたからだ。

 けれど反転の指輪を使った竜郎は、気獣技が使える本職の槍術家には及ばないまでも、愛衣に教わりながら気力操作も訓練していたので、この状態でもそこそこ闘える。

 なのでこんなヒヨッコに遅れを取るわけもなく、その場から一歩も体を動かすことなく槍先だけで連続刺突の全てを弾いて見せた。



「ふぁんへぇ、あふぁふぁなふぃんだ!(なんで、当たらないんだ!)」

「そりゃあ、お前が弱いからだ」

「おふぇふぁふぁふぁ、ふほいっ!(俺様は、強いっ!)」

「どうしてそんなに勘違いしてしまったのかは解らないが、そう思ってるのは自分たちだけだ。

 戦闘に関わる事のない一般人からしたら強いのかもしれないが、冒険者として見れば最底辺もいいところだ」

「ふぁんふぁふぉおおおっ!(何だとぉおおおっ!)」



 現実問題として魔法使い相手に、槍術家が槍対決で圧倒されているのは事実。

 反転の指輪を使っているからなのだが、そんな事は知るわけも無い。

 米粒程度にまで縮小したプライドもボロボロと崩れ去っていき、気持ちが完全に折れそうになった所で、暮らしていた村と言い張る集落から盗んだお金で買った金ぴか槍が上に弾き飛ばされた。



「これで──終わりだ」

「ぐふっ」



 弾き飛ばされた金ぴか槍が落ちてくる前に、竜郎は手加減が慣れてきた槍術を行使して、ヨシリーの体中を薄皮一枚の範囲で器用に切り刻んでいき、最後に足払いから柄先で額を小突いて尻餅をつかせた。

 それと同時に金ぴか槍が落ちてきて、ヨシリーの股の間の地面に突き刺さった。



「まだやるか? やる気があるなら目の前の槍を掴め。

 だが今度は薄皮一枚じゃ済まさないぞ」



 竜郎は最終警告だと、大槍を横に薙いで自分とヨシリーの間に深い横線を刻み込んだ。



「ふううぅ……」



 頬以外は重症ではないが、地味に体中から痛みを訴えかけてくる。

 そのせいで忘れかけていた頬の痛みが気になり始め、ヨシリーは涙を流しながら動くことが出来なくなった。



「動かないという事は、お前の負けという事で良いんだな?」

「………ふぁい、おふぇほ、ふぁふぇでふ。(………はい、俺の、負けです)」

「そうか。なら終わりだ。これに懲りたら、自分の実力を考えて行動した方がいい。

 俺達もそんなに長い事やってる訳じゃないから偉そうなことを言うのもなんだが、これからも冒険者として生きていくのなら、それが長生きする秘訣なんだと思う」

「ふぁい……(はい……)」



 完全に心を打ち砕かれ、ボロ雑巾のようになったヨシリーはそこで気を失った。

 あえて生魔法で回復させることもなく、竜郎は槍を《無限アイテムフィールド》にしまっていると──愛衣ではなく、アーレンフリートが感極まって抱きつこうと迫ってきていた。



「先生! やはり先生は素晴らしい! 魔法が使える上に槍も上級者とは…。

 今まで出会ってきた、どんな才能あふれる者達をも凌駕しているじゃあないか!!」

「うげっ、やめろ。お前に抱きつかれる謂れはない!

 それに魔法に興味があるだけじゃないのかっ?」



 竜郎はまだ反転の指輪の効果を切っていないので、簡単にアーレンフリートの抱擁を受ける前に華麗に避けることに成功した。

 けれど果敢に相手は迫ってきていた。



「確かに私は魔法に興味がある。だが、だからこそ! だからこそ、魔法使いでありながら槍も使うその技術に感動を禁じ得ないのだ。

 それに先生は──」

「あーもう、うるさいぞ!」



 それからもマシンガントークを繰り広げながら迫って来るアーレンフリートを、足捌きだけで躱していき、十分もした頃に向こうの体力が尽きて止まった。

 指輪の影響で増えていた気力を循環させていたお蔭で、竜郎は殆ど疲れもなく、そこで効果を打ち切った。



《全スキルが解放されました。それにより《槍術 Lv.14》、《身体強化 Lv.5》は消失しました》



「まったく、こいつは」

「まあ、まあ、今日で最後なんだし」

「だがなぁ」

「はあ──はあ──」



 疲れて肩で息をするアーレンフリートに、竜郎は困った顔をしながら愛衣の言葉もあって小言を言うのをやめた。

 それから後ろでどうしたらいいか解らないと言った風に、ジッとしていた輩達を思い出し、氷だけは溶かしてやった。

 けれど七馬鹿達の凍傷や、ヨシリーの怪我も一切治すことはしなかった。

 直ぐに痛みを消してしまったら、今回の事まで記憶から消してしまいそうな奴らばかりだったからだ。

 けれど文句を言われるでもなく、ようやく弱者と理解した者達は大人しくヨシリーを連れて去って行った。



「それじゃあ、俺達も残りのポイントを回っていこう」

「はーい」「ヒヒン!」「了解っす~」「はあっはあ──。もっ、もう、行く、のか──?」



 一人疲労で息を切らしている者がいるが、竜郎達は気にする事無く先へと急いだ。

 そうして全てのポイントを回ったが、ヨシリー達以外の危険行為をする者も見つからず、適当に魔物を排除してから町へと帰っていったのであった。

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