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レベルイーター  作者: 亜掛千夜
第六章 喧嘩上等編

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第287話 異世界の輩達

 その日の夜もアーレンフリートとの会話が弾み、竜郎はまた呪魔法について知る事が出来た。

 そして次の日は朝早くからアーレンフリートと共に、奈々とリアを除いた全員で最後の共同依頼をこなしていた。

 今回の依頼は、町周辺の中では危険だと言われている地域の巡回をして、無謀な挑戦をする者がいたら助け、いない様なら魔物を間引いて行くと言う依頼だった。

 最近では簡単な素材収集程度で高ランク冒険者達を煩わせるわけにはいかないと、わざわざ冒険者ギルドが、その場で作った依頼を受けるというのが主流になってきていたからだ。

 特に断る理由もないので今回と同じような依頼を受けているのだが、いざやってみると自殺志願者かと問いたくなるほど無鉄砲な戦闘を魔物に挑む輩が多く、今もまた大した実力者でもないのに、ネラロの洞窟と呼ばれる場所に入っていくパーティが竜郎の精霊眼に映った。



「はぁ──またか。あんなところに駆け出しで毛すら生えてないような奴らが行ったら、魔物に飯を届けに行くようなもんじゃないか」

「あー。確かあそこって、ネラロっていう真っ黒いスライムが大量にいるんだよね?」

「そうっす、そうっす。暗い洞窟内部で壁や天井に擬態して、通り過ぎる生き物に襲い掛かるんす」

「攻撃されても傷つかない高耐久の持ち主か、または高い探査能力、洞窟内部で継続して戦闘していられる持久力。

 これらのどれかが無いものは、まず生き残れないのだが、あの者たちは余程自信が有ると見える」



 アーレンフリートの言うように、先の無謀なパーティは肩で風を切る様にノシノシ歩き、意気揚々と洞窟内部に入っていった。

 その姿だけ見れば、相応の実力を持っているからだと思うだろう。

 けれど竜郎の精霊眼で映った気力や魔力の量から大まかなレベルに換算するなら、全員10レベルアンダー。

 とてもじゃないが、推奨25レベルオーバーの洞窟に挑むようなレベルではない。

 ならば竜郎や愛衣の様なレアスキル持ちかと言えば、全員見覚えのあるノーマルスキルの色しか精霊眼で観て取れなかった。

 それらの情報を纏めれば、子供でも彼らの未来を予知できるだろう。

 ──そう、即ち魔物の御馳走である。



「自信だけで実力は皆無だった。助けに行こう」

「はーい」

「なに? あれだけ自信に満ちた様子だったのに、雑魚だったのか先生?」

「雑魚って言い方は可哀そうだが、ハッキリ言ってしまえばそうだな。

 あの人らじゃ魔物の狩場に入ったら、五分も持たずに殺されるだろうさ」

「なんと愚か……。私にはやはり、凡人の考えは理解できない様だ」



 アーレンフリートにとって、新装備を身に着けたことで増長するという気持ち自体がまるで理解できないらしい。

 竜郎や愛衣なら、新しい玩具を使ってみたいという感覚だと思えば解らなくもない。

 けれどやはり、それを命がけでやる意味は解らないので、とりあえず何も言わなかった。

 そうして《幼体化》ジャンヌを先頭に、竜郎と愛衣とポケットの中で隠れて警戒中の《幼体化》カルディナ、アーレンフリート、《成体化》アテナと続き真っ暗な横幅六メートル、縦幅三メートルとそれなりに広い洞窟へと足を踏み入れた。

 魔物は光に強く反応するので、こちらに引き寄せるのもかねて盛大に光魔法で明かりを灯して進んでいく。



「ところで先生の杖が少し変わった様だね。それ自体に、とても強い力を感じるぞ」

「目ざといな。まあ、リアに改造して貰ったんだよ」

「そうなのか? いやはや、出会った時は吹けば飛ぶような存在だったと言うのに、ここまでの物を造り上げる存在になろうとは……。

 助けた私も意味があったのだと思わせられるよ」

「アーレンフリートさんなら、リアちゃんも杖を造ってくれるかもしんないよ?」



 かなり感心したようなアーレンフリートに、自分も欲しくなったのかと愛衣がそう言ってみるが、意外な事に首を横に振られた。



「人の娘よ。そう言ってくれるのは嬉しいが、私は今の装備が気に入っているのだよ。

 昔苦労して手に入れた物ばかりで、思い入れも一入なのだ」

「へー。それじゃあ、結構使い込んでるんすか?」

「そうだな、かれこれ千年以上は同じ装備を使っている。

 特に困った事もないし、私は満足しているよ」

「千年とはスケールがまるで違うな。けどまあ、それだけの間使ってるほど気に入ってるのなら、簡単には変えられないか」

「好意で言ってくれたのだろうが、すまないな。人の娘よ」

「んーん。別に気にしてない──」



 気にしてないよーと愛衣が最後まで言い切る前に、前方から男たちの悲鳴が響き渡ってきた。



「早いな──。暗いし慎重に行ってるかと思ったのに、何も考えずに進んで行きやがったな。──はぁっ」

「おおっ。先生の魔法だ!」



 後ろで竜郎の魔法を見て喜んでいるアーレンフリートは無視して、竜郎は月読に手袋を通して指令を出し、水の玉を背部に十個展開。

 そしてそこへ竜郎からも水魔法の魔力を渡して、セコム君の性能を限界まで上げた状態で触手を洞窟の先へと伸ばしていった。

 触手は暗闇も壁も関係なく見透かす竜郎の精霊眼の情報を受け取りながら、目標人物たちの位置を正確に察知し伸びていく。

 目標人物たちが複数の同じ個体に群がられている中、直ぐに到着した触手は無理やりスライム型魔物──ネラロを掻き分けて引っ掴むと、全員を引っ張り出して余った触手で数を減らしながら竜郎達の元へ戻ってきた。



「──いったい何が」

「た、助かったのかぁ?」



 未だに状況を理解できていない様なので、とりあえず説明をと思ったのだが、ネラロが獲物を奪われたことに怒りながら大量にこちらに向かってきていた。

 このままだと外まで出てきかねないので、そちらを優先して処理をすることにした。

 なので邪魔な輩共は触手で掴んだまま外へと放り出し、竜郎達は戦闘準備に入った。



「アレに後れを取るとは思えないが、一応気を付けよう。

 取りあえず数を減らすから残りは頼む」



 どう頑張っても擬態が得意なだけのスライムごときが束になろうと、このメンバーの誰かに傷つけられるとは思えない。けれど念のために注意を促してから、竜郎は行動に入っていく。

 初手は月読にアシストして貰いながら、天照を使ってさらに強化された氷の混合魔法で洞窟表面を覆って触れた物を氷漬けにしていく。

 それだけで大分数が減ったが、ネラロは死んだ仲間を踏み越え量で突破してくる。



「んじゃ次はわったしー!」

「あっ、ずるいっす~」



 アテナが前に出ようとする数瞬前、愛衣が先に一歩踏み出した。

 愛衣は右手に白竜の気力をホンの少しだけ纏い、いつだったか斧でやった圧縮を試みる。

 そして出来るだけ引き付けてから、一気に解放した。



「はあっ!」



 解放された白い気力は一瞬竜の頭部の形を残像の様に象って爆散、それにより洞窟の縦横幅一メートル手前程まで広がっていき、ネラロを消滅させた。

 けれどまだ全滅には至らずに、残り少ないネラロが近寄ってくる。



「これしかないっす…」

「では残りは私が貰おう──はっ」

「──あっ、こら!」



 残りこそはアテナがと思いきや、アーレンフリートが《アイテムボックス》から鉄針を次々出して、ネラロの方向に投げていく。

 スライムに刺突系の武器が──それも気力を纏わない、ただの投擲が効くはずはない。

 けれどそれには大量の呪の魔力が帯びていて、刺さった鉄針、地に落ちた鉄針に触れただけで気が触れて、次々と自爆して周囲に身を散らしていった。


 そうして残ったのはたった一匹。

 それもおそらくアーレンフリートが意図的に残したのだろう、お零れがやってきた。

 ジャンヌが一瞥してからスルーしたそれを、アテナはため息を吐きながら軽く手を振って雷撃で焼き殺した。



「なんて弱いのだ。死のイメージはしたのだが、ちゃんとした魔物なら実際に自死することなどないと言うのに……。

 まさか先の凡人達は、これに殺されそうになって悲鳴を上げたと言うのか?

 はぁ……これはしょうもない輩に関わってしまったようだ」



 今まで助けてきた中でも特に無謀なチャレンジをした愚かで弱い人間に、関わる価値すらないとアーレンフリートは全ての関心を無くした。

 竜郎とて、こんなバカな事をした連中と話したくはない。

 なので外に追い出したのだから、後は勝手に帰ってくれないかと思っているほどだった。

 けれどそうはいかない様で、竜郎の精霊眼に律儀に全員で入り口前に立って待っているのが映った。



「はあ。しょうがない。ここにはもう用はないし、外に出よう」



 面倒だという気持ちを一切隠さずに、再びジャンヌを先頭に来た道を戻っていった。

 そこで待っていたのは、いかにもな──竜郎達の世界で言うのなら不良、ヤンキー、DQNとでも形容したくなる男のみで形成された、八人組みのガラの悪いパーティだった。

 けれど待っているくらいなのだから、見た目とは裏腹にお礼でも言ってくるのだろうと思って出口を全員が通り終ると、直ぐにそれは違ったのだと思い知らされることになる。



「おいぃ、てめぇらぁ~。

 せっかくぅよぉ、俺様がぁ~魔物を倒そうとしてたっていうのにぃ~、横取りしてんじゃねぇぞぉ~コラァ」

「は?」



 礼を言われるどころか、リーダー格であろう茶髪のツンツン頭で、適度に筋肉のついた体格の男にがんを飛ばされ、イチャモンまで付けられたことに一瞬理解が追いつかず、竜郎の口から間抜けな声が出てしまった。

 それに何を勘違いしたのか、竜郎が恐がっているのだと思ったようで、さらに増長し始めた。



「へへぇ、だがまぁ~あ? そこにいるぅ~女の子たちぃ~?

 俺様にぃ渡せば許してやるっていうかぁ~」

「──あ"?」「──キモ」

「何てめぇ~眼飛ばしてやんがだぁ~? この俺様のぉ、槍でぶっ殺しちゃうぞぉ~」



 恐らく増長している原因でもある金ぴかの槍を、これ見よがしに竜郎に向かって構えてきた。

 けれど竜郎は、そんな物には全く興味が無く、先ほど言った男の言葉が頭を回っていた。

 先ほど言った女というのは、おそらく愛衣とアテナの事だろう。

 娘も同然のアテナだけでも業腹だと言うのに、愛衣にまで妙な視線を送っているこの男。

 竜郎の逆鱗に触れてしまったというのに、仲間と馬鹿笑いしながら更に頭の悪い言葉で、愛衣とアテナに近寄ろうとしてきたところで、遂に我慢の限界に達した。



「お前ら──」

「あ? なんだぁ~てめぇ~。小僧はお呼びじゃねぇ~んだよぉ~」

「馬鹿でも救いようのある馬鹿かと思えば、逆だったか。もういい──喋るな」

「はぁ~、何言って──ゲェッ──何っだ、よ……これ……」



 男の腹に、竜郎の拳から生えた氷の拳が伸びてメリ込んでいた。

 カエルを潰したような汚い声を上げながら、男は膝をついて腹を押さえたまま苦しそうにうずくまっていた。

 この時点で彼我の実力差など明白なのだが、周りもさすがツンツン茶髪男の仲間といったところか、恐れを抱くどころか猿のようにキーキー喚きながら武器を構えた。



「おめぇっ! ヨッちゃんに何すんだよぉ!」

「俺達でやっちまおうぜ!」

「たりめぇ~」「やっちゃうしぃ」「俺が一番な!」

「ぶっころ~」「もう終わりだよ、お前は!」

「…………なんだろう。この三下感満載な、お猿さん達は」

「ああ、怒っていたのが恥ずかしくなってきた……」



 輩たちのあまりにも残念な言動に逆に竜郎は頭が冷えていき、もうどうでもよくなってきた。

 けれど向かってくる火の粉は払いのける必要がある。



「もういいや。お前ら、ちょっとアタマ冷やせ」

「「「「「「「──ぎゃっ!?」」」」」」」



 竜郎が軽く天照を振るうと、男たちの頭から背中にかけて分厚い氷が張り巡らされた。

 ステータスも低く、筋力値も純魔法職の竜郎以下の男たちは、重さに耐える事も出来ずに後ろに倒れて凍った頭を地面に打ち付け悶えていた。



「アホらし。ここはもういいや、次の巡回ポイントに向かおう」

「ん? やっと終わったようだな。

 まったく、先生もそのような輩に時間を割いてやる必要は無かったのだぞ。

 人種は短い命なのだから、有効に使わなければ勿体ないというものだ」

「ははっ。今は本当にそう思うよ。次からは気を付けよう」



 称号効果のお蔭でシステムが起動している限り不老なので、アーレンフリートよりもさらに長生きできるのだが、それを言う必要もないのでとりあえず適当に流して去ろうとした。

 しかし──。



「ちょっ、まてよ!」

「キムタ──じゃないな。何だ? もう手を出したりしないから、好きに洞窟でもどこでも行ってくれ」



 氷拳で腹パンされて蹲っていた男が、よろよろと立ちあがって去ろうとしていた竜郎を呼びとめた。

 ちなみに他の七馬鹿は、氷が重くてひっくり返った亀の様に立ち上がる事も出来ずに手足をバタつかせていた。



「ちげーし。てめぇ、不意打ちなんて、ひきょーだぞぉ!

 じゃなきゃ俺様が負けるわけねーんだからよぉ」

「あ、はい。そうですか。すごい、すごーい。──ではサヨウナラ」



 もう心底どうでもいいので適当に凄いと拍手して後ろを向けて去ろうとすると、金ぴかの槍が投擲された。

 けれど月読がスライム触手で絡め取って、あっさりと投げ返し、ツンツン茶髪男の頬を浅く斜めに切り裂いて地面に突き立った。



「──ひっ」

「あのさあ。そんなんじゃ、いくつ命があっても足りないぞ。

 自分の実力も理解できていない奴は、根本的に冒険者には向いてないんだよ。

 悪い事言わないから、故郷に帰って畑でも耕せ」

「なんだとっ! 俺様を誰だと思ってる!」

「ん? いや知らないが。誰なんだ?」



(どっかの権力者の関係者か? それは面倒かも──)



「シド村一の狂犬と言われたヨシリーとは、俺様の事よ!」

「ただの村人じゃねーかっ!」



 竜郎はズッコケそうになるのを、すんでで堪えた。



「あれ? 町じゃなくて村? 村なんてあったんだ。どこにあるんだろ」

「この辺りに公的に認められた村などないな。

 おそらく町の居住が出来なくなった輩が集まってできた、集落か何かだろう。

 魔物の事さえ度外視すれば、土地などいくらでもあるのでな」

「へー、そうなんだ」



 竜郎の後ろで愛衣とアーレンフリートが会話している間にも、男はただ馬鹿にされたとしか思わず突っかかってくる。



「俺様とタイマンだ、こらぁ! それで勝ったら見逃してやるよ!」

「勝者が見逃されるっていうのが、もう訳が解らんな」



 あまりにも考え方の相違が激しすぎて、お手上げ状態だった竜郎の頭に、愛衣の念話が届いてきた。



『もーめんどくさいし。適当に相手してあげたら?』

『はぁ、それがいいか。どっかでまた会った時に絡まれても面倒だ。

 そんな気も起こさないようにしてやるか』

『あんまり苛めちゃだめだよ』

『解ってるよ。元より嗜虐趣味は無いんだから』

『エッチな意地悪は偶にしてくるけどね!』

『それはしょうがない事なのだよ、愛衣君。俺はエロいんだから』

『開き直るなー、えろろーめー!』

『それで今思いついたんだが、今夜は──』



 そうしてツンツン茶髪男──ヨシリーだけが気炎を上げ、竜郎は今夜の愛衣との営みについて相談しながら、実力差が天地以上に離れた存在相手のタイマン勝負が開かれるのであった。

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